テレマークスキーで雪山を楽しむ!

 「スキー」と聞いて、ふつう思い浮かべるのはいわゆる「アルペンスキー」でしょう。重く固い靴に足を締め付けられ、スキー板にとりつけた金具に「えいっ」と蹴りをいれて板をはき、リフトにのって上がっていっては降りてくるというのを、ひがな一日繰り返す遊びですね。私たちも昔はこれをやってたんですが、今ではちょっと違うスキー、「テレマークスキー」をもっぱら楽しんでいます。

テレマークスキーとはどんなスキーか

 テレマークスキーもスキーですから、長い2本の板を足に付けて雪の上を滑るのは同じなのですが、アルペンスキーとの大きな違いは、靴の先の方だけを板に固定して、かかとは固定しないことです。サンダルを履いたときに、足のつまさきの方はサンダルのベルトで固定されますが、かかとは自由に上がりますね。あんな感じです。アルペンはこれに対してかかとのある靴みたいなものですね。靴やサンダルのように短ければどちらでも同じように歩けますが、スキーのように2m近い板を履いている場合は大きな差がでます。アルペンスキーで平らなところを移動するときには、ストックで押したりスケーティングするしかないですが、テレマークでは自然な感じで「歩く」ことができます。

 スキーをしようというのに、何でそんなに「歩く」ことにこだわるのか不思議ですか?確かに、スキー場でリフトに乗って滑り降りるだけなら、歩けなくてもそう不便ではないでしょう。でも、スキーというのは実はゲレンデの外でも楽しめるものなのです。しっかりした装備と知識さえあれば、雪の積もった山へハイキングにでかけて、ふだん見ることのできない自然の表情にふれることができます。そんなときに自由に歩くことができなければ大変不便なことは想像していただけるでしょう。かといって、板をかついで歩こうとすれば雪の中に沈んでしまいます。

それぞれの靴の上にポインタを置いてみてください

 雪山にスキーででかけるというと、いわゆる「山スキー」というのとどう違うのかと思われる方もいるでしょう。ふつう山スキーといわれるスキーは、滑るときにはかかとを固定してアルペンスキーと同じようなスタイルで滑ります。山を登ったり歩いたりするときには、金具をガチャッと切り替えると、かかとが上がるような仕組みになっています。こういうとテレマークも山スキーも同じように聞こえるのですが、実物を見ていただくと雰囲気はだいぶ違います。端的にいうと、山スキーは機械というかメカっぽい感じで、テレマークは道具というか素朴な雰囲気です。どちらを選ぶかは個人の好みや経歴によるところが大きいと思いますが、よくテレマークの利点といわれるのは、「道具が軽い」とか「靴の底が曲がるので歩く感じが自然」などで、逆に不利なのは、「アイスバーン(固く凍った雪面)での安定性が悪い」とか「アルペンスキーから始めた人は、また新たに独特の技術を習わなければならない」などといったところでしょうか。

スキーを使った山歩き

 スキーは雪の上を滑る道具ですから、いくら歩けるように工夫した道具を使っても、そのままではツルツル滑ってしまい、歩いたり山を登ったりはできません。これを解決する方法としてよく使われるのが、「シール」という道具です。これは、ウールやナイロンでできた毛皮のようなもの(本来はアザラシの毛皮が使われていました)で、スキーの裏に粘着剤で貼り付けて使います。毛が一方向に寝かせてあるので、スキーは前へは滑るけれども、後ろには滑らないようになっています。斜面の傾きの強さに応じて、まっすぐ登ったり、ジグザグに登ったり、地形と自分の体力とを考えにいれて自由にコースを決めながら雪の山を登るのはとても気分がいいものです。テレマークでは、スキーの裏側にウロコ状の刻み目をいれて、スキーが後ろに滑らないようにした道具も使われます。シールよりは緩い斜面しか登れませんが、前へ滑らすときの摩擦が少ないので、平坦な地形が多いときには軽快です。急斜面ではウロコ部分の上に、さらにシールを貼ることもできます。

 汗をかきかき雪の山を登り詰めると、いよいよ滑降です。登りに使ったシールはもちろんはがします。山スキーでは、金具を切り替えてかかとをスキーに固定するのですが、テレマークではそのままです。ということは、サンダルで走り回るようなものですから、つまずいたら体が前へつんのめって危ないではないか、ということになりますが、それがそうでないところがテレマークの面白味です。前後の安定性がないなら、足を前後に開けばよい。かかとが固定されてませんから楽に大きく開くことができます。そしてさらに腰を落として姿勢を低くすると、もっと安定します。これがテレマーク姿勢というやつで、この姿勢でターンをするのをテレマークターンといいます。ジャンプ競技では着地の時にこの姿勢をとらないと減点されるので、みんな一瞬だけこの姿勢をとってますがあんまりこれでないと安定しないということはなさそうですね。テレマークの道具を使っていても、上達して重心位置の調節がうまくできるようになると、別にテレマークターンをしなくても、アルペンスキーと同じようにパラレルやウェーデルンでスイスイ滑れるようになりますが、雪の状態が悪いときにはやはりテレマークターンが安定です。

黄色い丸の上にポインタを置いてみてください

 山では、ゲレンデでは味わえないようないろいろな「雪」に出会うことができます。季節によっても違いますし、1日のうちでも変化します。斜面が北向きか南向きかでもずいぶん違います。積もりたてのフカフカの粉雪は、滑り方に慣れれば本当に気持ちがいいものです(でも、ころぶと一人では起きあがれなくなったりしますが)。カチカチに凍った雪というか氷のような「アイスバーン」は、恐いものです。特に、急斜面が下の方までずうっと続いているときなどはぜったいに転ぶことができません。春も遅くなると、雪は粗い氷のツブツブに変化します。これは「ザラメ」といわれる状態で、こうなってしまえばゲレンデと同じような感じで楽に滑ることができます。初めてスキーで山に行くには最適の季節です。

 夏山では、ポピュラーな山ではしっかりした道がありますから、地図を持ってなくてもなんとか歩けたりしますが(その辺の人に、ナントカ山はこっちですかねなどと聞いて、ヒンシュクを買いながらでしょうが)、雪山ではそういうわけにはいきません。道は雪の下ですし、夏の道を通るより独自のコース取りをした方が、楽で安全なことも多いのです。地図とコンパス(方位磁石)と高度計を使いこなして、コースを確認しながら進んでいきます。人気のあるコースでは、先行者のシュプールがしっかりついていて、ラッセル(雪をかき分けてすすむこと)の苦労もせず跡をたどって進むこともできますが、他に誰も入っていない山に自力で登って帰ってくる満足感はまた格別のものがあります。

テレマークスキーを使ったレースについて

 テレマークスキーはツアー以外では楽しむことができないのでしょうか。決してそんなことはありません。アルペンスキーに混じって、ゲレンデで滑るのも楽しいものです。安全にツアーを楽しめるのは、天気や日照時間などの点から3月以降が主なので、それまではどうしてもゲレンデを中心にして遊ぶことになります。この頃に、スキーの腕を磨くのに最高の方法があります。それは、レースに出場することです。

 毎年、日本各地のゲレンデでテレマークスキーによるレースが開催されています。上級者は、各地を転戦して合計ポイントで順位を競っています。また、各レースでは初級者用のレースも行われますから、だれでも参加して楽しむことができます。レースには、アルペンスキーのスラロームレースのように、ポールをくぐりながら滑り降りるレースもありますが、何といってもテレマークらしいのはクラシックレースです。これは、斜面の登り、平地の滑走、ポールをくぐる滑降、そしてジャンプ、とスキーのあらゆる要素を含んだレースで、最近人気が高まってきました。これらのレースに出場したり、上位を狙うために練習を重ねることにより、漫然と滑っているだけでは決して気がつかない自分の弱点を克服することができます。また、レースの前夜に行われるパーティーでは多くのテレマーカーと知り合うことができます。レースの日のゲレンデに来てみると、こんなに沢山のテレマーカーがいたのかと、きっと驚くでしょう。このようなレースの多くは、TAJ(日本テレマークスキー協会)が主催あるいは後援しています。

マイルドセブンの広告雑感('96-'97シーズンの話題)

 今シーズンは、「テレマークスキーとは?」という質問の答えはずいぶん簡単になりました。「マイルドセブンの広告にでてるやつ」といえばたいていの人は見たことがあるはずです。おまけに、ゲレンデの外で軽い雪をけちらしながらザックを背負って滑る姿は、スキーツアーの説明にもなっていますね。現代のテレマーカーの規準からすると、広告に登場するスキーヤーは姿勢が少し低すぎて、すぐに足が筋肉痛になりそうだなあなどと思ったりもしますが、アルペンスキーとの違いをひと目でわかってもらうためには、あれぐらいの姿勢が必要なのかも知れません。
 しかし、駅のホームで電車を待っているときに、また、雑誌をパラパラめくっているときに、ふと目に飛び込んでくるテレマークスキーの姿には、ちょっと驚かされます。ヤマケイなんかの雑誌のページ以外で、テレマークの姿を見る事なんて今までほとんどなかったもので、何となくうれしくなったりします。テレマークスキーの販売店の人に聞くと、今年はいつになくテレマークスキーの売れ行きがいいようですから、宣伝の効果かもしれません。
 広告のテレマーカーの姿についてちょっと解説。背中のザックから何か突き出ていますが、あれは、スコップの柄です。何でスコップがいるのか。駐車場に帰って来たときに、雪に埋もれた車を掘り出すのに役に立つという用途もありますが、本当は、雪崩で友達が埋まったときにすばやく掘り出すためというのが正解です。山でのスキーツアーはつねに雪崩の危険と背中合わせです。また、不幸にして雪崩に巻き込まれて雪の中に埋められたときには、その場に居合わせた人たちがすばやく掘り出さないと、窒息してしまいます。そこで、スキーツアーをする人は一人に一本スコップを背負って滑ることが望ましいのです。どこに埋まっているかをさがすには電波を使います。小さな発信機兼受信機をからだにくくりつけ、行動中は送信しっぱなしにしておいて、いざ誰かが埋まると、残った人は受信に切り替えて埋まった人を捜すわけです。

 あの広告のザックから突き出た、小さな黒い柄を見ながら、あちこちでテレマーカーが「この広告もなかなかやるな」と思っているような気がします。

追記

 この広告に出てくるテレマーカーのモデルについて、HPの読者の方から情報をいただきました。山形県のKさんがJTに問い合わせたところ、「スキーヤーは、プロフェッショナルテレマーカーとして活動しております、Brandy Haddickです。撮影は、アメリカのユタ州(Park City, Snowcat Area)で行いました。」との回答が来たそうです。ユタ州といえばワサッチ山系などのパウダーの名所。是非行ってみたいところです。


おまけ ヤマケイの「テレマークスキー・テクニック」という本の見返しに、いい言葉がありました。ちょっといただいてここでご紹介。
日本テレマークスキー協会について
テレマークスキーツアーの記録
テレマークスキーとツアー関連リンク集
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