第6回京都フォーラム2007 in winter
  2007年2月12日(月) 京都ノートルダム女子大学
                           主催 人間教育研究協議会
全体講演要旨
「これからの教育のあり方−教育基本法・学習指導要領の改訂から−」
梶田 叡一(兵庫教育大学学長)

  この記録は、土井によるメモから作成したものです。従って、誤字脱字や主観的な解釈、誤解もあり得ます。文責はすべて土井にあり、主催者や講師には一切責任はありません。そのため、引用や転載はご遠慮ください。また、問題の箇所は修正しますのでお知らせください。  
 国のレベルでどういうことが行われているかるかをお伝えしたい。ただ、こうした情報に過敏反応すると職場がぐらつく。それを怖れている。
 臨教審以来、教育改革が盛んに言われた。20年改革と言われ続けて、何を改革するかがわからないまま、ただ目新しいことをすることになっている。浮ついている気がする。
 最近、どこへ行っても、学力向上という。やらなければいけないが、これは、教育改革だからやるのではない。学校の本務である。学校の目的は勉強するためにある。学力向上など、ことさら言う必要はない。
 少人数、習熟度別、それは HOW TO。だめなときはだめ。授業時間数をいくら増やしても、下手な授業をすればかえって学力は減る。目新しいことを導入すれば、問題解決するという幻想がマスコミを中心として、社会にはびこっている。
 大事なことは、子どもと取り組んでいることの指導の実をどう上げるかである。授業の改善、人間関係の改善が大事。目先を変えてもだめ。
 教育改革ねがえり論?を言っている。みんな目先を変えることばかり言っている。いじめでも10年おきに起きている。
 子どもを守り育てるための体制づくりのための有識者会議で団長をしている。
牟田さん、池坊さん、小渕優子さんらが入っている。変えることは大事だが、まずできることとして、スクールカウンセラーの予算を組んでもらった。目先さえ変えればうまくというという幻想をもたないこと。じっくりとやることが大切だ。文科省の中でもいじめがある。みなさんの職員室でもいじめがあるのでは?大学などいじめの巣窟だ。いじめに耐えて強くなるという部分もある。関係者がねばり強く取り組むこと。
 「明日もか」ということで、目の前の問題に取り組まなければいけない。
あ:明るく元気。指導する人は明るく元気。
し:姿勢をしっかり。教師
た:タフでないと。自分で自分をがんばれというのは必要。「まっ、いいか。」も併用す  ること。これもタフ。自分で自分を支える。完全主義は生きていけない。
も:物知りに。情報収集。
  いじめ以前の子どもの世界のルールも知らなければいけない。外側だけの話では見 えない。中に入らなければいけない。
  授業につながる本、それとは別に、古典も読んでほしい。
か:賢くなれ。洞察力、コントロール 
 この「明日もか」を土台にして、いろいろな国の動向を知ってほしい。
 
1 第4期中教審
2001年2月に第1期が始まった。2年間で委員が交代し、6年すぎた。
2000年以前は審議会が細かく7つに分かれていた。それがくっついて中教審になった。これで全部をカバーする。委員は30人。今回、半分ほど(14人)が変わった。
 このメンバーで2年間いく。
 会長は山崎さん。文化功労賞まで取られた73歳の作家の方。
 今は、親が難しい。政治家が口を出す。未履修のカリキュラムの問題。教育再生会議は総理直轄でいろいろなことを言っている。それを調整するのが中教審だ。これらを、国際的な流れをふまえてびしっとする。教育委員会の見直し。今挙げたことを全文頭に入れると、わかっている人は逃げてしまう。
 この前総会だけ開かれた。私が副会長になった。今週、教育制度分科会、初等中等教育分科会を開く。週末には、教育課程部会、教員養成部会を開く予定である。
 新しい体制の教育課程部会は20数名。指導要領の改訂がある。
 あさって、教育制度分科会、初等中等教育分科会が開かれ、私が会長になる。始めに合同の部会を開く。そこに安部内閣が3つの法案を出す。しかし、上がるかどうかは別。
 3つの法案とは、学校教育法、地教行法、免許法。総理の施政方針演説の中にもあったし、文部大臣も約束した。再生会議の報告を法律に入れるのは、伊吹大臣が「それは超法規的措置だ。中教審を通さなければ、法律にできない」と言って筋を通した。
 3法案については、総理が施政方針演説で言ったからではなく、今までも中教審でも検討してきたことなので、再生会議の言ったことも念頭に置いて、1ヶ月で審議する。私が議長をやって裁く。
 私は、安部総理は拉致問題などいい総理だと思っている。しかし、教育に関しては疑問符がつく。
 教育委員会制度は、3つの価値がある
 1 専門家だけではなく、有識者が入って社会全体にとって妥当な筋道を行くように  決定する。全員一致が不文律。
   行政委員会は、レイマンコントロールが必要。
 ※ レイマンコントロール;一般人常識人を参画させることにより、教育行政の方針決定が教育の専門家  の独断に流れることのないように、社会の良識を広く教育行政に反映させる仕組みだが
 2 地方分権:敗戦前までは中央主権が強かった。うちの町にはうちの町の教育があ  る。そのための制度。
 3 政治的な中立性:市長が替わるたびに、大臣が替わるたびに教育が変わってはい  けない。政党政治の外におくべき。
   何でも選挙で選ぶのは疑問。選挙は、相手を悪者にしなくてはいけない。教育は  教育委員会全員一致でやれば、ある程度のクッションになる。
 
 教育委員会制度にはまずい部分も確かにある。責任配分、委員の数など。しかし、再生会議がいっているように、国が教育委員会に口を挟めるようにするとかはだめ。これには抵抗したい。
 学校教育法、これは簡単。教育基本法が変わったから、なぶるだけ。
 免許法、これが難しい。教員免許に対する答申を出した。大学教員養成のあり方をかえなければいけない。実践演習などの科目を作りたい。
 ノートルダム女子大学でも小学校教員養成課程をつくった。去年の4月から30ぐらい、今度の春30,来年30の大学が教員養成課程をつくる。私学だけで、これだけの教員養成課程をもつ大学が増える。
 国立でも採用はなかなか。ノートルダムは数年はうまく採用してもらえるのでは。
これから7,8年はいいが、それからあとはどうするか。認可取り消しだ。教職課程の認可取り消しだ。しっかりしていないところはだめ。
 部会で審査して、上の会に上げて、決める。国立も含めて認可取り消しをする。
 
 2番目の柱が教職大学。来年4月に始まる。3年間ぐらいで、20ぐらいを作りたいといっている。早稲田、玉川、創価、文教など、早めに準備をしている。インターンシップをとり、教頭、校長になるための実習もある。
 この講師の実習は・・・と申し出があったり、校内の授業研究の手伝いをする組織も作りたい。
 
 3番目。10年に1回免許を更新する。これは雇用関係とは別。現在、現職の先生が百万人。ペーパーが500万人。10年に一回だと、毎年60万人の講習。これを大学でやってもらう。研修の中身は山極先生の部会で詰めている。
 10年すれば親も子も変わる。カリキュラムも変わる。リフレッシュだと考えてほしい。問題がなければ自動的に更新する。
 再生会議では、この講習で不適格教員を排除せよといっている。でも10年は長い。
不的確教員の排除は10年も待ってはいけない。不適格委員をどうやって見分けるか?心理検査をするといっている人もいる。そんな便利な検査があったら知りたい。
 この免許法改正はかなりすりあわせしないと難しい。
 
 こういう3つの法案を、週2回か3日審議する。日曜は朝から夜まで。これを片づけないと指導要領の問題に入れない。
 3月のはじめに、2つの合同部会が協議を終えて、そこから、やっと指導要領の検討を再開することになる。
 残念なことに、いじめや未履修の問題があったり、再生会議のことがあって、4ヶ月ぐらい開かれないままだった。
 教科別に14の分科会があり、さらに小学校部会・中学校部会のような横をつなぐ部会がある。これを3月半ばから開いていきたい。
 事務局の案を見たら、既定路線だった小学校英語は案に入っていなかった。大臣が就任の時に英語より国語といったからだ。さっそく英語を入れさせた。でも、週に1時間ではアリバイづくりみたいなもの。なんとか3時間はという意見も出ている。再生会議が文科省に対していろいろ言う。小学校英語は、今後増えるかもしれない。
 しかし、何を減らすかは大変な問題だ。本来は、この1月に答申を出して、3月に告示で済んでいたのに。それができなければ、中間報告を出して、広く関係団体から意見をいただきたかったが、これもできなかった。
 なんとか今年中には告示まで生きたい。そのために秋には答申を出す。秋の入り口には中間報告。秋のはじめには多くの人の目に触れるようにがんばりたい。
 これだけはというものを挙げる。3本柱だ。
1 理数系重視。前回捨てられたものの復活。新しい要素を入れる。
2 言葉の力。国語、その他でPISA型読解力を含めた、コミュニケーション能力で下がった「読む・書く」力を重視したい。PISA型読解力は、総合的な学習に近い高度な力。体験を通じて本当の力を付ける。体験から振り返り、仲間との言葉の交流、自分でさらにまとめる。そこから核となる何かをつかみ直す。
 「体験の経験化」を言葉でする。
3 基本法の改正と相まって、伝統文化を見直そうというもの。実は、すでにこれまでの改訂ごとに入れてきた。音楽で和楽器など。各教科で伝統を入れないといけないだろう。
 中村哲さんが和文化教育を行っている。子どもたちによる人形浄瑠璃、歌舞伎、三味線、武道、お茶・お花など先人の美意識、見方考え方を伝える必要がある。ただし、国粋主義ではない。欧米のこと、アジア、ラテンアメリカ等などのすばらしい文化も学ぶ。西アフリカにもすばらしい文化が紀元前後からある。奴隷制で破戒されたが、元の文化伝統を見直そうと言う動きが出ている。日本も、敗戦で伝統文化が破戒されたがやはり見直したい。しかし、これらは、あくまでも大きな国際化、情報化の上にある。 
 
 指導要領の見直しを3月からやっていく。再生会議で授業時間を1割増やせと言ったが、指導要領は2001年から最低基準になった。通知で、内容・時間数と共に最低基準と言った。時間数も、市町村と相談してほしいと書いた。
 私立では土曜日にもやっているところがある。公立でも、夏休みを減らした学校がある。最低基準だから、子どもに無理がない限り増やすのは今でも可能だ。
 
 教科や領域の示し方も問題になってくる。国語、週でふやすのか?4時間でも、5時間でも6時間でもいいと書くと、親から6時間やれと批判がくる。
 そうすると授業時間が週34時間以上になる。それを考えると、いくつかの教科はバスケット方式にすることも考えられる。バスケットというのは、主要な教科は何時間と張り付けて、他は学校の工夫で選ぶ。
 
 伊吹大臣の姿勢は高く評価している。「教師批判はひどすぎる、学校批判はひどすぎる。教師、学校の99.99%はとてもがんばっている。」と言っている。そこをふまえて論議したい。
 先日、大臣と会長、前会長と打ち合わせた。
 大臣が、5日に安部総理に掛け合いに行って来た。教育改革をやりたいと言う気持ちは分かるが、再生会議の一部の人たちの言うことをやっていたらだめだと。その人たちは、教師や学校はだめという前提に立ってる。
 教員の2割を民間人にしろと言っている。その先生は、ある市の教育委員で、そこで5割の教師を民間人にしろと言っている。教師の免許を持っていても変な人がいるのに、もっていなければどうするか。
 数学で2次方程式を解ける人はいっぱいいる。しかし、それを教えることができるか?
 わかっている人が教えられるわけではない。専門性をわかっていない。野球でもそう。成績がだめだからと言って、2割を素人入れろと言うか?
 民間校長で、藤原校長は成功した。彼はリクルートで人を相手にしてきたから。だったら、銀行でお金を相手にした人ができるか?校長はまだいい。あいさつ要員だから。
 しかし、教頭に入れろと言う。どうする?過半数は過労死だ。
 これらは、今の教師はだめだ観から出発している。これは覆したい。
 
 最後に、「教育実践の改善のために」、を読んでほしい。
(1) これからとんでもない要求が出てくるかもしれない議論の行く末を見てほしい。しかし、あくまで日々の実践を粛々と進めたい。上手に準備して、上手に授業をしてほしい。1時間1時間の授業は大事。しかし、すべてを全力ではいけない。先生は力を抜いて、子どもが力が付くのが理想。そのためにやるのが授業研究。中身が濃い授業ばかりでは過労死する。
 単元全体を通して、これだけ力が付けばいいんだよね。そう考えると楽になる。
 だから目標をしっかり持つ。そうすれば、重点単元を設定して、そうでないところと軽重がつけられる。そのセンスが重要。
 
(2)よい授業のために
1 学級経営は大切
2 発問の工夫
3 ワークシートの作成と展開、学習の振り替えりとまとめ
4 紙切れ法的活動の取り入れ、多様な考え方の総合と全員の参画意識
5 ポートフォリオ的資料収集とそれに基づく形成的評価の工夫
 右側の図に書いたように、学力保障と成長保障を念頭に置いてやっていかなければならないと、毎日毎日明るく元気。完全主義ではなく、どこかでまっいいか。
 大きな流れがある。改革改革と言われる。チャレンジ! すべき要素が学校現場にある。自分の取り組みの中にもチャレンジしてほしい。             おわり