各紙はイラク派遣をどう伝えたか                     201回社楽 土 井
 9日の臨時閣議で自衛隊のイラク派遣が決定した。それを新聞各紙はどう伝えたか。10日の社説から読む。
 
産経新聞  http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm 
【主張】基本計画決定 国益と威信かけた選択
自衛隊は復興任務に自信を
 イラク復興支援特別措置法に基づく自衛隊派遣の概要を定めた基本計画が閣議決定された。派遣反対論が噴出する中、復興支援を軌道に乗せる国際共同行動への参加を決断し、使命感に燃える自衛隊員に敬意を表して派遣の意義を説いた小泉純一郎首相の姿勢を評価したい。
《伝わった首相の決意》
 日本が派遣を断念した場合、テロに屈する国として信頼と尊厳を失うところだった。首相も今回の派遣決定に「日本国民の精神が試されている」と語り、テロとの闘いの決意を示した。中東地域に原油の九割近くを依存している日本にとって、テロリストに屈しイラクを破綻(はたん)国家とすることは国益にも反する。「国際社会が手を引いたほうがイラクは泥沼化する」と語った首相発言に同感する。
 基本計画は、陸上自衛隊六百人以内のほか、海自と空自を含めて合計千人程度の過去最大規模の運用となる。初めて火力の強い対戦車火器も携行するが、自衛のための当然の措置だ。自衛隊員の安全確保に万全を期してほしい。
 派遣時期などは今月中旬以降に決まる実施要項に盛り込まれる。焦点は、防衛庁長官の派遣命令がいつ、どう行われるかだが、日本の「顔」となる陸自の活動は滞りなく実施すべきだ。
 イラク特措法が成立した七月二十六日から、基本計画決定に至るまで四カ月余を費やした。政府のイラク調査団は九回を数えた。肝心の自衛隊調査団派遣が十一月中旬になったのは、総選挙の争点を避けるためとみられても仕方なく、逃げ腰だったのは否めない。それが派遣反対の声を強めることになったのではないか。
 「自衛隊が交戦状態に巻き込まれるなら、日本の憲法の想定しているところではない」との指摘がある。憲法第九条の「国の交戦権はこれを認めない」規定を意識したものだろうが、首相が「正当防衛論」で反論したことがその回答であろう。
 自衛隊派遣については違憲論が根強いが、これを逆手にとる形で、首相が会見で憲法前文の「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」というくだりを持ち出したのは、それなりに説得力があったといえる。
 自衛隊の能力を超える派遣という指摘も散見される。しかし、イラクのような過酷な状況下で組織的な人的協力ができるのは日本では自衛隊しかなく、厳しい訓練を続けてきた。
 首相が過去の自衛隊の海外派遣を列挙し、歓迎と評価の成果を語ったことも、イラク派遣の意味を国民が理解する手助けになったのではないか。
《残された課題に着手を》
 携行武器は今回、見直されたが、緊急避難、正当防衛に限る武器使用基準の見直しまでには至らなかった。自衛隊キャンプに隣接するオランダ軍が攻撃されて支援要請されたとき、どう対応するのか。なにもしないで見殺しにすることはできまい。国際基準である任務遂行を妨害する行為を排除する武器使用は認めるべきだ。
 同時にイラクを戦闘地域、非戦闘地域に分けたり、「部隊の安全の確保に配慮しなければならない」規定も実効性を問われている。非戦闘地域で安全だから、自衛隊を派遣するのでは本末転倒だ。こうした規定を見直し、集団的自衛権の行使を含め、恒久法の制定が喫緊の課題である。
 民主党はイラク特措法による派遣に反対している。同党は、国際社会が一致して協力できる国連決議か、イラク国民による政権樹立があれば、自衛隊活用を認める姿勢だが、これは現状ではなにもしないことを意味する。
 こうした方針で日米関係が崩れるとは思わないとの発言もあるが、テロに屈し、リスクを分かちあえない国との同盟関係は果たして成立するものだろうか。北朝鮮が注視していることを忘れてはならない。
 政争は水際までという言葉をかみしめ、野党を含めできるだけ多くの日本人が自衛隊員を拍手でもって送り出すべきだ。任務を完遂して国益と威信を守り抜くとともに、国内のテロへの備えにも万全を期してほしい。
 
 
日本経済新聞    http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20031209MS3M0900K09122003.html 
社説 イラク支援へ首相が下した政治決断
 政府は自衛隊のイラク派遣に関する基本計画を閣議決定した。与党内調整の結果ではあるが、世論調査で賛否が半ばし、与党内に慎重論もあるなかでの小泉純一郎首相の政治決断に近い。民主主義国の政治指導者にとって若者の命を危険にさらすかもしれぬ決断は常に苦渋の選択である。首相は「危険を伴う困難な任務に就こうとする自衛官に敬意を表する」と述べた。自衛隊のイラク派遣は戦後日本が初めて経験する胸に重い決定である。
テロと戦う国際連帯に
 基本計画によれば、陸上自衛隊が人道復興支援活動として医療、給水、学校など公共施設の整備に当たり、海上自衛隊は艦艇、航空自衛隊は航空機による物資輸送に当たる。規模は陸自が600人、海自は輸送艦、護衛艦各2隻、空自は航空機8機以内とされ、活動期間は12月15日から1年間となっている。
 首相は記者会見で憲法前文の一部を引用するとともに「危険なことは他国に任せる、では国際社会で名誉ある地位を占めたいとする憲法の理念にかなわない」と述べた。自衛隊派遣の背景には世界の状況と日本の置かれた立場がある。
 イラクの現状は、復興を目指す側とそれを阻止しようとするテロリストとの戦いである。国際社会が放置すれば、イラクはテロリストの拠点になり、世界中にテロが拡散する。イラク復興とテロとの戦いは、ここでは同義語であり、だからこそ首相が指摘するように米英だけでなく40カ国近くが兵力を派遣し、復興を進めている。
 主要国では開戦の経緯から中国、ロシア、フランス、ドイツが参加していないが、仏独はアフガニスタンに地上兵力をおくっている。独軍には犠牲者も出た。日本は海上自衛隊によるインド洋での給油活動が中心である。
 テロとの戦いをめぐる国際連帯の成否は、日本経済にも重大な影響を与える。日本が使う原油の中東依存度は86%であり、仏(28%)、米(24%)、独(11%)、英(6%)などと比べ圧倒的に高い。
 イラクが不安定化し、中東情勢が流動化すれば、日本が最も大きな打撃を受ける。世界中がテロにおびえる状況になれば、世界経済は収縮する。グローバルな市場を前提とする日本経済に直接的打撃となる。
 首相は派遣理由として日米間の信頼関係の必要性も指摘した。確かにイラク復興に対する努力は直接的には日米同盟のためではないが、日米関係に反射し、日本自身の安全保障にも影響する。
 朝鮮半島情勢への波及である。北朝鮮危機を解決するには日米韓の連帯が不可欠である。反米を旗印に掲げて当選した盧武鉉大統領ですら国内の不人気を承知で早々と700人の非戦闘部隊を派遣し、いま3000人の戦闘部隊派遣の要請に苦悩する。
 陸自の活動に対する心配があるようだが、作業内容は給水、医療などであり、日本国内での災害派遣のそれに近い。戦闘ではない。これらを通じた民生の安定は、イラク人の雇用の場づくりの基礎でもある。亡くなった奥克彦大使らが取り組んだ活動の目的の一つでもあった。
 自衛隊の派遣をめぐる政治の場での議論は2分されているように見えるが、そうでもない面もある。衆院選前の国会で政府・与党は自衛隊派遣を可能とするイラク復興支援法を成立させた。選挙結果に基づいて小泉政権が継続した事実は、有権者がそれを支持した結果になるが、民主党も選挙戦で自衛隊派遣を全面否定したわけではない。
自衛隊安全に万全期せ
 民主党はイラク人の政権ができ、その要請に基づいた国連安保理決議ができれば自衛隊派遣を考えるとしていた。政権移行は来年6月である。一方、現在の準備状況からすれば陸自が本格派遣されるのは来年2月とされており、政府との違いは、派遣の時期である。基本計画決定が直ちに派遣決定ではないとすれば、国会での議論など国内の合意形成のための時間が尽きたわけではない。
 最も重要なのは派遣される自衛官全員がイラク復興の実をあげ、無事帰国することである。
 イラク復興支援法は復興段階に入ったイラクへの協力を目的としていた。前提は治安の回復だったはずだが、現状はそうはなっていない。だとすれば自衛官の安全を守るための装備が不十分であってはならない。計画には装備として装甲車、無反動砲、対戦車弾などが明記された。
 国会での神学論争の対象となる無意味な制約のために彼らが犠牲になることもあってはならない。危険な事態を封じ込められる部隊行動基準を定めるのは当然であり、現場指揮官に一定の裁量を与える必要がある。そして最後に責任をとるのは現場の指揮官ではなく防衛庁長官であり、首相であることを確認したい。
 
讀賣新聞 http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20031209ig90.htm 
 [自衛隊派遣]「『国民の精神が試されている』」
 【国家意思が問われる】
 日本の国際協力に新たな展開をもたらす歴史的決断だ。
 政府は、イラクに自衛隊を派遣する基本計画を決定した。
 小泉首相は、記者会見で、憲法前文を引用したうえで、「日本国の理念、国家の意思、日本国民の精神が試されている」と述べた。
 イラクの復興支援は、テロとの戦いの一環でもある。イラクは治安が悪化しているが、日本として、資金協力、物的支援だけでなく、自衛隊を含む人的支援をする、という決意の表れである。
 国際社会は、来年六月のイラク国民による政府樹立を目指し、イラクに平和と安定を取り戻すため、懸命の努力を続けている。自衛隊派遣は日本が国際社会の一員として果たすべき当然の責務だ。
 自衛隊がイラクに行くのは、戦争のためではない。米英軍を中心とする治安維持活動に加わるわけでもない。
 三自衛隊の中核となる陸上自衛隊の任務はあくまで、浄水・給水、学校の修理など人道復興支援にある。
 奥克彦大使(参事官から昇進)ら二人の外交官は、発電所や病院建設など人道復興支援に奔走中に凶弾に倒れた。
 文民では危険が伴うからこそ、生活や安全を自ら確保できる「自己完結型」の自衛隊の派遣しかない。
 テロは米軍だけでなく、国連、国際赤十字などの国際機関、他の支援国部隊、文民、インフラ設備など標的を無差別に広げている。イラク国民の生活を安定させることは、テロリストを孤立させ、テロを封じることになる。
 そうなれば、日本を含む各国の文民が医療、電力回復などの民生安定の仕事ができる環境が整う。自衛隊の派遣の目的は、そこにある。
 【国際社会安定が国益】
 国際社会の安定が、日本の国益だ。
 イラクが“破綻(はたん)国家”になり、テロリストの温床になれば、中東全域が不安定化する。中東に原油輸入の九割近くを依存している日本の経済にとって、致命傷になりかねない。
 テロリストの脅迫に屈し、仮に米軍が手を引けば、イラクは泥沼化する。イラク国民は悲惨な境遇に追い込まれる。国際社会の不安定化で、大きな被害を受けるのは日本だ。
 首相は「日本も、米国にとって信頼できる同盟国でなければならない」と述べた。日米同盟の観点からも、テロ掃討、治安回復に努力している米軍の側面支援が必要だ。
 日米同盟は、日本とアジア太平洋地域の安定の基盤となっている。9・11米同時テロ以降、テロとの戦いでは日米同盟はさらに拡大、深化している。
 既に三十数か国がイラクに部隊を派遣し、復興支援に協力している。日本が他国の犠牲や痛みを傍観し、平和になったら支援に乗り出すというのでは、憲法前文にある「名誉ある地位」を国際社会で占めることはできない。
 民主党の菅代表は、イラク戦争に加わらなかった仏独露を含め、新たな国連の枠組みで、復興支援を組み立て直すべきだと主張し、自衛隊派遣に改めて反対する意向を示した。
 菅氏は一九九二年の社民連当時、国連の枠組みがあっても、カンボジアの国連平和維持活動(PKO)に反対した。
 「イラク支援は国連主体で」といっても、当面は国連の枠組みが直ちにできる状況にない。これでは、イラクの復興支援に役割を果たすことより、あくまで自衛隊派遣を阻止することに主眼があるのではないかと疑わせる。
 もし小泉政権を追い詰めるという政治的思惑があるとしたら、論外だ。
 政府は、イラク復興支援特別措置法に基づき、自衛隊を「非戦闘地域」に派遣する。野党は「イラクに非戦闘地域はない」と批判する。しかし、テロ攻撃があれば、「戦闘地域」というなら、世界中どこでも戦闘地域があることになる。
 【自衛隊員たちに敬意を】
 無論、非戦闘地域イコール安全ではない。安全かどうかを見極め、自衛隊を派遣するのは当然だ。携行する対戦車弾なども安全確保のための必要最低限の装備といえるだろう。
 首相が言うように、イラク情勢を見れば、派遣される自衛隊は、必ずしも安全ではない。国民の間に不安もある。
 それでも、自衛隊派遣を決断した首相は、「使命感に燃え、決意を固めて赴こうとしている自衛隊に、多くの国民が敬意と感謝を持って送り出して欲しい」と述べた。
 国際社会では、それぞれの国民が共有する当たり前の思いでもある。国民として、国益を担う自衛隊の使命や任務を十分理解し、送り出す必要がある。
 万が一の場合の対応について、首相は「どういう責任が生じるか、その時点で私が判断する」と、責任回避はしないという姿勢を明確にした。自らの決断の重さを吐露したものだろう。
 一国の政治指導者であり、自衛隊の最高指揮官でもある以上、当然である。
 
朝日新聞   http://www2.asahi.com/special/iraqrecovery/TKY200312090333.html 
<社説>日本の道を誤らせるな
 政治に携わる者、とりわけ首相の職務の重さを痛感するのは、右か左か、国の命運を担って至難の決断を迫られているときである。まして貴い人命がかかっていれば、なおさらだ。
 小泉内閣がイラクへの自衛隊派遣計画を決めた。ゲリラやテロ勢力に狙われる恐れが多分にある。戦闘になるかもしれない。それを承知のうえで決めたこの計画は、戦後史に残る重苦しさをたたえている。
 私たちはこの計画に反対である。少なくともイラクの現状が大きく改善されるまで、実行を見合わせるべきだ。それが私たちの切なる願いである。この派遣は、日本の針路を大きく変えうる危険な道だと考えるからだ。 ゲリラの攻撃がやまないイラクで先月末、2人の日本外交官が殺された。以来、国民は自衛隊派遣への不安をますます募らせている。だが一方で「彼らの遺志を継げ」「テロに屈するな」と、しきりに派遣を促す声もある。
 いわく、このままではイラクがテロ国家になってしまう。日本は復興支援に力を入れ、治安対策に追われる米英軍を助けなければいけない。石油に恵まれたイラクの安定は日本の国益にもかなう。憶病に振るまえば、米国や世界からの信頼を失ってしまう――。
    #     #
 だが、もう少し考えてみたい。
 確かにイラクの民衆は助けたい。派遣を見送れば、米国との関係は面倒になるかもしれない。それでも、派遣が抱える危うさの方がずっと大きく深刻であれば、話は別ではないか。
 悪夢の光景がまぶたに浮かぶ。自爆テロが自衛隊を襲う。ゲリラと撃ち合い、双方に犠牲者が出る。かつて一度もなかった自衛隊の闘いである。事件後、世論に撤退論も強まるが、いったん送り出したら引きづらい。派遣が延び、ますます深みにはまっていく。
 考え過ぎなら幸いだ。しかし、最悪の想定までして事に当たるのは、国の指導者の務めである。テロ勢力は標的を海外の日本大使館や企業、さらには国内にも定めるかもしれない。
 テロに屈するな、というのはその通りだ。しかし、ことは精神論ではすまない。テロといいゲリラ攻撃といい、これは「戦争」の一環なのだ。
 イラクで抵抗している勢力はフセイン政権の残党から国際的テロ組織アルカイダまで、さまざまだと言われる。共通なのは米英軍とその仲間を「敵」とみなしていることだ。泥沼化したベトナム戦争と同様、米英軍は見えない敵におびえつつ、敵の掃討に当たっている。民衆の心理は決して占領軍に温かくはない。
 ここでは米英の開戦の大義は問うまい。だが、開戦をめぐる亀裂が尾を引き、仏独やロシアは復興支援に軍を送っておらず、国際社会の足並みは乱れたままだ。テロの標的になった国連や赤十字も現地から引いてしまった。そういう戦争の地に出かけるのだ。
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 首相がいうように「戦争に行くのではない」にせよ、米英軍の同盟軍と映る。抵抗側にとっては格好の敵である。いまは安全な地域でも、自衛隊が行けば不安の地になり、人道支援の目的が裏目に出かねない。
 襲撃された自衛隊が反撃に出れば、自衛の範囲を超え、日本の憲法が禁じる外国での武力行使に発展するかもしれない。それをどう抑制するか。戦地に等しい地にいながら、戦争に加わらず、しかも身を守るのは不可能に近い。
 小泉首相をはじめ、派遣に熱心な人々には、日ごろ「自衛隊を堂々と軍隊にしたい」と公言している人が少なくない。まさかイラクをそのきっかけにと考えてはいないか、それも気になることだ。
 「平和立国」を指針と定めた日本は外国で戦争をしないことを国是とし、外国に武器を売ることも禁じてきた。中東のどの国とも争ったことはなく、経済貢献で喜ばれてきた。そんな誇らしい役割を捨てるのは、日本にとっても世界にとってももったいない。
 この10年余り、自衛隊は国連の平和維持活動(PKO)に積極的に参加もし、平和協力の道を広げてきた。これからもその方向に間違いはない。
 だが、それとイラク派遣とは全く別のことだ。いまイラクに自衛隊を送ることは危う過ぎる。せっかく積み上げてきた平和貢献も、大切な日米関係も、成り行き次第ではかえって大きく傷つけてしまいかねない。そのこともまた、私たちは深く恐れている。
 
毎日新聞 http://www.mainichi.co.jp/eye/shasetsu/200312/10-1.html 
自衛隊派遣 あくまで復興支援のために
 政府は9日午後の臨時閣議で、イラク復興特別措置法に基づき自衛隊をイラクに派遣するための基本計画を閣議決定した。防衛庁が実施要項をまとめ来年1月には航空自衛隊を派遣し、その後陸上自衛隊を派遣する方針だという。
 野党はそろって基本計画の閣議決定を批判した。世論の賛否も分かれている。
 閣議のあと、小泉純一郎首相が記者会見し、質疑も交え約30分にわたって自らの考えを語った。首相は「国際社会において名誉ある地位を占めたい」という憲法の前文を引用して、自衛隊派遣は憲法違反にはあたらないとの考えを示し、派遣目的はあくまで復興支援であることを強調した。
 憲法に抵触する事態があってはならないのは当然だ。自衛隊を派遣しようとする場合は、時期と方法を慎重に検討し、小泉首相のこの言葉を改めて確認したい。
 自衛隊がイラクで戦闘に巻き込まれる恐れが本当にないかどうか。憲法に抵触する行動をとる可能性はないのか。そうした懸念をなお抱く国民も少なくない。毎日新聞の世論調査によれば、自衛隊のイラク派遣に反対は40、条件付き慎重派は43%を占めた。
 イラクでは、米軍や各国の駐留軍に対する反米勢力などによる攻撃は、なお終息する気配はない。米英占領当局(CPA)などに協力的なイラク人を狙ったテロも相次いでいる。日本人外交官2人が犠牲になる痛ましい事件も起きた。地域によってはゲリラ戦の様相を見せている。
 小泉首相は、イラクから帰った専門調査団の報告を受けて最終決断をした。「憲法の枠内で活動できる」と判断したわけだが、それでも国民が心配なのは治安情勢が悪化しているからだ。
憲法抵触の事態を懸念
 基本計画では「人道復興支援活動を中心とした対応措置」を基本方針に盛り込んでいる。具体的には医療、給水、学校など公共施設の復旧・整備および人道復興関連物資の輸送を挙げた。その一方で装輪装甲車や軽装甲機動車などのほか、無反動砲、個人携帯対戦車弾といった自衛隊の海外派遣での初めての武器も携帯させるという。車による自爆テロに備えるなど危険な任務を想定しているのは装備の面からも明らかだ。
 陸上自衛隊の派遣地域は「ムサンナ県を中心としたイラク南東部」としている。政府が認定する「非戦闘地域」のはずだが、そこでさえ危険な事態が想定されるわけだ。
 首相は憲法前文を引用したが、最も懸念されるのは、憲法9条が禁じる武力行使につながる事態が起きるかどうかだ。反米勢力が自衛隊を狙って攻撃を仕掛けてくる可能性を否定できない。自衛隊の応戦で戦闘が拡大すれば、懸念が現実になりかねない。国民の多くもそうした事態が起きることを心配している。
 武器使用の指針となる行動基準(ROE)は変えず、運用面で対応する範囲を拡大するという。自衛官は憲法とともに、自らの命を本当に守れるのかという懸念も抱かざるを得ない。停戦合意と対象国の要請によるPKO協力法に基づく自衛隊派遣とは、大きな違いがあるのだ。
 さらに自衛隊を派遣した場合、撤退は誰がどのような時に、どのような状況になったら判断するのか。基本計画では派遣期間を1年としたが、ずるずる派遣を延長すべきではない。テロ対策特別措置法に基づきインド洋に自衛隊の補給艦などが2年余りにわたって派遣されているが、撤収にめどが立っていない。
 だからこそ、政治がきちんとした歯止めをかける仕組みを明確にしなければならない。首相がこの問題について、きちんと方針を示すべきだった。
 イラク戦争の開戦でいち早く米国支持を表明した小泉首相だった。現実には自衛隊派遣も対米関係を配慮した決断であることも否定できないように見える。「対米追随」と批判が出ている。首相は日米同盟と国際協調を両立させるための自衛隊派遣だというが、果たしてそうか。
 何でも米国の言いなりになっていては真のパートナーにはなりえない。できないことは、できないというべき時もあるはずだ。
 小泉首相は「テロとの戦いに屈してはならない」と繰り返した。当然だ。その言葉に反論するつもりはない。
 
テロとの脅しに屈するな
 しかし、対テロ戦争を支持表明し自衛隊をイラクに派遣することは、国際社会で一歩踏み込んだ行動をとることになる。国際テロ組織「アルカイダ」やその関係団体が先月、自衛隊をイラクに派遣した場合は「われわれの攻撃は日本の東京に届く」などと2度にわたって日本に警告を発している。
 テロ組織が日本を標的にすることは十分警戒しなければならない。アルカイダの犯行による米同時多発テロで米国人だけでなく日本人24人が犠牲になったことを忘れてはならない。
 備えを十分にすることは脅しに屈することではない。日本は自国のテロ対策に立ちすくんではいけないのだ。
 衆院特別委で15日に閉会中審査が行われる。民主党をはじめ野党は基本計画や小泉首相の発言を厳しくたださねばならない。
 民主党は「イラク国民による政府の樹立」などを条件に、PKO派遣基準を緩和するなどして自衛隊の活用を含めた復興支援に取り組むとの立場を明らかにした。自衛隊の活用そのものに反対しているわけではないのだ。
 政府は自衛隊の派遣時期などについては実施要項で決めると言う。政治的にまだ歩み寄る余地はあるはずだ。政治の責任で合意形成に最後まで努力すべきだ。
 
中日新聞  http://www.chunichi.co.jp/sha/index.shtml 
踏み出すのは危うい
自衛隊のイラク派遣を決定
 テロなどの攻撃が続く中、自衛隊は復興支援をまっとうできる環境なのか。イラクに自衛隊を派遣するため閣議決定された基本計画には、なおも懸念がつきまとう。
 閣議決定後の記者会見で小泉純一郎首相は、自衛隊を派遣する理由として、「イラクに民主政権をつくるため、各国が協力している。責任ある国際社会の一員として、人的な支援も必要と判断した」と、国際協調の重要性を説いた。
 閣議決定された基本計画には、イラク復興支援特別措置法に基づき、自衛隊を十五日から一年先までの範囲内で、イラク南東部、クウェートなどに派遣するという枠組みが明記された。
極力慎重な姿勢を貫け
 派遣される陸上自衛隊部隊の主な任務は医療、給水、公共施設の復旧といった人道的活動だ。このほか航空自衛隊、海上自衛隊の部隊にも、輸送の任務が与えられた。
 現時点の現地情勢をみると、とりわけ陸上自衛隊部隊はテロなどと遭遇する危険が予想される。今回、具体的な派遣時期の決定を見送ったのは当然だ。早ければ来年二月といわれる最終判断まで、極力慎重な姿勢を貫いてもらいたい。
 首相は、今回の判断の妥当性を裏付けるため、「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」などという憲法前文の一節まで読み上げてみせた。
 さらに、首相は日米同盟の維持、テロ根絶や地域安定に根差す国益などに触れつつ「イラク国民に歓迎される活動をしなければならない」と復興支援活動の意義を強調した。
 たしかに、多数の一般市民まで無差別に殺傷するテロは非人道的な犯罪であり、その脅威は国際社会が一致して排除しなければならない。国連安全保障理事会の決議もイラクの安定のため、多国籍軍への貢献を各国に求めている。「イラク復興への積極的な支援」は必要だ。
平和主義との整合性は
 イラクの治安回復などに努めている米国が自衛隊の支援活動を歓迎すれば、結果的に日米同盟関係を強化する効果が見込まれる。周辺情勢の緊張抑止や、有事の際の円滑な米軍来援を期待できよう。
 しかし、首相の説明を聞いても、消えずに残った懸念がある。その懸念のいくつかは、首相自身が引用した憲法の平和主義との兼ね合いから生じる。
 イラク特措法は、自衛隊の活動期間中、戦闘行為がないと見通される地域を派遣先に選ぶことを規定している。この規定には、自衛隊の活動が武力行使に発展しないよう歯止めをかける意味があるはずだ。
 ところが、この「戦闘行為」の法解釈は単純ではない。たとえテロリストやゲリラが自衛隊に武力攻撃を仕掛け、自衛隊が反撃することがあっても、それは戦闘行為にはあたらないのだという。
 こうした解釈は、「戦闘」について「国または国に準じる者の組織的・計画的な武力の行使」とみなす定義を前提としていて、世間一般の理解とは隔たりがある。
 イラク国内の情勢は、占領統治している連合軍暫定当局(CPA)の責任者さえ、反米武装勢力の攻撃が今後数カ月間さらに激化するとの予測を示しているほどだ。
 戦後大切に守ってきた「海外で戦闘行為はしない」という憲法の規範を、なし崩しにしてはならない。常識離れの解釈でイラク特措法や対テロ政策への信頼を損なわないためにも、政府は注意深くあるべきだ。
 二〇〇一年の9・11事件で、テロリストたちの組織力、計画力、大規模な攻撃能力は証明済みだ。国際テロ組織アルカイダがアフガニスタンからイラクに勢力を移動するという情報もある。
 仮に今後、反米武装勢力に多数の民衆の支持が集まれば、善しあしは別として、「国に準じる」体裁を整える可能性も、理論的には排除できないのではないか。
 首相は「戦闘はしない」と断言したが、自衛隊の反撃が武力行使とみなされる恐れは生じ得る。
 むしろ、イラクに暫定政府など民主的な政体が発足する時点で、イラク国民が自衛隊の派遣を望むことを確認し、そのうえで部隊を送る注意深さがあってよい。
 国会は、基本計画の問題点を議論するため、まず閉会中審査を行う。国会承認は特措法上、あらためて正式な国会を開いたうえで議決することになっているが、イラクでの活動がそれまでに展開されれば、承認を促す既成事実になりがちだ。
臨時国会を早急に開け
 この計画には与党内部にさえ異論がある。国会が自由に基本計画の賛否を議論し、文民統制の機能を果たせるよう、自衛隊が出発するまでに臨時国会を召集して事前承認の賛否を問う手順が望ましい。
 国内における準備状況と、現地の情勢を見比べれば、陸上自衛隊の派遣は現時点では困難だ。実施要項の作成、派遣命令に至るまでに、さらに慎重に状況を見極めて最終判断するよう、政府に求める。
 
河北新報社 http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2003/12/20031210s01.htm 
イラク派兵/納得できる説明ではない 
 イラクへの自衛隊派遣に関する基本計画が閣議決定された。小泉純一郎首相は「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」と憲法前文まで引用して、派兵決定の理由を述べたが、納得できる説明には程遠く、国民の不安は消えない。
 日本が戦地への派兵を決めたのは、戦後初めてだ。わが国を防衛するのが任務とされる自衛隊を、陸・海・空にわたる全面的な展開で海外へ派遣した経験も、過去にはなかった。
 イラク復興支援特別措置法では、戦地への自衛隊派遣はできないことになっている。
 政府は「戦闘行為とは国と国、あるいは国に準じる者との武力紛争」と定義して、テロとの戦いは戦闘行為には当たらないと説明する。
 またしても言葉のトリックだ。自衛隊を軍隊ではないと言ってみたり、撤退を転進と言いつくろってきたのと変わりない。
 戦後日本の外交方針において劇的な転換点となる決定について、小泉首相は国際協調体制の構築と併せて、日米同盟の強化を強調した。「口先だけじゃない。その行動が試されている」と、危険な仕事に赴く自衛隊員への敬意と感謝を求めた。
 最近の世論調査によれば、イラクへの自衛隊派遣について「時期は慎重にすべきだ」とする答えが56.3%もあり、「派遣すべきではない」の33.7%を加えると、90.0%もの有権者が派遣に反対ないし慎重な見解を示した。
 小泉内閣支持率も下がり、先月より7.8ポイント減の43.8%となった。不支持率は44.4%にも達して、支持と不支持が9カ月ぶりに逆転した。
 英国、スペイン、イタリア、韓国などイラクに派兵している米国の同盟国でも、政府の支持率が軒並み減少、“追従”を危ぶむ国民が増えている。「ブッシュの戦争」に対する嫌気を強めている証しだろう。
 基本計画では派遣可能期間を今月15日から1年間とあいまいに示しているだけで、派遣時期の明示を避けた。実施要項への先送りである。
 連日のように米兵が殺されている状況はベトナム戦争を想起させる。しかし東西対決のイデオロギー争いが背景にあった当時のゲリラ戦とは様相が違う。
 むしろ、欧米思想とイスラム教という価値観・世界観を異にするパレスチナ紛争に似た自爆テロ攻撃が懸念される。
 人道支援、海外貢献、石油外交など基本姿勢では、与党と民主党は共通理解を持てる。民主党との合意を得たうえでの復興支援も可能だ。多くの国民が納得できる対応策を、時間をかけて探ってもよいのではないか。
 国連のアナン事務総長が繰り返し発言しているように、米国が国連を重視した「多国間の枠組み」の中で指導力を発揮するような軌道修正ができれば、道は開けてくる。
 小泉首相はきのう「武力行使は致しません。戦争に行くのではないのです」と人道支援を強調した。だが、無反動砲など自衛隊が海外に初めて持っていく装備からは、戦闘に巻き込まれる不安が残る。戦場では何が起きるか分からない。
 外交官殺害の悲劇を繰り返さないためにも、国民は派兵反対の態度を、もっとはっきりと示すべきときなのだろう。まさに、日本国民が試されている。
 
南日本新聞  http://www.373news.com/2000syasetu/syasetu.htm 
【基本計画決定】大義なき自衛隊派遣は認められない 
 イラク復興支援特別措置法に基づく自衛隊派遣の「基本計画」が閣議決定された。派遣期間は今月15日から1年間、派遣部隊は陸上自衛隊600人以内に加え航空、海上自衛隊を合わせた史上最大規模である。
 基本計画では「イラクにおける主要な戦闘は終結し、国際社会は同国の復興支援に積極的に取り組んでいる」として、日本もできる限りの人道復興支援に取り組むことを主眼にしている。
 だが、イラクは「基本計画」がうたうように戦闘が終結した状況だろうか。
 確かにブッシュ米大統領は5月1日に大規模戦闘の終結宣言をした。しかし、その後も米兵を狙った旧フセイン政権残存勢力などの襲撃は相次ぎ、宣言後の米兵の死者は200人近くに達して、宣言前の115人を大きく上回っている。
 最近では米国の同盟国を狙ったテロが相次ぎ、日本の奥克彦大使、井ノ上正盛一等書記官の2人も襲撃を受けて死亡した。イラク全土が戦闘状態にもかかわらず、主な戦闘が終結したと一方的に決めつけて、自衛隊を実質的な「戦地」に送る計画決定は極めて遺憾である。
崩れる安全保障政策
 政府もイラクが危険であることを十分、承知しているはずだ。1992年のカンボジア国連平和維持活動(PKO)では携行されなかった無反動砲、個人携帯対戦車弾などの武器・車両を携行する重装備が危機感を証明していよう。
 にもかかわらず、政府が自衛隊のイラク派遣を強行しようとするのは、自衛隊派遣が事実上の対米公約となっており、履行を迫られていることがあろう。
 外交官の死や、「アルカイダ」を名乗るグループからの脅しを受けて自衛隊派遣を見送れば、日本はテロに屈したという国際社会の批判を受けかねないという危ぐも決断の背景にあるに違いない。
 だが、自衛隊のイラク派遣が対米公約履行、国際社会の受け止め方だけを重視した姿勢で決められていいだろうか。
 自衛隊派遣を可能にしたイラク特措法は7月に成立した。小泉純一郎首相が米テキサス州クロフォードのブッシュ大統領私邸で、イラクへの自衛隊派遣を事実上、約束したのは5月である。いずれも、米軍が圧倒的戦力で旧フセイン政権を崩壊させ、順調にイラクの戦後復興が進むと思われていた時期である。
 しかし、イラクの現状は特措法が想定した状況をはるかに超えている。特措法が規定する「非戦闘地域」などどこにもない。治安が比較的安定しているとされ、基本計画で自衛隊の派遣先とされたサマワを含む南部地域で、イタリア軍警察が自爆テロを受けて27人が死亡したのは、つい1カ月前のことである。
 首相は「テロに屈してはならない」「イラクに民主的国家をつくるために、応分な人的貢献の責任を果たすのは当然」などと自衛隊の派遣理由を説明した。
 テロに屈してはならないのは当然である。戦災に苦しむイラク国民のために、国際社会が結束して支援に取り組まなければならないのも言うまでもない。
 だが、人道復興支援のためであれば、憲法やイラク特措法の規定に背いてもいいという論理は成り立つまい。
 基本計画で示された派遣計画は、戦地に近い状況の場所に自衛隊を派遣するという発想で、海外での武力行使を禁じた憲法に抵触する危険性が極めて高い。
 首相は否定したが、米軍などの治安維持活動を支援できるとした条項も、米軍の武器・弾薬の輸送を可能にして、集団的自衛権の行使につながりかねない。
 戦後58年間、一貫して守り続けてきた日本の安全保障政策がこんな形で踏みにじられるのは極めて残念である。
テロを拡散した責任
 旧フセイン政権の圧政でイラク国民が苦しんだのは事実である。米英のイラク戦争は、そうしたイラク国民を圧政から解放する意図もあっただろう。
 しかし、米英によるフセイン政権打倒で国民が解放され、多くの国民が喜んでいるだろうか。もし、そうであれば、なぜ全土で抵抗運動がやまないのか。
 イラク戦争について「新たに100人の(ウサマ)ビンラディンが生まれる」と憂慮したのはエジプトのムバラク大統領である。それが現実となり、イラクはテロの巣窟(そうくつ)と化した。米国にとってベトナム戦争の悪夢がよみがえりつつある。
 政府に求めたいのは、テロが拡散している現状をだれが招いたのかの詳細な現状分析である。イラク全土が戦闘状態であることも、率直に認めるべきだ。
 そのうえで、これ以上のテロの拡散を防ぐためには、国際社会がどう対応すべきかを真剣に考えるときではないか。
 首相が言う「テロとの戦い」は、テロを拡散した米国の責任を問わずにテロリストの掃討に当たることを意味する。米国の国家戦略への追随にすぎず、テロの根絶という目的は到底達せられまい。
 共同通信社の世論調査ではイラクへの自衛隊派遣反対は33%、慎重論は56%で、合わせて89%に達した。国民はテロに脅えているのではなく“大義なき自衛隊派遣”にノーを突き付けているのだ。
 政府は日米同盟一辺倒で突っ走ることなく、国民のこうした声に耳を傾けるべきである。そして、復興が一刻も早く国連中心になるよう努力しなければならない。自衛隊派遣はその後でも遅くない。
 
北国新聞  http://www.hokkoku.co.jp/_syasetu/syasetu.htm      富山新聞も同内容
自衛隊派遣 国際社会安定へ歴史的な役割
 イラクへの自衛隊派遣基本計画が閣議決定された。派遣は比較的治安のよいとされる南東部に限定した。危険性を否定できないのも事実であり、現実に目をそむけてはならないが、イラク全土を「戦闘地域」とみなすのも誤りだろう。三十数カ国の支援による復興作業はそれなりに進み、イラク人による治安体制も徐々に整備されている。復興を加速させる人的貢献は国際社会の一員としての責務である。小泉純一郎首相の判断を支持したい。
 首相は「武力行使はしない」と述べ、戦争に行くのではないことを強調した。日米同盟の重要さと、全会一致の国連決議が採択されていることも派遣理由にあげた。が、具体的な派遣時期は明確にされなかった。実際の派遣時には再び説明責任を果たす必要があろう。これからも予測外の事態が起こりうる。日本の国際的な姿勢が一大転換点となる時にカジ取り役となったのである。歴史的責務を担い、今以上の厳しさを乗り超える覚悟をしておかなくてはなるまい。
 一昨年九月の米中枢同時テロ以来、国際テロの流れを食い止めるのが民主主義国家の使命となっている。国際テロの温床になっているイラクに、一日も早く真の安定をもたらすことが国際テロをなくする第一の要件だ。そこで大切なのはイスラム勢力と非イスラム勢力との衝突と、とらえないことである。
 テロに倒れた奥克彦大使は「国際社会とテロとの戦いという構図をイラク復興の中で確立するために日本政府が関与できる余地がある」と指摘(外交フォーラム11月号)していた。今回の人的貢献がこの役割を果たせることを祈りたい。イラクの安定はイラク一国の安定にとどまらず国際社会、日本の安定につながっているのである。
 ただ、テロを掃討するために行くのではないが、テロと戦う場面はあるかもしれない。その覚悟は必要だろう。テロ攻撃から身を守るために応戦し、交戦状態に陥ることを懸念する声が強い。正当防衛的な行為を「戦闘行為だ」と非難する向きも出てくる恐れはある。
 いかなる時も隊員は行動基準を守るのが当然だが、大切なのは人命を「見殺しにしない」という常識的な判断ではなかろうか。国際社会の正義が失われるのを「見過ごさない」ことに通ずるものだ。隊員たちは姿を見せないテロ集団を警戒しながら、憲法の枠を守って支援作業に従事するのである。この厳しさを理解し、最大の名誉をもって遇し、送りだしてほしい。
 
中国新聞 http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh03121001.html 
  「日米同盟と国際協調をいかに両立させるかが外交の基本だ。資金的、物的支援だけでなく、人的(自衛隊)支援が必要と判断した」
 イラク復興支援特別措置法に基づく自衛隊活動の「基本計画」が閣議決定後、小泉純一郎首相は記者会見で国民に語りかけた。そして、最後は「テロに屈してはならない」とスローガンを繰り返した。
 首相自身、日本の大きな岐路に立っているという自覚はあったのか、表情は硬く、口調も厳しかった。しかし、自衛隊のイラク派遣の必要性については必ずしも十分とは言えない。これまで首相は(1)対米協力(2)国際協調(3)中東地域の安定による石油の安定確保を図るという国益―の三点を事有るごとに言ってきた。それをあらためて強調しただけで従来の説明の域を出ておらず、物足りなさが残った。
 国際紛争の解決手段としての武力行使を禁じる憲法九条を有する日本は、戦闘が続いている海外への陸上自衛隊の派遣は初めてである。第二次世界大戦の敗戦後、外国に兵力を出すことを自制してきた日本の安全保障政策は大きな転換期を迎えたと言えよう。明確な国連決議やイラク側の要請もなく、米軍の実質的な占領下に自衛隊を派遣することは、これまでの路線から踏み出すことになる。憲法との整合性も、あらためて問われる。 ▼武力行使の恐れ
 会見で首相は、憲法前文を読み上げて、「憲法の理念に沿った活動が国際社会から求められている」と述べたが、憲法九条については全く触れなかった。
 基本計画では、陸上自衛隊の持ち込む武器類は、海外派遣では初めて肩にかついで砲撃できる無反動砲と個人携帯対戦車弾、装甲車などが認められた。過去にない強力な武器を持ち込むのは、「隊員の安全確保のため、やむを得ない」(自衛隊幹部)という。裏返せばそれだけ、危険な地域に派遣されるということである。
 実際に重火器を使う場面になれば、憲法で禁じた武力行使になる恐れは大きい。会見で憲法九条に触れるのではないかと問われた首相は「テロへの正当防衛は(憲法で禁じた)武力行使ではない」と簡単に片付けた。
 派遣した陸上自衛隊が攻撃を受け、防衛せざるを得ない状況になり、撃ち合いになる可能性もある。そうなれば、派遣された自衛隊で死者が出たり、イラク民衆を巻き込むことにもなる。首相にそこまでの覚悟ができているのだろうか。
 イラクへの自衛隊派遣については、日本人外交官殺害事件が起きたことで、現地の治安情勢の悪化を懸念する声が高まっている。世論調査でも派遣に対する反対・慎重論が九割に上っているのは、不満や疑念がぬぐえないからではないか。民間団体の活動にも影響を与えかねない。
 ▼憲法の想定外に
 自衛隊派遣を可能にしたイラク特措法は七月に成立した。同法ではイラクの「非戦闘地域」で自衛隊による「人道復興支援」と「安全確保支援」を行うとしている。
 しかし、この当時からイラク情勢は激変している。ブッシュ大統領戦闘終結宣言以降、米兵への襲撃・殺害が相次ぎ、国連や国際赤十字の施設まで襲撃されたのである。米英以外に派遣された国の軍隊なども次々被害に遭い、わが国も外交官二人が殺害された。まさに想定外の事態になっている。
 「非戦闘地域」という概念は、憲法九条の下、自衛隊の海外派遣を可能にするため、周辺事態安全確保法(一九九九年)で初めて盛り込まれ、テロ対策特別措置法、イラク特措法にも受け継がれた。活動範囲を「非戦闘地域」に限定すれば合憲との見解で、後方支援は可能としている。
 基本計画では陸上自衛隊の活動区域にサマワのあるイラク南東部を明記した。比較的治安が安定した地域と言われるが、外交官が狙い撃ちされたように派遣部隊がテロの標的になる懸念が現実味を帯びる。そうなれば、非戦闘地域が戦闘地域に変わってしまう。
 現在、イラクに派遣されて支援活動に当たっている三十数カ国の軍隊は、復興支援の国連決議を根拠にしている。だが、国連加盟国はおよそ百九十カ国あり、ドイツ、フランス、ロシア、中国などは派遣していない。平和憲法を持つわが国は、軍隊ではなくあくまで自衛隊である。宮沢喜一元首相は、自衛隊派遣について「憲法の想定していない事態を冒してまでやるのか、ということに尽きる」と懸念を示している。
 基本計画を受けて、自衛隊の派遣期間や活動内容、区域の詳細を定めた「実施要項」が策定され、今月下旬にも航空自衛隊が第一陣として出発する見通しだ。「イラクが必ずしも安全とは言えない状況」と首相も認める。野党だけでなく自民党内にも派遣反対の声は根強い。まず派遣ありきではなくて、国会の場で論議を深めるべきである。
 
愛媛新聞 http://www.ehime-np.co.jp/shasetsu/ 
 イラク派遣基本計画 中止する勇気も持つべきだ 
 政府はイラクの人道復興支援のために、陸海空自衛隊を派遣する「基本計画」を決めた。
 イラクは事実上戦闘が続いており、「戦地」へ初めて陸上自衛隊を派遣することになる。派遣規模も過去最大だ。
 戦後の安全保障政策上の転換点となるのに、国民の合意は不十分で、不安は大きい。任務はかつてなく危険で、憲法上の疑義も指摘される状況だ。
 イラク特措法では自衛隊の派遣先を「非戦闘地域」に限定しており、基本計画では陸自の活動区域としてイラク南東部を明記した。都市サマワ周辺を想定している。
 しかし、そこは非戦闘地域といえるだろうか。確かに防衛庁調査団の報告によれば、サマワ周辺の治安は安定しており、地元も自衛隊を歓迎し、人道支援を期待しているという。
 その一方、旧フセイン勢力やテロ組織などがイラク南部へ浸透しつつあるという不気味な観測もある。サマワに近い都市ナシリヤで、イタリア警察軍司令部が自爆攻撃を受けたことは記憶に新しい。
 今は平穏でも、自衛隊が行けば格好の標的になる可能性がきわめて高い。市民は自衛隊に好意的だったとしても、武装勢力が市民に紛れ込めば見分けるのは困難である。
 武装勢力は攻撃しやすく、しかも政治的価値が高い標的を狙い始めた。日本など各国の外交官や民間人が犠牲になったのも、米英の占領体制を混乱させる狙いからだろう。そこへ自衛隊が行けばどうなるか。
 小泉純一郎首相は、基本計画決定後の記者会見で「必ずしも安全とはいえないかもしれない」「危険がないとはいえない」と繰り返した。
 以前、「非戦闘地域は危険な戦闘地域でないから安全だ」と述べていたのと比べ、様変わりだ。現地の治安が悪化している事情を示すものだろう。
 自衛隊が攻撃を受けた場合、正当防衛は可能だ。しかし、憲法上許されない武力行使との境目は非常にあいまいである。
 無反動砲や装甲車などで重装備する計画だが、それで基地は守れても、移動中や市民のなかで活動中に攻撃されたら被害を免れるのは難しい。
 それほど無理を重ねて派遣する目的は何か。首相は「復興支援はイラク人が希望している」とする一方、日米同盟の強化と国際協調を力説する。
 もちろん、復興を支援し、イラク人による統治を早く実現することは国際社会の重要な責務だ。しかし、「米国との信頼関係」を強調する首相の顔は、やはり米国の方にばかり向いている気がする。
 今必要なのは米国にいい顔をすることではなく、国連を中心とする復興支援体制を確立することだ。それで初めて、イラク人の希望する援助が可能になるのではないだろうか。
 具体的な派遣時期は首相が決断するが、大きなリスクの伴う派遣を決して急ぐべきではない。場合によっては、中止する勇気も持つべきである。
 
北日本新聞 http://www.kitanippon.co.jp/news/column/syasetu/syasetu.html 
自衛隊派遣/安保政策の歴史的転機
 イラク復興特別措置法に基づいて、政府は自衛隊派遣を閣議決定した。事実上、戦闘が
継続している外国領土に、初めて自衛隊を送り出す計画が、実施に向かって進み出した。
国連平和維持活動(PKO)への協力や、海上での燃料補給が中心だったテロ対策特別措
置法による派遣の枠を大きく超えるものだ。憲法で武力行使の放棄をうたい、自衛隊の任
務を日本防衛と定めてきた安全保障政策にとって、歴史的な転機となることは間違いな
い。
 閣議後の記者会見で小泉首相は、資金的支援、物的支援だけでなく、人的な支援実施の
必要性を強調。アメリカは日本にとって唯一の同盟国であるとし、日米同盟と国際協調の
両立のために行動が試される時だと述べた。
 さらにイラクの情勢は必ずしも安全ではないと、自衛隊の任務の危険性について肯定。
「危険を回避、防止できる装備をもっているから、危険の伴う任務に自衛隊を送り出せ
る」と語った。
 今回の自衛隊派遣の最大の問題は「非戦闘地域」に派遣するというイラク特措法の前提
が揺らいでいる点だ。派遣が予定されているイラク東南部は、防衛庁の調査団が指摘する
通り、比較的安定している地域だろう。だが、時と場所を選ばないテロ組織が出現しない
保証は何もない。むしろ自衛隊自体が狙われる可能性が否定できないことは政府も認めて
いる。
 首相は会見の中で、憲法前文を引用して、自衛隊派遣の大義名分を語ったが、「非戦闘
地域」で活動するというイラク特措法の想定は、武力行使をしないという憲法の枠を守る
ために設定されたものである。その想定が揺らぐ中での派遣は、自衛官の安全確保が困難
になるばかりでなく、攻撃を受けた場合の応戦の仕方によっては、憲法の枠組みを逸脱す
る恐れをはらんでいる。
 自衛隊派遣がイラク復興に役立つのか。危険を覚悟での派遣が国民の利益にどうつなが
るのか。イラク情勢、国際社会の動向、内外の世論を見極めて判断してほしい。人道的な
復興支援は本来、イラクの人々に望まれ、国際社会との協力で行われるものでなければな
らない。そうした枠組み作りに真剣に努力すべきだ。
 
高知新聞  http://www.kochinews.co.jp/editor.htm 
 【派遣基本計画】原則はどこへ行った
 政府はイラク復興支援特別措置法に基づく自衛隊派遣の「基本計画」を閣議決定した。年内にも航空自衛隊の先遣隊が派遣される見通しとなった。
 イラク情勢は極めて不安定となっている。国連や国際赤十字さえ攻撃の対象となっている。邦人外交官殺害事件などを受けて、国内でも自衛隊派遣に慎重論が強まっている。
 復興支援に協力することは重要なことだ。しかし、その関与の手法や度合い、時期をめぐる考え方は一様ではないだろう。世論調査をみても、国民に不安や戸惑いが顕著にうかがえる。
 それを十分に承知しているのだろう。閣議決定後の会見で首相は「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」などとする憲法前文を紹介して、閣議決定にいたった背景を説明し理解を求めた。
 しかし前文に示されるものは憲法の理念であり、その実現へ各条項を規定する。政府は従来、わが国が国際法上、集団的自衛権を有していることは主権国家として当然としながら、憲法九条の下では集団的自衛権の行使は認められないとの見解を示してきた。従来の解釈との整合性はどう説明されるのだろうか。
 米英の占領下にあるイラクへの自衛隊の派遣は、憲法との整合性はもとより、現在の治安状況は「活動期間を通じて戦闘行為が行われない」ことを派遣の条件とする特措法にも抵触する恐れがある。
 米国への反発が日本に向かい、武器使用に制限のある自衛隊が標的となる懸念もある。隊員の安全確保のために携行する武器や装備も拡大の一途だ。これでは、活動の前提条件であり、復興へ向けた当面の最大課題である治安の回復に役立つのか、疑念は強い。
 首相は開戦直後に米英軍への支持を表明した。それについても明確な説明がないまま、米政権に寄り添う姿が際立っている。
 会見で強調したのも、日米同盟だった。
 国際社会との協力を言っても、独仏露など主要国は抜け落ちたままでは、真の国際協調とはなりえない。これまでにも指摘してきたように、イラクの復興にはまず、米主導の占領統治から国連主導へ移行し、イラク国民に政権を移譲することだ。
 国際協調を探ることは日本が果たすべきことである。自衛隊派遣にこだわるあまり、それをおろそかにしてはならない。
 
新潟新聞 http://www.niigata-nippo.co.jp/column/index.asp 
イラク基本計画 これでは見切り発車でないか
 政府がイラクへの自衛隊派遣基本計画を閣議決定した。
 イラク北部で日本人外交官二人が殺害され、派遣慎重論や反対論が急速に勢いを増す中での決定である。
 国民は自衛隊派遣がイラクの復興に本当に役立つのか。危険を覚悟しての派遣が日本の国益につながるのかなど数々の疑問を持っている。
 小泉純一郎首相は閣議決定後の記者会見で、憲法の前文を引き合いに「日本は資金を出すだけではない。自衛隊を含む人的支援で国際的に名誉ある地位を占める」と繰り返した。
 大方の国民は派遣の意義や理念ととともに、疑問への具体的な答えを聞きたかったはずだ。首相は肝心な点に納得のいく説明を行っておらず、見切り発車したとの印象が否めない。
 基本計画の決定は日本にとって重大な決断である。これまで自衛隊は国連平和維持活動(PKO)に五回派遣されているが、いずれも紛争当事者の停戦合意後に現地入りしている。
 ところが、イラクでは米軍や同盟国軍、在外公館などを狙った襲撃事件が頻繁に起きている。テロ行為は終息に向かうどころか泥沼化の一途である。
 戦闘状態が続いている外国の領土に自衛隊が送り出されるのは今回が初めてのケースになる。PKOや海上での燃料補給が中心だったテロ対策特別措置法の派遣要件を大きく超えている。
 憲法は海外での武力行使を禁じ、自衛隊の任務を日本国内の防衛に限定してきた。今回の自衛隊派遣は戦後の安全保障政策にとっても歴史的な転機になるのは間違いない。
 小泉首相は記者会見で、自衛隊の派遣決定は米国との同盟関係を重視した結果と強調した。イラク開戦の支持と同様に、対米協調を最優先にした選択であることを明確にした。
 しかし、イラク戦争の引き金になった大量破壊兵器はいまだに見つかっていない。大義があいまいなままに続く米国主導の戦争に、このまま日本が引き込まれていいのか疑問が残る。
 最大の問題は自衛隊を「非戦闘地域」に派遣するとしたイラク復興支援特別措置法の前提が揺らいでいる点だ。
 陸上自衛隊の活動区域になるとみられるイラク南東部のサマワは、防衛庁の専門調査団が治安が比較的安定していると報告している。
 たとえそうであっても、ゲリラ戦を挑むテロ組織が出現する可能性を否定できない。イラク南部の民主化指導者も「武装した自衛隊が来るなら占領軍の一部と見なされる」と警告する。
 政府も自衛隊自体がテロの標的になる危険性を認めているほどだ。非戦闘地域が戦闘地域に変わることは十分に想定できる。自衛隊が人道支援を実施する条件が依然として整っていないと言わざるをえない状況だ。
 それ以上に、攻撃を受けた場合の自衛隊員の応戦の仕方によっては憲法の枠組みを逸脱する恐れすらある。
 小泉首相は「一般国民では仕事ができない。装備が整い、訓練された自衛隊だからできる」と語った。
 隊員は最高司令官の首相の命令であれば、それに従うことをいとうまい。だが、危険を顧みずに任地に赴くためには、何のために活動するのかという納得のいく説明が欠かせない。
 首相にしかそれを語ることができないが、「敬意と感謝の念を持って送り出したい」と述べるにとどまった。これでは隊員やその家族の苦悩を癒すことはできないのではないか。
 基本計画は派遣の最終決定ではない。今後、防衛庁長官の実施要項決定や首相の承認などの手続きがいる。
 自衛隊を派遣するかどうかについては、何よりも国論が分裂していることを考慮すべきだ。これに加えて悪化するイラク情勢や国際社会の動向などを冷静に見極めて大局的な判断を下す必要がある。小泉首相の責任は重大だと言わなければならない。