第6回ちゅうでん教育大賞表彰式・第7回ちゅうでん教育振興助成贈呈式記念講演会
                            平成19年10月21日
テーマ 「学力は一年で伸びる」
              講師 立命館小学校副校長 陰山英男
                                                                   文責;土 井

 
この記録は、土井が講演メモをもとに要約したものであり、よって誤解や曲解があり得るため、講演者には何の責任もないことを御了承ください。 そのため転載はご遠慮ください。

 まずもって、今日のような会が開かれることがありがたい。教育界と一般社会は離れがちである。このように企業が教育を支援してくれる、教師の頑張りを引き出してくれることはたいへんありがたい。
 今日の受賞者を見ると、私の生まれ故郷に近いところが採用されている。尾道もあり、聞いたことのある学校がありうれしい。
 今日は時間が短いので、生活習慣のことを中心に、再生会議のことも交えながら話したい。
 一つ目は、学力テストの結果について。先日一部出た。私も資料をもらった。全体として、基礎・基本を中心として予想よりよかったと言える。昭和30年代の結果に比べて特徴的なのが、地域間格差が小さいことである。塾のあるないは関係ない。
 上位のところは2地区で、東北三県、北陸三県だが、全体的には大きな差はない。
 「Bの応用力は伸び悩んでいる。」という報道もあったが、あの問題で点が取れたら不思議だ。教えていないのだから。今後は、しっかりと現場で受け止めて実践が進んでいくだろう。
 文科省の人は、「これはメッセージ。書く力、思考する力を今後は重視されるということになってくることを理解してほしかった。」と言っていた。
 困った問題は、部分的に、悪い地区もあった。都道府県別は差がないが、市区町村を比べた場合は違いが出てくる可能性がある。
 どう対応するかは、これは調査であり順位をつけるものではない。30年代のテストとは違う。生活習慣、地域の生徒の学力との関係をとらえるためのものだ。学校の良い悪いを調べるものではない。学校現場は、むしろ結果を公開して、しっかり課題を挙げていった方がよい。追い詰められてから公開するより、先手を取った方がよいのでは?
 その前に、9月にイギリスへ行った。イートン校は海陽学園のモデル校。他に、ケンブリッジ、フィンランドに行った。
 ケンブリッジは中世の建物が使われている。全寮制の宿舎、カレッジがある。800年の伝統があり、王政の中から、学問に秀でた人を育てようというもので、王政、宗教がかかわている。驚いたのは、ケンブリッジの郊外の野原。学者や学生が、野原で風景を楽しむ。ここで議論をする。決して部屋なんかに閉じこもっていない。日本の柿の木のような感覚でリンゴ園もあり、自由に手でとって食べている。ニュートンが万有引力を発見した風景が思い起こされる。
 イートン校。500年の歴史がある。教会は宗教の勉強の場として使われる。すごい。図書館はかっこいい。ほれぼれする。壁は全部本棚で、机も重厚感がある。うらやましい。(写真を見ながら)ここに見えるのは全部イートン校だ。卒業のときは落書きをしていく。この落書きは、まだ100年の歴史しかない。
 ここで気にしたのは、イギリスは階層が強い。ある一定の階層の人しか、なかなかこうした学校には入れない。イギリスの人口は日本の半分で、そのまた一部の人しか入れない。
 フィンランドを見てみよう。
 写真は小1の授業。生徒の机を見て驚く。小1の9月と言えば、まだ始まったばかりなのに、分厚い参考書が見える。キノコの学習だが、文字は日本に比べて圧倒的に小さい。けた違いだ。消しゴム、鉛筆、のりなど全部国の支給だ。子どもは何も持たずに来る。義務教育の無償とはこういうことだ。
 キノコがなぜ教科書に載っているか?この写真がヘルシンキの風景。どこにでもキノコが生えている。自然が雄大だ。
 イギリスとフィンランドは好対照である。
 イギリスは資本主義で、かつては帝国主義の国。一方、フィンランドは弱小国。イギリスは競争原理が厳しいが、フィンランドは平等性を大事にしてきた。
 これは、国の成り立ちとか歴史的なもので、そこを、どっちがいいとかいうもではない。日本も、どっちにするかではなく、本来の社会性から考えた方が良いと思う。
 イギリスは、日本よりも人口が少なく、一部の人しか学べない。それでも、ノーベル賞受賞者が多い。百万人あたりの理系ノーベル賞の受賞者は、アメリカ 0.68人、イギリス0.96人、ドイツ0.48人、日本0.09人。これを見てもわかるように、明らかにイギリスが多い。
 先天的にイギリス人は頭がよいのではない。後天的だ。これは単純な原理で、子どもを伸ばす原理は共通している。
 1 高度で適切な教材。(教科書、カリキュラム)
  高い学力を保障しようと思えば手間暇がかかる。フィンランドでは20人の学級に先生が3人だった。
 2 優れた指導体制 
  フィンランドでは、母国語がありながら、普通の学校の先生が英語で自分の授業を説明ができた。みな修士を出ている。日本はどうか?自分なら困ってしまう。校舎、教具も違う。見たことのある風景だと思ったら、立命館はフィンランドの机や椅子をまねした。
 3 豊かな自然とゆとりある時間
  夏休み2カ月あり、その間先生はほとんど学校へは来ない。給料は安いが尊敬されている。先生はその間は別のことをやっている。ある音楽の先生は、2ヶ月間はオーケストラの一員だった。日本では、夏休みも学校に缶詰になっているのはどうか?
 世界の教科書などを見ているが、日本が特殊だと思うようになってきた。異常に基礎に偏っている。総合は週2時間残る。きちっと位置づけてほしい。教科は人類の英知を受け継ぎ、総合は次の時代を築く欠かせない学習である。
 教育費は、日本は本当にGDP比が低い。ここは再生会議でも伝えたい。
 土曜日の授業のことは、
 学習状況調査で、平成15年が高かった。これは学力低下問題が噴出した年。平成16年2月にテストした。今回の結果の根拠はここにある。
 この年は重要なことがある。小学生の校内暴力が過去最多だった。しかし、かき消された。学力を無理に上げようとすると、心に無理が来る。
 中学生の宿題をする時間とテレビ、ビデオをみる時間の調査がある。PISA調査で、日本は順位を異常に気にする。宿題時間は日本は最低。テレビビデオは日本がトップだった。データをみると、腹が立つ。政府は金を出さないし、しつけができていない。このあたりの実態が伝わっていない。
 ではどうするか?学校現場で結論を導く出すしかない。学力は1年で伸びると言いたい。実態的にいうと当たり前の話。指導が変われば、子どもは変わる。
 この会場にいる人は、できる人ばかり。指導は結果に現れる。
 山口の教委と実施したテストがある。知能指数のグラフだが、これは9カ月の実践の結果だ。昨年は102で今年の2月は111だった。ほぼ9上がる。グラフの形をみると、全体に上がっていることがわかる。
 1年間のうちに知能が変わるので、成績も変わる。実は、学力低下の本質は、昭和50年代から子どもの生活習慣が崩れてきたから。夜型になり、気力等が失われた。
 小4では、79年にはほとんどが10時には寝ていた。今は10時までは半分。12時を超える子もいる。
 広島では、睡眠時間とテストの相関を調べた。7時間から9時間が。最も成績が高い。適正な睡眠時間がいかに有効かがわかる。
 最新のデータは、びっくりした。勉強時間は増えても成績は上がらない。勉強をやりすぎると、睡眠時間まで削ると、成績も落ちて、知能指数も落ちる。
 寝た時刻と成績の相関関係がある。9時までが寝る子がトップで。だんだん落ちていく。8時の子もまた悪い。
 昔は9時までに寝た。「8時だよ全員集合」でも9時には寝ろといった。社会環境が変わった。
 むしろ、早起きは三文の得という明治以来の伝統が、実は学力向上につながる。
 
 食育について話したい。食材数と成績が比例する。食べるということは重要。
 1999年に「分数ができない大学生」という本が出て、ここから学力低下問題が始まった。これを書いた西村先生は京大生の話を言っていた。ゆとり教育とは関係ない。単に、教材や学習ではすまない。重視するのは朝食。それほどはっきりする。脳への悪影響がわかる。朝ご飯を食べさせない子育ては存在しない。
 かつては、個別の相談案件だったのが、今では居直るようになった。早寝早起き朝ご飯は、実は、学力を上げる最短の方法なのである。
 先日、コンビニで新聞を買ったら、店員が新聞の名が読めない。「讀賣」が読めない。学力低下問題は、単に学力が下がるという問題ではない。教育基本法には、義務教育の目標は「自立」とある。これが評価されてよい。
 テレビを2時間以上見ると、成績が落ちてくる。知能指数も。テレビの2時的な影響。
睡眠時間が減り、読書が減り、会話が減り、宿題をやらなくなる。2時間まではOK。自己管理できるようにすることが重要だ
 長崎の事件は、空白の時間をテレビが埋めていた。それを暴力番組が埋める。出発点はテレビだったはず。基本的な状況は何ら変わっていない。宮崎努以来、変わっていないのである。
 なぜ、心の教育が問題になるのか。
 日本の教職員はいつも、心の教育を大事にしてきた。世界的に見ると、学校で掃除をする国はほとんどない。日本の社会の伝統である。欧米では「あんな残酷なこと」といわれる。日本の伝統のことを知ってもらうことも必要だ。
 1日2時間見ると年間700時間見る。これは学習指導要領の授業時数と同じ。テレビが心の教育を壊している。理屈ではわかっているが、影でいじめに走る子がいる。テレビ番組の影響だ。
 学習指導要領、学力テストの結果が出る。教育の正常化はこれからだ。
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