第38回岐阜市立加納中学校実践発表会
                             2001年11月22日(木)
研究テーマ「自ら愛する心を育て,自ら学び自ら治める力を培う教育課程の編成
           −基礎・基本を重視した教育活動の展開−」

 土井が参加してメモした主観的な記録です。聞き間違いや入力ミスもあるかもしれませんが,あくまでも文責は土井にあります。

公開1(8:45〜9:35)
公開2(9:50〜10:40)
公開3(10:55〜11:45)
全体会
昼放課
公開4(13:30〜14:20)
教科別発表(14:40〜15:30)

受 付
「自治 自学 自愛」が学校目標。この目標を研究テーマにおろしている。
 受付名簿で,全国各地からの参観者に驚く。文部科学省指定などの研究発表でもないのに,さすがに伝統校である。資料代¥1,000,社会科の年間指導計画¥1,000で購入する。

 岐阜市立加納中学校は,加納城跡の南にあり,加納小と,茜部小から3学級ずつ集まってくる。16学級(含 特殊1)全校生徒549名である。
 校区に岐阜大学付属の小中学校がある。オペラであまりにも有名な加納小学校 ( http://www.mirai.ne.jp/~kanousho/ )の卒業生が,どのような学習を行っているか楽しみであった。
 授業はノーチャイムで進行。4コマの公開授業がある。

公開1 (8:45〜9:35)
2年3組 石原 学 先生 社会科

単 元 名
  日本の中央部 岐阜県
本時の目標 高山市では祭りを生活の中に位置づけていることから,人々は祭り(伝統)を支え,守りながら協力して生きていることが分かる。 
教室に入ると,生徒の担任を見る集中力に驚く。意見には,全員が発言者に向きをかえて真剣に意見を聞く。そして発言後に拍手。

 高山祭の支出・収入の資料から意見を述べたあと,課題は教師が与えた。
「高山の人たちが,自らの時間を費やしたり資金を積み立ててまで祭を続けているのはなぜだろう。」
教師の与えた課題であるが,それまでのやりとりで,自然に生徒の疑問になっていたと思う。会合の日程の資料も貼る。過密な日程であることが一目で分かる。

 この後8分間,生徒はパンフから調べ始め,ワークシートに記入をする。ほとんどが個人で,一部相談している生徒もいる。真剣さが伝わってくる。

 このネタで,この集中力には驚く。日ごろの授業態度の表れである。
 実際は17分後,ほぼ全員が挙手
4名指名
・工業や商業・農業が発達していないので,観光業が中心だから。祭で人を寄せたいから。
・テーマパークが増えたので,日本文化を守り,観光客を増やすため。
・伝統工芸を守るため。指定を受け,今さらやめられない。
・祭が生活の一部になっている。
・情熱を注ぐ人がいたから。
・人を寄せ,お金を落としてもらって,市の財政を豊かにするため。そして,さらに祭りを充実する。
T 33軒中,14軒が商売で,あとはそれ以外の人だよ。
・まち興しのため
・あきらめない気持ち。祭りのテーマパーク。祭りを守る。
・観光に来た人に楽しんでもらうため

取材のVTRを見る。
祭りの練習をしている。

話のまとめを黒板に貼る。
・なぜこんなに練習するのか,不思議な世界。
・人が集まり,すべて口伝え。
・子供の頃から携わっているから。

T 高山の人を,こんな思いにさせるのはなぜだろう?みんなで話し合ってみて
(向き合って)相談始まる

残り5分

挙手10名ほど
4人指名
・他の場所が都会になればなるほど,高山はより貴重。昔の暮らしを守るため。
・祭が生活の一部。練習が楽しい。
・祭に誇りがある。
・楽しさを,若い世代に知ってもらいたい。

T 祭りは面倒だけど待ち遠しい。地元の人は祭りを「呼び引き」という。地区どうしで,互いに祭の時に招き合っている。
(山車の写真見せながら)
 これ,どこかわかる?
S (沈黙)
T 答えは,加納天満宮です。
S へぇー
T 終わります。

【感 想】

 最後のオチがすごい。強烈だった。これにつきる。このオチに対して,生徒がどう感じたかを知りたい。
 これまでの授業を見ていないのでなんとも言えないが,最後のオチ以外は,特に目新しいものではない。現地取材で得た情報を生かして,基礎・基本をおさえた授業と言ってよく,地道に取り組んでいることが分かる。むしろ,50分の授業のなかで,もっと資料に根拠づけられた意見を要求することも出来たのではないかと思えたほどである。
 それにしても,生徒の学びの姿勢の質が高い。聞く,話すという学習の基礎・基本が,全員に出来ている。それが最大の驚きである。
 教室掲示の担任のアピールもすごい。学級訓「ひとりを大切に かかわりあう3組」に対して,
背面には,4月のふり返り,9月のひとりを大切にかかわりあう3組,など,生徒のまとめた掲示物が多数貼ってある。班ごとの掲示板もあり,班の活動が生きている。
 各学年に学年コーナー部屋があり,特に2年の掲示がすばらしい。
 
公開2(9:50〜10:40) 
選択教科 社会科は二つのコースがあった。

1 わかる社会科(歴史コース)身近な地域の歴史
    指導者 中塚 誠 先生と地域講師

 地域講師の資料の説明を聞く生徒。それぞれで調べ活動をする生徒。いずれも加納の歴史の中から,さらにテーマを絞って,13時間でテーマ作りから調べ,まとめ,発表までを行う。
 テーマは,「加納・茜部の地名を探る」「岐阜駅の歴史を探る」「茜部荘の歴史を探る」「加納城の取り壊し前と後」「茜部の神社の存在」など,かなりマニアック。
 それぞれが課題に取り組み,50分間集中力がとぎれない。
 お客さんが見に来ているからではない。学習する姿勢が出来ている。

2 わかる社会科(地理コース)地図で遊ぶ
   指導者 春日井 恵子 先生 

 全国の至る所の地図があり,生徒はそこから1枚取り上げて,色を塗ったりして調べている。地図1枚で,中学生がこれだけ集中できるものかと関心する。
 ある子の感想には,「この地図から数え切れない発見があった」と書かれていた。それだけでも,目的を達している。
 またある子は,東京湾の地図から公園が多いことを発見し,名古屋市の地図と比較している。

【感 想】
 加納中学校は,1963年以来,個人の課題研究の成果を,「結晶」という冊子にまとめている。
課題作りからはじまる個別学習の方法を,3年間でじっくり指導している。
 総合的な学習が始まり,それまで夏休みだけで行っていた課題研究が,1年〜3年かけて行うものになり,冊子も「結晶 総合学習」へと進化した。その歴史と,指導のノウハウが,生徒の学ぶ姿勢をつくっていると感じた。

 個人の課題研究の指導を経験した教師は誰もが経験したと思うが,全員に課題意識を持たせ,集中して毎時間取り組ませることは本当に難しい。
 小牧中の本にも書いてあったとおり,まず,大多数は自分に合った課題すらつくることが出来ないのが普通である。また,個別の追究の時間になると,よほど自分に関心のあるテーマを選んだ生徒以外は,遊んでしまうことがよくあるのだ。1人の教師が少人数のみ担当して,個別指導すれば話は別であるが・・。
 しかし,加納中の生徒は,教師がいなくても,黙々と取り組んでいる。調べたことが,次の課題を産み,内容が深まっている。それが,どの子にも言えるのだ。
 派手さはないが,着実である。
 

公開3(10:55〜11:45)
総合的な学習を参観

1年生「こんなまちにしたい」と言う自分の願いから生み出した個人テーマを追究する活動
 それぞれ,課題に取り組み,B5用紙にまとめている。それをファイルに蓄積している。

2年生「○○博士」と言われるまで「こだわり」続ける個人追究活動
 いろいろな部屋で実験したり,作業をしたり,学習したりしている。先生の姿がないところもある。同じようにファイリングしている。

3年生 総合学習学級発表会
 一人8分間発表を行い,その後質疑応答がある。
 まず,流れを司会が説明する。
N君とうじょう。「自分でできる発電機」
 B紙を黒板に貼り発表。ほぼ自分の言葉で話している。自作の発電機を使って失敗した例を説明している。結局3つ作った。
 この後,質疑応答があった。

【感 想】
 1年生は机の上で行う個人研究,2年生は活動のなかで何かを得る追究,3年生がその発表である。ここでも,一人ひとりの学びの姿勢に驚いた。3年生の発表会でも,みんながしっかりと話を聞いている。
 過去の学習のノートが置いてあり,生徒も自由に見ることができる。これは,学習のイメージを持たせるのに有効で,より高い質をめざすことができる。

全体会

あいさつ  石橋 定明 校長先生

本校の実践には,3つのポイントがある。
・義務教育としての基礎・基本は何か
・自学の基礎・基本は押さえられているか
  自学には,学ぶ意欲,学び方,知識・理解があるが,特に,今年度は学び方を重視した。
・一人一人の内面を理解しどう対応していくか
  知識・生き方・学び方を授業でも重視したい。


岐阜市教育委員会教育長 安藤 征治 先生 

新教育課程はいかにあるべきか。互いに研修を深めることができれば幸いである。
岐阜市としては,「自己を見つめることができる力」の育成を目指している。加納中のテーマはこれにあっている。

実践の概要  松井 和史 先生

学校教育の方向性は次のようなものがある。
生きる力,週5日制,基礎・基本,特色ある学校,個性の伸長,問題解決学習の重視,体験的な学習の重視などである。

これらの具現に当たっては,生きる力を具体化し,基礎・基本の意味を明らかにし,内容厳選の具体化とそれにともなう問題点を明らかにしなければならない。

本校の教育目標は,「自学,自治,自愛」。これは,まさしく「生きる力」であり,全教育活動を通して高める必要がある。

まず,生徒の実態の客観的な把握に務めた。
・ 問題解決的な学習を好む, 粘り強く取り組む
 しかし,自分から積極的に課題を持ったり,学んで身につけたことを他の学習場面や日常生活に転移活用する力が弱い
・ 仲間のために行動できるが,よりよい学級のために仲間に要求するところまではできない

つぎに,目指す生像を考えた。
・問題や課題を自ら見つけ,解決のための方法と見通しを持って,自ら解決することができる生徒。
・自分の生き方や社会をよりよくしようという願いをもち,行動することができる生徒。
・自分と共に生きる,生命あるすべてのものを慈しみ,愛することができる生徒。

具現化への課題
 何を基礎・基本とし,どう定着させるか。自学につながる学び方
 自学・自治・自愛の資質能力を高める必要がある。

実践の基本方針
 基礎・基本を,知識・技能,学び方,生き方の三側面からとらえ,全教育活動を通じて,確実に定着を図ることにより「自学」「自治」「自愛」の資質・能力を高める。
 具体的には,紀要P7を見て欲しい。知識・技能,学び方,生き方の基礎・基本を明示してある。
 
 「自ら愛する心」は,主に道徳教育で育んでいる。また,ボランティア活動も積極的に行っている。
 「自ら治める力」は,特別活動で育んでいる。
問題解決能力を発揮する総合学習では,付けたい力を明確化している。
 これらは,紀要8,9ページを見て欲しい。

 「自ら学ぶ力」は,教科指導で学び方を獲得させている。
 生徒に求められる学力をはっきりとさせ,学び方を身につけ活用する力を育てるようにしている。
 教科特有の学び方については,紀要を見て欲しい。
 国語以下,P11に載せてある。
( 中 略 )

昼放課
 中庭で3年生の合唱学年発表があった。
 いきなり集まって発声練習もなしで始まった「大地賛頌」には圧倒された。
 本当にうまい。若干テナーの高音が下がったが,この悪条件でもソプラノは全く下がらず,きれいに響いている。2曲目の「河口」では,涙が出てきたほどだ。これだけでも来た甲斐があった。
まだまだ曲作りは途中で,スラーが切れる箇所があったが,発声法は本格的。姿勢も○。
見る限り,全員が顎を引き腹を支えている。学年合唱のレベルを超えている。
 加納小のオペラは,小学校としては日本一だろうが,ここにその姿を見た気がする。これから2年生,1年生と続く。聞きたい!

公開4
(13:30〜14:20) 
社会科2年5組 中塚 誠先生
日本の中央部 〜岐阜県〜

本時の目標
自然を生かした岐阜県の産業,観光の様子から自然とのかかわりに気づき,岐阜県は自然を生かした人々の暮らしが特色の地域であることがわかる。

学習課題
 岐阜県は10年後に向けて何を大切にしていくといいのだろう。

課題が出来るまで5分。
8分間で自分の考えを書く。
席を立って資料を探す生徒,友達と話し合う生徒,一人で過去のノートを見る生徒,まちまちである。

実際は13分後,意見が出された。
・岐阜県には高山祭り白川郷などの伝統を守ることが大切
・他の県とのつながりが大切,美濃焼も高速が開通してから伸びた
・林業(ひのき)を大切に
・伝統を守ることで観光客が来る。これからも大切に。
・岐阜支部でもっと交通を発展させる 
・交通の面でもっと広げて,中京工業地帯の一部として発展してほしい。
・地形の特色を生かした発展を。
・県民全員が誇りを持つ。ゴミを落としたりしない。

ここまで30分
T 整理しよう。
自然を生かした産業
名古屋との結びつき
伝統を生かした観光
県民としての自覚

T それぞれを支えているものは何
相談してみよう。
・県民が支えている。祭りも住民がやっている。
・地形によってすべてができている。
・人
・自然条件
このあと,人対自然で意見が続く。
・両方大切
残り5分で振り返り
どうも,教師が結論づけたい自然派が不利。 
 別に,自然にこだわらなくても良いと思うのだが,生徒の方が教師の思いを超えていた例である。

 単元のまとめとしては,やや物足りない内容。加納中学校の考えて取り組む姿は見ることができたので,もっと活動的な授業を見たい気がした。比較的,教師が主導の授業が多いため,時間をかけないで行う調査活動の工夫が課題となろう。

教科別発表(14:40〜15:30)
 社会科部会に参加した。
 社会科の実践主題は,「自ら社会認識を深める力を培う指導」である。

めざす生徒の姿は
・初めて出会う社会事象でも,自ら問題を解決していくための基礎的・基本的な知識や技能,調べ方を身につけた生徒
・多くの情報から自分に必要な情報を選択し,主体的に自らの考えをつくりあげていく思考力,判断力,認識力を持った生徒
・共生の社会をめざし,社会に働きかけていく能力や態度を持った生徒

基礎・基本のとらえ方は
1 知識・理解:学習指導要領に示された身につけるべき知識と技能
2 学び方  :課題を見いだし,視点を持って追究し,解決するための方法や見方,考え方
3 生き方  :よりよい社会をめざしてはたらきかけていく能力や態度

実践内容は
単元指導計画の工夫として
(1)単元で身につけさせたい基礎・基本の明確化
(2)学び方(見方・考え方・感じ方)を位置づけた単元指導計画の工夫
学習指導の工夫として
(1)生徒にとって切実感のある課題の工夫
(2)学び方が獲得できる学習過程の工夫
評価と指導・援助の工夫として
(1)身に付いた知識・技能,学び方が自覚できる評価の工夫
(2)個に応じた指導・援助の工夫

以下,略

【全体の感想】
 一言で言えば,1963年から続いている自学の伝統が,根強く生きている学校である。
 一見地味な発表会である。また,加納中学校は,まだホームページすら作られていない。
 しかし,生徒の学びの質が高く,見る人が見れば,いや,たいていの人は驚くであろう。少数の能力の高い子ができるのは当たり前である。しかし,全員がともなると至難の業だ。確かに,どの子も自分の学びをしていた。授業中に,自分の言葉で長い意見を言うことができるのも,附属の学校を見る思いである。 
 また教室や校内にいたる所にある掲示物は,生徒だけでなく,先生の手によるものも多い。先生方が,夜遅くまでがんばっている姿が伺われる。
 加納小学校では児童の質の高さに驚いたが,その卒業生としてなるほどとうなずける学校であった。おそらく,もう一方の茜部小学校でも,質の高い教育がなされているに違いない。
 ところで,校舎は古いが空き教室が大変多い。各学年のホールや,生徒会ホール,議会ホール,総合学習室,3つの音楽室,総合学習ギャラリー,50周年記念ギャラリー,などに使っている。それもそのはず,かつては生徒数2898名の学校である。これも驚異的である。

 それはともかく,全国各地の研究発表でやたら目に付いた「学び」。その「学び」を,何十年も前から取り組んで,今,当たり前のように出来ているこの加納中学校の実践は,今,最も新しいのかもしれない。