2月8日の川田英樹先生の話
 
第262回社楽の会で川田先生に伺った話は、近年聞いたどの講演よりも実のあるものであった。次に感想を加えながら要点をまとめ、今後の財産としたい。 文責 土井   

1 話す力、聞く(聴く)力を学校全体で育てるシステムについて
 学校全体として低・中・高別に月別目標を設定して育成している。まず「聞く(聴く)力」を高めることからスタートし、「話す力」も表裏一体ととらえ指導している。
 その目標の一例を示す。

【4・5月】
「聞く」
○ 低学年(話を聞きもらさないように聞く。)
・ 発表をする人の方を見て聞く。
・ 発表が終わるまで静かに聞く
・ 聞き取れなかった時は、「もう一度言ってください」「もう少し大きな声で言
 てください」などと自分から聞き直す。
○ 中学年(話し手を意識して聞く)
・ 自分の考えとの類似点や相違点を考えながら聞く。
・ 発表中は、発表内容を確認しながら聞く。(つぶやき)
・ 理解できる時にはうなずくなど、態度で表現する。
・ 分からない時は分かるまで聞き直す。
・ 提示された資料など、見やすい位置に静かに移動する。(椅子は静かに入れる)

「話す」
○ 低学年(聞き手がいることを意識して話す。)
・ 名前を呼ばれたら、元気よく「はい!」と返事をして、椅子は静かに入れる。
・ 仲間の方を向いて、仲間に聞こえることを意識して話す。
・ ものを見せたり、身振りや手振りを入れてわかりやすく発表する。
・ 発表し終わった後に、「みなさんどうですか」などと仲間に意見を求める。
○ 中学年(自分の伝えたい内容を意識して話す。)
・ 教室の中心を向いて、聞いている人の顔を見ながら発表する。
・ 図や絵を使いながら話す。
・ 状況に応じて声の大きさを考えて発表する。
・ 言いたいことを明確にして話す。(結論、順序を意識させる)
・ 仲間の意見につなげて話をしていく。
○ 高学年(話の組み立てを考えて話す。)
・ 聞いている人の反応を見ながら「ここまでは分かりますか?」などと確認し
 がら発表する。
・ 全員が聞き取りやすい速さや間を取って発表する。
・ 事実と考えをはっきりさせて話す。
・ 過去の学習とつなげて話す。
 
 4・5月にして、ここまでの目標レベルであることに驚く。全校が一致して積み上げてこそできるものである。
 ただ、発達目標を立てるところまではよくある話である。長良東小学校の底力はここからである。モニターを撮影して、「学ぶ集団形成研」という指導委員会で毎月反省をしているのである。各学年でモニターを撮って、今の状態はどうか、どのように変容したか、しなかったのかを明らかにして、それを交流している。
 PLAN−DO−SEE を組織として行っているのである。
 
2 研究体制について
 社会科は3名で、課題、流し方について話し合う。学年によって様子が違うので目の前の子どもを理解した上で授業を進める。
 授業で上級生が下級生に行くということはない。担任同士で話をして、子どもを連れて10分ほどみたり聞いたりすることはある。
 年間、各教科5回研究授業をする。拡大研でこの発表会を見ていただいたが、他の4回は、指導者にOBを招く指導が2時間ある。この授業の冊子についてもOBが集まって勉強会をやっている。
 周辺の学校との交流 発表会の折りにやっているが、先輩とのつながりの方が深い。
 
3 川田学級の学ぶ集団づくり
 新しい学級集団との出会いを、「黄金の一週間」を合い言葉として大切にしている。この一週間で担任や教科担任がこだわって示す方向性が、子どもたちの一年間を左右するという考え方である。
 川田学級の集団づくりは次のような考えで行われる。

1 聞く力を育てる−話し合い活動とは聞き合いの活動がベースである−
 学習の基本は「聞く」ことである。「形で聞くふりをしている子」を育てるのではなくて、「仲間を大切にした聞き方のできる子」「仲間の考えを聞き分け、自分に生かす子」を育てる。
   「聞く姿勢って大事なんだ」「仲間の考えを大切にした聞き方をしよう。」と子どもが感じる指導をすることが大切である。
主な手立て
 a めざす姿(聞き方名人のステップ表)を子どもとつくりだす。
 b 待つ・・・全員の視線が集まるのを待つ。「よく気がついたね。」「今日は〜秒でそろったね」
 c 「教えてほしい」「分かりたい」「聞かせてほしい」等の気持ちで聞いている子を価値づける。少しの変化を大きく認める。

2 話す力を育てる
 自分の思いを自分の言葉で話すことを大切にしたい。
   「自分の思いを自分で話すのは、とても楽しいし、大切なことである」と子どもが実感する指導をすることが大切である。
主な手立て
 a めざす姿(話し方名人のステップ表)を子どもとつくりだす。
 b 聞く姿が育っている集団にする。(話しやすい仲間であること。)
 c 話そうとする姿勢や、話し始めて止まってしまった瞬間を認める。声の大きさに最初はこだわらない。
 d まず、仲間の前で話をするきっかけを作る。
 e 考えの足場を作る。ペア交流、グループ交流を位置づける。
 f 位置づけ、価値付け、方向付けをする。

3 学習した喜びを感じる
   魅力ある教材との出会いや強い課題意識の醸成
   教科の学び方の習得
   子どもの思考が連続する単元指導計画の工夫
 
 ここで出てきた聞き方名人、話し方名人とは次のものである。

聞き方名人
@ 自分の考えと比較しながら聴く。
   「同じ」「付けたし」「ほかに」
A 自分の立場が分かるような合図を送る
   うなずきながら(反応する)
B すばらしいところを見つけて聴く
   「なるほど」「すごいな」

話し方名人
@ 感じたことや思いをありのままに
   「ねえ、みんな」「それに」「でもさー」「わかったよ」
   疑問「どうして〜なのかな?」
A 何回もトライする(自分はどう考えるのか)
   自分の言葉で、一人でも
B 理由付けや考えのわけを加えた発言
   〜と思うけど、わけは〜ですが 
C ショウ & テルで話す
   黒板や資料を使って、線を書いて
D 友達の意見から学ぶ発言
   Aさんの意見から分かった、気づいた
   Bさんの意見から自分の考えが変わった
   Cさんのにききたい。
E 相手にわかりやすい発言
   生活経験、今までの学習と比較して話す
   例えで話す。「もし〜ならば」
F いろいろな意見をまとめてまとめる発言
   つまり〜だと思います
   みんなの意見をまとめると〜になると思います。
G 勉強したことから未来を考える発言   
   これからはきっと、〜になるよ
   わたしなら、こうしたいな。
 
 黄金の一週間では、まず最初に 子どもとの信頼関係をつくる。「この先生は違う、楽しそう」と思わせるために、放課にはよく遊び、小さなことでもよくほめる。
 話すこと、聞くことの大切さを学ばせる。子どもはみんな話したいと思っている。
 「発言をしたらほめる」これは当たり前。川田学級では「発表しようとしたその瞬間にほめる」すなわち「手が1pでもあがった」時に「大げさにほめる」。同様に、「話をしっかり聞こうとしたその瞬間にほめる」ここで自分の成長を感じさせる。
 このようにやってみようとした瞬間にほめることにより、子どもに話すこと、聞くことの大切さを実感させる。また、意図的に他者の姿に触れさせてもいる。
 
 どうして話すのか、どうして聞くのかをわかっていないと子どもはできない。
  1 みんなで学ぶと楽しいよ、
  2 話し合いとは聞き合う活動だよ
  3 視点の獲得
  4 思考の進化
  5 判断力
 
 ある時は、得意なことを語らせて、言えた自分のイメージを意識させる。
「聞くことは優しさだよ」困っているときに助けるのは当たり前。「一生懸命話している子の話をきちんと聞いてあげること。」「みんなが話したいときに、控えめな子に発言を譲ってあげられること」が本当のやさしさである。
「仲間を大切にした聞き方のできる子」「仲間の考えを聞き分け、自分に生かす子」を育てる。
 
 原稿を見ないで堂々と発言する子どもを育てるには
 結果論で評価はしない。「自分の思いを自分の言葉で話すことを大切に」している。
 ノートを見て発表はしない。相手に伝わらないから。すらすら言うのが大切ではなく、自分で考えながら話すのがよいという価値観を徹底する。 つかえてもいい。つかえた時、聞いている子どもになぜつかえているかを考えさせる。子どもは「一生懸命考えているから」と言う。これをしつこく繰り返すうちに、だんだん話をするようになる。
 
  授業とは別に、朝の会で1週間に1〜2度、朝のスピーチを実施している。一人の子どものスピーチ(3〜5分)をネタに学級全員で、感じたことを話し合う。話す人は必ず実物を用意する。この経験を通し、「話してみたい。みんなのことを聞いてみたい。」という気持ちにさせる。
 ※ 実際に朝の会のスピーチのビデオを見た。すごい!譲り合いが自然にできる。仲間を大切に思う心の表れである。
 
5 聞く子・話す子を育てる学級経営
 聞く子・話す子は教科経営と学級経営で育つ。
【学級経営の5本柱】
(1)子どものやる気を育てる
・期待を持たせる
・個人の目標をもたせる
・ほめて育てる、自己評価、相互評価を生かす 
(2)温かい学級、誇れる学級づくり
  ・最初が肝心
・仲間環境の序列を許さない…悪口を許さない。これが教師の仕事。
                安心して自分を出せないから。
・学級の文化がある
・環境づくり
(3)学ぶ集団づくり
・どうして話し合うのか
・聞く力を育てる
・話す力を育てる 自分の思いを自分の言葉で話す、回数ではない
・学習した喜びを感じる
(4)行事への取り組み
  ・全員が燃える
・アイデアを出し合って
(5)保護者との連携
  ・3つのSを大切に  正確、誠実、スピード
・話に耳を傾けて
 
6 指名について
 ポイントでは指名する子をある程度決めている。事前にノートをチェックし、考え方をとらえ、それぞれの展開ごとに数名きめる。
 最初によしかさんを指名したのは、使用するグラフが分かりやすく、他の子が入りやすかったからだ。
 
7 子どもを叱るのはどんな時か。
    ・@人を傷つけたとき Aうそをついたとき 素直な子になってほしいから
     B話を聞いていないとき  聞くことはやさしさだから
    ・叱るときも、ほめるときも全員の前で
 
8 「学ぶ喜び」を実感する社会科の授業(詳細別紙資料)
    @学習問題を設定する。
    A追究の見通しをもつ。
    B自分の視点をもち調べ、表す。
    C仲間と交流する。
      ・常に学習問題とつなげて話す。
    D学習をまとめ、振り返る。
 
9 中学校ではどう
 あたたかい学級、話したいという気持ちがあることを信じたい。参観した時は、スピーチもやっていた。
  
10 本単元の意図
 いつもは水俣病をやるが、今回は四日市を選んだ。岐阜に近いから、そして大気汚染の方が分かりやすいと思った。
 ポイントは、公害の前の様子を学習すること。豊かな自然があるが、貧しく、住民がコンビナートへ地域発展の期待をもっていたことを押さえる。そして実際はどうだったか、患者の話を聞く。公害で生活が一変したと言っていた。
 6時間目を拡大研でみてもらった。何度も取材に行き、語り部の方の家も訪問した。
 ノートを毎回チェックしている。個の傾向がわかるのでおもしろい。
 資料を調べる時間は、宿題、昼休み。済んだ子同士の交流も行っている。
 
11 板書について
 板書の位置により書く内容を決めている。
 
《参加者の感想》
○ 今日の話の中にヒントがたくさんあった。
○ 魔法がかかったような感じだった。しつこく何度も話すというのを聞いて励みになった。
○ 4月が待ち遠しい。
○ 中学校なので、すぐに使えるかどうかわからないが、信念の大切さがわかった。ぶれないものがあった。
○ 一言でいうと信念と根気。川田先生のクラスの子は幸せ
○ すぐにでもやれることは明日からでも実践したい。
○ ビデオに圧倒された。自分のやってきたことは何だったのかと思った。
○ 来年やりたいことを考えながら聞いた。
○ 4月の黄金の1週間で、気合いを入れ直してがんばりたい。
○ 明日からでも間に合うことはやりたい。
○ 手が上がる瞬間をほめるところが心に残った。
○ 自分は甘かった。川田先生の秘密を聞けば聞くほど自信をなくす。
○ 環境があって生徒が育つことがわかった。
○ 信念を感じた。学級づくりでいかに平等、土台を作るか。OBがしっかりしている。
○ みんな価値があるという上にスキルが育つ。聞くことは相手の理解。カウンセリングが大事。
○ 話の中で子どもの話し方が賛否両論有るといわれた。私も話し方を注意された。川田先生の授業は理想型だと思っている。
○ 年5回の研究授業すばらしい。小さな変化をとらえてほめたい
○ 信念があり、努力があり、スキルがある。いい勉強になった。環境が整ってこそできる。
○ 授業のビデオを中学生に見せたい。
○ 5年ほど前にみて、一つの理想としている。聞く・話すを参考にしたい。
 
☆★☆ 土井の感想 ☆★☆
 以上をふまえて、個人的な感想をまとめたい。川田先生、長良東小は、次の点で優れている。
@ 人間愛に基づく学級経営
 発言を譲り合い、日頃発言しない子へ収束していく姿には驚いた。聞く姿の根底にある思いやりの気持ちを見ることができた。
A 子どもの心理を理解している
 手が挙がりかけた姿やつっかえたところを褒める所は、子どもの心理を理解しているからこそできることだ。
B 子どもを育てる体制 
 長良東小の「聞く・話す」目標はすばらしい。さらに、達成度をチェックする組織まである。この研究体制はぜひ見習いたい。
C 教材の組み立て
 四日市公害の学習で、公害の前の様子と貧しい住民がコンビナートへ地域発展の期待をもっていたことを押さえている。この教材を組み立てるセンスがすばらしい。
D 先生の努力  
 四日市に何度も出かけ、語り部の人への取材を重ねている。「人の願い」を授業づくりの軸にしているが、川田先生の子どもたちへの思いが相手の人を動かしている。
E 資料活用能力が高い。
 子どもたちが、複数の資料をつなげて思考を組み立てている。資料を読み取っているからこそできる技だ。
 そして、川田先生の最大の長所は、これらのバランスが取れていることだ。
 最後に、川田学級の子どもたちに、今後期待したいことを挙げてみたい。
○ あれだけ考える力のある子どもたちなので、意見を簡潔にまとめられたらなお良い。
○ 子どもたちは、資料活用能力が高い。ぜひとも子どもたち自身の調査能力、表現力 を見てみたい。