現職教育資料(H19.10.11)
学び合い・高め合い&寝させない技術
                                      土 井
【 学び合い・高め合い編 】
 ここに紹介するのはあくまでも技術であり、学習集団にリレーションができていることが大前提である。
1 発言の約束 
 みんなの方を見て話す、一番遠くの人が聞こえる声の大きさで話すが基本。
 「みんなの方を見て話す」は授業観の大きな転換になる。
 発言は、教師と特定の生徒とのやりとりではなく、子ども同士のやりとりが基本。「遠くの人が聞こえるように」という指示も意識づけになる。
 
2 聞く人の約束3つ
 発言者を見る、うなずく・もしくは首をかしげる(反応する)、拍手をする。
 発言者を見るためには、体の向きを変えさせてもよい。「話す人にはおへそを向けましょう」の指示がよい。うなずく・首をかしげるは、その後の教師の授業づくりに重要で、よく観察をしたい。拍手は、内容の賛否にかかわらず、その子なりに真剣に答えたものならすべてに送りたい。これは学級のリレーションづくり。
  岳陽中の掲示。全クラスで統一されている。
 
3 隣同士で説明し合う、教え(尋ね)合う
 共に学ぶ力を育てるためには、そのためのスタイルをとってやることが必要だ。隣同士説明し合うのは、最も簡単で、誰もが参加できる有効な方法である。毎時間、最低1回は取り入れたい。「じゃんけんで負けた人が勝った人に説明しなさい」と言う指示は、中学生でも喜んでやる。これは“寝させない技術”でもある。
 左はペアで説明し合っている。右は早く解けた者が立ち上がって、ペアを見つけて自分の考え方を説明し合っている。
 
4  小学校(  )年生の子に説明するつもりで、説明してください
 「力をつけるためには誰かに教えればよい」とよく言われる。教えるためには、自分がわかっていないとできないからである。しかも、むずかしいことをそのまま伝えたのでは本当にわかっているかどうかがわからない。そこで、「小学生( )年生の子に説明するつもりで説明してください。」という指示が有効なのである。学年は、質問の内容によって変えればよい。理解を深める指示である。
 
5 資料は1枚をみんなで見て共通の土俵に乗せる。その後、個々で考える。
 資料は個々に見るよりも、1枚の資料を全員で見る方が集中させられる。学級の一体感が生まれるとともに、全員の理解度を観察しやすい。指示も徹底する。
 ただ、個々の活動に移る時は個別の資料がよい。進度も見る観点も異なるからである。目的によって使い分けよう。
 
6 配布物を配るときは「どうぞ」「ありがとう」という習慣をつける
 プリントは最前列の人に渡し、後ろへ送るのはよく見る光景だ。そのとき、前の子には「どうぞ」、後ろの子には「ありがとう」と言わせたい。最も小さなエンカウンターである。ちょっとしたコミュニケーションの場を生活のあちらこちらに仕組むことが学級の雰囲気作りの秘訣である。これはおすすめ!
 
7 聞くことは思いやり
 話すことより、聞くことの方が数倍難しい。「聞くことは思いやり」という意識付けを、全校体制で徹底したい。
 
8 話し合いはグループ作りから
 教室の形態は、@ 一斉授業の状態、A ペア学習、B4人グループ学習、Cコの字型による全体交流が基本形。目的に応じて使い分けよう。
 机の移動は5〜10秒でできる。素速い移動は流れを壊さない。
 発表者・司会者は固定しない。(どの生徒もできるように)
 ある線までは、全校で共通のルールが望ましい。
 
9 友だちの考えをつなげる全体交流
 「○○さんと○○さんの意見と似ていますが、…」「○○さんの意見と違って、…」「○○さんと○○さんの意見を合わせたような考えですが、…」
 発言の前にこの言葉を入れるだけで、@ 人の意見をよく聞くようになる。A 意見がつながる。B 意見が深まる。
 写真は犬山西小学校。
 
 
 
   
10 学び合いは、「ほめ合い・認め合い・教え合い」
 音読や楽器の演奏、暗誦など、全員の前での発表の前に、まず隣の人への発表の機会を入れる。これにより、短時間で全員に発表の機会を与えることができる。そのあとに、ほめ言葉を入れる。これもエンカウンターになる。
 写真は長良東小学校。身体表現を全体発表の前に、隣の子に見せている。その後、よいところを指摘していた。
 
11 最後の礼
 日直当番が次のように言う学校がある。
「今日は○○について、初めは◇◇ともっていたけど、〜であることがわかりました。○○さんの□□という意見がよかったと思います。」
 ふり返りで、変容と認め合いを兼ねている。
 
【 寝させない編 】 
 授業中に寝させてはいけない。一人が許すと、他の授業者が注意できない。しかし、「寝るな!」ではなく、「寝ていられない」授業をするべきだ。
 
1 指導技術の多くは「集中化」のため
 集中化とは、意識を一点に集めること。ここで紹介する指導技術の多くは、子どもを集中させるためのものである。逆に言うと、集中力を維持させられる教師は技術が高いということである。集中させられるなら、子どもは寝ない。
 
2 「全員起立、○○できた人から座りなさい」
 一斉授業では大変効果的な指示である。子どもが集中する。進度がわかる。体を動かすことで、脳が活性化する。そのため眠気が覚める効果もある。
 時々、できていないのに座る子がいるので、その後指名して聞いてやることも大切な支援である。
 座るのが遅い子は真面目にやっている子なので、決して否定的な言葉をかけないこと。どうしてもできなければ、そっと肩をふれて小声で「座っていいよ」と言い、後ほど個人指導してあげよう。
 
3 じゃんけんで発言者を決める      
 遊び心(ゲーム性)は教師にも子どもにも必要。授業に乗せるための重要な技である。
 授業日に、その番号の子を当てるのはよくない。当たる子が予想されて、他の子の緊張感をなくしてしまうためである。
 
4 全員起立、小さな声で、(  )回読んだら座りましょう。
 ここでは、「小さい声で」というのがポイントである。「黙読」は、実際には読まない子が出る。悪気がなくても、文字をとばしてしまうことも多い。音読は、逆にうるさくなり思考をさまたげる。 
 たとえば「右を向いて1回、後ろを向いて1回、左を向いて1回読んだら座りなさい」と言う指示では、進度がよくわかる。子どもも喜ぶので一石二鳥である。
 子どもたちにズルする状況をつくらないのも大切な支援である。その方が、教師も子どもも幸せである。
 この「立つ−座る」で、眠気も薄れる。
 
5 説明は数字を使う
 「これから3つ話をします」などと説明に数字を使うと、論点が整理され、話し手にも聞き手にもわかりやすい。聞き手を集中させる効果もある。
 また、統計データなどの数値は説得力を増す。ただし、生活実感としてとらえにくい数字は、具体的に何かに例えると効果的である。
 さらに、数字は子どもを動かす力をもっている。「教室のゴミを拾いなさい。」と「教室のゴミを3個拾いなさい。」で比べてみてほしい。具体的な指示は動きやすい。
 
6 うまく使おう、フラッシュカード
 カードは効果がある。集中させることができ、キーワードとしての押さえにもなる。配置によって、構造的に理解しやすくできる。よく使う用語はあらかじめ作っておくとよい。
 ただし、研究授業だけ突然使い出すのは逆効果。子どもはよく見ている。
 
7 授業の前半にできるだけ多くの子に発言させる
 カラオケで一度歌うとまた歌いたくなるように、授業でも一度発言すると、参加意欲が増す。授業の初めは簡単な問題で多くの子(中でも授業への関心の低い子)に発言させたい。
 子どもの意見をいちいち復唱する教師がいる。これはやりすぎると、教師の復唱だけ聞いて友だちの意見を聞かなくなってしまうしテンポも悪くなる。聞き取りにくい時、分かりにくい時、方向付けたい時に復唱してやろう。それ以外は、「なるほど」とうなずけばよい。
 
8 子どもを乗せるためにはゲーム&クイズ!
 今の子はテレビ&ゲーム世代。興味・関心を高める手段としては、ゲーム&クイズがとても有効である。知的な関心の向上は、その後で目指せばよい。まず、全員を土俵に上げることが私たちの仕事の第一歩である。ゲーム&クイズは右脳が活性化する。
 本校でも英語の授業でよく見るが、学び合いにもつながる。
9 時間を計る。
 何事に於いても、時間を意識することは重要なことである。時間を計ると子どもの集中力が増す。ストップウォッチは、センスある教師の必需品である。
 
 
 
10 ロールプレイは具象化のための有効な手法
 ロールプレイの効果は多様だ。道徳などで多く見られるのが、当事者の役割を演技することで、心情を理解する手助けにするものである。また、プレゼンテーションとしても具体的で理解の助けになる。なにより授業に活力が生まれ、遊び心が入る余地があるのがよい。これも学び合いにつながる。
 方法は、2〜4名ぐらいでできるシナリオを用意しておき、目立ちたがり屋などを指名して、前で言わせる。今の生徒は上手にやる。
 教室の空気を変えるためにも有効な手立てである。 
 
11 意図的指名には意味がある
 指名には、偶発的指名(じゃんけん・さいころ・番号など)、意図的指名(教師による指名)、立候補者指名がある。それぞれの長所を組み合わせて意図的にバランスよく使い分ける必要がある。
 なかでも意図的指名は、授業を構成する上での骨格をなすものである。事前に誰がどのような考えをもっているかを把握して、子どもの発言により学級全体の思考が深まるような順に意図的に指名していく。これが授業の醍醐味である。うまくいったときは教師冥利に尽きる。これが授業のマネジメントである。
 意見を言いたくても勇気がなくて言えない子もいる。その子は指先や目など、必ず体の一部が反応する。見つけたらこちらから指名して発言できたら褒めてあげよう。
 眠たそうな子には、簡単な問題や機械的に答えられる問題を当てておくと目が覚める。
 
12 大事な資料は事前には見せない
 いわゆるネタバレ状態では関心は低くなる。授業の中心資料は、見せ方、タイミングも大切な授業技術である。せっかくの資料である。最大の効果をねらいたい。
 「今から○○のヒミツを見せます」「これから見せる写真に答えが隠れています」などと言って見せるとさらに効果的!
 
13 資料は一部を隠して提示する
 資料はいきなり全部見せるとそれで終わり。しかし一部を隠すことで、いっきに思考が働き出す。例えば詩なら題名を隠す、キーワードを隠す。統計資料なら、単位を隠す、タイトルを隠すなどで、子どもの脳みそが動き始める。知的好奇心を呼び起こす仕掛けをつくろう。朝礼のハテナ君はこれである。
 このほか、「意外性」も子どもの興味を惹きつける。 
 
14 「指でなぞってみよう」
 動作化は集中化の技術の一つ。さらに体で学ぶとより定着しやすい。
 また、教師から全員の子どもの観察が容易である。たとえば、「多賀城を地図帳で探しましょう」と言う指示では探せたかどうかがわからない。「多賀城の上に右手の人差し指をのせてごらん」で全員が探せたかどうかが7秒で確認できる。漢字の書き順は、全員で空書きすれば、間違いがすぐにわかる。
 動きのある授業は子どもを夢中にさせる。眠気も起こらない。
 
15 全員の目が集中してから指示を出す
 土井が授業を見る時の最初で最大のポイントがこれ。「教師が話す時に、全員の目が教師に集中しているか」、基本中の基本である。だから授業は前から見るのである。
 これは、全校の前で話す時も同じ。全員を語りで引きつけられるようになって一人前である。
 
16 説明・指示は短いほどよい
 説明・指示は短いほどよい。長い説明は有害で、かえって定着度を下げ子どもを眠たくする。よい授業は教師の話が短くテンポがよいので、この観点でも他の授業を見てほしい。
 
17 実物を見せる
 提示資料として、最も力のあるのが実物である。写真より模型、模型より実物がより真実を伝えるのは明白だ。メッセージ性の強い資料と言える。
 以前、日本石油(現 新日本石油)は、原油や重油・タービン油・軽油・ガソリンなどがビンに入った石油製品のサンプルを無料でくれた。原油に触れたり、臭いをかぐことで、学習への姿勢が全く変わったことが強く印象に残っている。 
 また、子どもたちには、できるだけ生のもの、本物を数多く見せてやりたいものだ。できれば触らせてあげるなど、5感で感じさせたい。これで目が覚める。
 
18 何も見ない、何かを見せる
 もともと、子どもたちが調べたことを発表する時の約束としたのが「何も見ない、何かを見せる」である。
 「何も見ない」ためには、自分で理解しなければいけない。理解を超えるようなことは、調べ直すか、除外するよう指導すべきである。国語の苦手なゲーム好きな子が、そのゲームのおもしろさを何も見ないでスラスラ教えてくれた。だれでも、理解さえすれば、何も見なくても話せるようになるものなのである。子どもには原稿をもたせない方がよい。
 「何かを見せる」のは、集中化・具体化のためである。子どもの説明はどうしても教師ほどの要領を得ないため、聞く子を集中させ、わかりやすくするための手だてが必要だ。
 これらは、教師にも必要なことで、原稿を読むような話は、なかなか聞いてもらえない。
聞く人の目を見ながら語りかけることで、はじめてメッセージは伝わる。そして、時々何かを見せることで意識を集中させることができる。
 
19 発問したら全員に必ず書かせる
 書くことは思考を迫る。「○○さんの意見に賛成の人は○、反対の人は×をかきなさい。」これだけで脳が働く。動かせることで眠くならない。
 
20 指名されて「わかりません」は禁句
 授業中の「わからない」は大切にしたい。しかし、指名されたときは、とりあえず見当をつけて何とか言わせる。「わからない」というと思考が止まる。この約束で緊張感も高まる。
 
おまけ 子どもを伸ばす教師のあいうえお
 あ;明るく   … 文字通り、明るいこと。
 い;生き生きと … 活動的、行動的と言うこと。
 う;美しく   … 無駄がなく、スマートというニュアンス。
 え;笑顔で   … これは大切。
 お;おもしろく … 遊び心と工夫
 これが、子どもを伸ばす教師のあいうえお。
 かきくけこになると
 堅い、厳しい、苦しい、権威的、こわい  「子どもを萎縮させるかきくけこ」になる。