第18次創造性教育研究発表会参加報告
 2001.2.20 土 井会 場 京都教育大学教育学部附属桃山小学校
テーマ 学びを創り出す子〜子どもと教師が共に歩む「総合的な学習」を通して〜

 創造性教育で有名な,附属桃山小学校の研究発表会参加報告をします。
 あくまで土井の主観ですが,嘘はありません。しかし,誤解もあるかもしれませんので,その際はご指摘ください。訂正します。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 JR名古屋駅から桃山小までちょうど60分。近鉄丹波橋駅の正面にあり,さすがに参観者もほとんど電車を利用している。
 周辺は古くから(それこそ平安時代?)の住宅街。授業開始5分前に到着したが,受付で10分近く待たされる。それだけすごい人であった。北海道から沖縄まで1,000人ほどであったという。
 参加費 \2,260(資料『自分たちの学びを創り出す子』(明治図書)代込み)を払い,午前中,3時間の授業を参観する。弁当代の¥1,000は内容から見ると割高だ。

 全学年2クラス,ほぼ40名(男子20,女子20)ずつの計475名の児童数。運動場は50m×80mぐらいほどしかなく,かつての京都市電が保存展示されている。生活科園では樹木が植えられ,農園もある。
 総合的な学習と生活を合わせて「そうぞう」とよぶ2時間続きの授業がある。

【1年生「ダンスカーニバルをしよう」】1年のみ3時間連続
 ど派手な手作りの衣装とメーク,多彩な小道具を持って,曲に振り付けをしていた。中庭などで,グループで考えて練習している姿は,とても小学校1年生とは思えない。側転なども取り入れていた。選曲もよく,楽しい会になっていた。
2,3校時には体育館で学年全体で踊りまくっていた。

【2年生「ふれ合いランドを作ろう」】
 この1年間,ウサギ・ニワトリとかかわってきており,この日がお別れ会という設定であった。ウサギやニワトリの研究発表の他,ウサギやニワトリへのプレゼント,ウサギ・ニワトリとのゲーム・交流などが続いた。どの子もよく慣れており,抱き方がうまい。
 教室の掲示には,1年の付き合いのようすが紹介されている。ウサギやニワトリを図工や国語でも利用している。

【3年生「小さな自然のネットワーク/コンテナビオトープ」】
 3年生はワンダー学習に取り組んでいる。美しいもの,未知なもの,不思議なものに目を見張る感性を大切にした学習だ。
 30p四方のコンテナにいろいろな場所の土や水を入れて放置した場合,ビオトープになり得るかという実験を1年間行い,毎日観察をづけてきた。
 この日は,観察を元に,テーマを持って調べてきたことの発表を,ポスターセッションで行っていた。2枚の大きな段ボールの背中を貼り合わせ,本を開いて立てた状態の前で,男女ペアのチームで発表していた。たためば場所をとらないので,良い工夫である。
 教師のコーナーもあり,コンテナビオトープのいきさつを説明していた。
 どこでもだれでもできる実践である。

【4年生「いっしょにペインティングをして遊ぼう」】3/4〜4/4
 養護学校の子との交流を続けている4年生は,遊ぶ計画づくりと実際に遊ぶものを作っていた。
単に遊びに終わらせないように,強く目的意識を植え付けている。グループごとに,遊ぶ相手のこの名前はもちろん,興味・関心まで把握しており,相手の立場に立って考えていた。まさに,「参画と貢献」である。

【5年生「継続して環境問題への取り組みをしよう」】15,16/20
 自分たちでできることに取り組んできた報告会と,学年全員による討論会をしていた。テーマ「自分たちの取り組みは本当に環境を良くすることにつながっているか」に対して,レベルの高い発言をしていた。

【6年生「見つめる 私のライフスタイル」】15,16/20
グループごとに自分たちが調べたことを店を出して発表していた。
 健康と食生活,食と安全,健康と運動,ダイエット,催眠術,健康食品,心理テスト,ハーブ,茶,身体の不思議,エゴグラムというテーマで,実演を主に,参加者を巻き込んでの発表は見事であった。
 ただ,テーマによっては,「だから何なの?」「これからの生き方にどう生かすの?」と言うのもあったが,自発的活動であったことは十分感じられる。ダイエットコーナーではHip-hopを踊っていた。今の子である。

【5年2組・英語】
 桃山小では,毎週30分間の英語学習を行っている。
 参観者が多く,自分の前に100名ほど,児童は全く見えない。後ろを振り向くとさらに100名ほど。トイレもいけない状況だ。
 様子からうかがうと,ALTの人を連れて校内を案内するという目的で学習している。学校全体に言えるが,「〜のために学習する」という動機付けがしっかりなされている。
 教室には,英語があちこちに貼ってあった。

【4年1組・音楽】
 男女3人ずつのグループが,自分たちで作ったお話をもとに,太鼓を工夫してたたき表現している。十分に創造的である。

【5年1組・図工】
「林の中の美術館」として,生活科園の林の中で美術展を行うという目的のもとで作品づくりを行っていた。自然の材料で気象条件に耐え,ゴミが出ないものが条件である。

 すべての授業を見たわけではないが,見た限りでは教師の出番はほとんどなく,子どもが中心にやっている。のびのびしているし,見られることに慣れている。ポスターセッションでたくさん質問してやったが,3年生・6年生とも,きちっと返答できた。積み重ねの成果である。

《校舎内を歩いてみて》
・ 水道に浄水器がついている。淀川の水はまずい?
・ トイレがやたらきれい。手荒いも自動で水が出る。そこまで必要あるか?
・ 各教室に防寒具をかけるスタンドがある。
・ 名簿は男女混合五十音順。関西では当たり前,全国的にも多数派になりつつある。
しかし,集会では男女別に並んでいる。班編制も,男女の人数をそろえてあるクラスが多い。何でも男女いっしょにするのではなく,違いを認めつつ尊重し合うのがジェンダーなのかもしれない。
・ 屋上に,畳10枚分の太陽電池パネルがあった。
・ 各学年にオープンスペースがあり,パソコンがたくさんおいてある。各教室には1台,  あった。
・ 京都教育大学附属学校園紹介は,4カ国語で書かれている。(日・英・中・韓)これだ けでも,国際理解教育に使える。

《全体会より》
研究主任から発表があった。
桃山小学校は,1965年から創造性教育に取り組んでいる。
 創造性教育とは,
一人ひとりの子どもを大切にする教育であり,また,子どもの自由な精神を尊重し,子どもの自主性,創造性を培う教育
その説明の端々に,上田薫先生の言葉が出てくる。影響は明らかだ。

レイチェル・カーソンの言葉を引用して,さらに続く。「まず,子どもありき」として,子どもを見つめる目を大切にすること,「森へいっしょに行くこと」「子どもといっしょに何かを再発見し,感動を分かち合うこと」が教師の仕事ではないかと提案している。

主題に迫るアプローチ
1 テーマ
 1年にわたって単元構成の核となるもの
学 年 1 年 2 年 3 年 4 年 5 年 6 年

テーマ みんなな 生きものと 自然たん 人とのふ 私たちと身 心とからだ
かよく ふれあおう けん れあい 近な環境
2 ウェビング
テーマから活動の具現化や広がりを図る
ウェブを活用する場面
@ 子どもや教師が活動の先の見通しを持つとき
A 子どもが活動に行き詰まっているとき
B 自分たちの活動を振り返るとき

3 トピック
子どもたちの具体的な方向を示すもの(学期に1つ程度)
KJ法やブレインストーミングで話し合って決めていく。
例 1年生テーマ「みんななかよく」
トピック1:なかよくなるものをみつけよう
トピック2:みつけたものとなかよくなろう
トピック3:ともだちとなかよくなろう
4 活動の時間と形態
1週間に2時間の総合的な学習の時間(そのうち30分が英語)
 さらに,移行措置から週1時間総合へあてる。週3時間ということになる。


5 評 価
ポートフォリオ
自分の作品,自己評価,資料をファイリングしている。
トライ&エラーのくり返し
失敗から学ぶ

研究を通して見えてきたもの
 1 授業とは,主人公の子どもとそのまわりにいる教師が,汗を流しながらいっしょに  つくりあげていくもの
2 子どもと教師のづれを怖がらない ← いまいち意味が不明
 3 子どもといっしょになって歩む教師の存在

《分科会より》−6年部会− こころと体
印象に残ったこと
・万歩計の活用
「万歩計が増える修学旅行」
○○歩以上になるように,コースを計画しなさい ← けっこうおもしろい!
・意欲をそがないアドバイス
全員の前ではほめるて,個人の場で前向きな刺激を与える
うなずきを大切に
ちょっとの気づきを重視する
・ 自主性より自発性を重んじた
・「五感をはたらかす」というが「五感をはたらかすためのはたらきかけ」が不可避
  子どもは自分から動いたときに五感がはたらく
・中学校との連携が大切 
小学校と同じことをやって,新鮮味をなくしている。
・総合的な学習は日頃の学級経営がもろに出る。
・教師の仕掛けと児童のやる気は反比例
教師が出れば出るほど児童はやる気をなくす。
・もっと家庭・地域に協力を求めてもいい。 
・イベントとしてはおもしろいが,今日の学びを生活にとり入れていくのは難しい。その意味で,学びの内容も大切。
・学習が広がれば広がるほど,自分の生活に生かすというのは難しくなる。
・総合と道徳の関係
総合でやるから道徳ではやらない
総合でやるから道徳でも多めにやっておく 
どちらも教科との関連を考えてのことだが,学校全体を総合的に考えるのなら前者   をとるべき
《教育講演会》
  人間教育の視点に立つ総合的な学習の時間  大阪教育大学 長尾彰夫先生

 いつものように,吉本興業ばりの笑わせ上手な語り口である。ただ,テーマを間違えたそうで,「人間教育」ではなく,「人権教育の視点に立つ」内容を準備してきたそうである。その結果,先生自身の頭の中で組み替えながらの話だったので,わかりにくかった。さらに,得意の小話が多く,論旨がつかみにくくもあった。そのため,各部分のエッセンスを紹介したい。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

・「総合的な学習」(以下「総合」)は逆風が吹いている。よく雑誌などで対談するが,「いつまで持つ」「東大生でも自ら考え,自ら学ぶなんてできない」といわれる。そんな時は「東大生だからできないんだ」と言ってやった。
・自分でも「生きる力」って何?と聞かれると困る。でも,わけもわからんからおもしろい。はじめのころは,個人技でゲリラ的でおもしろかったが,最近は,学校体制で取り組むようになってきて画一化してきた。
 でも可能性がある。
・人間教育は,人権教育と同じで,一人ひとりが違うということを大事にすることだ。
 今日の分科会でも,「障害はその人の個性と言って良いか?」が話題になっていた。
 個性とは,人と違っていることではない。そうではなく,たとえ人と違っていても,認められるべきものを個性という。
・ 違いを認める教育観は,これまでマイナーだった。ゴールは大切=基礎・基本である。一方,ゴールフリー(オープンエンド)が「総合」であり,指導要領に目標が示されていないことからもわかる。
 なぜか?
 生きる力の目標と内容は,示すことができないからだ。
 人間は違っていいのだから,「総合」こそ,人間教育にふさわしい。
・ 「総合」にはテーマと立場がある。テーマはどこでも大切にしているが,立場はあまり考えられていない。
 立場というのは,その子のそれまでの人生(学習経験・生活経験等)である。
・ 兵庫では,テーマとして防災・人権・平和を例示している。
・ 人間にはこれまでの生き様があり,総合の授業にあらわれる。立場を大切にして,ほしい。教師が答えを言わない方が,良いときもある。
・ 人間教育は,学校だけではできない。もちろん教師だけではできない。
  保護者と子供の実態・ニーズを無視して,ほんとうの人間教育はできない。 
「総合」は,保護者と子供の参画が避けて通れない。
保護者は評価の目をもっている。
みなさんの学校の「総合」を見ている。
  学校は,それに答える義務をもっている。いわゆる「総合学習だより」のようなものが必要になってくる。
・ 私の専門はカリキュラム論だが,「総合」のカリキュラム,特に生きたカリキュラムを作ることはできない。履歴書を作るつもりで,後から書いていけばよい。
・ 「総合」が役に立ったかどうかは何年かたたないとわからない。
   
講演全体を通して・・・
以前より,長尾氏のファンだったので,講演を楽しみにしていた。内容的にはともかく,正直な人柄,ユーモアにはあこがれる。
 前回の森氏の講演の時もそうであったが,どこかの分科会の進行が遅れて,講演の開始が遅れ,ゲストの講演が短くなるのは避けてほしい。講演を聴くために高い交通費を払って集まった人も多いはず。実際に,講演だけ聴きに来たという東京の先生がいた。

《全体を通して》
・ 「総合」の研究としては,考え方がノーマルで,一般の学校でも参考になる。課題づ くりまでの手順もおおよそ示されている。
  ただ,学校としてはあくまで「創造性教育」の研究であり,「総合」の研究ではない。
たまたま,目的が一致しただけのことである。
  子どもたちの様子を見ていると,「創造性」は育っていると思われる。
その秘密を,桃山小学校の実態から自分なりに考えると,学習環境がやはり大きい。
創造性を育てるには次の5点が条件だ。
・自由に使える学習時間を保証すること
・自由に使える学習の場を保証すること
・自由に使える道具を準備すること
・教師は動機付けだけして,後はとやかく言わないこと。(方法は,何度も失敗
する中で,また仲間のやり方を見ていく中で,しっかり獲得される。)
・知的好奇心に満ちたうなずき上手の大人が周りにいること

・ 「総合」をテーマにしながら,教科の授業公開があったことがよい。「総合」は多くの 場合ショーである。やはり,教科の授業を見ないと「総合」の全体像もみえてこない。