金融経済教育フォーラム
平成19年1月5日(金)
名古屋証券取引所MICホール
                        主催 証券知識普及プロジェクト
 講演「わかりやすい金融経済の話」(抜粋)
            獨協大学教授・経済アナリスト 森永卓郎
 この記録は、土井によるメモから作成したものです。従って、誤字脱字や主観的な解釈、誤解もあり得ます。文責はすべて土井にあり、主催者や講師には一切責任はありません。そのため、引用や転載はご遠慮ください。また、問題の箇所は修正しますのでお知らせください。    
 今は、デフレの常識が通用しない。投機はしない方がよい。子どもが投機をするような教育をするのはやめた方がよい。自分の資産を守るためには闘わなければならない時代になってきた。
 10年ちょっと続いたたデフレは異常だ。物価が下がり、株価が下がり、地価が下がる。戦後の時代、デフレが起こったのは世界中で日本だけだ。どこの国もなっていない。こんな異常が続くはずがない。
 なぜデフレになったか?ある人は「中国から大量に安価な商品が入ったから。」と言ったが、これはおかしい。なぜなら、日本以上に大量に中国製品を輸入しているアメリカもヨーロッパ(EU)もデフレが起きていないからだ。
 私は、このデフレはわざとやったっと思っている。デフレにすると、人々の所得格差が広がり、アメリカ型の大きな所得格差のある社会に転換できるからだ。
 それでは、なぜそうしたか?
 20年前、プラザ合意による円高になった。(注 1年で1ドル235円から120円台になった)これにより、日本人の所得が世界一高くなった。しかし、人々は豊かさが実感できなかった。なぜか、いろいろ議論したが、その結論は「国民全員が豊かになった」からだ。豊かさを感じるには、周りよりも自分たちだけが豊かになることが必要だ。先日、タイムの記者がやってきた。アメリカで調査をしたそうだ。アメリカにはビバリーヒルズがある。500坪以上の家が並んでいる。自分の家だけが400坪だと幸せを感じないそうだ。都会はせいぜい30坪なのに。しかし、都会で40坪の家の人は幸せを感じる。
 ゴルフに行くと、日本では4人のパーティーにキャディが1人つく。タイでは日本人1人にキャディーが4人つく。(笑)1人がバッグを運んでくれ、1人がボールの先を見てくれ、1人がロストボールを探してくれ、1人がフルーツを口に運んでくれる。(笑)
 日本でも、こんな生活をしたいと思う人が急に増えた。その人がデフレを仕掛けた。特に集まってデフレにしようと協議をしたわけではないが、暗黙の競合があった。中心人物はいる。小泉内閣時代にデフレが進んだ。しかし、彼はアーチスト。竹中平蔵さんが実際にはやってきた。
 竹中さんの評価について、金子先生は否定的だった。私は、違うと言った。彼は馬鹿ではない。彼とは一緒に研究やってきた。彼はあらゆる経済学に精通している。何がすごいかというと、私の専門は経済モデル。パソコンでいろいろな状況についてシミュレーションする。それで、金利を上げると日本経済がどうなるとかをシミュレーションする。しかし竹中さんは頭の中でシミュレーションできる。頭の中でしばらく考え、出てくる数字は私がコンピュータを使ってシミュレートした数字と変わらない。
 彼は、格差社会になるとわかっていて、わざとやってきた。彼は頭が悪いのではない。性格が悪いのだ。(笑)
 彼がなぜそう考えるようになったか、だいたい見当がついている。
 1973年に日本開発銀行に入った。そして客員研究員としてハーバード大学に行った。
そこでは一流の財界人とつきあった。たとえばゲーリー・スタンリー・ベッカー。ノーベル経済学賞をもらっている。
 毎日新聞が、日本人の社長の年間収入を調べた。平均3千万円、上場企業に限っても4千万だった。しかしアメリカでは、何と13億円。桁が違う。
 テレビでGMの社長が来た。相手をする人がいなかったので、私が話しかけた。何を聞いてよいかわからなかったので、「給料はいくらですか?」と聞いた。「月給1千万」と答えたので、思ったよりたいしたことはないと思ったら、その後で、「いろいろ足すと30億円ほど」と答えた。「そればら飛行機はファーストクラスばかり?」と聞くと、「馬鹿言うな。自家用機だよ。」といわれた。「日本は飛行機の駐車料金高いでしょ?」と聞いたら、「300万円。」と答えていた。
 学校の先生でも同じ。ハーバード・ビジネス・スクールのマイケルポーター教授という人がいる。『競争の戦略』と言う本で有名で、教育再生会議の委員になった和民社長の渡辺さんが、これを読んで社長になろうと思ったほどの本だ。ある会で彼を呼ぼうと言うことになって、講演料は?と尋ねたら、1千万円払えと言われた。       
 官僚でも一緒。パウエル元国務長官は1400万円と言われた。グリーンスパン連邦準備制度理事会(FRB)議長が1700万円。クリントン元大統領には3000万円払えと言われた。日本人で3000万円取れる人がただ一人いる。小泉さんだけだ。
 竹中さんの付き合う相手は、みんな大金持ち。アメリカにはホームパーティーがある。いろんな人が集まってくるが、みな金持ちだ。竹中さんは思ったに違いない。「おかしい。俺はエリートなのに、給料が安い。アパートも2DK。そうだ、日本をアメリカにしよう。」
 日本をアメリカ化するのは簡単だ。デフレにすればよい。暗黙の競合だ。
 デフレにすると格差が広がる。なぜか?フィリップスカーブにある。(昨年のノーベル賞エドモンド・フェルプス教授はこれを研究した)
 物価が下がれば下がるほど失業者が増える。労働者の立場が弱くなる。そしてリストラが広がり、賃下げが起こる。
   ※ このあたりは次のサイトを見ると理解が早まる。
      http://bizplus.nikkei.co.jp/keiki/body.cfm?i=20061025kk000kk&p=2 

 景気拡大が今月も続けが60ヶ月になる。戦後最長だ。この間GDPは21兆円増えた。しかし、サラリーは4兆円減った。差し引き25兆円は、全部資本家(経営者・投資家)の所へ言った。
 それでは、どうやって今ある資産を守るかというと、この波に乗っかるしかない。
 今後さらに格差が拡大する。2003年に『年収300万円時代を生き抜く経済学』と言う本を書いた。そこで、10年後にパート・アルバイトが4割になると書いたが甘かった。もうなってしまった。
 何が起こったか?格差の拡大は正社員の間で拡大したのではない。5年間で正社員が303万人減った、非正社員がそれだけ増えた。非正社員が27.5%から、たった4年で34.6%(2003年)。月給20万に届いていない人が、8割。平均年収120万だ。
 年収300万円までは家計は黒字で、乗用車ももてる。しかし、年収300万円を切ると赤字。しかも、その中で1/3は世帯主。
 私の友人には年収100万円以下がいっぱいいる。不景気になると、出費はフリーランスから切られる。東京に住むと、家賃だけで年収の半分が吹っ飛ぶ。食費は月2万円以下。300万あれば何とかおいしいものも食べられるが、100万円以下だと飢えをしのぐだけ。ポストカロリーは山崎パンの粒あんマーガリンこっぺパンが一番よいそうだ。
 
 中学卒業してからずっとフリーターの男性の知人がいる。悲惨な生活だ。見習いからパートタイマーになるのに2ヶ月かかった。女性はある。ウェイターでもレジでもすぐに見つかる。しかし、中年男性にはない。年収100万円層が劇的に増えた。
 社会への影響としては、生活保護が倍増した。今、12.8%が給食費を払えない。
貯蓄ゼロの世帯が、35年前は3.2%、今は23.8%だ。これはまずい状況だ。何かあった時に家計に回せない。
 弱肉強食化がもたらしたひずみが結婚。30代前半男性の非婚率はほぼ50%。半分が結婚できない。それは世の中が不安定だからだ。僕の頃は8割は結婚していた。「一生守り続ける」とプロポーズしても、今は信用されない。大企業でもつぶれる時代だ。
 女性は大金持ちと結婚したがる。今、六本木ヒルズで合コンやるとわんさか集まる。
日本で唯一の労働研究機関で、年収別の結婚率を調べた。1千万円で4人に3人が結婚していた。年収200万円では、22%。100万円では、6人に1人しか結婚できない。イケ面だけは貧乏でも結婚できる。これは新たな差別だ。今は、「イケ面、フツ面、ブサ面、キモ面」の4階級あるという。
 ある人は、コンサートに送り迎えまでしてプロポーズしたらばっさり。人間相手をあきらめた人がアニメに走る。秋葉原に集まる。
 本当の格差は資産市場だ。デフレは逆バブル。資産価値が下がる。株も土地も。本来の価格よりも低い価値がつく。なぜなら、将来の値下がりを見込んで買うからだ。
 商業地の値段は、本来の適正価格と比べることができる。収益還元(地価)法という方法で計算出来る。不動産の価値を将来、その不動産が生み出す総収益から、現在価値に割り引いて算出する。
 1987年までは理論通りの価格だった。しかしバブルははじける。山一証券、拓殖銀行倒産の頃から本格デフレが始まった。これが逆バブル。地価が理論価格の2.3分の1の値段になった。新橋前の8階建てビル全部で5000万円の値が付いた。買おうと思ったが、現金が準備出来なかった。  
 今そうした物件を金持ちが買い占めている。株も一緒。PBR(株価純資産倍率)が1倍を切っているのはおかしい。日本の3社に1社が1倍を切っていた。中でも一番低かったのがニッポン放送。
 私はニッポン放送にも出ていたので、ライブドアの時は、かん口令が引かれていた。
ほりえもんがニッポン放送に目をつけた時を私は知っている。私の番組にほりえもんが来ることになった。ドラえもん人形にサインをもらおうと思っていたが、番組の中で彼に聞いた。「何目標に生きている?。」彼は、「時価総額世界一になりたい。」と言ったので、何に使うか尋ねた。すぐに答えはなかったが、「高崎競馬を買いたい。」と言った
 なぜか。会社というものはは競争により価格が下がり、収益は落ちる。しかし、競馬は競争がない。ネットと組み合わせて運営したいと言っていた。その時に、本当に一番儲かっているのはどこかという話になった。そこで「東京のテレビ局」という話になった。他局が入れないので、競争が成立していないからだ。
 ほりえもんは、「放送とITの融合」と言っていたが、それはうそだ。捕まった宮内さんが、「ライブドアの中ではそのような話は一度もなかった。」と言っていた。  
 村上ファンドの村上さんも、「おまえらは一人残して全部首。」と言った。その方が収益が上がるからだ。一人は何をするか?CDをかけていればいいと言ったそうだ。これだけでも、彼が放送文化の理解のかけらもないことが分かる。
 投資家は企業を応援して、企業に成長してもらって、その後で配当をもらうのが筋。
そのことを子どもたちに教えてほしい。
 
 年収10万円は苦しい。しかし、年収500億円もやめた方がよい。彼らは例外なく暗い。金持ちに幸せそうな人が一人もいない。みんな瞳が泳いでいる。お金は海水と一緒と言った人がいる。飲めば飲むほどのどが乾くからだ。金持ちはいつもびくびくしている。全然幸せではない。
 デフレの時は資産運用は簡単だ。でももうすぐ終わる。なぜか。暗黙の競合で動いているから。今、日本は公共事業が出せない。金利もゼロ。残された道は、資金力の調整だけだ。マネタリーベース(=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」)は、日銀のHP(http://www.boj.or.jp/index.html)>統計 で手に取るようにわかる。
お金の量をたくさん出すとインフレ。絞ればデフレ。
 森総理が経済をがたがたにして小泉さん替わった。彼は、資金の伸び率を一気に増やした。資金の伸び率のグラフを見ると、日経平均株価と全く同じ。 
 同時多発テロが起こった時、小泉首相はすぐにブッシュに、「日本は法律を改正してでも自衛隊を派遣するよ。」と言った。そこでブッシュは、「それよりも日本は一日も早く不良債権処理をやってくれ。」と言った。
 2002年9月10日。小泉首相は不良債権処理の加速化を進めた。それが金融再生プログラム。メガバンクを袋叩きにして大きい餌を出させる。それには株価を下げればよい。それには資金流通量を下げればよい。
 その結果、バブル崩壊後最安値。みずほ銀行は額面割れ寸前。国有化しようと考えたが、1兆円増資され、国有化できなくなった。
 小泉首相は天才だった。一気に資金の伸び率を倍にした。また、下がっていった。竹中唯一の誤算は、2004年から個人投資家が銀行株を買うようになったことだ。逆粉飾決算で、三菱UFJは1兆2000億円の利益が出た。これは逆粉飾を戻した結果だ。このあと三井住友も続いた。
 不良債権処理もほとんど終わり、この1,2年は、はげたかさんの最後の晩餐と言われている。これから何が起こるか。買い占めた逆バブルの不動産を一気に戻す。買い占めた大金持ちがますます太る。完全な階級社会が実現する。土地の価格が劇的にあがる。
株も2万円を越える。だからその前に買っておく。はげたかは嫌いだが、庶民は他に手がない。東京都心のビルは確実に2,3倍になる。 庶民はできないので、そういうところの株を買う。
 これからはインフレになる。
 資産防衛策は株。預金では実質下がる。物価上昇率に追いついていない。
 
☆★☆★ コメント ☆★☆★
 後半は論旨の展開が早く、知識が足らずに付いていけないところもあったが、全体としてとても興味深い話であった。
 竹中氏が所得格差社会を意図したかどうかはともかく、アメリカ型社会を目指したのは明らかで、森田実氏も指摘するところである。特に経済政策では、ケインズの財政政策重視から、フリードマンらマネタリストの金融政策重視に転換し、竹中氏は資金量の調節を行った。このあたりは、次の書物に詳しい。
W.カール・ビブン『誰がケインズを殺したか 物語で読む現在経済学』[日経ビジネス人文庫]この本の宮崎純氏の解説 http://members.jcom.home.ne.jp/j-miyaza/page046.html そして、これ以後はインフレになる。土地や株価が上がる。アメリカ型経済にはまってしまった日本は、金融政策が分かる人にしか政権は取れないのかもしれない。
 それにしても金融政策で社会が簡単に変化してしまうとは、ある意味恐ろしい。 
《参考》 森永 卓郎氏「構造改革をどう生きるか」http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/o/ 
 金融経済教育実践事例報告
安城市立安祥中学校教諭 松永博司 氏
(感想)
 金融教育には以前より興味を持っていた。その理由は次の点である。
@ 実際の社会に関心をもつ子の育成に最速?で迫ることができる。
A 世の中を経済的な視点で見る力、生きる力の何割かを育成することができる。
B ゲーム性があり、その点では子どもは社会人と同等である。実社会への興味関心、 学習意欲の喚起力は抜群である。
 ただ、社会科教師には懸念があった。昨年のホリエモンや村上氏のようなマネーゲームをするような人の育成に荷担するのではないかと…。
 ところが、今回の発表を聞いて安心した。
 追跡調査をしたところ、実際に株をやっている生徒は多くないという事実である。これは、他の報告からも聞いている。なぜなら、株の利点と怖さを身をもって学んだからだと分析している。その通りだろう。投資方法の教育ではない。経済の視点を磨くことが目的なのだ。株の上下の難しさを知りかえって取り組まないのは理解出来る。
 私は、社会科教師なら、一度は株をやった方がよいと思う。株を知らないでは、経済を知っているとは言い難い。経済を知らないで、社会科教師と胸を張って言えるか?
 改めて、松永先生の授業の目的を聞いた。
 経済を見る目を育てるのが主眼だ。よくグループでやらせるが、今回は一人でやらせた。自分で情報を集めて取り組ませた。ポイントは、株価が上がったか下がったかではなく、なぜその株を買ったのかがしっかり言えることだ。選択社会科だから評定をつけるが、株価の上下は成績には関係がない。根拠が社会科的にしっかり言えることが観点となる。
 アメリカ産牛肉を使っていた吉野家が株価を下げ、中国や豪州産を使っていたすき屋、松屋が株価を戻した。こうした事実は消費者教育にもなる。同じような企業を並べて比較させる方法もある。
 このような形で、株式学習ゲームを活用して、経済の見方を育成できる。さらに、起業家教育にもとりくむことができる。講師を呼びたいときは東証や証券業協会から無料で指導者が来る。
 環境は整っている。後は指導者の研修にかかっている。