愛知教育大学付属名古屋中学校 第48回教育研究発表会講演報告
記録 土 井 

 以下の記録は、土井が講演を聴きながら要旨をメモしたものです。したがって、誤解や曲解もあり得ますのでご留意ください。なお、図表は省いてあります。

平成17年10月7日(金)

演題 自己をはぐくむ確かな学力と学習力の形成
講師 教育創造研究センター所長 高階玲治 
 
 「自己をはぐくむ確かな学力と学習力の形成」というテーマで話す。
 学力向上はどこでも言われている。学力を向上しない学校はない。学力向上は学校のミッションである。先生方は、毎日学力を上げるために努力をしているね。それでは今日お集まりの先生方にお尋ねしたい。
 「学力をこんなふうにして上げていると具体的に説明できる人は手を挙げて?」
 誰も上がらない。先生方は学力を上げるのが仕事なのに手が上がらない。それが問題なのだ。どの世界でも成果を上げるのが仕事である。4月から3月まで、成果を上げるために仕事をする。学校で言えば学力の向上が仕事だ。そのことを、今強く言われるようになってきた。
 企業では利潤をあげる。特にトヨタはあげているが、そえは会社としての使命。
企業は赤字になると、ペナルティがある。バブル崩壊以後、相当赤字で苦しんできたが、最近はやっと持ち直してきた。赤字になると、取締役にボーナスが出なくなる。学校で学力が上がらないと、校長や教頭のボーナスが出なくなるか?ちゃんと昇給しているので、成果を上げているということになっている。でも、学力向上について説明できない。
これからは、学力を上げている?と、問いかけられる社会であることを自覚している。
 まず、なぜ学力向上か?
 ゆとり教育の推進で、学習内容が3割削減された。子どもが勉強しなくなり。ゆとりがゆるみになった。だから勉強しなくてはと思っている人がたくさんいる。
 このデータを見てほしい。資料「凋落する日本」スイスの研究所だ出したもので、1991年の国の競争力は日本が世界1位。しかし、2001年には26位、02年には30位、今ではもっと落ちているだろう。財政収支は、かつては日本が1位だったが、今は主要国で最下位。
 ブレアが議会で演説した。ブレアは、「第1に教育、第2に教育、第3に教育」と言った。イギリスだけではない。アメリカ、ドイツ、ロシア、どの国も学力の向上に一生懸命になっている。世界の勝ち組になろうとしている。国際教育競争の時代、日本も勝ち組にならなくてはいけない。
 大学を含めた教育改革が始まった。資源のない日本は、この資料のようになってきた。
 赤で示したのは、人材の表だ。かつてはトップ。しかしだんだん下がってきている。ニートなども増え、どんどん人材が減っている。
 イギリスも同様。サッチャーの時代から教育改革を始めた。世界中を見渡したときに、日本をモデルにしようと考えた。その日本の政策(資料「学校教育の進展」 )は、20年間学習内容を減らしてきた。情報化、国際化の進展など、教育は拡大しているのに、学校教育だけ縮小するのは矛盾。どれくらい減っているか?今の親と子供は、授業時間数だけですごい違いがある。
 ここに理科の先生はいませんか?今どれくらい教えていますか?「週3時間」「2時間とちょっと」もう一回聞くよ、子どもの頃は理科何時間あった。「4時間」そう、それが中学3年では今では2時間ちょっと。理科だけみると4割減っている。他教科も減っている。子どもたちは、
少ない時間で勉強し、生きる力を身につけなくてはいけない。そのような中に置かれている。今の子どもたちに身につけたいのは何なのかを考えておかなければならない。
 一つは、基礎・基本。これがないと将来、生きる力が身に付かない。これは当然として、それ以外に3つを考える。
 一つは情報化。コンピュータを操作できる能力は必要。どの職業でも必要になる。次に、
どの子にも英語、英会話の基本は必要。グローバル化の時代だが、ローカルも大事。だからグローカルという。どのような変化にも対応できるような問題解決能力が必要。
 その背景には何があるか。それが今日のテーマだ。
 10年前、国際的な学力調査をやったら日本は3位。理科がトップ、2回目は2位、3回目は3位。数学も3位。そのときに理科や数学に対してどういうふうに思っているかも調査した。
 この図を見てほしい。日本は最下位。理科が生活の中で大切と考える子の割合が最下位。
将来科学を使う仕事に就きたい者が最下位。学力が3位でも、理科が好きな子も最下位。アンバランスが激しい。トップのシンガポールはどちらも上位。アメリカは学力は低いがこれは上位。日本は嫌いな子が多いので、これを見たとき、これからだんだん順位が下がるだろうと予感したら、やっぱり下がってきた。
 調べてみると、ショッキングなこのような事実が出てくる。
 日本青少年研究所の調査「高校生がどれくらい学校以外で勉強するか」
 日本では4割は全然勉強しない。2時間以上はたったの1割5分。一方中国は6割が2時間以上勉強している。人口で比べてみると、相当な差だ。将来、日本は中国に負ける心配がある。
 アメリカの企業で、「2050年に世界の国で最も力のある国」を予測した所がある。
トップは中国と予想している。2位はアメリカ、3位は何とインド、4位が日本、5位がロシア。日本の将来は暗い。
 問題は、高校生になって勉強しない子どもが出てくるのか。小学生や中学生のうちから勉強しない子がうまれているのではないか。そこにメスを入れる必要がある。
 そこで調査をしている。私は、住んでいる千葉でフォーラムをやった。コーディネーターを頼まれたので、その前に市民の調査をしたら意味のあるデータが出てきた。
 子どもたちは、普通の日にどれくらいテレビを見るか。小学校2年生から中学2年生は3時間以上みている。テレビを2〜3時間みていると、授業に影響がないか。
 相関を見てみた。授業がよくわかるという子どもは、テレビをあまり見ていない。でも2時間ぐらい見ている子が多いので相関は薄い。ところが、授業がわからない子とテレビ視聴時間が見事に相関している。テレビを見る時間が長いほど分からない率が高くなっている。学力低下の問題は、生活の中に問題が潜んでいることが明らかになってきた。
 子どもたちは平均何時に寝ているか。中学校では12時より遅い子が2割いる。夜更かしする子どもは、授業にどう影響するのか。調べてみると、睡眠6〜7時間の3割は授業がわからない。8〜9時間の子は授業がよくわかる。それ以上寝る子はまたわからなくなる。先生方は、授業を一生懸命やって学力を上げようとしている、生活状況が学力に影響していることが明らかになってきた。これは、どう考えたらよいのか。
 
 子どもの視点から見た学びの要素
 私たちは教科から考える。授業の目標であり、内容であり、学び方である。
 しかし、今のような生活基盤を考えると、授業そのものに影響していることがわかってきた。だから、中学校で大事なのは、教科を通して子どもを変えようというだけではなく、毎日の生活を変えないと学力が向上しないと認識することが必要だ。子どもの生活を変えるのが問題になる。
 今の子どもたちを勉強にし向けるにはどうしたらよいのか。学校としてやらなければないことは何か、という視点を持つべき。
 今の子どもたちは勉強に対してどう思っているか。資料提示
 勉強は大切思っているか?小5〜高3まで、ほとんどが大切と思っている。マスコミは一時期、子どもは勉強を大切でないと思っていると報じたが、それはうそでることが分かる。勉強は大切と思っているのだ。ところが、勉強は好きと答えたのが、小学校4割、中高では2割以下。だから、先生は今の子を教えるのが大変だ。
子どももジレンマに陥っている。大切と思っているが嫌い。わからなくなるのでいやになる。
 この中で、子どもの頃もっと勉強しておけばよかったと思っている人は?たいていの大人は昔もっと勉強すれば良かったと後悔している。
 ベネッセが調べたら、小学生のうちから「もっと勉強をやっておけばよかった」と、もう後悔している。小学生で5割、中学生で7割、高校生の8割が後悔しているが、それでも勉強しない。
 勉強には目当てが大切だ。教師がそれにむかって手だてを取るかどうかだ。勉強が嫌いな子が何を求めているか調べてみると、良い勉強のやり方がわからないといっている。
 これには、二重の意味がある。子どもたちは勉強のやり方を知りたいと言いながら、授業から学んでいない。すなわち、先生が勉強のやり方を教えていない。
 もう一つは、子どもが自分から勉強をするようなやり方を考えなくてはならない。子どもがやり方を変えていくような手だてをどう講じるか、学力を育てるには、「学習力」を育てなければ学力は向上しない
 そのためにどうするか。国研のデータを借りる。国研はおもしろいデータを取る。朝御飯との関係も調べた。必ず朝食を取る子の方が成績が良い。きちっとした生活管理ができることが大事。これは中学生のデータだ。
 続いて、明日の授業に対して準備しているかを調べてみた。必ず確認する子が成績が良い。次の準備を確認する子が伸びる。たとえば、会社へ来て今日は何するんでしたか?と言えばすぐクビになる。子どもも学習に対する構えを作っていくことが大事。
 次も大事。7ページの資料「塾等での学習内容と成績との関係」を見てほしい。
 予習タイプの塾の方がよく伸びるのがわかる。復習タイプの方が伸びない。
 しかし、子どもの中には理解の早い子、遅れがちな子がいるので、復習タイプはやむを得ない。ただ、理解の早い子は予習タイプを選ぶべきだ。
 先生の出す宿題を調べてみた。復習タイプの宿題が多い。やめてください。むしろ、予習タイプの宿題が大事。
 予習タイプの宿題をどう出すか。ここで、これを見てほしい。「自学自習タイプ」塾の復習タイプより成績がよい。自学自習タイプは、数学と英語は予習塾組に負けるが、他は上回っている。自学自習タイプは伸びる。
 これに注目してほしい。どうすれば、自学自習するようになるか。基本的には学ぶのは子どもであり、どうすればその子どもが自ら学ぶようになるかはこれが基本。自学自習の子は自分で学ぶ手だてを持っている。やり方を考えている子は自分から努力するようになる。そういう子どもを育てよう。
 4つの条件
1 勉強する目当てがわかる:今日の勉強の目当て、自分の勉強の目当て、目の前の目当てが大事。一番簡単な方法は、「明日の勉強が目当てだよ」と言うと簡単。
行員目せーじを子どもに与えよう
2 勉強する内容がある。:教科書以外のドリルや資料や問題集など、自分で勉強する中味がある。内容があることが大事。ものづくりや音楽でもいい。勉強する中味がわかっていること
3 勉強のやり方がわかる:やり方を知らないと難しいことに挑戦することができない。復習の宿題は当然のようだが、発想を変えて「明日の授業にチャレンジしなさい」という。習っていないとわからないと思うかもしれないが、そこがミソ。チャレンジするとわかるところが出てくる。そこに感動が生まれる。習っていないのにやれた!また、やっぱりわかんない、と思うことも大事。勉強にチャレンジして、わからないところがわかることが大事なこと。いくら考えてもわからないことを、先生がうまく説明してくれる。そうだったのか、深い理解になる。それを家庭でもやる。わからないことがわかる体験は大事。明日の授業にチャレンジすることには意味がある。
 中学生には、本当に向かっていくものが必要。先生方が持っている「評価規準」。これを成績をつけるためだけに持っているのはもったいない。一つの単元の目当てなのだから、子どもに伝えればよい。単元の1時間目にオリエンテーションを作って、そこで伝える。
その後、学習計画づくりをする。
 ただし、吟味すること。子どもにわかる言葉にする。関心、思考判断など、全部伝える必要はない。ここまでいくようにとわかるように伝えること。生徒は、これをやればいと見通すことができる。そのために何をやればよいか。授業の展開は教師が決める。自分でできるものは何か。考えて計画を作る。
 オリエンテーションが大事。目当て意識を持って計画的に学習する。自覚するようになる。最近、子どもに計画を作らせる動きが出てきた。子ども自身が、目当てに対して計画的に勉強する。
 国語のやり方と数学の仕方は違う。体育と音楽も違う。教科の固有の良いやり方を伝えれば子どもは変わる。
 それぞれの教科の学習の仕方を教える。これは当たり前のこと。リコーダーは音楽の授業中だけでは無理。家庭での練習が大事。体育だけでは体力は付かない。これらから分かるように、生活の中で努力することは当たり前。子どもがどういう風にやればよいのかわかるような勉強の仕方を授業でやる。
 学習の仕方のコツを教える。事前に勉強して参加すると、授業がよくわかるのでますます勉強するようになる。そうすると、授業レベルではものたりなくなる。
 今日の授業でもそうだった。レベルを超えてもいいよと言うことも教える。発展の道を開く。理解の早い子が先に行くことも考える。それが大変なら、生徒が発展する学習を見つけられように準備する。カリキュラムの構成を考える。
4 勉強する時間と場がある。
 勉強の標準時間は、
 小学校 15分かける学年
 中学生 15分かける(学年+6)
 中学1年生では105分。そうするとテレビをカットしなくてはならない。毎日やることで学習習慣が身に付く。習慣の力はすごい。ちょっとでもいいから毎日やることが大事。
 こうしてセルフコントロール(自己管理能力)をつける。大人でもすごくいい。卓球の愛ちゃんは「中国へ行くとストレスがたまる。でも、たまったらセルフコントロールする」と言った。酒を毎日飲んではいけないと思っている人が飲むのはセルフコントロールがない。
 場は、勉強部屋になっているかどうか。勉強を妨げる刺激があってはいけない。子どもの時、親父が立派な机を買ってくれた。子どもの気を引くものが貼ってある。しかしそれはだめ。勉強にじゃまになるのはいけない。刺激を与えるのはだめ。テレビもだめ。ベッドもだめ。つい寝たくなる。
 子どもの環境はすごく大事。でも一軒ずつ回って勉強部屋をみるわけにはいかない。簡単な方法がある。絵に描かせればよい。やってみると、机の上にテレビゲームがおいてある。
 勉強するときには、目に入らないようにしまう習慣を付けなくてはならない。こうしてこどもの勉強を支援する。 
 
 7ページの資料 
 浦安の学校で2カ月後に調べた。テレビの時間は減っている。子どもに教えると、子どもは変えてくる。そして勉強時間は増えている。
 でも、中学校の勉強しない子は増えている。そこで、子どもがやれる範囲で宿題を出し、毎日点検した。これを通してまずは学習習慣を付けた。
 これから大事なこと。
 家庭学習と授業とリンクすること。これまでは復習が主体だったが、復習は家庭学習が授業に生きない。これからは予習型。これは家庭学習が授業に生きる。
 教師が自分だけで授業を構成して学力を上げようとがんばってきた。でも、基本は子ども。 これを見てほしい。3ページ左下。
 A群(学習が進んでいる集団)、B群(標準の集団)、C群(遅れている集団)は、当然ながら学習計画の段階から学ぶことが違ってくる。個々の子どもに対応しなければならない。今の教育は、そのことが言われている。
 その点で、学力に対する考え方に、中教審で「確かな学力」を定義付けした。
 「知力の構造」を見てほしい。 
 学力と共に社会力が大事だ。こうなる
 学力 イコール 生きる力ではない。大人は学力があるとは言わない。社会人になると、学力プラスそれ以上の力が要求される。学力に、社会力など知力のようなものが入り、生きる力となる。生きる力は総合的なのである。
 これからどういうことが指摘されるようになるか。最後に確認したい。
  レベルを下げた。学習指導要領は最低基準で、8割9割わかるようにとしたが、実際のアンケートでは、小学校では6割、中学校では5割 中学校では4割 しかわかるといっていない。どの子でも目標に届くような教育になってほしい。
 学習指導要領は、今後達成目標になる。これは教師が替わるチャンスである。教師の指導が悪いから伸びないと言われるような時代になる。
 いよいよ全国学力一斉テストが始まる。これに対して、「どうすれば上がるようになるか」と言う見方が大事、子どもの学びかたを考えることが大事なのである。これくらいで終わる。