研修8日目 3月5日(月)
特別支援教育に求められるメンタルヘルスと発達障害の理解
−広範性発達障害を中心に−
京都大学医学部保健学科 十一元三(といち もとみ)先生
私は児童精神科医。その立場から言うと、保健の考え方が違うのではないか。
【学校保健と心の健康つくり】
学校教育は、家庭・地域・社会の基盤の上にある。基盤がしっかりしないと成り立たない。
学校教育の中では、学校保健(心と体)・生徒指導が基盤になる。その上に教科学習があり、人格の育成をめざす。
特別支援教育は、「学校保健(心と体)・生徒指導」と「教科学習」の両方にまたいでいる。
新しい障害も増えている。学校でやる発達支援を従来の指導の中でどう行うかが大きな課題である。児童精神科医の立場でいうと、まだまだ学校保健を軽視していると思う。
こころの健康問題とは、心理的な問題に限られるのではない。かつてはそう考えられ、カウンセリングがはやる。実際はメンタルヘルスの領域全体を含み、精神医療や心身症、も含む。すなわち、心理的問題+脳基盤をもつ問題+身体関連問題である。
【心の健康つくりとメンタルヘルス】
心と脳、体の3つの和の重なりで考えてみよう。
心の健康に属するものが、心因性の鬱病、虐待、家族病理、不登校の一部など
脳の健康に属するものが、統合失調症、躁鬱病などの機能性障害
アスペルガー障害、ADHDなどの発達障害
変性疾患、てんかん(一部)などの器質性障害
体の健康に属するものが、内科・小児科疾患など
心のみの部分が、心理社会的要因
それ以外の部分が、個体・生物学的要因
心と脳の重なりの部分がパーソナリティ障害
心と体の重なりの部分が、心身症
大学にいたときは力量がためされる。統合失調症やアスペルガーなど、たとえは悪いがまるで野戦病院のようだ。
マスメディアによる誤解もある。事件を心理に絡めるので、背景にある他の障害が見落とされる。障害を見落とされて、スパルタ教育などが加えられ、犯罪に至る場合もある。 スクールカウンセラーが配置されているが、今や心の問題だけでは解決できない。ソーシャルワーカー、医療系も必要な時代だ。
これらが連携したうえでの特別支援を考えるべきだ。心の健康づくり推進医委員会の調査で、1,400校、7,000名が回答した。結果を2月に発表した。
メンタルヘルスにかかわった養護教諭は、小で80%、中高で95%。実数では、小で5,600人、中高で、14,000人いた。
その内訳は、軽度発達障害 小で500人、中では1,000人を超える。かなりの件数で全国にあることが分かる。
【3つの発達障害】
いろいろな種類がある・
アスペルがーなど
【特別支援(発達障害)にまつわる混乱】
・ 学習障害
学習の得意不得意が大きくてもLDとは限らない。
知能検査でLDの診断はできない。
落ち着きのある・なしは無関係
・ AD/HD
対人関係の問題を繰り返しやすいとは限らない。好かれたりもする。
・ PDD(広汎性発達障害)
必ず個別指導・別室で対応しなければならないとは限らない
楽しい行事は参加できる。
・全体に
臨床的特性;年齢が変わっても基本的に変わらない=基本障害
知能の高い低いは別問題
障害の顕著さが診断名の違い
【用語の確認】
特別支援教育の中心だが、見つけにくい。
特定不能型のPDD 不登校の背景として多い
【教育現場からの相談内容の例(広汎性発達障害)】
・ 不登校・保健室登校
・ 場に関係のないことを言う、校内では完全寡黙
・ ルールを守れず、周りの子どもが一方的に我慢
・ 授業を無視して好きなことを話す
・ テストやゲームで負けると、駆け出して離校
・ 授業中に立ち歩く、教室の電気を消す、床に寝て過ごす
・ 注意するとパニック
・ 急に怒ってものを投げる
・ 女子生徒に性的接触、教員に抱きつく、触る
・ 男子生徒に意味が分からないまま性的接触
・ 炎に強い興味を持ち、教室で紙を燃やす
【広汎性発達障害の基本障害】
1 対人相互的反応性の障害
集団行動でわかりやすい。これを理解するのが最大のカギ。
2 強迫的な限局化と反復傾向
学校は1を発見しやすい
3 早期関連症状
緊張・情動抑制の問題(パニック、癇癪、衝動性、気分易変など)
多動傾向
感覚・知覚・運動の問題
【自閉性障害・アスペルガー障害の判断基準 その1】
以下の対人相互的反応の質的障害が2項目以上存在
○ 視線、表情、身振りなどの非言語的な対人疎通性の障害
○ 発達年齢に応じた仲間関係ができない。
○ 楽しみや興味について、他人との共有を認めない。
○ 対人的、情緒的相互性(共感性)の欠如
生得的なもので、二次的なハンディキャップが存在する
【対人相互的反応について】
1 対人相互的反応性の表れた基盤行動とは?
人の方をみる(他人の存在への影響)
相手の視線との同調(共同注意)
つられる
指をさすとその先を見る
相手の動き(運動)との呼応
「影響の与え合い」を自然に求める
※ 自閉性があると、これらのことができにくい。
赤ちゃんの習性;目を見ること。しかし、自閉性があると、視力が弱いうちから相手の目をみることが少ない。先天的なもので、幼児期にはダンスについていけない。
2「対人相互的反応性」がもたらすもの
話題の焦点が相手とずれない
指示詞 指示動作がうまく伝わる
社会施行的な遊び。ままごと遊びなど
社会参加へのリハーサル
社会的文脈の形成、把握
自意識(プライバシー・羞恥などの感情)
社会的感覚(重大さ 世間体など)
3 対人相互的反応性が弱いと
模倣行動が苦手
自画像がかけない
理念で描く 指の5本にこだわる
漫画チックな借り物
ストーリー呈示する。「大切に育てた犬が死んだ。」
飼い主はどう思うか?
あなたはどう思うか?
ここで感情の理解はできるが、共感できない。自分の気持ちは別。
「ペットが死んだらお墓をつくらなければ」など
【自閉性障害・アスペルガー障害の判断基準 その2】
以下の限定され反復する行動や興味の常動的様式が1項目でも存在
○ 常同的で限定された興味への異常な関心
○ 特定の習慣や儀式に執拗にこだわる
○ 常同的で反復する身体の奇妙なしぐさ
○ 物体への一部への持続的熱中
【臨床的特性の確認】
1 強迫的傾向の表れ方
・ 1日に何百回も両手でパチンと鳴らす
・ 自分の額、鼻、唇、腹の順に触れる動作を繰り返すなど
→ マニエリスム
・ 同じ順番に積み木を並べる
・ 決まった道順しか通らない
→ ステレオタイプ(常同行為)・同一性保持
・ 模型のレールに関心が集中
・ 株式会社の資本金をすべて覚える
→ 興味関心の限局と没入
・ 誰もやらない掃除当番を欠かさず行う
・ 気温が変わっても衣替えしない
→ 規則の過剰遵守
・ 「出世払い」と言ったら大人になって払いに来た
・ 「もう来なくていい」といわれて来なくなった。
→ 字義通り性
・ 白衣を着ていると「〜先生」、着ていないと「〜さん」
→ 整合性
2 対人相互的反応の低下+強迫的傾向により
コミュニケーションは対人相互作用そのもの。コミュニケーションに障害がある
想像力の障害
ユニークな認知処理、興味・関心
例えば トケイ → ネ_タ_ 無関係
センソウ → グ_タ_ 意味関係
カイガン → カ_ダ_ 音韻関係
通常、意味関係で判断する。しかし、音韻関係は考えない。しかし、自閉症、アスペルガーの人は共に音韻関係で考える率が定型発達者よりも高い。
広汎性発達障害の臨床的特性の多くは、2大特徴(対人的相互反応性の障害、 脅迫的傾向)に由来する。
3 診断基準にない幼児期より付随しやすい特徴
・緊張情動制御の問題
パニック、癇癪、衝動性、気分易変など
・注意転導性・多動
ADHDと間違われやすい
落ち着きがないとADHDとは限らない
年齢とともに改善傾向
医療機関の診断が正しいと限らないので注意する必要がある
学校の問題は学校の中でしか解決できない
・感覚・知覚・運動の問題
知覚過敏、蛍光灯がチカチカする、触られると痛い
共感覚、協調運動ができない;スキップができない、自転車に乗れない
・その他
自律神経系異変
温度に対する感覚、低気圧に反応するなど
生理の影響 リストカットもある
身体レベルも反応が激しい
【発達的変化と個人差】
特徴の多様な現れ方
・ 年齢による変遷
・ 知的発達 HFA(高機能自閉症)→ASP→PDD−NOS(対人性の部分的発達)
言語、所作がより自然になる
癇癪、パニックが思考停止へ
同一性保持 が より高度な整合性へ
物から人への関心 対人スキルの部分的獲得
・ 個人差・性差;相反するようにみえる外的特徴
感覚過敏 ←→ 感覚鈍磨
不器用 器用(優れた運動能力・敏捷さ)
かんもく 多弁
マイペース 対人的敏感さ
相手によらず同じ態度 相手によって極端に変化
過度に正直 平然と虚偽
他人の顔をよく記憶 顔を覚えるのが苦手
このように人によっていろいろ特徴がある
生理的特徴も念頭に入れて対応する
4 早期関連症状
薬物治療;リタリンなどで パニックが抑えられる
関心が向くと止められない
【神経基盤について】
古い脳の部分 扁桃体に差異が見られる
→ 自閉症の人の方が脳細胞が多いが、シナプスが広がらない
定型発達の人は枝分かれが多い
自閉症の人は、小脳が小さい場合がある。(必ずではない)
不注意型の子が虐待をうけやすい
PDD 対人相互的反応性と強迫的傾向
→ 扁桃体辺縁系機能の未成熟
ADHD 多動・注意欠陥・衝動性
→ DOA神経系(ドーパミン)が関与?
LD 特定の限定的な知的技能の問題
→ 皮質機能の問題?
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3 精神的な症状の合併
後期合併症
精神的様症状(統合失調症との鑑別)
・ 被害関係念慮 被害妄想 幻聴 幻視
気分障害
・ うつ状態〜気分状態の一貫性のなさ・乖離的切り替わり
自殺 PDDの人はためらわない
失敗してすぐに笑顔で話す
強迫神経症
・ 自我違和感
解離症状
・ 人格の解離(多重人格)
見誤られやすい疾患
統合失調症
人格障害
強迫性障害
うつ病
PDD以外の発達障害
→ AD/HD、学習障害、パニック障害、場面寡黙、解離性障害、神経症
養護教諭複数配置の学校は発見率が高い
精神医療との連携が必要となることがある
校医は発達障害のことを知らなく九例者が多いので難しい
【支援における考え方】
共通するポイント
常に臨床特性を念頭に
二次障害の解消と予防
発達論的療育論