T 教育委員会と学校
  
.中央教育審議会「今後の地方教育行政のあり方について(答申)」(平成10年9月21日)において次のように述べられています。〔29頁〕

 地方公共団体が設置する小・中学校等の学校は,公の施設として法令に基づき教育活動を行なう専門的機関であり,(後略)
 

(1)「法令に基づき」ということについて,公立の中学校,高等学校等が従うべき法令には様々なものがあります。それらのうち,学校教育に関する法令,公立学校教員に関する法令,地方教育行政に関する法令として,例えば 以下の種類などがあり,→ の元側がより包括的もしくは上位の,または特別な例外についての内容を定める法令となります。
 下図のうち,@〜Dにあてはまる法令の名称を調べてください。

 
 
【解 答】

 

(2) このように,学校に関連して多くの法令があることがわかります。なぜこのように多くの法令が存在するのでしょうか。
 その際,
 @憲法第26条,教育基本法第3条・第4条・第5条・第6条第1項の規定を参照しながら,「学校」に期待されている役割,
 A「学校」と,学習塾や習い事教室との相違,について考慮しながら説明してください。

 
【解 答】 教育に関しての国民の権利と義務の保障のため
 
@「学校」に期待されている役割から
教育を受ける権利は,憲法で保障された国民の権利であり,第26条では「その能力に応じてひとしく教育を受ける権利」「保護する子女に普通教育を受けさせる義務」が示され,それを受けて,教育基本法,学校教育法等の法令が定められている。
このように,学校の教育活動に関して多くの法令が制定されているのは,「等しくその能力に応ずる教育を受ける機会」(教育基本法第4条)を保障するとともに,「保護する子女に,別に法律の定めるところにより普通教育を受けさせる義務を負う」(教育基本法第5条)と定められていることから,学校の役割として,すべての国民が普遍性のある一定基準を満たす教育を受ける権利を保障することが,その役割として期待されている。
また,この教育を行う「学校」については,「公の性質を有するものであって,国又は地方公共団体及び法律に定める法人のみが,これを設置することができる」(教育基本法第6条第1項)と定められ,その永続性,確実性,公共性を担保している。
 
【根拠となる法令等】
 〔教育を受ける権利〕・・・・・憲法第26条(国民の教育を受ける権利)
                教育基本法第6条第1項(学校の設置)
 〔教育を受けさせる義務〕・・・憲法第26条(教育を受けさせる義務)
                教育基本法第5条第1項(義務教育)
                 同 法 第4条第3項(授業料無償)
                学校教育法第6条  (  同  )
 〔教育の機会均等の保障〕・・・教育基本法第4条第1項(教育の機会均等)
                 同 法 第3条第2項(就学困難者への保障)
                無償措置法(義務教育諸学校の教科用図書の無償)
 〔教育の普遍性の確保〕・・・ 教育基本法前文「公共の精神を尊び,豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに…」
 〔教育の目的達成〕・・・・・・教育基本法第2条(教育の目標)
 〔教育の中立性確保〕・・・・・憲法第20条(国及び機関の宗教的中立性)
                教育基本法第14条第2項(政治的中立性)
                 同 法 第15条第2項(国公立学校の宗教的中立性)
                中確法(義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法)第3条
 〔教育水準の維持向上〕・・・・学校教育法第18条(小学校目標の達成)
                学校教育法施行規則第25条(小学校学習指導要領)
                義務教育費国庫負担法第1条
 
A「学校」と,学習塾や習い事教室との相違から
地方公共団体が設置する小中学校は,法律で定められた学校であり,権利が法令によって保障されている「公教育」である。これに対して,塾や習い事の教室は,児童生徒及び保護者の任意によって受けるものであり,憲法・教育基本法の精神である「教育の機会均等」などの権利は認められるが,法令による保証のない,いわば「私教育」である。そのため,国や地方公共団体には設置・支援の義務はなく,保護者もその教育を受けさせる義務を負うものではない。また,私教育では,公教育とは異なり,政治・宗教上の中立等,法律上の制約は受けない。以上のような違いから,公教育としての「学校」の性格を明確にし,その責務の遂行を行うため多くの法令が存在するといえる。
 
「学校」と「学習塾や習い事教室」との法令等に関する比較

学             校

塾や習い事の教室

・学校教育法第1条で定められたものであり,国民の教育を 受ける権利を保障する「公教育」である。

・法令による根拠のない「私教育」である。
・義務教育は無償
(憲法第26条2項)
  「義務教育はこれを無償とする」
(教基法第5条4項)
  「国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育   については,授業料を徴収しない
(義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律第1条)
  「義務教育諸学校の教科用図書は,無償とする」
有償






 
・就学困難者への保障あり(教基法第4条3項)(就学援助法) ・就学困難者への保障なし
・保護者に「その保護する子女に,法律の定めるところによ り,普通教育を受けさせる義務あり    
   (教基法第5条1項)
・「教育を受けさせる義務なし

 
・「公の性質を持ち,設置者は又は地方公共団体及び, 律に定める法人のみが設置できる。」
  (教基法第6条,学教法第2条)
・地方公共団体に学校設置義務あり
 (学教法第29条〜「市町村は,その区域内にある学齢児童  を就学させるに必要な小学校を設置しなければならな   い。」)
・「公の性質持たず,「設置者」 に制限なし


・地方公共団体に設置義務 
 
・教職員は免許状を有するものである。
  (教職員免許法第3条)
・教師の免許状の規定なし
 
・教科用図書を使用しなければならない
 (学校教育法第21条,第40条,第51条)
・教科用図書の使用規定なし
 
・政治的に中立である。
 (「・・・特定の政党を支持し,又はこれに反対するための政  治教育その他政治的活動をしてはならない。」)
 (教基法第14条2項)
・国又は地方公共団体が設置する学校は,特定の宗教のため の宗教教育その他の宗教的活動をしてはならない。
  (教基法第15条2項)
・特に制限なし

・特に制限なし



 
 
【補則 学校教育に関わる主な法令の整理】 
(1)教育の基本にかかわる法令
 @日本国憲法第14条1項(法の下の平等),第23条(学問の自由),第26条(教育を受ける権利)
  A教育基本法第1〜4条(教育の目的及び理念),第5〜15条(教育の実施に関する基本),第16〜17条(教育行政),18条(法令の設定)
(2)教育全般にかかわる法令
  @学校教育に関するもの
  ・学校教育法,学校教育法施行令,学校教育法施行規則(学校制度,学校設置基準,教育課程等)
  ・義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法
  ・小学校設置基準,中学校設置基準
  ・公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律
  ・義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律
  ・義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律
  ・教科書の発行に関する臨時措置法,同施行規則
 A教育奨励に関するもの
  ・就学困難な児童及び生徒に係る就学奨励についての国の援助に関する法律,同施行令
  ・盲学校,聾学校及び養護学校への就学奨励に関する法律,同施行令,同施行規則
  ・へき地教育振興法,同施行令,同施行規則
  ・理科教育振興法,産業教育振興法
 Bスポーツ・保健・給食に関するもの
  ・学校保健法,同施行令,同施行規則,学校給食法,同施行令,同施行規則,スポーツ振興
 C生涯学習に関するもの
  ・社会教育法,社会教育法施行令,図書館法,同施行令,同施行規則,博物館法
(3)教育行政・財政にかかわる法令
 @国の関係のもの
  ・国家行政組織法,文部科学省設置法,文部科学省組織令,国立大学法人法,同施行令,同   施行規則
 A地方行政関係のもの
  ・地方自治法,地方教育行政の組織及び運営に関する法律
 B教育財政関係のもの
  ・財政法,地方財政法,義務教育費国庫負担法,義務教育諸学校施設費国庫負担法,地方交   付税法
(4)教職員の身分,服務,勤務条件等にかかわる法令
 @身分・服務に関して
  ・地方公務員法,教育公務員特例法  
 A勤務条件・給与
  ・地方公務員法(第24条6項 勤務条件),公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等   に関する特別措置法(教職調整額の支給),学校教育の水準の維持向上のための義務教育   諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(優遇措置)
 B教員の資格
  ・教育職員免許法,同施行令,同施行規則 
 C育児休業
  ・地方公務員の育児休業等に関する法律,女子教職員の出産に際しての補助教職員の確保に   関する法律
 D公務上の災害
  ・地方公務員災害補償法
 

(3)「地方公共団体が設置」し「公の施設として法令に基づき教育活動を行う専門的教育機関」である公立学校の運営に当たって,学校は,「公の施設」として,保護者や地域住民等に対してどのような責任を果たす必要があると考えますか。
 
 
【解 答】
○ 公の施設とは
住民の福祉を増進する目的をもって,住民の利用に供するために,普通地方公共団体が設置する施設のことである(地方自治法244条第1項)。例えば学校の他,公民館,図書館,博物館などをいう。(地教行法30条)公の目的のために設けられた施設であっても,住民の利用に供することを目的としない庁舎,試験研究所は公の施設ではない。また,競輪場,留置場等のように,住民の利用に供する施設であっても,直接住民の福祉を増進するためのものでないものは,公の施設ではない。
公の施設は,講学上の営造物という概念よりも多少せまい範囲のものをさしている。地方自治法でも,昭和38年以降,営造物という用語は,公の施設という用語に改められた。(「新学校管理読本」p.721)
 
 
○ 「公の施設」としての責任
(1)住民のための利用に供する
 @「普通地方公共団体は,住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設 (これを公の施設という。)を設けるものとする。」(地方自治法第244条第1項)
 A「普通地方公共団体は,正当な理由がない限り,住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」(地方自治法第244条第2項)
 B「普通地方公共団体は,住民が公の施設を利用することについて,不当な差別的取扱いをしてはならない。」(地方自治法244条第3項)
 
(2)学校施設の使用について
 @「地方公共団体の財産は,常に良好の状態においてこれを管理し,その所有の目的に応じて最も効率的に,これを運用しなければならない。」(地方財政法第8条)
 A「学校施設は,学校が学校教育の目的に使用する場合を除く外,使用してはならない。但し,…」(学校施設の確保に関する政令第3条)(「新学校管理読本」P.272)
 B学校教育の目的外使用
 ア 法律又は法律に基づく命令の規定に基づいて使用する場合
  ・ 公職の選挙に当たり,公営の立会演説会場または個人演説会場として使用することができる。〔公職選挙法161条〕
  ・ 非常災害の場合の学校施設の使用,地域防災計画における避難所の指定など
                     (消防法第29条,災害対策基本法第62条)
 イ 管理者又は学校の長の同意を得て使用する場合
  ・ 学校の管理者は,学校教育上支障のない限り,学校教育の目的以外の目的のための使用を許可することができる。(学教法第85条)(地方自治法238条の4第4項)
  ・ 社会教育またはスポーツのための利用に供するように努めなければならない。
    (社会教育法第44条第1項,スポーツ振興法第13条第1項)(「新学校管理読本」p.273)
 ※ 参考(「新学校管理読本」pp.273〜278〕
   憲法第89条との関係(宗教上の問題等),政治的中立性との関係(教基法8条第2項)
 
(3)教育の責任について(保護者,地域住民への説明責任)
 @保護者や地域住民の信頼に応え,家庭や地域社会と一体となって特色ある学校づくりを進めることが求められる学校にとっては,保護者や地域住民に積極的に情報を公  開し,共通理解を得ていくなど,説明責任を果たしていくことが重要である。
              〔学校設置基準第2条,第3条〕(「新学校管理読本」P.257)
 A校長が行う学校運営に関し,幅広く意見を聞き,必要に応じ意見を求めるために,学校評議員制度の導入も必要である。
             〔学校教育法施行規則第23条の3〕(「新学校管理読本」P.258)
【根拠となる法令等】
  「憲法    第89条」       〔公の財産の使用又は利用の制限〕 
  「地方自治法 第244条第1〜3項」 (公の施設)
「地方自治法 第244条の2第3項」 (公の施設の設置,管理及び廃止)
  「社会教育法 第44条」      (学校施設の利用)
  「学校施設の確保に関する政令 第3条」(学校施設の使用禁止)
  「学校教育法 第85条」      〔学校施設の公共のための利用,学校教育上支障のない限り…〕
  「地方自治法 第238条の4第4項」(行政財産の管理及び処分)
  「スポーツ振興法 第13条」   (学校施設の利用)
  「公職選挙法 第39条」     (投票所)
「公職選挙法 第63条」     (開票所の設置)
「公職選挙法 第161条1項の1」(公営施設使用の個人演説会等)
  「消防法   第29条1項」     (土地の使用・処分・使用制限等)
  「災害対策基本法(抄) 第62条2項」 (市町村の応急措置)
  「地方教育行政の組織及び運営に関する法律 第30条」(教育機関の設置)
  「地方教育行政の組織及び運営に関する法律 第33条第1項」(学校等の管理)
  「地方財政法 第2条」     (地方財政運営の基本)
  「地方財政法  第8条」     (財産の管理及び運用)
  「国家賠償法 第2条」    〔管理に瑕疵が認められたときの賠償責任〕
  「学校教育法施行規則第23条の3第1項〜3項,第55条」〔学校評議員の設置と役割〕
   中央教育審議会答申 「今後の地方教育行政のあり方について」
 

(1)現在,都道府県及び市町村に教育委員会が置かれています。教育委員会制度が設けられた意義について説明してください。また,教育委員会の組織及び権限や,
  国(文部科学大臣)・都道府県教育委員会・市町村教育委員会の相互の関係について,その概要を法的根拠に基づき説明してください。

 
【 解 答 】
@ 教育委員会制度が設けられた意義
明治以降戦前までの日本の教育に関する事務は,専ら国の事務として取り扱われていた。府県知事や市町村長は国の機関として教育事務を執行するという中央集権的な地方教育行政制度がとられていた。
戦後,民主化の重要な柱の1つとして教育制度改革が行われ,教育は地方公共団体の固有事務と位置づけられた。これに伴い,教育行政は一般の地方行政から独立した,市民から選ばれた代表によって構成された機関によって執行するしくみが導入されることになった。これが教育委員会制度である。
昭和237月,教育委員会の組織や権限などについて定めた「教育委員会法」が施行されると,その年の11月に,まず,全国の都道府県と一部の市町村で教育委員会が設置され,昭和2711月までには,すべての市町村で設置が完了した。当時の教育委員会制度は,公正な民意による教育行政の運営,地方の実状に即した運営,教育への不当な支配の排除を理念としていた。委員は選挙によって選ばれ,教育事務に関する予算案・条例案は,教育委員会が原案を作成し,地方公共団体の長が議会に提出していた。
その後,全国的な教育水準の維持向上と教育の機会均等の確保が求められるようになったこと,それまでの教育委員の公選制が必ずしも適切な選任方法ではなくなってきたこと等から,教育委員会法の改正が必要になってきた。そして,旧法の理念を踏襲しつつ,教育の政治的中立と教育行政の安定を確保し,一般行政と教育行政の調和を図り,国・都道府県・市町村が連携する教育行政制度を確立することを趣旨として,昭和31年6月,現行の「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が制定された。これにより,教育委員の公選制は任命制に改められ,教育委員会に関する予算案・条例案については,知事が教育委員会の意見を聴いて作成し,議会に提出することになった。
平成117月には,「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」が,政府全体の一括法として制定され,国及び地方公共団体が分担すべき役割の明確化,権限・関与の見直し,行政体制の整備等が図られている。地方教育行政制度についても,教育長の任命承認制度が廃止されるなど,国と都道府県,都道府県と市町村が対等な立場で協力して教育行政を推進する制度へと改革が進められている。
 
A 教育委員会の組織及び権限
教育委員会は,「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の定めにより,教育に関する事務を処理するため,都道府県,市町村等に設置される合議制の執行機関である。この教育委員会制度は,一般人(レイマン)である非常勤の委員で構成される教育委員会の委員の合議により,大所高所から基本方針を決定し,それを教育行政の専門家である教育長が事務局を指揮監督して執行するという「レイマン・コントロール」のもとに運営されている。
【 法的根拠等 】
¨ 教育委員会は,5人の委員から構成されている。(地教行法第3条)
¨ 委員は,地方公共団体の長が議会の同意を得て任命する。(地教行法第4条)委員の任期は4年で,再任されることもできる。(地教行法第5条)
¨ 委員長は,委員の中から互選で選ばれ,教育委員会を代表し,教育委員会の会議を主宰する。委員長の任期は1年であるが,再任されることもできる。(地教行法第12条)
¨ 教育委員会の権限に属する事務を処理するため,教育委員会に教育長と事務局が置かれている。(地教行法第18条)
¨ 教育長は,委員長以外の委員の中から教育委員会が任命する。(地教行法第16条)教育長は,教育委員会の指揮監督の下,すべての事務をつかさどる。(地教行法第17条)
¨ 事務局は,教育長の統括のもと,教育委員会の権限に属する事務を処理する。事務局の組織は,それぞれの教育委員会の規則で定められる。(地教行法第18-2
 
B 国(文部科学大臣)・都道府県(指定都市)教育委員会・市(特別区を含む)町村教 育委員会の相互の関係
 国・都道府県教委・市町村教委の相互の関係は,連絡・調整を図りながら,指導,助言及び援助によって,適正な教育行政の執行と管理を行う関係にある。
平成11,地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律により,地教行法第49条が廃止され,都道府県教委の市町村に対する基準設定権は廃止された。また,国が都道府県教委の教育長を,都道府県教委が市町村教委の教育長の任命承認制が廃止された。
【 法的根拠等 】
¨ 地教行法第48条「…文部科学大臣は都道府県又は市町村に対し,都道府県教育委員会は市町村に対し, …指導,助言又は援助を行うことができる。」
¨  地教行法第51条「文部科学大臣は,都道府県教育委員会又は市町村教育委員会相互の間の,都道府県教育委員会は市町村教育委員会相互の間の連絡調整を図り,並びに教育委員会は,相互の間の連絡を密にし,及び文部科学大臣又は他の教育委員会と協力し,教職員の適正な配置と円滑な交流及び教職員の勤務能率の増進を図り,もってそれぞれの所掌する教育に関する適正な執行と管理に努めなければならない。」
 
 

(2)教育委員会は学校に対してどのような関係に立ち,また権限をもっていますか。
 
【 解 答 】
@教育委員会と学校との関係
地教行法に基づき,教育委員会は公立学校の管理機関という関係に立つ。
地教行法が平成1241日から一部改正され,県教育委員会の基準設定権が廃止されたことにともない,各市町村が自分の判断で管理規則を定めることができるようになる。
教育委員会の管理権と学校の自主性を調整するために,学校管理規則が分担関係を明らかにしている。
【 法的根拠等 】
¨ 学校教育法第5条「学校の設置者は,その設置する学校を管理し,法令に特別の定のある場合を除いては,その学校の経費を負担する。」
¨ 地教行法第32条「学校その他の教育機関のうち,大学は地方公共団体の長が,その他のものは教育委員会が所管する。」
¨ 地教行法第33条「教育委員会は,法令又は条例に違反しない限度においてその所管に属する学校その他の教育機関の施設,設備,組織編制,教育課程,教材の取扱いその他学校その他の教育機関の管理運営の基本的事項について,必要な教育委員会規則を定めるものとする。」
¨ 地方自治法第180条の8「教育委員会は,別の法律の定めるところにより,学校その他の教育機関を管理し,学校の組織編制,教育課程,教科書,その他の教材の取扱及び教育職員の身分取扱に関する事務を行い,並びに社会教育その他の教育,学術及び文化に関する事務を管理し及びこれを執行する。」
 
A教育委員会の学校に対する権限
【 法的根拠等 】
¨ 教育委員会は,次に掲げるものを管理し,及び執行する。(地教行法第23条)

学校教育の振興



 

・学校の設置管理
・教職員の人事及び研修
・児童生徒の就学及び学校の組織編成
・校舎等の施設・設備の整備
・教科書その他の教材の取扱いに関する事務の処理

生涯学習・社会教育の振興

 

・生涯学習・社会教育事業の実施
・公民館,図書館,博物館等の設置管理
・社会教育関係団体等に対する指導,助言,援助

芸術文化の振興,文化財の保護

 

・文化財の保存,活用
・文化施設の設置運営
・文化事業の実施

スポーツの振興



 

・指導者の育成,確保
・体育館,陸上競技場等スポーツ施設の設置運営
・スポーツ事業の実施
・スポーツ情報の提供

 
 
 

(3)教育委員会の指導主事が,学校を訪問して教育指導の在り方等について必要な指導・助言を行い,また命令を行うことができるのは,どのような法的権限に基づくものですか。同様に,教育長,学校教育課長についてはどうですか。
 
【 解 答 】
 学校訪問は,指導主事等が各学校における授業等の教育活動の参観を通して,それぞれの学校の教育課程,学習指導,その他教育活動全般に関する専門的事項について指導・助言を行い,教職員の資質の向上を図り,学校教育の充実を図ることを目的として実施される。訪問に当たっては,指導主事等を中心に,次のことについて指導・助言及び研究協議等を行う。 @ 教育課程の編成・実施・評価等にかかわる事項
 A 各教科,道徳,特別活動,総合的な学習の時間等の指導にかかわる事項
 B 教育相談,生徒指導,教育指導上の諸課題
 C 教育指導にかかわる諸表簿(年間指導計画,指導要録等)の記入上の諸課題
 D その他学校運営全般にかかわる諸課題
 これらの指導・助言を行う学校訪問の法的根拠は,上位法として学校教育法第5条がある。

学校教育法  
第5条 学校の設置者は,その設置する学校を管理し,法令に特別の定のある場合を除いて は,その学校の経費を負担する。
 
  これにより,教育委員会の管理権を明確にしている。さらに地方教育行政の組織及び運営 に関する法律で,より具体的に管理権を明確にしている。
 
 
 

地方教育行政の組織及び運営に関する法律
 第3章 教育委員会及び地方公共団体の長の職務権限
(教育委員会の職務権限)
第23条 教育委員会は,当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で,次に掲げるも のを管理し,及び執行する
1 教育委員会の所管に属する第30条に規定する学校その他の教育機関(以下「学校その 他の教育機関」という。)の設置,管理及び廃止に関すること。
2 学校その他の教育機関の用に供する財産(以下「教育財産」という。)の管理に関する こと。
3 教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること。
4 学齢生徒及び学齢児童の就学並びに生徒,児童及び幼児の入学,転学及び退学に関する こと。
5 学校の組織編制,教育課程,学習指導,生徒指導及び職業指導に関すること。
6 教科書その他の教材の取扱いに関すること。
7 校舎その他の施設及び教具その他の設備の整備に関すること。
8 校長,教員その他の教育関係職員の研修に関すること。
9 校長,教員その他の教育関係職員並びに生徒,児童及び幼児の保健,安全,厚生及び福 利に関すること。
10 学校その他の教育機関の環境衛生に関すること。
11 学校給食に関すること。            以下略
 
  指導・助言は「管理し,及び執行する」の内容に含まれる。また,この法律では,これらの管理事項についての指導に従事するものとして,指導主事を定めている。

(指導主事その他の職員)
第19条 都道府県に置かれる教育委員会(以下「都道府県委員会」という。)の事務局に, 指導主事,事務職員,技術職員その他の所要の職員を置く。
2 市町村に置かれる教育委員会(以下「市町村委員会」という。)の事務局に,前項の規 定に準じて所要の職員を置く。
3 指導主事は,上司の命を受け,学校(学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規 定する学校をいう。以下同じ。)における教育課程,学習指導その他学校教育に関する専 門的事項の指導に関する事務に従事する。
4 指導主事は,教育に関し識見を有し,かつ,学校における教育課程,学習指導その他学 校教育に関する専門的事項について教養と経験がある者でなければならない。指導主事は, 大学以外の公立学校(地方公共団体が設置する学校をいう。以下同じ。)の教員(教育公 務員特例法(昭和24年法律第1号)第2条第2項に規定する教員をいう。以下同じ。)を もつて充てることができる。
5 事務職員は,上司の命を受け,事務に従事する。   以下略
 
  この第19条第3項が,指導主事が学校を訪問して指導・助言を行う法的根拠となる。
 教育長については,第17条に次のようにある。

第17条 教育長は,教育委員会の指揮監督の下に,教育委員会の権限に属するすべての事をつかさどる。
第18条 教育委員会の権限に属する事務を処理させるため,教育委員会に事務局を置く。
2 教育委員会の事務局の内部組織は,教育委員会規則で定める。
 
  第17条に「すべての事務」とあり,「指導に関する事務」もこれに含む。よって指導・助言は可能である。
  一方,第19条第5項「事務職員は,上司の命を受け,事務に従事する。」により,「指導に関する事務」とは区別されている。学校教育課長の位置づけは,第18条第2項により
 教育委員会規則で定めるべきものであるが,一般的にはに教育長の職務を補助する立場から,与えられた職務の範囲内で,指導・助言,命令ができる。
 

(4)各教育委員会において学校管理規則を定めています。これはどのような趣旨から,どのような法的根拠に基づき定められているものですか。
 
【 解 答 】
 学校の管理を適正に運営するためには,教育委員会の権限と学校(校長)のもつ権限とを調整する必要がある。学校が決定して処理すべき事項と教育委員会の判断を受けて処理すべき事項の区別を事前に明確にしておくことにより,学校に一定限度の権限を認めようという趣旨で「学校管理規則」を定めている。学校管理規則とは,教育委員会規則のうち,学校に関するものをいう。 
 愛知県江南市の学校管理規則の目的が,その第1条に書かれている。

第1条 この教育委員会規則は,江南市教育委員会(以下「教育委員会」という。 )の所管に属する小学校及び中学校(以下「学校」という。)の管理及び運営の基本的事項について定め,もって学校の適正にして円滑な管理運営を図ることを目的とする。
 
 第2条を例に教育委員会と校長の権限の違いを見てみよう。

第2条 教育課程は,学習指導要領及びこれに基づき教育委員会が定める基準により,校長 が編成するものとする。
 
  教育委員会と校長の権限を明確に示していることがわかる。
【 法的根拠等 】
  地方教育行政の組織及び運営に関する法律 第2章「教育委員会の設置及び組織」に
 次のようにある。

(教育委員会規則の制定等)
第14条 教育委員会は,法令又は条例に違反しない限りにおいて,その権限に属する事務 に関し,教育委員会規則を制定することができる。
 
  さらに,この法律の第4章「教育機関」には次のようにある。

(学校等の管理)
第33条 教育委員会は,法令又は条例に違反しない限度において,その所管に属する学校 その他の教育機関の施設,設備,組織編制,教育課程,教材の取扱その他学校その他の教 育機関の管理運営の基本的事項について,必要な教育委員会規則を定めるものとする。こ の場合において,当該教育委員会規則で定めようとする事項のうち,その実施のためには 新たに予算を伴うこととなるものについては,教育委員会は,あらかじめ当該地方公共団 体の長に協議しなければならない。
 
 
 

(5)学校管理規則の見直しにおいては,承認事項を届出事項に改めるなどといった改正が多く見られますが,許可(あるいは承認)と届出の違いについて 説明してください。
 
【 解 答 】
@許可について
 法令による一般的禁止(「してはならない」とか,「することができない」という文言が用いられる)には,次の2つがある。
 ア行政処分によるその解除が全然予想されない場合
    例えば公務員の政治的行為の制限(地公法第36条)
 イ公共の福祉に支障がないと認められる具体的事情があるときは解除が予想される場合例えば公務員の営利企業従事制限(地公法第38条)
   許可とはイの場合においてその禁止(すなわち不作為義務)を解除すること
  許可は,申請によってなされるのが通例であり,申請があった場合,一定の条件がそろっていれば必ず許可される場合と,許可権者の公益判断によって許可されるか否かが決まる場合とがある。(管理読本P752)
 
A承認について
  承認は,法令上種々の意味に使用されているが,公法上は,国又は地方公共団体の機関が他の機関又は人の行為に対して与える同意の意味に用いられる。        
(例)教特法第22条2項に,「教員は,授業に支障のない限り,本属長の承認を受けて,勤務場所を離れて研修を行うことができる」と規定している。この場合,承認は事前に得ることが必要であり,承認を得ずに行った研修を,職専免条例等により職専免扱いとすることはできない。(管理読本P782)
 
B届出について
 一定の事柄を公の機関に知らせることをいう。一定の手続きにより,文書を提出してすることを例とするが,口頭によってすることが認められる場合もある。
 届出は,物件の差し出しとは異なり,過去の事実に限らず,相手方が公の機関に一定の
行為を要求するものとも異なる。 ( 下村哲夫編 新教育法規用語辞典 )
 
 

(6)上記の提言を踏まえて,今後の学校管理規則の在り方について,どうあるべきと考えますか,説明して下さい。
 
【 解 答 】
 今後,子供の個性を伸ばし地域に開かれた特色ある学校づくりを実現するため,「教育委員会と学校の関係の見直しと学校裁量権限の拡大」という観点から,学校管理規則を見直す必要があると考える。その際,以下の各事項を踏まえる。
(1)学校の裁量権の拡大と自主性・自立性の確立を促進する観点で作成,運用されるべきである。
(2)画一的にならないような工夫を講じ,地域や学校の特性に応じた学校管理規則が制定されるべきである。
(3)学校の管理運営に関する権限と責任を保護者や地域住民に明確にする観点から,学校管理規則において統一的に示す工夫を講じるべきである。
【根拠】
・ 中央教育審議会答申「今後の地方行政の在り方について」  (平成10年9月21日)
  第3章 2 教育委員会と学校の関係の見直しと学校裁量権の拡大(P31〜P32)
<参考>
・ 中央教育審議会の答申に基づいて,これまで都道府県教育委員会が県内の教育水準の維持向上を図る観点から,市町村立学校の組織編制等に関する基準を設けることができるとしていた地教行法第49条の規定が,平成11年に削除され,各市町村教育委員会が独自にその学校管理規則を定め,自主的・自律的に管理運営に当たることが可能となった。