児童生徒の未来を育む学校づくり研究開発事業公表会
     −学校評価システムを生かした開かれた学校づくり−
平成17年12月2日(金)
海津市立日新中学校
                                   文責 土井
 岐阜・西濃地域の学校をこれまでにいくつか見たが、どこもレベルが高い。なかでも子どもを主役にする発想は共通しており、西濃教育振興事務所、または県レベルの強い指導を感じさせる。いろいろ回った中での個人的な想像だが、子どもの学びでは全国でも屈指の地域なのではないだろうか。今回は、西濃でも最南端に位置する海津市の学校でそのことを検証するとともに、学校評価の具体的方法を学んでみたい。
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 海津市立日新中学校は、「共に高め合い自立する生徒」を校訓とした中規模校である。
 往路でお千代保稲荷に立ち寄り、10時15分に学校到着。あいさつがよい。関ヶ原中学校を思い出す。誰もが笑顔で自然な挨拶をしてくれるので、こちらも自然に返すことができる。
公開授業110:30〜11:20
 2年1組社会科を参観。「同緯度で異なる気候」の学習である。
 放課中に係生徒が黒板に問題を書き、「この問題がわかる人」「わからない人は教科書で調べてください」といい、係に指名された生徒が答えを書いている。
 大学を出たばかりぐらいの若い女性教師が温かく見守っている。(後で聞いたら2年目だそうだ。)
 係生徒が、「まだ時間があるので、隣同士で教科書で問題を出し合ってください。」というと、ペアで問題を出し合って答えている。男女で並んでいるが、学級経営がうまくいっているようだ。
 時間になり、教師が前に立つと、全員がさっと席を立った。
 係が「今日も、相手をみて話しをしましょう。始めましょう、礼」「お願いします」とはじまった。授業の開始時に授業の目標を言い、終了時に反省を言うのが、岐阜県の学校の特徴のようだ。
 
 はじめに、日新中学校の授業の特徴をあげておく。

@ 係が授業開始時に「授業の目標」を、終了時に「目標に対する評価」を述べる。
A 教師が「今日の授業改善点」を生徒に明示し、授業の最後で生徒に評価させる。
B 本時の課題をカードで明示する。
C 授業の最後に評価表を記入し、教師がそれに対して朱を入れる。
D 授業の中で「交流」(意見交換の場)を位置づけている。
E 全教室に次の掲示が貼ってあり、意識している。
 「基本的な学習姿勢」
   1 ほどよい緊張感をもって、正しい姿勢を保とう。
   2 挙手をするときは、指先までやる気がみなぎるように挙げよう
   3 指名されたら、はっきりと返事をしよう。
   4 始めと終わりには、先生や生徒に心を込めて挨拶をしよう。
   5 学習の足跡は、ていねいに残しておこう。
 「聞く姿勢」
   1 話し手の方に、目と体と心を向けて聞こう。
   2 うなずいたり拍手をしたり、発言に反応しよう。
   3 自分の考えと比べながら聞こう。
   4 よく聞いてもわからなければ、聞き直そう。
   5 一言も聞きもらさないように、集中して聞こう。
 「話す姿勢」
   1 聞き手の方に、目と体と心を向けて話そう。
   2 聞き手によく聞こえる声の大きさで話そう。
   3 発言するときは、語尾までしっかりと話そう。
   4 聞き手の反応を確かめながら話そう。
   5 ていねいな言葉遣いで話そう。
 
T「今日は気候に影響するものについてみんなで考えていきたいとおもます。」
「今日の社会で何を考えるか、課題を作るときの資料とか、情報からどうやって考えを持っていくか、最後に評価表で評価してください。」そして、「今日の授業改善点」として、課題づくり、資料の工夫をあげた。
 
 代表生徒が夏に訪問した、ロサンゼルス、フェニックスのふたつの都市を地図帳で調べ始めた。位置をさがして、マーカーでマークする指示が出された。やや指示があいまいで、聞き取りにくかった。
 国名と緯度を確認した後、「緯度が同じだね」と言い、2枚の写真を提示し違いを聞いた。最前列の生徒が後ろを向いて「生えている植物がちがうと思いますがどうですか」「賛成です。」全員が意見に反応している。
 この後のやりとりで、ロサンゼルスが「広葉樹、温帯」、フェニックスが「サボテン、乾燥帯」などのキーワードが出てきた。
 そして両者の雨温図を掲示。そのちがいを生徒が説明してる。最後列の生徒の説明を、みんな後ろを振り向いて聞いている。そのあと、「わかりました」との反応。
 反応にもパターンがあるようだ。相手の意見を聞き分けて、それに応じた反応を自然にしている。話を聞かざるを得ない状況に生徒を立たせているので、中学校2年生の難しい時期でもしっかりと話を聞くことができる。
 最高気温と年間降水量を比較「30度、353ミリ」「40度、187ミリ」そして課題が提示された。
「なぜ、同じ位の緯度なのに気温や降水量に違いがあるのだろう」
 落ち着いた語り口だ。
「ロサンゼルスは海に近く、フェニックスは内陸。海流の上を吹く風の影響」と言う予想が出る。「どうですか?」といったが、さすがに他の生徒の反応が薄い。そこまで考えていなかったからであり、機械的な反応でないことがわかる。次の生徒の「標高の違い」という発言に対しては「わかりました」の反応が出た。
 
T「それでは課題追究に移ります」
 資料を配付。資料1「太平洋からロッキー山脈までの断面図」資料2「太陽のエネルギーと植物の関係」(雲や植物がないと地面に当たるエネルギー量が多いというもの)、資料3「風と地形の関係」(海からの湿った空気が山脈を越えると乾燥するというもの)
 資料から、各自で課題を解決するのがルールのようだ。すぐに取り組みはじめた。
T「11時5分までとるでね。相談もOKにします」名古屋弁だ。
 教師は、座席表をもって回りながら、アドバイスや質問に答えている。ノートに書かれた言葉に線を引いて○を打っている。また、配付した資料にヒントが書かれたHelpカードを必要に応じて渡している。効率的な支援と言える。
 教室には道徳コーナーがあり、前時の資料と、生徒の感想、教師の思いが書いてる。
 生徒を集中させる技術がやや弱いのが残念だが、それでも、生徒は落ち着いて学び合っている。学習のルールが、生徒を自然に学習に導いているという印象である。
 
 時間が来た。一斉に手が上がる。35名中28名ほどが挙手。
 前に出て説明を始める。「どうですか?」に対して、「わかりました」「つけたし」の反応がでる。「僕は、○○さんの意見に付け足し、日本の積雪の状態に似ていると思います」と、奥羽山脈を例に出して説明しだした。既習事項が身に付いている。
 この学校でも、男性同士でも「○○さん」とよんでいる。これも岐阜県の特徴だ。
 
 机間指導の間につかんでおいた意見を、意図的に指名しながら徐々に発展させ、生徒の意見だけでほぼ問題は解決された。このあたりは、2年目の教師とは思えないうまさを感じた。
 教師がまとめをはじめた。ほぼ解決済みなので、もう少し要領よくやってもよい。そこで浮いた時間を使って、さらに印象的な写真を見せると、今日の授業がより深く生徒の印象に残るのだが…。   
 4分前に、「今日のまとめを書いてみましょう。」振り返りだ。
 自分の言葉で授業のまとめをするのは、よい授業の条件だ。それを発表させて、分かち伝えたいのだが、時間があるか?
 2分前に「評価表に評価してください」の指示。評価表はよく工夫されている。
 ここでチャイム。係生徒が「挙手ができた人は手を挙げてください。ひとりも手を挙げていない人がよかったです。意見に反応ができてよかったです。」といい礼で終わった。
 
公開授業2 11:30〜12:20
 はじめに2年4組の国語を参観。ここも若い女性教師だ。
 授業開始時の挨拶、「今日はインタビューの仕方を勉強するので、グループ内で教え合いをたくさんしましょう」「はい」「礼」「お願いします」
T「今日は、前回勉強したインタビューのこつを生かして、インタビューする勉強です。」と、今日の課題を明確にしている。そこでは「教え合い」を強調した。
 インタビューのこつを確認するため一人を指名、「相手の話に反応しながら聞く」「賛成」、これ以後は生徒が次々に指名していく。「詳しく聞きたい話について追加の質問をする」「相手の話に対してじぶんの考えを述べる」、それぞれに「同じです」という反応が続く。
 ここで課題の提示。「インタビューのこつを意識し、より多くの情報を得られるインタビューをしよう」「ノートに書いてください、2分とります。」と言ってタイマーをセット。リズムがよい。
 「これができたらインタビューは評価カード全部Aだよと言うものを先生がやってみます。」今日は質問事項2でやってみます。90秒。「目的を話す」「お礼の挨拶」を確認して、ゲストを相手にインタビューの実例を始めた。確かに、よいイメージが生徒に植え付けられた。
 次は生徒の番だ。持ち時間は90秒。3人一組で、一人は記録をする。追加の質問と、意見を意識しながら記録できるように工夫してある。一人を記録者にすることで、後の評価が可能になる。
 次に、「反応」「追加の質問」「自分の考え」それぞれに対して、B,Cの評価基準を示した。「○分間の練習後、中間交流をしてみましょう。」
 授業先進校では、「交流」が、授業の中で主流になりつつある。
 ここで1年4組の数学へ移動。少人数での授業だ。黒板に、「自分たちで創る授業の改善点」「中間交流、グラフ用紙の種類」と明示してある。
 課題は「反比例のグラフをかき、比例のグラフと比べよう」と貼ってある。
T「わからないことをはっきりしてみよう」に対して、「表からグラフのかき方がわかりません」、T「アドバイスをしてあげてください。」、説明後「わかりました」  
 このあともわからないことが出され、それに対して生徒から解決点が示された。
 教師がやろうとしている「学び合い」という意図が明白に表れている。
 
 少人数のその相方の授業。10名しかいない。
 問題を解いていた。「やめ。もっとやりたいのはわかるけど、疑問を持った人に力を貸してあげよう。」この言葉にしびれた。言葉の端々に、「高め合い」という発想があふれている。全学級の黒板の上中央に掲示してある学校の教育目標「共に高め合い 自立する生徒」にふさわしい言葉かけである。
 掲示してある、「数学の学び方(授業の流れ)−自分たちでつくる授業−」として、流れがかかれている。 
 他教科の流れと共通している部分も多いので、紹介したい。

学 習 活 動

学  び  方

1 問題提示
 今日はどんな学習をするのかをつかむ

・問題をよく読む、よく聞く、よく見る。
・分かっていること、求めるものをはっきりさせる
・問題の様子を絵、図、記号を使って整理する。

2 見通しをもつ
・何を解決することが大切かをはっきりさせる
・解決するための手がかりとなる見通しをはっきりさせる

・分かっていることから、さらに分かることはないかを考える。
・困ったことや疑問をはっきりさせる。
・似た問題がなかったかを考える。
・前の問題と同じ所、違うところをはっきりさせる。

3 課題づくり

・今日の学習のポイントとなることを考える。

4 個人での追究をする
・自分なりの考えを書き出す。 



 

・簡単な数に置き換えて手がかりを見つける。
・操作をしながら考える。
・〜だから〜だと考える。
・図、表、式などを使って考えをまとめる。
・考えたことを順序よく整理してまとめる。
(規則性に目を向ける)
・わかったこと、分からないことを整理しておく。

5 集団での追究する
・解決に向けて誰もが認め、簡単でわかりやすい考えと、高め合うための話し合いを組織する。

 

・分からなかったことを仲間に聞く。
・できたところまでを発表する。
・やったことをやったとおりに、考えたことを考えたとおりに発表する。
・友だちの考えを考えながら聞く
(自分の考えと同じ所・違う所、わかりやすいか、いつでも使えるか)

6 まとめ
・自分の言葉や仲間の言葉を使って今日のまとめをする。

 

・解決の結果やその時に使った数学的な考え方をまとめる・
 自分の言葉→発表→学級としてのまとめ
・今日の学習で大切にしてきたことは、今までやってきた学習にもつながっていないかを振り返る。

7 評価問題
・今日の学習内容を定着させる問題に取り組む 

・今日学んできたことを振り返りながら、自分の力で解決できるようにする。
・出来ぐあいを家庭での復習の目安にする。

8 反省・感想
・反省欄に記入する。
・書いたことを発表、紹介する。
 

・今日の学習で分かったことやなるほどと思ったことを書き出す。
・仲間の良さについて見つけたことを紹介する。
 
 
 3年4組の英語に移動。課題は、「仲間の意見を聞き、その意見に関わらせながら自分の意見を述べよう」
 ここでも会話をする役と、評価する役がおり、評価表に記録している。研究でやろうとしていることが明白だ。
 
 1年1組の理科では、「チームの課題を解決しよう」として、チームごとに実験をしている。「砂糖、ミョウバン、硝酸カリウムの再結晶を作る」「なすと紫キャベツの煮汁で指示薬を作る」など、黒板にグループごとのやりたいことが貼られている。 
 実験をする子と、模造紙にまとめる子、そしてそれぞれにチームごとに評価表がある。
 
 3年3組の美術は額縁づくりで、課題は「素材の特質を生かし、飾りの部分を工夫して作ろう」
 黒板には、今日の授業改善点「フリー交流 仲間の作品を見に行くことでお互いの技術を学びあう」と書かれている。ちょうど評価表を書き始めていた。「○○さんの作品を見て〜」と記入されており、課題が意識されている。観点別には、項目ごとにABCDをつけていた。それにしても教師が若い。
 発表では、OHCで作品を見せながら、「こう工夫したけど、○○さんの作品を見て〜したいと思いました。」拍手が起きる。ここでもやりたいことが徹底されている。3名発表後、自己評価を書き始めた。掲示も、レベルが高い。
 
 1年2組の技術では、パソコンで自己紹介カードを作っている。授業はまとめに入っており、前時までの作品と、今日の改良後の作品を見比べて、学級全体で意見を述べあっている。
 学習活動が、「評価」の発想で組み立てられている。とても参考になる。
 
感 想
 どの授業を見ても、教室へ一歩入って板書を見るだけで、教師のやりたいことが明確に伝わってくる。それが研究テーマと直結しており、言い方は悪いが「はずれ」がない。研究として、とてもハイレベルだ。
 スタイルが、教科の枠を越えてしっかりとそろっている。学習の約束、話し方聞き方、課題の明示、交流、相互評価、自己評価。それ以上に「困っている子を助けてあげよう」という言葉に代表される教師の目線。
 こうした研究は、よほど強力なリーダーがいないとできることではない。
 しかし、そうではないと思う。この地域では、どの学校もある程度以前からできていたことなのだ。それに、評価研究を加えただけなのだろう。
 
 考えてみれば、学校目標の「高め合い」というのは、相互評価が前提となる。今の力をお互いにより高めるためには、互いの力を把握できなくてはならない。そのための観点と手だてを与えるのが教師の仕事であるのだろう。
 これは、教授システムとしてはたいへん合理的だ。一人で40人の子どもを引き上げるエネルギーは膨大だが、子ども同士が高めあ合えれば教師は楽である。そこで生まれた余力を、補充・発展学習などに向けることもできる。
 話は変わるが、どの教室にも教室の4分の1をしきるカーテンがある。着替え用であろう。着替えの場所には苦労している学校が多いと聞くが、これなら安くすみそうである。
 また、教室に、「議会便」と書かれた封筒が貼られていた。そこには、「平成17年度生徒会スローガン 自ら動き 仲間と考え ともに自立へ〜心ある活動を通して〜」と書かれている。」執行部や各委員会への提言を行うための目安箱であろう。このスローガンや目安箱のシステムにも学校目標の存在を強く感じた。
 
昼 食
 生徒は食堂でクラスごとに固まって食べるようだ。給食当番が来て、準備を始めた。
 土地に流れる音楽によって、クラスごとに整列して入場するシステムのようである。
 
 その後、生徒による中庭コンサートがあった。学校の柱が、「挨拶、清掃、合唱」と紹介があった。明快な三本柱である。
1年生   コスモス
 うまい。声の質がそろっている。1年生とは思えない質感、高音でも下がらない音程、
三重大附属とはちがう感動を得た。
2年生 友よ北の空へ
 気温の低さと曲の難しさもあって、やや音程が乱れたところもあったが、強弱とテンポの変化を表現したよい合唱だ。
 
3年生 未来への決意 の中の第1楽章 歴史(アカペラ)
 学年合唱をアカペラでやる勇気がすばらしい。そして、そのレベルも期待以上のものであった。たいていは音程が下がってくるものだが、発声練習もしないで、よくあれだけのハーモニーが維持できるものだ。感心した。鍛えられている。
 これだけ上手な合唱を聴かされると、自分はこれまで何をやってきたのかと反省させられる。
 研究紀要の後書きにこうある。

・・・県の重点の中にもある「生徒中心主義の教育の推進」と言う考え方でした。すべての教育は生徒のためにある、そのために現状に留まることなく、常に改善を怠らないこと」これこそが、生徒一人一人に確かな学力や豊かな心を育てていくことつながることになる。まさに、本校の教育の根底に流れるもの〜日々新たなる前進そのものでした。
 
 数々の岐阜県の学校で見てきた生徒の姿、「生徒中心主義」は、岐阜県の方針だったのだ。
公開授業3 14:00〜14:50
 社会科 自分より少し年配の男性教師だ。
 
 準備学習始めます。といい係りが前に出て問題を口頭で述べ、指名して答えさせていた。
 起立「今日は発言するときは聞き手によくわかるように発言するようにしましょう」「はい」「お願いします」ここまで、どのクラスも統一している。
 
T「今日の重点目標」に教師が自分の努力したいことをのべて、判定してくださいと宣言した。「わかりやすい黒板」「資料をふやす」を生徒に示した。  
T 企業、家計、銀行の図を示しながら
 「お金の流れを金融と言います。さあいってごらん」「金融」中学3年生が声をそろえて言うのを聞くのは新鮮だ。確かに見るだけよりも定着する。
T「みなさんは店のオーナーになりました。先生は客。商品はこの蘭。値段は10万。」
そのご、一万円札、そして有名カード、無名カードを示した。売ってくれる順は?と聞くと、生徒は、1 日本銀行券、2 有名カード、3 無名カード の順位を付けた。
 判断基準は?と聞くと、最前列の生徒が後ろを向いて話し始める。「わかりました」と言う反応。二人目は「信用」という言葉で説明始めた。
 ここで、課題明示「取り引きできる信用って何だろう」
 教師の書き順がいくつか違うので違和感を感じた。たかが書き順、されど書き順。馬鹿にしてはいけない。
 予想をはじめる。教師は、座席表に記入しながら机間指導。生徒はやや答えにくそうだ。確かに、大人でもなんと答えてよいのかわかりにくい。   
 9名挙手。「仲間の意見を聞いて、取り入れられそうなら追究してください。」との助言の後、「たくさんの人が使っている」「わかりました」「会社に払えるお金があることが必要だが、無名会社は払えるかどうかわからない」「わかりました」
 「払ってもらえる保証がないと、安心感がない」など、6名が発言。
 教師がキーワードをまとめる。ここで教師が6種類の資料を紹介。
「友達の発表を聞いて、何で追究していくか決まった人は手を挙げて。」一人があげていなかったので、その子を教師が座席表にチェック。
 「でははじめ」の声で、生徒は、各自で必要な資料を取りに行き調べ始めた。
 
 相談を始めた4人グループがある。個人追究からグループ追究がパターンなのだろうか。
「ここまでで見つけたこと、考えたことを発表してもらいます。30秒でまとめてください」
 教師は、それぞれの段階で、「課題がもてたか」「予想はもてたか」「考えを発表できたか」のカードを黒板に貼っている。そのときが、生徒の自己評価の機会であるのだ。なるほど、教師がやらせたいことがは明確に伝わってくる。
 発表。挙手は多くない。やはり答えにくいのだろう。「○○さん」と男子生徒が指名される。
 その後も、座席表を見ながら指名。発言者は、「〜の資料を見て、〜」と根拠を明確にして話している。一人一人が立って、いすを入れてから発言する。それぞれ、よい意見だった。    
 急に一人の保護者(広報係)を指名。
「主婦の立場からいって、みんなが使っていること、実績、トラブルがあっても保証してくれるだろうというのがポイントです」と、信用について考えを述べた。これはインパクトがある。
 教師がまとめにはいった。その後、「今日出てきた言葉を使って、自分の言葉で書き込んでみましょう。」
 これは大事な作業だ。ただ、2年生でも感じたが、たとえ一人でもよいので全体の場で発表させてほしかった。それが確認になり、まとめる力が弱い子にとっては救いとなる。
「まとめを書き込んだ人は、評価表を書き込みましょう」
「その間に、ひやっとしたことを言うね。60年前、起こったことは貨幣の交換。日本銀行券はほとんど使えなかった。・・・」と、日本銀行券でさえ紙くず同然になった事実の紹介があった。本来は、もっと早めに出すはずのネタだった。
 終わりましょう。「今日の先生は、資料工夫できたかな?板書わかりやすかったかな?」と生徒に聞いている。
「起立」「今日は大きな声で発言できたからよかったと思います」
 遊び心たっぷりの授業だった。
 
 
〈感想〉 
○ 社会科の授業として
 金融の学習と言うよりは、信用の根拠を問うものであった。「後藤カード」を使って、有名カードを比較させるなど、ユーモアにあふれた授業であった。
 ただ、課題の表現が抽象的だったので、生徒が考えにくかった感は否めない。
○ 研究として
 授業の改善点を生徒に説明し、その改善点に対する評価を生徒に聞いていた。これを1年間続ければ、授業の質はずいぶんよくなると思う。
 
全体発表
○研究主題「サイクルとしてはたらく学校評価システムの開発」
○学校評価システム:学校の教育の質の向上をめざして、点検・評価を行うとともに、そ          の結果や改善状況を公表することにより、開かれた学校づくりを推          進するための組織や仕組み。
○研究内容:P−D−C−A:学校評価システムのサイクル過程
  Plan(計画)−Do(実施)−Check(評価・分析)−Action(改善策の策定・公表)
○学校評価の目的、評価システム構想、年間計画、校内組織を確立した後の評価の実際
 @全校授業アンケート → 結果分析・改善案作成 → 公表 → 実践 → 再評価
 A保護者アンケート → 公表
 B単元評価システムプランの作成
 C生徒の自己評価・授業評価
 D共通評価項目を設定した自己評価と外部評価 → 公表 → 改善策提示
 Eマニフェストの公表
(以下略)
 
☆★☆ 全体の感想 ☆★☆
《授業研究として》
 すでに書き尽くしたので詳しくは述べないが、これまで岐阜県の学校で感心したスタイルをここでも見ることができた。
 研究としては、教科の壁を越えて、学校全体で研究目標に迫ろうとしている先生方の姿勢には、感動を覚えた。よくここまで共通理解し、形だけでなく、ハートまでそろったものだと思う。拍手を贈りたい。
 もちろん、生徒にはまだまだ伸びる余地は感じる。
 生徒の発言で「自立」を感じたものは少数だった。「聞く」は型に沿って育ってきているが、「話す」、さらには長良東でやっているような「考える」型の定着が弱いために、積極的な発言は感じられなかった。
 ただ、このまま地道に実践を積んでいけば、この先生方なら、そしてこの素直な生徒なら実現できると思う。
《評価研究として》
(1)学校評価を前面に出した研究を初めて目にしたが、その重要性が理解出来た。
 ただ、生徒や保護者に対するアンケートと、その結果の公表は、どの学校でもすぐにできるものではない。他者による「評価」は、あくまでも教師にある水準以上の力があり、かつ前向きな教師集団であることが前提となる。結果が明白になることで、力がない教師の休職者が続出することになりかねない。日新中学校は、見た限りではどの授業もレベルが高く、評価を問うに値するものばかりであった。よい学校は学校評価を生かしてますますよくなり、学校評価ができない学校との差が開く、いわゆる二極化が進まないかが不安になる。
 ともかく、日新中では、生徒や保護者の評価を分析し、改善点として次の策を打ち出している。見事である。
 
(2)単元評価システムプランの作成とそれによる生徒の自己評価
 これも、一度作ってしまえば有効な方法である。単元に1枚ならそれほど無理がなく、
永続性がある。とかく、これまで評価研究は“労多くして益少なし”と言われてきた。効率的で、実効性のある方法として参考になる。
(3)「今日の授業の改善点」の提示 
 意識化としてやらないよりはやった方がよいが、毎時間となると続くかどうかが気がかり。形だけのもになりやすいので、目的を見失わないようにしたい。
(4)マニフェストの作成とその評価
 かなり具体的な内容であり、評価もしやすい。1年目だから仕方がないが、マニフェストは達成目標を明示するもの。2年目以降は、1年目の数値を参考にして、数値目標を出していきたい。
(5)研究協力者会議による評価
 学校評議員制度をはじめとする外部評価制度は、これまでの報告例では実効性に疑問を持っていた。今回の発表でも、「それでよくなる」というよりは、「より客観的な評価」「学校への関心、参画意識を高める」成果があると認識した。年3回仰々しくやることもよいが、頻繁に来校していただき、雑談の中で意見をもらうことも有効であると思った。
《全体として》 
 評価の研究は1年半では難しい。ぜひ今後も継続していただき、先進校として岐阜県といわず、全国にその成果を発表してほしい。
 必要性はよくわかった。ぜひとも、シンプルに、日常的に無理なくできるものを今後も改良を重ねて確立していっていただきたい。 
 参加して、本当によかったと思える研究発表会であった。