第53回小学校教育研究発表協議会参加報告
平成18年5月31日(水)
                                                             愛知教育大学附属名古屋小学校
以下の記録は、土井がその場で要約しながら記録したものです。言葉足らずのもの、誤解があるかもしれませんが、主催者や講演者には全く責任はありません。したがって転載はご遠慮下さい。
                                 
講 演
「これからの学校教育と教師への期待」法政大学教授 尾木直樹氏
(14:40)
 名古屋駅を降りたら暑い!こんなに熱いのに、よく生きているね(笑)。タクシーに乗ったら「今日は特に熱い」といわれた。ビルの上には29度の表示。この体育館は特に暑いのに、よくこんな整然とお座りになって…(笑)。
 一番前は教育実習生?がんばって教師になってください。今は教師を目指す人が減って、免許更新制度なんて言っていられない。昨年は、東京の倍率が2.2倍、大阪1.9倍
採用試験にすぐ受かっちゃう。これは大問題。高知は高いけど、愛知はどう?
 (「知らない」教育実習生)それでいいの、知らない人が受かる(笑)。
 我々は7倍はほしいと思っている。民間では7倍を切ると急に質が下がると言われている。東京、大阪は危機。今は東京は大阪で説明会を開いたり、大阪は東京まで乗り込んでいったりして募集を相乗りでやっている。
 大阪は、京都や滋賀など近隣の府県で教員の引き抜きをやっている。だからあの辺の教育委員会ごとに仲が悪い。(笑)
 愛知は栄えている。経済も。就職率も高い。トヨタと愛知教育大学ががんばっているおかげ(笑)。講演では、いろんなところに目配りしている。これが評論家。「言」に「平」と書くでしょう(笑)。
 今日の演題は気に入っている。「これから」「期待」、未来に向かっている。それにしても、現実がどうなっているかをまず押さえなければいけない。これが話のだいたい3割ぐらい。次に学校教育の方向についてが3割、そして教師がどう生きるべきかを3割。普通、このテーマでは4時間欲しい。今日はそれぞれ30分で、計90分でやる。
 
 今朝もいろんなメディアから連絡があった。千葉から連絡があった。事件があったから。千葉の事件知ってる?知らない?先生は案外社会性がない。かつて教員だった頃は教員は社会性があったと思っていたが、今はないと感じている。
 講演で駅を降りるでしょ。案内の人は来ているけど荷物も持ってくれない。前をさっさと歩いていってしまう。泊まりの時が多いから、こっちは大きな荷物を持っている。今日は持ってもらえた(笑)。こんなことは10回に1回。普通は、持ってくれない。
 この前仙台では、案内の人がタクシーで自分から先に乗った。こんなことは初めて。
「あなた指導主事でしょ、それではだめだよ」と言ってあげた。
 これからの教師はこれではだめ。こうだと何かあると防戦で精一杯。教師は社会性がないと保護者が思っていると、何かあったときに学校は批判の的になる。辛口だけど、何でも一生懸命やればいいのではない。
 
 珍しい経歴がある。私は、小学校4年から6年の国語、中学校、高校も教えていた。今大学で教えており、早稲田では大学院もやっている。小学生から院生まで教えたことになるが、これは案外珍しい。
 こうしてみると、教育って何だろうと考えることが出来る。発達論を現場体験から学ぶことができた。皮膚感覚で感じることができたことは大きい。
 今、法政大学にいるが、大学生はかわいい。ちょーかわいい(笑)。
 大学でも新任教官が採用されて、大学生を教えるのは初めてというので相談に来た。「学部長が変なことを言うのですが、本当でしょうか」と言う。大学生にどのように接すればよいかを聞いたら、「中学2年生に接するように接してくださいと言われたが本当でしょうか?」と言う。私は学部長に対して本当に感心した。高校2年生でなく中学2年生と言ったが、「その通りだと思う」と言った。ところが実際はほとんど小学生だった(笑)。
 
 大学生を鍛えている。端的に言うと、2泊3日の合宿をやっている。今の大学は合宿をやらないと成り立たない。マスコミ的に人気が高いのが神奈川工科大学。入るときはそれほど難しくないが、就職率は高い。ここは7泊8日でやる。そこでは、ノートスキル、リーディングスキル、論文の書き方から原稿用紙の使い方まで、そこからやる。
 法政でも真似をしている。2泊3日。私も2時間の授業を5コマやった。たいへんなんだから。62歳の教授でも授業をやる。
 合宿へ行って、担当教員から伝言があった。バスを降りるときに「小さなゴミまで拾うように」と言われた(笑)。そんなことまで言われる。
 よく言われることだが、大学の先生は教育学をやっている人はいない。大学の先生は研究者で教育者ではない。教員免許を持っている人は少ない。ひどい。悪く言っているのではない、正確に言っているだけ(笑)。
 人を育てるのは教師のスキル。専門性がある。
 しかし、大学では教員がやってしまう。ごみひろい?やめてくれ(笑)。学校なら、係分担すればすぐ出来るのに。
 合宿所の点検も教員がやった。自分は運悪く女子学生の係をやった。ゴミ袋一つ渡されて回ったが、女子学生の生態が勉強になった。ベッドでは、布団が抜け出したままトンネルが出来ている(笑)。スリッパは歩幅のまま広がっている(笑)。ゴミ袋一つでは足らない。男性担当の教員に聞いたら、「パーフェクト」と答えた。女子学生はきたない(笑)。
 バスでは「小さいゴミを拾う」と降りる前に呼びかけておいた。学生は小さいゴミを拾っていた。点検したら、きれい!大学生も1回にひとつのことだけ指示を出せばできる(笑)。後ろに行って運転席の方を見たら、ペットボトルなどの大きいのが残っていた。私の指示が不的確だった(笑)。小さいゴミと大きいゴミを拾いましょうというべきだった。でも小さいのは残っていなかった。そんなんで的確に動いてくれた。
 しかし、これでは将来社会に出るとき、面接では受からない。面接では、質問にそのまま答えればいいのではない。質問の本質をつかまないといけない。オーム返しで聞かれたことだけを答えるだけではだめ。
 役に立つ?ここだけメモ取っている人が増えた(笑)。
 そんな感じで、大学生の教育はやりがいがある。こちらが向かっていけば、応えてくれると言うことを学生に教えられた。
 
 3年生のゼミが1月に終わった。14人のゼミで、「今日で最後だ」と言ったら、ゼミ生が「始めに5分ください」と言った。そして、「誕生会をやります」と言ってくれた。そこでは色紙をプレゼントしてくれた。プレゼントではビニル袋をくれた。商品の質がわかった。ロフトだった(笑)。100円かなと思った(笑)。中身は指圧器。いつも、ここが痛い、あそこが痛いと行っていたので、見かねてプレゼントしてくれた。いい気持ちだ。ゼミを3つもっていた。これがたいへん!
 1年生では、「ありがとうございました」と、12名のゼミ生が色紙をプレゼントしてくれた。「大好きな尾木先生へ」とハートがあり、裏まで書いてある。裏まで書いてある色紙をもらったのは初めてだ。2枚作ればいいのに(笑)。
 小中学校でも、こうした色紙はなかなかもらえない。
 読んでみると、教育の本質を教えられれた気分だ。
 「この基礎ゼミだけが楽しみ。奇跡的に受けることができて初めて神の存在を知った。」
これは、ゼミは10人を予定していたが、150人申し込みがあった。300人中、半数が希望した。動機などを書かせて、最後は30人ぐらいから抽選で選んだ。半分はできない子を選んだ。できない子がいるとおもしろ。
 エリート校出身の子はパソコンができない。有名私学の子はできない。情報の時間を削られて、数学や英語ばかりやっているから。かわいそうに。県立はこんなにできるぞ(笑)。しかし、奮起してがんばる。何ヶ月もすると、最もできるようになっている。そこで、できたことをほめる。すると感動する。県立高校出身の子にも、がんばればここまで変わるということを実物で見せられる。すると、そこでの友情や助け合いの質が高くなる。これが、できる子ばっかりだとそうはいかない。今年も出来ない子を入れた。
 「偶然ラッキー。相当の倍率だった。先生から教わったことはたくさんあるが、子どもとの関わりを学んだ。」
 2人目。「本当によかった。1年生のうちにレポートの書き方がわかった。プレゼンの勉強もできた。先生から大きな影響を受けた。ありがどうござました。」
 基礎ゼミでは、基礎的なスキルを全部徹底して教える。論文の書き方、句読点の使い方、表紙の付け方なども教える。
 3人目。「少しは書けるようになりまた。少しではなくかなりです。」この子も書くのが苦手な子だった。こういう子は、ぐんと上手になる。うまい子をさらに上げるより、下手な子を上げる方が簡単。成果が目に見えて出るので褒めると雰囲気もよくなる。
 次、女子学生。「本当によかったと思っています。基礎ゼミが受けられたこと、抽選で選ばれた時はうれしかった。」ちなみに、大学では、学生を伸ばすことをしっかり考えている。それが生き残りの術。いろいろな事例から、どうすれば伸びるか分析する。
 「先生が面接官で救われた。尾木先生は優しかった。あの時から出会っていたのですね。幸福者だと思っています。夢を広げることもできました。大好きです。温かい心をもった教師になりたいです。いくつかある大学や学部の中で、尾木ゼミを受けることができたのはよかった。」
 目に見えるような教育効果を提示できれば、このように感謝状をくれる。
 父の日には入浴剤をもらったことがある。あのいろんなものが浮くやつで、風呂釜の後始末が大切だった。女房にいわれた、変なものもらってきてと(笑)。
 学生があふれるように愛情を返してくれる。小、中、高、大学と、人と人との関係ではみんな一緒。夫婦関係も一緒。でも離婚も捨てがたいよ。いろんな配慮をするから、背が伸びなくって…(笑)。
 まだ導入(笑)。
 教師はステキ、がんばって!
【学校教育の現状】
 それで、全国の学校教育がどうなっているか。秋田の事、茨城の事件。まだ捕まっていないものも含めて、今年で9軒の誘拐殺傷事件が起きている。学校は安全を守ることに必死。国を挙げて神経質にやっている。
 こんな状況になることをだれが想像していたか。2000年には考えもしなかった。大人の私たちが子どもを守れなくなってきた。こうなると教育は次の段階。命の安全は第一だ。
 しかし、大人も一緒。未来からの使者の子どもをこんな状況にするのは、未来がないのと同じ。子どもの危機は大人の危機、未来の危機。
 事件があった地元ではどんどん動きが早くなってきた。今や送迎も車。
 しかし、安全だがこれでいいのか?という疑問の声が挙がる。確かに命は守れるが、道草をしたり、じゃんけんをして荷物をもったり、これがいじめにつながるが、柿をこっそり取ったり、いろんな冒険や小さなトラブルを通して成長していった。登下校、特に下校はワクワクした。ここで人間力を鍛えていった。
 それを、送迎をするとおかしいんじゃないと言い始めた。これはおかしい、でもやめられない。事件のあった所から、問題提起を受けている。本質にぶつかっている。
 これには可能性を感じる。その学校や地域だけの問題ではなく、国全体の問題。踏み込んでいければ…。
 命の安全のためには、犠牲を払わなければいけない。しかし、こんなこともあった。400数十メートルしか離れていない保育園に輪番で送り迎えしていたのが、それがストレスになり、2人の命を奪ってしまった。縛りが強くなれば、それが殺意をまねく。これは構造的な問題である。
 
 命を守ることは大変。子どもに聞くと、防犯ブザーをもたせてもだれも駆けつけないと言う。講演会の場で、「ブザーの音を聞いたことがある人」と聞くと7,8割手が上がる。その人に、駆けつけた人は?と聞くと手があがらない。あがったのは7,8人のごっついおとうさんだけ。
 なぜ行かなかったのと聞くと、「どうせいたずら」だからと答えた。子どもを写メールで撮っただけでニュースになる時代。防犯ブザーがなったら2,30人がかけつけてこそ意味がある。これは、みんなで安全を守るというメッセージを伝えることのトレーニングだ。これが教育。
 火災報知器が鳴った時も大事にしなければだめ。どうせいたずらだとすぐ解除してはだめ。全校で本気になって逃げる、みんなが迷惑を受ける。これを見ていたずらした子が反省する。このメッセージ性が大事。これが日本は下手。平和主義で、助け合って生きてきた。この良さが災いになっている。
 
 マスコミもだめ。NHKはまだいいが、民放では被害者の事故現場を何度も映す。血糊も映す。前には、ある全国系新聞が1面に血糊をべったりカラーで載せた。だめ。せめてぼかしてほしい。白黒でいい。
 NHKは淡々と流す。アメリカでも、イラクの戦争で、焼死体が橋の欄干に吊された事件があった。こんなことが起きたら、アメリカの教育関係者は「そんな映像を見せないでくれ」と講義する。テレビキャスターは、子どもたちに断って、しかもぼかしを入れて放送をする。
 アメリカでは、9・10のツインタワーの映像を次の日から静止画像にした。日本では、尼崎の事故の映像を何度も見せる。あの曲がった車両、スピードを再現した映像など、遺族の思いをまるで考えない。日本は、何回も流す。よくNHKに「一言断りを入れて」と言う。それだけで、テレビは子どもたちを守ろうとしているというメッセージになる。
情報化社会では大事なこと。そういう視点がないのは残念
 NHKの局長に言った。5,6秒でいいからと。思いません?社会全体で子どもを守ろうと言うメッセージが発信されていたら、全国の学校では教育がやりやすくなる。でも難しいそうだ。なんせ非力で・・・。
 いかん!急ぎましょうね。これから本題にはいる。15時18分。
 
 全国の状況は、小中高問わず、あることに特化している。そのことを考えてほしい。 その前に、聞いてみたい。保護者はどんな子どもに成長してほしいと願っているか、4つ言うので、手を挙げてほしい。保護者の願いがですよ。

1 学力を身に付けてほしい      2 責任感が強い子になってほしい
3 ルールやマナーを身に付けて欲しい 4 人の心の痛みをわかる子になって欲しい
 
 どれだと思います?手を挙げてください。1だと思う人?だいたい18.5%ぐらい(笑)。2は?ほとんどいない 。3だと思う人?24%。4は?これ多いですね。64%。
 皆さん、名古屋市内の先生?愛知の先生?さすが愛知。こんなに多くの方が保護者の要求を当てたのは珍しい。数年前に名古屋の公会堂で聞いた。集まった保護者3000人中、1が十数人。4が圧倒的。
 ペーパーでもやってみた。講演の後だとぼくに影響されるかもしれないので、主催者に頼んで講演の前でもやってみた。全国調査でも、1が8.7%。6割が4。
 読売新聞もやった。1が19.4%、4が59.8%とトップ。愛媛県では1はゼロ、4が7割だった。
 ところが、先生の研究会に行って、2000人規模の会で聞いてみた。1番手が挙がったのは1で7割。袖が擦れ合う音がした。学力要求がトップ。4が2〜3割。
 今日の人はすごい。これは普段から親の中に入っている証拠。
 
 しかし、読売の調査では、学力向上を願う親が7割を越えている。マスコミは学力低下をアピールする。すっかりそういう世論は形成されてしまった。しかし保護者は健全。
 「学力は高い方がよいか?」と学力単独で聞くと高いに決まっている。だれだって、学力は低いより高い方がいい。しかし、他と比較して聞くと高くない。親にとってはもっと大きな目標がある。それを見失うような学力向上論であってはならない。これを非常に強く感じる。
 
 たとえば、小学校。ここは夏休みがある?東京は1週間早く切り上げる。
 こちらは?1日だけ?今時ないよ、そんなところ。どこも休みを減らしている。ある高校へ行ったら、「尾木さん、今年は2学期の始業式いつだと思う?」と聞かれた。前を思い出して、8月20日と言ったら、「始業式は8月17日」と言われた。クーラーもない部屋でそんな暑い時にやったら学力落ちるんじゃない?これは珍現象。
 夏休みの削減が激しく行われたのは東京の小学校。ある小学校は、夏休みは土日のみ。土日はもともと休みだから、夏休みなし(笑)。
 目的は学力向上。そんなことしたら、子どもも教師も疲れてしまうのではないか。
 東海ブロックの調査では、高校の44%がゼロ時間目、7時間目をやっていた。3年前の高校調査で、今では9時間授業もある。
 特に沖縄が熱心。これは議会の圧力で、全国調査で学力が低いから。英検、漢研をやる。他にも数研、地理研、歴研の5つを県立は全部やる。何とかテストを県下一斉にやる。その結果を廊下に張り出す。茶髪の子が、指さして、「私ここ!」と下から数番目のところを指して笑っていた。かわいい!(笑)。やっぱりなと思った(笑)。
 沖縄の学力は上がったか?全然。
 
 現場が追いつめられている。授業時間の確保に。文科省の基準に1時間足らなかったら、教育委員会から始末書を書かされた学校があった。調べてみると、70%の学校が基準より30時間以上越している。昔は裏帳簿があったから(笑)。今は実質的に超している。
 今は、授業時間確保。沖縄では台風に備えて、3,4日余分に確保している。授業をやれば学力が上がるか?そんなデータ見たことない。自然現象ならしょうがないのに…。
 PISA調査。ご存じのように一番高いのはフィンランド。比べてみると、日本の小中学校よりも授業時間が少ない。
 ドイツ、フランス、アメリカは日本よりはるかに多い。でも日本より低い。国際比較でもそう。フィンランドは総合的な学習が半分以上。
 現場感覚では、授業時数が多いと余裕が出ることは事実だが、学力が上がるとは言えない。
 教務主任をやっていると、時数確保が至上命令のように言われる。私が教務主任の頃は、教育委員会から強く言われたので、こっそり運動会の全校練習を減らした。そうしたらいつも会議で寝ていた体育担当に、そこだけ起きて怒られた。
 みんな苦しんだ。本当にデータを出し合った。教務主任は実数でやってみた。中学3年生男子の授業時数と成績を出し合った。当時はまだあった業者テストで比較した。
 授業時間実数でくらべると、結果は唖然!こう言うと比例しないことはわかるでしょ?ばらばらならまだわかる。唖然と言ったのは…、逆だったから。
 一番やっているところが下から2,3番目。一番少ないところが何とトップだった。
 少ないところがなぜ学力が高いかの原因を調べたら、文化祭が3日間あった。とても盛り上がったそうだ。生徒が自分たちで計画していろいろやったそうだ。運動会も盛り上がった。応援合戦などの準備時間が取っており、教師と子どもが一緒になって何時間も話し合った。遠足でもいっしょにテーマから話し合って決めた。自治の力、生徒会の力が強い、そうしたことがわかってきた。それがなぜ学力につながるか?
 
 応援合戦、団長はつっぱりががんばる。長らんを着てがんばる。暴走族のような服を着て、はだかでさらしを巻いて…。そんな状況の子がしきる。見事な応援をやってみせる。PTAも驚く。それまで、給食前にきて、給食のプリンが20個ほどなくなっていたのが、それ以後は、学校へ早く来るようになり、プリンが2,3個しかなくならないようになる。そして、「俺、高校行けるかな?」と言う。こうなると他の子も喜ぶ。他の子もあの子に習えと出来ない子の補助に入る。1週間たつと給食のプリンがなくならないようになる。それまでまじめを馬鹿にされて、いじめられるのがいやで宿題を出せなかったような子が、普通に宿題を出せるようになる。いじめがなくなる。できない子ができるようになる。
 偏差値、花の20代の子が、15点、20点とれるようになる。こうなると平均点は上がる。その結果、学力は近隣でトップをしめるようになる。雰囲気が良くなる。そういう中で学力が上がる。
 これがヒドゥン・カリキュラムといわれる。隠れたカリキュラム、学校の雰囲気などで、思春期の子には飛躍的に伸びると言うことがわかった。教えるスキルは大事。東京では予備校の先生が教え方を教えている。それを公立学校の先生が授業参観している。私に言わせれば屈辱的。狭い範囲の教え方だけ見れば、塾の講師の方がうまいに決まっている。学校では、生活指導から、健康から、すべてみている。それこそ、ヒドゥン・カリキュラムをつくっている。教師と子どもの関係をつくっている。教師もミスっていいし、困ってもいい。困り過ぎると困るけど…。大阪では、雨が降ると休み先生がいる。これは首だ(笑)。
 全校のムード、地域の力、伝統、この見えないカリキュラムが大事。以上が、授業時数確保の問題。
 
 あと3つ。時間がないので項目のみを言う。
2 難しい内容をやれば学力が上がると考える風潮がある。
 ここが私とコメンテーターとぶつかるところ。一般の子は何度教えてもだめな子もいる。一流大学を出たものは、そういう実態を知らない。出来ない子を目にしたことがないからわからない。小学校で因数分解をやるとか、内容のレベルを上げれば学力が上がるというような暴論がテレビではどんどん流される。中には、昔の教科書を使っている私立の学校もある。
 
3 競争原理を使って伸ばしていく。これは必ずしも間違いではないが、これを唯一だと思っていくと違う。成果主義だ。大臣が、学力テストを全国すべての学校でやると言ったので、全部でやる必要はないと言った。「いくつならいい?」と聞かれたので、統計学では200,300で十分ですよと言った。でも全国でやりそう。
 ゼロトレーランスもそう。文科省側は検討し、産経新聞は導入と書いてあったが、本当はやめた。誤報だ。
 そこの立場で一生懸命仕事をしていると、いろんなことがわかる。ゼロトレーランスのようなことは、突然見せられるとびっくりする。教育基本法も突然かと思ったら、担当者はずいぶん前から検討しているという。
 「再生法」の本がばか売れ。本当は岩波のようなが売れて欲しいのに(笑)。
 
 4番目がトレーニング主義のまんえい。脳トレーニングは間違いではない。新聞の今日の気温の最高何度と最低何度をすぐ引き算する。社説をひらがなで書く。こうすると認知症が回復することはある。しかし、同じ効果は漫画本でもある。芥川の作品よりも漫画の方が効果があるというデータもある。文字と絵があるから。
 ガーデニングは認知症の防止にもなるし、治療にもなる。料理をもよい。指先を動かして、段取りを考えて…。これでも脳は活性化する。ドリルとどこがちがうか?人を尊重しているか?生活を豊かにするか?機械的にやるか?
 どういうアプローチかが大事なのである。子どもの目線、豊かな感性や人間性の視点を忘れてはいけない。
 トレーニング主義は養老先生や東北大学の教授が言っているが、教育の視点からはちょっとずれている。現場がそこに流れることが心配。
 
 学力低下は文科省も下がっていることを認めている。しかし、大騒ぎするほどではない。けっして揺れているわけではないし、夏休みをなくすほどではない。山梨の高校では、ゼロ時間めをやめにして、夏休みを減らした。ゼロ時間目をすると、生徒が疲れてしまうからだそうだ。そして、45分授業にして7時間目を入れている。なぜ7時間目を入れるか?学校要覧に載るから。それも親のニーズ。でも、日本史などかえって下がらないかが心配。
 やりすぎると疲れてかえって学力が落ちてしまうかもしれない。そういう状況がある。
 
 一番重要なものは、今の現役の問題より大人の学力低下が問題。元文部大臣の有馬先生はいつも問題にしている
 1996年の国際比較。理科の能力の大人を調べた。調べる前は、有馬先生は「だめだ。ただでさえ日本は経済が好調で浮いているのに、学力までトップになったら世界の反感を買う。」と言ってストップをかけた。でもなんとかやってみた。やってみたら、理科の科学的知識が14カ国中、13位。科学技術の関心度が14カ国中14位。
 その大人たちの子供時代、IEA調査では、1964〜81年日本はほとんど1位だった。それが大人になると最低になる。
 これこそが問題。これにメスを入れないといけない。
 カナダはのんびりしているのに常に4,5位にいる。私の子どもが留学しているのでわかる。高校で1年に入れられたら数学が2年、3年、特進クラスとどんどん上げられる。で、何やっているの?と聞いたら、内容は私立中学入試レベルだそうだ(笑)。
 
 まだ二項目ある。
 学力とは何か?1987年のOECD「21世紀を担う学力形成」では、「人生を作り社会に参加する力量」これが学力だと定義した。そのためには、教科横断型の力量が必要となる。自己理解や学習意欲、生涯にわたってどう維持するかが問題となる。詳しい報告はぎょうせいから出版されているので読んで欲しい。2003年は読解が中心だったが、今度は理科で行われる。学力の定義もしっかりしているのでどうなるか。
 愛知教育大附属名古屋小のテーマは「未来をたくましく生きることができる」は、OECDの目指すものと重なっている。教科ごとに小さなテーマごとに起こしている。とらえる力、見通して解決する力。PISA調査では、問題解決能力が日本は低かった。PISAのいう問題解決能力とは何か。

 問題解決能力とは、「問題解決の道筋が瞬時には明白でなく、応用可能と思われるリテラシー領域あるいはカリキュラム領域が数学、科学、または読解のうちの単一の領域だけには存在していない、現実の領域横断的な状況に直面した場合に、認知プロセスを用いて、問題に対処し、解決することができる能力」である。
 
 
 読解力も話題になった。読解力の育成を目指す文科省を激励した。その方針は国際的な方針にあっている。PISAの読解力の定義は次のものである。

 自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力。
 
 
 PISA調査の数学調査。みなさんは問題を解いたか?これなら私にもできるといやされた方も多いのではないか。自信が出る。
 次のように数学的リテラシー能力を定義している。 

 数学的リテラシーとは、「数学が世界で果たす役割を見つけ、理解し、現在及び将来の個人の生活、職業生活、友人や家族や親族との社会生活、建設的で関心を持った思慮深い市民としての生活において確実な数学的根拠にもとづき判断を行い、数学に携わる能力」である。
 
 ついでに科学的リテラシーは次のようだ。

 科学的リテラシーとは、「自然界及び人間の活動によって起こる自然界の変化について理解し、意思決定するために、科学的知識を使用し、課題を明確にし、証拠に基づく結論を導き出す能力」である。
 
 こうした国際的な定義に根ざしたプログラムを考えることが大事である。
 
【学校教育の方向
 やっと2番に入る。2番目は学校教育の方向だ。
1 PISA調査は市民教育であるということ
 PISA調査では、いかに優れた市民を育てるかを問題にしている。学力が剥落するような大人を作るのではなく、見通しを付ける力をもてるような子どもたちを育てていく。その意味では、総合的な学習は貴重。今日はすごい実践をもってきた。時間がないので、報告できないのが残念。
 
2 うんと目の前の子どもに立脚する。そして、親の要求をほじくりあげて、まっとうなものにしていく。これが大事である。
 
3 子ども参画である。授業改革には、子どもの意見を採り入れるということだ。
 これで一気に変わる。僕は大学での教員評価の担当だが、法政大学も学生が記名式のアンケートをとっている。集めて、掲示板に公表する。それができれば、僕の仕事も減る(笑)。これを許す先生もステキ。すごいと思う。
 
4 ITリテラシー ここを徹底する。
 今や青少年は被害者としてではなく、加害者として活躍している。これも放置できない。いつまでも待つことはできない。フィルタリングは、家庭の普及率が1%〜20%までいったが、8割まで上げたい。これは、PTAを通してやっていきたい。
 
 先日、栃木県へ講演へ行ったら、小中学生からアンケートをとり、それに対して全部答えていく方式をとった。教育ルネッサンスで、子どもの要望の1位は、「朝御飯を作ってよ」、2位は、「家事をやってよ」というものであった。子どもから見たらこれが上位。
 保育園の先生に聞いた。今の子の問題点は、バランスがとれないことだ。岩手県では、バランスを崩して田んぼに落ちる。足立区では、よろけて電柱にぶつかる。香川県では側溝に落ちる。その他、階段が上れない、などがある。
 
【教師への期待】
 3つめ、教師への期待も時間がないので項目だけ挙げる。
1 市民としての顔を持て!
 「また遅刻ね」はだめ。子どもの目線に立って、「どうしたの?」この一言が大事。 どんな時も「どうしたの?」ここで子どもが言い訳をする。悪いことをやった時には、子どもが苦悩する。その苦悩に対して、そこで共感してる。そうすると子どもが錯覚する。あっ、愛されているんだ。ここで抱きしめるのだ。大学生も同じ。
 そんなことを思いながら、事件が起きた各地を歩く。佐世保も歩いた。焼香しながら歩いた。
 
2 命が大事だと言うけど、命を大事にしていない。
 町田の高校で、同級生を殺した事件があった。その学校は、次の日を休みにしてしまった。それがいけない。すぐに緊急集会を開くべきだった。それがメッセージだ。それが教育実践ではきわめて重要。
 中津川では、カウンセラーが前に立って指示をした。これが失敗。「日常生活にもどりましょう」と言った時点でカウンセラーでなくなる
 日常生活をやっていて事件が起きた時、日常生活に戻れはだめだ。そうではなく、あなたが好きなんだ。その関係性を作ることが大事。
 
3 キャリア教育 これをきちっとやる。これが学力の向上につながる
 
4 子どもの自己肯定心情を高めてやってほしい
 これがないと、他者を愛することはできない。お年寄りも、周囲の人も。
 ごめんなさい。時間が延長しました。電車乗れるかな?はしょってしまってごめんなさい。(16:18終了)
【感 想】
 早口だがユーモアたっぷりの語り口。これなら大学での人気は高いに決まっている。
底に流れるのは、あくまで人類愛、平たく言えば子ども好きである。言葉の端々に、子どもへのひたむきな愛情を感じた。豊富な現場経験を通して尾木氏が感じるのは、言葉だけが並ぶ、または数字だけで教育を語る行政に対する違和感なのであろう。現場感覚の代弁者として大切にしたい人である。
 特に印象に残ったのは次の点である。
○ 応募倍率7倍を切ると急に質が下がる。時間外手当がない教員の給料を下げては、 ますます希望者が減る。
○ 社会性がない教員は、何かあったときに叩かれる。当然逆の場合もある。教員は人 間関係のプロ。社会性は必須だ。「市民としての顔を持て」も同意。
○ これからは大学教育が重要。全くその通り。特に教員養成大学の役割は重要だ。
○ 子どもの危機は大人の危機、未来の危機
○ 親にとっては学力向上よりもっと大きな目標がある。それを見失うような学力向上 論であってはならない
○ 授業時間と学力はほぼ反比例だった。その原因はヒドゥン・カリキュラム
○ 現役学生の問題より大人の学力低下が問題
○ 学力や読解力など、国際的な定義に根ざしたプログラムを考えることが大事
○ PISA調査は市民教育
 
おまけ 社会科研究協議
指導講評 愛西市立佐屋西小学校 水谷 清校長先生
 
社会科の論点
1 人びとの知恵と汗を学ぶ;人との関わり
2 社会を見る目を育てる ;事例から次へ
3 体と頭を使って学ぶ  ;体験
4 学んだことを生活に生かす
 これらをふまえて自分の生き方を考える。今回の附属小のテーマは社会のためにあるようなもの。自分の課題を調べ見通しをもってどう取り組み話し合いを進めるか。
 
 今日の授業。3年生は単元最後の授業。「ひみつ」は難しい。「自慢」の方がよかった。
やってみようという課題がよい。3年生なら「自慢」。自分の住んでいるところとの比較は意見が出てこない。出るとよかった。
 南、北 コース コース別にやりやってもよかった。
 なぜ?と言う発問 が必要だった。公園が多い なぜ?バス停が多い なぜ?
ほしかった。
   
 4年生は自分の課題を見つけようとやっていた。どんな気持ちでどんなことを考えている。そういった課題が出てよかった。はてな課題が見つけられる課題がほしい。
 
 社会科が好きで教員をやっている。フィールドワークを若い先生と一緒になって勉強を続けて欲しい。
愛知教育大学教授 寺本 潔先生
 今サイレンが鳴っている。一刻を争う。なのに無人交番でいいのか?
 「電話をかけてください」と書いてある。これは問題。そういうところからはいるとおもしろい。
 授業に警官が来た。2人の服装だけでもネタ。たいへんおもしろい。市民と警察、交番だけでは守れない。だから町づくりへと向かう。流れはていねい、オーソドックス。板書が見事。最後の発言は見事。人に向いた。
 丁寧に進んだが、板書に時間かかりすぎる。時間のロス。最後のインフォがほしかった。省力化も大事。
 
小野先生の授業
 大幸のひみつは住んでいないから自慢も弱い。問いが深まっていない。2年生の生活科と変わらない。
 地域は場所によって違いがある。これをつかませたい。方角ごとに整理をする。座標系を伸ばしていく。土地利用の特徴、公共施設、交通 特徴を明らかにする。
 地図がわかりやすいけど不正確。それは生活科。社会科なら正しい平面地図をぶつけてほしい。「2年生の時の地図は本当はちがっていたんだ。」その気づきが大事。場所によってどう違うのかを気づかせたい最初の単元。
 「住みやすさ」はこの単元で扱う内容ではない。場所によってちがうことを正しい平面地図で判別する。ぜひ八方位を扱ってほしい。
 数字が出てこないのもだめ。数字は事実認識のポイント。何m、駅の乗降客、定期券が多い、など。「ひみつ」を生かすなら、大幸が原とかつて言われていた。練兵場だから払い下げができた。広い敷地に三菱の工場や大学などが建った。
 「みんなの課題」は「はじめの課題」と言うことか?
 社会科の基本構造は  よみとり、2 話し合い、3 意味認識 
 (または 事実認識、関係認識、価値認識)
 すぐに意味認識へ生きたがるが、事実で語ること。数字を出したり、測ったりして、事実の積み重ねで概念形成をする。そうしないと、意味認識が薄っぺらくなる。