愛知教育大学附属岡崎中学校研究発表会参加報告
                                               文責 土 井

 これ以下の記述についての責任は、すべて土井にあります。学校、並びに授業者には一切の責任はありません。また、このページの転載はご遠慮ください。 

○ 実施日  平成17年10月4日(火)
○ 9:00〜9:30 全体発表
内容は省略する。詳細に述べられた研究紀要『「学びたい!」−子どもが「本気で学ぶ」授業の実現から−』を参照していただきたい。言葉をしっかりとおさえた、シンプルだが丁寧な理論である。教科を横断しやすい、共通の土俵を作りやすい考え方である。これなら、発達段階の差が大きい小学校でも応用できる。
 
ここでは、社会科の公開授業について詳述したい。
ただ、たった1時間参観しただけの主観的な見解である。あくまでも一方的な個人的見解であることをふまえてお読みいただければ幸いである。
また授業記録は、テープ起こしをしたものではなく、その場の要約してメモしたものである。研究に使えるような正式な記録ではないことをお断りしたい。
 
○ 9:45〜12:00 公開授業
3A 経済を考える1 岡田 敏宏 先生
 
 事前に資料が配付されたが、早く教室に入りすぎたため手に入れることができなかった。そのため、以下のコメントは、自分の目で見た範囲内だけの情報である。
 教室左前面に「3年A組財政問題審議会」の看板がある。こういう遊び心は大好きだ。
 授業が始まる。元気の良い「お願いします」の声。

T 先生は「借金時計」http://www.takarabe-hrj.co.jp/takarabe/clock/ を見た。今日はいくらだったと思う。見た人がいるね。どう、757兆円になっていた。 また2兆円借金が増えた。
 どうしたらよいのかとみんなで考えた。取材やアンケートなどをして、それぞれが案を作った。今日は、このグループの案から検討にはいる。発表してほしい。どうぞ。

S1 私たちは増税案を提案する。増税は減税と違って限りがない。私も初めは増税に反対意識があったが、日本の破綻の状況から考えると賛成できるようになった。もっと、日本の赤字財政について国民に知ってもらい、増税を進めようと思った。
増税SALEは、増税すると物価がただ上がるだけで景気が低迷するので、段階的にあげて、SALEをする。ときどき消費税を20%から5%に下げる。
これまで、アンケートをしてきたが、大人よりも今の日本の借金のことを中学生の方が知っていた。授業でやっているせいかもしれないけれど、増税には中学生の方が賛成が多い。大人は実際にお金をやりくりする身なので反対が多い。しかし、今の日本の実態を見ると仕方がない。
消費税が3%から5%に増えた時には、それほど消費は減らなかった。だから、段階的にあげるのがポイント。
日本は、無駄遣いを減らしたら4兆円赤字が削減できる。消費税率を10%上げたらさらに4兆円、25%にするとさらに4兆円と赤字が減る。
 
 研究発表会へ行くと、児童生徒が発表する「見せ物的」な学校が多い。しかし、ここは違う。その後の討論を進めるための「資料提示」としての発表であった。
 発表の質も、一般によくあるのは、まとめの作文をそのまま読み上げる「原稿朗読型」だ。教師が事前チェックし、練習が可能なので、見かけは上手だが、あまり児童生徒の力になっていない。ところが、附岡中の生徒は理解したことを自分の言葉で語っている。これが本当の発表であり、目指す姿である。この点を高く評価したい。
 提示資料は、プレゼンテーション用ではないようだ。その後も教室へ掲示しておくためのものであると思われる。プレゼン用だとしたら、文字が小さく多すぎわかりにくい。効果的な表現方法とは言えない。
 一つ気になったのは、聞く側の生徒の目が輝いていないことだった。友達の発表を初めて聞く時は、今回のテーマ「学びたい!」という気持ちがあれば、もっとキラキラしているものなのに…、と思っていたが、おそらく、発表内容はこれまでの学習の中で、もうすでに他の生徒には分かっていたのだと思われる。それぐらい、事前の学習が進んでいると見るべきであろう。
 もう一つ、せっかく「3年A組財政問題審議会」の看板があるのだから、もう少しリアルに入ってもよかった。遊び心は生徒を乗せる。
 発表の内容で、今後の展開が楽しみだと思ったのは、@ 行政側の論理の増税を、国民側がどう反対するか。また、発表班がどう説得するか。A SALEという、大人から見るとややこっけいな提案を、他の生徒がどう崩すかである。激論を期待したい。

T 今の発表でわからないことある?意見、疑問点を出してください。

S2 今の意見は良い意見だが、消費税を上げることは弱い人からとるということ。貧富の差が広がるのはいけない。
S3 増税には反対。増税すると、国の歳入が増えるが、歳出と歳入のバランスが崩れて経済が悪化する。ものを買わなくなる。逆に減税をして、景気をよくした方がよい。
S4 (S3に対して)バランスが崩れるというのは具体的にどういうことか?
S5 歳入と歳出を一体化して経済をよくしていきたい。増税をすると、景気が悪くなる。○○さんの資料を見てほしい。今の日本は少しずつ良くなっている。これで増税すると、不景気になる。むしろ減税をして、ものを買ってもらって、企業の生産量を増やしてGDPをあげたい。
S6 その意見は考えた。そのために、段階的に上げてSALEを考えた。それについてどう思うか。
S7 1年に5%は今の倍。ものは売れなくなる。
S8 日本の消費税はアジアの中では低い。上げても大丈夫な気がする。
 
 先生の出方がうまい。多すぎず、少なすぎず、場の雰囲気を読みながら、間を取って入り込む。
 S2では、いきなり増税の問題点が出てきた。これがどう解決されるかは大きなポイントになるので、自分なら「課題 貧富の差の拡大」と板書する所だ。これを避けては通れない。 
 S3の減税政策も、正反対の対立軸として大切にしたい意見である。ここも「課題 景気の悪化」「対案 減税による景気拡大」と板書したい。
 S4はすばらしい。相手のあやふやな意見をよく聞き、すかさず切り込んだ。言い放しで他人の意見を聞いていない討論が多いが、この生徒たちはよく聞いている。
 S5にも驚いた。「○○さんの資料を見てほしい」と、他の生徒の作成した資料を引用している。これは、すでに他の生徒の資料を読み取り、理解しているということであり、レベルが高い発言である。
 S6もおもしろい。論点を絞り、段階的に上げることとSALEについての意見を求めてきた。
話の流れを理解した上での、レベルの高いやりとりだ。
 ざっと見た限りでは、統計資料に出典が書かれていないものがあった。これは指導したい。情報源は明確にするべきである。
 S7でS6の質問に答えていれば討論が噛み合ったのに、残念だ。

T 増税に反対の人
S9 SALEだけで好景気に持っていくことはできない。自分の生活で考えると、少額のものなら税が上がっても買うだろうが、自動車など高額なものは売れなくなる。高額なものが売れないと、景気は悪くなる。
T どうしたいの?
S10 極端なことは避けて、少しずついろいろな面から考える。歳出を減らすのが大事。
 
 S9で、SALEの問題点が出されかけた。
 「高額のものは売れなくなる」というのは、具体的に「3千万円のマンションの消費税が、今なら150万円。これが20%に上がると600万円。450万円増えるんだ。」と具体化し、国民の立場でここだけに的を絞って話し合わせたかった。
 S10「歳出削減」という意見が出されたが、これはすでに発表班が「無駄遣いを減らすと4兆円赤字削減」と言っている。無駄遣いを減らすということか、さらなる構造改革による歳出削減なのかはっきりしたい所だった。 
 重要な論点が次々に出てくる。深める前に次の論点が出てくるという流れになっている。よく事前に学習されている。

T 増税に反対の人?(半数弱が挙手)仕方がないと思う人?(半数強)これに関わって
S11 他の国が税が高いから日本も上げるというのは反対。日本は日本。やはり景気が悪くなる。
S12 大きなものはSALE中に買ってほしい。歳出は減らすことは考えている。それでも、赤字は12兆円残る。
S13 短い期間で上げるのは問題だが、上げることそのものは問題ない。
T ほかに
S14 消費税が20%になると家計がきつい。スウェーデンは消費税が25%だけど国民への見返りは大きい。病院や学校は無料だ。それに対して日本は国民にほとんど何もしていないから家計が破綻する。
S15 今は借金を減らすことを考えている。家庭の破産より国の破産の方がいやだ。
S16 下請けをやっている中小企業がつぶれてしまう。企業は1年間平均的にもうけていないとやっていけない。大企業だけが残って弱いものが消えてしまう。幸せな人が減る。
T 同じような意見の人は?
S17 見通しがないまま上げると不安。まずは、歳出削減を徹底的にやってから増税をしないといけない。
 
 教師は、挙手により態度を整理させた。ただ、生徒の論点は、増税に賛成・反対ではなく、さらに細分化されている。
 S14は新たな視点だ。「高福祉高負担」か、小泉首相の言う「小さな政府」か。再び論点が増えた。
 S15の発言にはおそれいった。「借金を減らす方法を考えているのに」と、討論を原点に戻そうとしている。さらに、「家庭の破産より国の破産の方がいや」と、他の生徒を大きく揺さぶる切り返しに出た。討論全体の流れが見えている発言であり、見事である。
 S16にも驚いた。企業の立場を代弁し、何より「幸せな人が減る」という、公民的資質のなかでも特に重要な感覚を表現してくれた。なぜ社会科を学習するのかという根本的な部分が生徒に伝わっているからこその発言であろう。
 S17も大人の発想だ。この短い言葉の中に、レベルの高さが感じ取れる。

S18 中小企業の意見、家庭が苦しくなるのはわかる。地方交付税交付金が一番出ている。これを半分に減らすと赤字がなくなる。何に使われているかわからないけど、石橋さんが調べている。市の数を半分にできたら半分にできるのではないか。調べきれなかったから、本当にできるかどうかわからないけど…
S19 シミュレーションゲームでは交付金が突出していた。無駄遣いの部分があるかもしれないと思った。もし半分にできたら黒字になる。市町村合併によってメリットがわかってきた。財政が豊かになる、経費削減、広域的な問題に対応、施設が増える
 心配もある。議員が減れば意見が通らない、過疎化が進む。でも合併を進めて、市町村が半分になり、交付金も減る。ただ、それで市でやりくりできるかがわからない。そこまで調べきれなかった。無駄遣いの見直しも必要。
S20 交付金は岡崎市はもらっていない。過疎化の進んだ市町は交付金がないとやってはいけない。難しいお金だと思う。
S21 交付金を減らすために、地方税である固定資産税を累進課税にする。そうするとお金持ちから税をとることができる。税率をあげると、地方税が増えて、交付金を減らすことができる。愛知県は、25市町村が交付金をもらっていない。やっていけるところが多い。固定資産税を累進課税にすれば、県内で助け合っていけばバランスがとれる。
T 発表班、聞いていてどうだった。
S22 納得した。両方から見ていかなくてはならない。増税だけがすべてでないことがわかった。
T どうしていきたい
S23 やっぱり増税は必要。バランスよくやること。
 
 S18 また新しい発想が出てきた。借金を減らすには、最も歳出の多い地方交付税交付金を減らすというアイデアだ。この発言で感心したのは「調べきれなかったから、本当にできるかどうかわからないけど」という言葉である。調べた気になって終わる生徒の多い中で、自分が見えている。メタ認知できているからこそ、言える言葉である。
 S19 学習にゲームを導入しているようだ。個人的には、ゲームを取り入れるのは大賛成である。いつも言っているが、ゲームとクイズ、シミュレーションは、授業改革の有力な方法である。
 さて、S18の発言に答えることができる生徒が複数いることが、このクラスの底力である。高め合うとはこのことであろう。S19の生徒は、市町村合併の問題点を理解し、交付金の減少を心配している。S20でも、「交付金がないとやっていけない」と続く。さらに、S21では、「固定資産税の累進課税」というアイデアまで出された。おもしろい。よくここまで生徒を育て上げたものである。「固定資産税の累進課税」だけでも、数時間の討論のテーマになりうる。
 教師は、最後にS22、S23に返し、「納得した」「バランスのよい増税」というコメントを引き出している。

T 授業日記を付けよう 近くのこと話してもいいよ 5分後
T 発表してくれますか。
S24 増税は大事、でも少しずつ 社会補償費を削減など他の方法でも借金を減らす
S25 欠点が出て、増税も交付税もよいところもあるが欠点もある。複数の案を取り入れて、欠点が最小限になるように日本の経済をよくできたらいいと思う。
S26 増税だけでは厳しい。歳入と歳出のバランスを考えて生活の支障が出ないように。
S27 増税は必要。借金が増えたのは、日本国民の付け。借金を払っていくのは当然。
T いくつかの意見を組み合わせて考えなくてはいけないと先生も思った。働く人の負担が大きくなるよ。それで見返りがなければ国民は納得しない。次の時間に、社会補償費の削減、国会議員の給与削減などについて学習しよう。
 
 「授業日記」は、評価のうえでも、振り返りとして大切な活動である。しっかり時間を取っていることに敬意を表したい。
 S24では、「社会保障費の削減」という、また新しい視点が出てきた。次回に討論するようである。
 S25からS27は、この1時間の討論をまとめた総合的な判断と言えよう。
 
《この時間全体を通しての感想》
 生徒の意見の質は、自分の想像を超えていた。この2年半の指導の積み重ねを感じた。
 他の人が調べて作った資料を生かして意見を言っているのには感心した。ただ、増税で生活が苦しくなると一部の生徒が言っているが、具体的に生活にどう影響するのかもう少しつっこみたかった。すなわち、資料をもとに考える部分と、資料から現実の社会に戻って考える使い分けができるともっと討論が盛り上がるであろう。また、将来の人口バランスや、その時の収入源が頭にあるかどうか疑問?今の金額が頭にあり、将来どうなるかという視点がやや弱いように感じたが、おそらくこれから取り上げられるのであろう。 
 全体として地道な取り組みであり、中味の濃い授業である。私はこういう授業が好きだ。「調べきれなかったのでよくわからなかったけど…」という複数の生徒の発言から、自分の学びがよくとらえられていると感じた。次の授業も見てみたいという期待感をおおいに抱かせた。
  
 
1B 日本の「今」を考える 山北 淳 先生
 これまでにいろいろな学校を訪問させていただいているが、教室に一歩はいると、その学級の雰囲気がおおよそつかめてしまうから不思議なものである。この学級は、とても温かい、なごやかな感じがした。教師と生徒との人間関係が良好であることが感じ取れる。
 元気な声で授業が始まった。

T 後ろに貼ってあるけど、JA愛知で大豆の施設を見た人どれくらい?紹介してくれる
S1 JA本店に行って来た。周りが大豆畑で、岡崎でも大きな大豆産地。写真にもある倉庫みたいの中に大豆を袋に詰める機械があって、これがあるのは日本に5,6カ所しかない。12月から動き出す。ビニルハウスが隣にあり、事務所がある。
 何人かの農家の人が大豆を教える方法を教えに来てもらっている。講習会を開いていた。
S2 個人でこっそり行ってきた。同じような話を聞いた。祖父と行ったらそのあたりの大豆畑の話は知っていた。岡崎ではもっとも大きな大豆産地。
 
 生徒の動きは、あの有田学級を思い起こさせる。どういう経緯で生徒が調査に出かけていったかはわからないが、S1は集団で、S2は祖父とこっそり取材に出かけたようである。
 これまでの授業を想起させ、また授業後の生徒の活動を賞賛する意味でもよい入り方である。

S3 行く途中に、70〜100センチの棒の上に四角い箱があった。何か聞いたら、その中にガの好きな餌を入れて、入ったら出られないようにしている。
S4 一面が大豆畑。農家の人の話を聞いている。さっきの箱はフェロモントラップという。
S5 自習の時間に本を熟読していた。今の箱の仕掛けが載っている。しかし、有機農業では推進されていない。フェロモンは生態系を壊すらしい
S6 フェロモンって?
S7 同種の雄雌を見分けるにおい、マーク
S8(電子手帳でしらべている)
T(教師が読んで説明する)
 
 授業者は、協議会で「横道にそれた」と言っていたが、重要な横道であると思う。生徒の知的好奇心にもとづく気づきは、このように大切にしてやることでさらに伸びる。このあたりも、有田学級に似ている。S3の偶然の発言に対して、続く生徒が複数いることが、3年生同様、質の高さを物語っている。
 S5は、「本を熟読していた」と言った。この「熟読」という言葉に、学習にのめり込む自分に対する自己肯定感を感じた。すぐに「フェロモンは生態系を壊す」と言えたということは、本の内容を理解しているということだ。恐るべき1年生である。
 S8は、すぐに「フェロモン」を電子辞書で調べだした。教師はすかさず反応して、取り上げた。スピード感のある展開で、学級全体が知的に楽しんでいるという気がした。

T 岡崎の福岡中の近くで大豆を作っている。本店でもお金をかけている。大豆助成金は岡崎にとっても深刻。ここで司会を変わります。大豆助成金に賛成なのか、反対なのか聞きたい。
S9 大豆助成金に賛成か反対か意見を言ってもらいたい。
 
 教師が課題を提示した。今日のテーマは、「大豆助成金に賛成か、反対か」である。討論のテーマはこのように相互排除性があるものが望ましい。ただ、その間を探ってくる生徒が現れ、妥協点を見いだし合意できる案を提示できるかどうかが見物である。
 司会、板書とも生徒が行っていた。このことについては、後ほどコメントしたい。

S10 未定、言えるのは、私たちがここで賛成反対と言っても仕方がない。農家の人に聞いてから賛否を決めた方がよい。農家の人が助成金なんて必要ないと言ったら、私たちが賛成してもしょうがない。
Ss (手を挙げながら)そのことに関して…
 
 いきなりS10のすごい意見が出てしまった。願わくば、後半で出てほしかった意見である。
これは生徒の司会に関係するが、自分なら、事前に生徒の考えをつかみ、意図的指名により対立軸が明確になる意見を引き出してから自由に話し合わせるところだ。

S11 助成金がないとやっていけない。大豆は作れない。
S12 どちらでもない。助成金を使いすぎて、他の国の言いなりになったり、日本の国がなくなるのは意味がない。輸入に頼るのもいけない。農家の人には大豆が命。日本の大豆がなくなると多くの人が不便になる。
S13 助成金に賛成。今の現状でも苦しい。ニューオリンズのような災害もあるので、輸入がストップするときに備えて自給率を上げた方がよい。
S14 助成金に賛成、農家の人には大豆が命。助成金を減らす前に国会議員の給料を下げろと言いたい。農家の人は大豆を作るが、国会議員は何をしているのかわからない。
S15 助成金がなくなると、大豆を作ってもやっていけなくなる。助成金がないと大豆が食べられなくなる。
S16 賛成だったけど考えが変わった。ただ助成金の金額を多少下げてもよい。今日本の財政はやばい。減らす考えもあって良い。
S17 賛成派の真ん中。助成金はよい。小泉首相が辞めたら増税はさけられない。
S18 ニューオリンズで被害があったと言った人に反対。輸入に偏った方がよい。日本は雨も降りやすいし、大豆が育ちにくい環境。国産大豆は不要。
S19 助成金は賛成。赤字が増える一方で、農家がまた減ってしまう。輸入に偏るとよくない。万博で見たけど食生活に影響が大きい。
 
 S11はストレートな意見でよい。S12は自分の聞き取りが甘かったためか、論旨がつかめなかったが、論理の飛躍の中には、この生徒なりのいろいろな思い入れを感じた。
 S13で「自給率を上げる。そのために助成金は必要」という立場がはっきりした。
 S14の意見は危険である。自分ならその場できちっと指導する。「何をしているかわからない」のに「給料を下げろ」という発想がいけない。「わからない」のは自分の努力不足であって、まず調べてから判断を下すべきだ。マスコミの論調に毒されている言葉だ。
 S16で初めて対立軸が出てきた。「財政削減論」としておこう。S17は、助成金はよいがそのために税金が上がる、すなわち私たちの負担が増えると警告している。この意見はもっと取り上げてやりたかった。
 S18は、これまで助成金賛成に傾いた流れに強烈なパンチを浴びせた。調査に裏打ちされた、自信を持った意見表明だ。確かに、日本で虫が付かない枝豆や大豆を作るのは難しい。よほど農薬を使わないと商品にならないことは、育ててみるとよくわかる。
 S19を始め、万博での学習にふれた意見が多いのはうれしい。
 ここまで、やや議論が停滞している。その理由は、自分の意見の出し合いで、相手の意見に対して反論していない。いわゆる噛み合っていないからだ。しかも助成金賛成派の意見が多すぎる。そろそろ軌道修正が必要である。

T 反対の人?(6名挙手)賛成の人?(多数)どちらでもない?(数名) 
T 緊張のためかちょっといつもより声が小さいね、叫んでみよう。
Ss (叫ぶ) 
S20 日本産大豆は高くなる。買う人も安い方がよいと思う。
S21 輸入がストップする理由は何?
S22 外国に頼ると、外国が不作になったり、災害になるとだめになる。そのときは日本に大豆が回ってこなくなる。
S23 ぼくが思うに、相手国は一つではなく、アメリカや中国、ブラジルなどがある。これらの国が全部がだめになることはあり得ない。輸入がストップすることはない。
S24 輸入ストップはあり得ない。人民元の切り上げがあり、中国の大豆もだんだん値上がりしていく。国内の値段も高くなってしまうので、ある程度自給した方がよい。
S25 賛成の方。大豆助成金は税金の使い道として良い。日本でできるだけのことは日本でしなくてはならない。
 
 そろそろ必要という時に教師が出てきた。反対派を確認したいために、反対から聞いたのだろう。そしてその後に声出し。リラックスさせるための指示だろう。
 S20で予想通り助成金反対派が反論に出た。値段の高さは十分説得力がある。
 S21は、S13などに対する質問だ。すかさずS22で説明があり、それに対してS23が反論した。やっと噛み合いはじめてきた。S23はデータに基づいた意見であり、できればこういうときに各国の生産量をグラフで確認したいところだ。
 S24では、「人民元切り上げ」が出てきた。中国製品の値上がりに備えて、自給率を上げようという意見である。レベルが高い。
 S25は特に驚いた。「税金の使い道としてよい」という発想を、普通の中学1年生がするか?
「日本でできるだけのことは日本で」という意見も深い。

S26 助成金なしに賛成。国産で作る理由はわからない。国産の長所は安全性だけ。欠点は大量にある。安定性、品質、価格…。国産大豆を作っても買ってくれなくては意味がない。やれることがない。助成金を増やしても変わらない。国会議員の給料を回せと聞こえたが、それなら税金を下げればよい。
T 品質は良くない?
S27 生産が安定していないので。
S28 万博で大豆生産者に聞いた。遺伝子組み替えで作った大豆より、国産大豆を求めている消費者が多いのはなぜか?
S29 遺伝子組み替え大豆に対する知識が少ないからだ。質問の聞き方の問題。遺伝子組み換え大豆は、日本に求めてなくても入ってくる。
S30 反対の意見は輸入に頼った方がよいということ。外国産は安いから、日本人も助かる。賛成としては、助成金をやめてしまうと、コンバインを買った借金が返せなくなる。
S31 反対。借金を返してからのほうが効率がよい。
S32 日本の技術を途上国に教え、そこで大豆を生産し、そのお金で土地を買えばよい。その大豆を日本に輸入すればよい。
S33 日本は加工貿易の国。自動車などを売った黒字で借金は返せる。
 
 S26は強烈だ。これまでの複数の意見をつぶしている。実によく調べており、意見に自信を持っている。S28に対するS29のかわし方は大人顔負けである。
 S30は助成金廃止のメリットとデメリットを述べている。
 S32もおもしろい。「大豆」という素材から、視野が大きく広がっている。発想がユニークだ。S33は突然論理が飛躍した。何の借金のことであろうか?

T 車を売ってそのお金で借金を返す?○○君は、逆の意見ではないか?意見が噛み合わないな。
S34(司会)噛み合うところはないか?
 
 適切な指示である。ずれてきたところでの軌道修正は大切だ。
 ここでの「噛み合う」ということばを、教師はとても大切にしている。司会の生徒がすぐに黒板を見ながら、論点を探している。日頃の指導がよくわかる。

T 助成金がないとだめ?
S35 大豆だけを作る場合、赤字がでる。助成金でその赤字を補っている。
T どこできいた?
S36 メール。名古屋のJAの人から。
 
 Tは、本来のテーマに話を戻し、S35で賛成派の最もわかりやすい理由を引き出した。S36でその情報源を明らかにさせている。社会科として大切な手順である。当然、教師は誰がどこで何を調べたのかが頭に入っている。

T 誰と関わりたい。
S37 賛成派だから反対派の人と話を聞きたい。
S38 日本の面積から考えると、結構大豆を作っている。14年度は2332万トンで自給率5%。100%にするにはすごい量になる。日本は加工貿易が進んでいて、工業が進んでいるので、工業に目を向けた方がよい。助成金廃止になぜ賛成かというと、アメリカや中国と仲良くしなくてはやっていけない。日本は仲良くするために大豆を買わなくてはいけない。
T 手が上がると言うことは、かかわりたい人が多いということだね。
S39 自給率は減らさなくてもいい。今作っているのは大事にしたい。
T 助成金がなくなると日本の大豆はなくなると考えている人が多いし、かかわりたい人がいる。
T それでは、インタープレゼンテーションをしてみない?やろう。誰のところに行ってもいいよ。
Ss 席を離れて、かかわりたい相手と話し合っている。
 
 ここでの「誰と関わりたい?」はやや唐突な気がした。今日の指導過程を進めたい意図が出過ぎたか。S38の発言は、まだ調べたことを言い足りないという主張に聞こえた。この意見は、外交戦略として大豆を輸入した方が良いという新たな視点だ。恐るべき子どもたちだ。
 その後、やや強引であったがインタープレゼンテーション(IP)に入った。
 IPは、全員が議論に参加でき、同じ土俵に引き上げることができるとても良い方法である。
 ただ、「IPをやってみようと」教師の言葉に対する反応が、いま一つだったのはなぜか?
論点が多岐にわたりすぎ、収束の方向が見えにくかったからではなかったか?一度論点を整理し、ある程度内容を絞ってIPをやった方がよかったのかもしれない。
 また、このIPをもっと合理的に行う方法はないだろうか?ポイントはひとつ。
  ★ 議論が見えるような記録を残す方法はないか。簡単な記録でいいのが・・・・時間が   ネックになる。
 手に持っているノートに付箋を貼っている子が多く、生徒の高い問題意識を感じる。

S40 かみ合いました。3人で話し合った。ぼくは助成金に賛成で、遺伝子組み替えも反対、輸入も反対。アメリカ人と日本人は違う。話し合うことができて良かった。かみ合ったところは、I君が説明します
S41 (かみ合ったところは)何だろうね?
S42 国産と遺伝子組み替え大豆と比べるとどっち食べる?僕は国産大豆。遺伝子組み換え大豆は、被害がいつ出るかわからない。アメリカは遺伝子組み替えで事故が起こるとダメージが大きい。
 
 生徒の発言からも、日ごろから意見が噛み合うことを大切にしていることがわかる。それはとても大切なことだ。
 意見の発信に比べて、意見が噛み合うことは数倍の能力が必要だ。相手の意見を聞き取り理解する、さらにその意見に対して自分の考えをもち、相手に分かるように発信する。意見が噛み合うとは、それができる人が複数そろってこそ可能なのである。単なる発信とはレベルが違う。

S43 ぼくたちは賛成者同士で話し合った。
 共に矛盾している。補助金反対派の人は安い大豆がいいと言っていた。でも遺伝子組み替えでも反対していた。どっちをとるのか?安さか、安全性か、どこをどうつついて良いのかわからない。
 もう一つ矛盾しているのは国。自給率を上げたいのか、助成金を削除して税金を大切にしたいのかよくわからない。
 賛成派も、安全性か、遺伝子組み替えか。賛成派も二つに分けた方がよい。
S44 (… 聞き取れず)安全性に欠けると言っているが…
T 次の時間に考えるか。Dファームに電話した人?
S45 Dファームは助成金をもらっていないのは確か。大豆だけなら赤字と言っていた。お米で補っているそうだ。
S46 大豆はいわば枯れた枝豆。枯れるとさやから実が出てしまうい、収穫漏れがある。だから赤字になる。
 
 S43は他人の意見をよく理解している。補助金に反対しながら、遺伝子組み換えでも反対する人へ疑問をもっている。さらにすごいのは、国に対して矛盾を指摘していることである。財務省の論理と農水省の論理を代弁している。
 極めつけは、「賛成派も、安全性か、遺伝子組み替えか。賛成派も二つに分けた方がよい。」の言葉である。今回の授業で今ひとつ意見が噛み合わないのは、賛成意見そのものが複線化しており、議論が焦点化できなかったためだが、そのことを見抜いた子どもがいた。本当に驚いた。 
 S45,S46とも、自分で調べたことに対する自信、誇りを感じた。教師は子どもたちにやらせることにより、自信をつけさせている。お釈迦様のように子どもたちを見守り、その信頼に立派に応えている子どもたち。1時間の授業であるが、教師の指導観を感じ取ることができた。

T 農家の人はどう思っているか?S10が言ってくれたように、聞いてみないとわからないところからスタートしたし。(写真提示)この人知っている?電話してみよか?
 マシン使うぞ。誰がかけてくれる?I君。いないかもしれないけど…いるって。(歓声)
S47 Yさんいますか。
Y この前はどうも
S48 現在授業中だけど、農家の人は助成金がなくなったら大豆栽培をやめてしまうのか聞きたい。
Y 何人かの人に聞いたが、補助金がないと赤字になり経営をやめなくてはいけなくなる。効率がよいところは続けるが、悪いところはやめると思う。狭い所や住宅地に近いとやりにくいので減っていくと思う。
S49 機械はどうなるのか?
Y 困ってしまう。
S50 田はどうなる?
Y 減反政策で米はつくれないので、他の作物を探す。あるいは、放棄地になる。
T 放棄地とは? 
S51 首を絞めてまで農業はやらない。1年おきとか…
T 作らないとはどうなる?
Y 作らないと荒れる。ときどき田おこしをしなくてはならない。
T せっかくだからYさんに誰か質問ある?
S52 助成金は上げた方がよいのか下げた方がよいのか?
Y 国の事業なので何とも言えないが、今より下がると経営が成り立たない。これ以上は下げてほしくない。上げてもらえれば良いが、財政事情があるので期待していない。
T ありがとうございました。
S53 何て便利な機械なんだろう。(笑)
 
 本来早く出過ぎたはずのS10の意見をここで引き出すことで、これまでの流れを収束させ、Yさんへ電話をするという予定の行動に入った。ただ、ここでもあくまでも生徒に電話をかけさせるという教師のこだわりはにはおそれいった。
 Yさんの「何人かの人に聞いたが」と言う言葉で、事前の打ち合わせが十分になされていることが分かったが、その一言を生徒は聞き落としていなかった。それはS56で引っ張り出された。これを「噛み合う」というのだと思う。議論が建設的に深まっている。
 S52の質問もまさに直球。そのYさんの回答も明解だった。ここも噛み合っている。
 S53は教師のためのリップサービス。教室が湧いた場面だ。

S54 助成金は下がると生産できないし、必要。
S55 これ以上、助成金は上がることはなく、現状維持か下がる。
T Yさんが農家の日本代表ではないし。
S56 農家の人に聞いたと言っていたが…
T I君が電話帳を作っていたが…
S57 極秘。プライバシーもあるし、極秘電話帳。
 
 教師のセンスはこの一言で分かる。「Yさんが農家の日本代表ではないし」という揺さぶりは絶妙だ。
 よくある授業は、ゲストティーチャーの言葉が絶対化し一人歩きする授業だ。せっかく呼んできたゲストの言葉で授業をまとめたい気持ちはよく分かる。しかし、ここではあくまで個人の意見と押さえている。素晴らしい。そして、それにつっこむS56はさすがである。よく話を聞いている。S57の電話帳は、もはや追究の鬼と化している。

T 誰かの意見を聞いてかわったぞ、話し合ってみたいというのを授業日記に書いてみてください。   
Ss 書き始める
T ○○さん、どんな感じ?
S58 外国から輸入しろと言っているわけではない。今でも遺伝子組み替え大豆には反対。国内自給率向上には賛成。今は現状維持するとして、品種改良の方に力を注いで、収益性を高めてから助成金をなくせばよい。今は現状維持が必要で自給率を維持したい。外国も災害等で輸出できなくなるかもしれない。
S59 税金は補助金にすべて回すのは反対。輸入もしない方がよい。助成金はやはり必要。うちらが言っていても簡単ではない。もっといろいろ情報を得て考えてみたい。
 
 振り返りである。数年前から、全国の学校で振り返りがきちっと行われるようになってきた。たいへん喜ばしいことである。そして、S58やS59のように、授業時間内で返すことが大切だ。
 生徒の筆力もよく育っている。
 S58は大豆の収益性が高まるまでは現状を維持し、その後補助金をなくすという考えである。バランス感覚に優れた意見と言えよう。
 S59は考えの矛盾に気づき、まだまだ情報が足らないことを自覚している。メタ認知ができている。
《この時間全体を通しての感想》
 生徒が話す人をしっかり見ている。先生の相打ちがテンポよく、心地よい。 
 司会と板書は途中から社会科係が行った。
 率直に言うと、板書は教師がやった方がよいと感じた。子どもが行う意味もあるが、教師がやったほうがより効率がよい。話し合いの構造が見える。従って論点が明確になり、たとえ論旨がづれたとしても軌道修正しやすい。案の定、今日も途中で論点がやや不明瞭になった。教師側の軌道修正があったが、板書を整理すれば解決できた問題だ。より焦点化してゴールに近づけたのではないか。
 それにしても、半年間でよくこれだけの生徒を育てたもものだ。感服した。
 別件だが、子どもの司会についてコメントしたい。これは土井がよくやった方法である。ただ、意図が違うようだ。土井は、生き方教育(進路学習)の一つとして行った。生徒には教師であることを求めたので、授業をさせた。服は着替えて、ワークシートも用意。事前に指導案を書かせて、打ち合わせを持った。時間は50分のうちせいぜい35分。あとは、教師が替わりフォローした。そして、輪番制で全員(3人1組)に教師を体験させた。授業のマネジメント能力は、一部の子だけでなく、教師のフォローのもと、全員が経験してこそ意味があると思っている。一度教師側を経験すると、授業を受ける態度が確実に変わるからである。
 
《2時間の授業を通しての感想》
 子どもたちが良く育っている。育つように指導されている。これはやった者しかわからないが、かなり多くの部分を子どもたちにまかせること、前向きなことは少々のことは許されるという自由な雰囲気があること、やらせっぱなしでない教師のフォローがあることが必要条件だ。このあたりは十分に保証されていると感じた。自分が新任の頃の附属名古屋中学校がこんな雰囲気だったような気がする。
 
 教育は「教」と「育」で成り立っている。「育」の部分は見事である。子どものみとりに裏付けられた教師の陰の努力が十分に感じられる。
 この授業を見せていただいた私たちの課題は、この研究の成果を一般校にどう生かすと言うことだろう。
 この点について、@ 授業の方法論、A カリキュラム論から考えたい。
 授業の方法は、一般校では半数の生徒はついて行けないと感じた。話し合いの流れを、板書等で明確にして、共通の土俵上に上げてやらないとついて行けないし、そこに「教」の技術が必要となる。
 さらに有田学級でも感じたことであるが、生徒の授業時間外での活動の比重が大きいということだ。「追究の鬼」を育てることを目的とした研究なので、これはこれでよい。ただ、一般校では課題が多い。
 原則として、授業時間内で、いかに「教」え「育」てるか。生徒は部活動もあるし、他教科の宿題、友達と遊び習い事へも行く。そうした時間は確保してやらなければならない。従って、いかに授業中で完結させるか、そこが「教」「育」をする者の醍醐味であろう。
 その点では、聞き間違いかもしれないが、1年生で給食時間中に取材に行く生徒がいるというのは、やや行き過ぎかもしれない。別の問題が生じる。
 これは、Aのカリキュラム論でも言える。今日のペースで、1年生105時間、3年生85時間の時間内で指導要領の内容をこなせるか、というより教科書の内容をすべて終えられるか。
今日見た、幅広く自分で調べていく生徒なら、学習指導要領を十分クリアするだろう。しかし、附属岡崎中の子が転校して他の学校へいっても、またその逆があったとしても、ある程度適応できなくてはならない。それが中学校の教科の特質だろう。小学校は、生活科や社会科がその地域に限定されるのはある程度仕方がない。しかし、中学校では、地域を素材としながらも、学習成果は一般的である。だからこそ、高校入試でも出題されうる。
 とはいえ、「育」は申し分ない。仮に、主に教科で基礎・基本を、総合で応用力をとするならば、今日の二人の授業は「総合」で育てたい応用力をも、教科の中で十分育てている。これは、毎日の授業の中で子どもを見取り、毎日遅くまで分析してきた、地味な努力の成果であろう。
 久しぶりに、骨太の研究、骨太の授業に出会うことができた。授業者と子どもたちに感謝したい。