扶桑東小学校研究発表会 指導講評・記念講演
平成19年10月31日
「人とかかわり 学ぶことの大切さ」
         南山大学人文学部心理人間学科教授  津村俊充先生
                                                             主観的要約者;土 井

 この記録は、土井が講演メモをもとに要約したものであり、よって誤解や曲解があり得るため、講演者、主催者には何の責任もないことを御了承ください。 そのため転載はご遠慮ください。
 さきほど授業を見た。グループワークや振り返り、内省、分かち合いの姿を見ることができた。扶桑東小学校は、人間関係づくりの取り組みをした。
 H17・18文科省の「大学・大学院における教員養成推進プログラム(教員養成GP)」事業に応募し、ラボラトリー方式の体験学習が補助事業となった。私がその代表をしたが、扶桑東小も研究協力校として共に研究し、今日を迎えた。今日は、激励をしながら回った
 簡単なレジメをみてほしい。これにより人とかかわることの大切さを伝えたい
 図を描いてみた
 「ラボラトリー方式の体験学習」について説明する。ラボラトリーは「実験室」という意味だが、1946・47年にクルトレヴィンが開発した、体験しながら人間関係を学ぶ方法である。
 レジメでは、「特別に設計された人と人とが関わる場において、“今ここ”での参加者の体験を素材(データ)として、人間や人間関係を参加者とファシリテーターとが共に学ぶ(探究する)方法」と説明した。
 その場を作る意味は3つある。「体験する」「気づく」「学ぶ」である。説明したい。
1 体験する
 「出会う」と書いたが、今日の授業でも、友達と、先生と、地域の人と出会う場を意図的に作っていた。「特別に設計された場」とは、授業の中での一場面であり、今、目の前にいる仲間たちと体験を素材として、人間や人間関係を、生徒と先生とがともに学ぶ。
 「ファシリテーター」とは、「促進者」という意味で、人間関係の学習を促進する役割をもった人、コミュニケーションを容易にする役割という意味。
 人と出会う直接体験の大切さを強く感じた。
 一時期、「キレル」子が問題になった。文科省は、「情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討会議」を開き、脳科学者を集め、切れる子をどう防ぐかを考えた。
 その様子がNHK「クローズアップ現代」で放送された。
 「情動の科学的解明を教育等への応用に関する検討会議 報告書」には具体的に報告されている。
   http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/05032201/003.htm 
 どうすれば切れない子どもを育てることができるか
 脳科学による解明で、そのメカニズムが明らかになった。その結果、どうすればよいのかがわかり、脳を育てる有効な訓練がある事もわかってきた。脳科学で「切れる子」のメカニズムが明らかになったのである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「扁桃体」:側頭葉前内側部にある球状の核で無数の神経細胞の集まり。情動機能発現に重要な役割を果たしている。アクセル役である。
「前頭連合野」:大脳皮質の前部(額や眼の後ろ)にあり注意、記憶、意思・思考、計画 性、創造性など高次精神機能と関係しているとされている。ブレーキ役になる。14に 分かれる。2001年に光トポグラフィーで記録できるようになった。その結果、「46野」 と呼ばれる部位が感情を抑える重要な役を果たすことがわかってきた。
 
 ここで明らかになったのはコミュニケーションの重要性である。(富山大小野教授)
 扁桃体は外からの刺激で育つ。18歳過ぎまで成長が続く。以前はどう育つかわかっていなかったが、明らかになった。
 サルに人の表情を見せると、その結果、笑った顔の方が反応がよい。顔をみたとき、流れた電気の量で測定できる。さらに、同じ笑顔で人によって反応が違う。飼育者には、強い反応を示す。
 結論は、身近な人とのコミュニケーションが扁桃体の成長に欠かせないがわかった。好きな人の笑顔や喜びの表情がいい刺激になるのである。これが基本。幼児教育の核になる。
 これに対して、ブレーキ役の前頭連合野はどんな刺激によって成長するか。(諏訪東京理科大学 篠原教授)
 ゲームをしている子どもを測定すると、46野の血液の流れが活発でない。しかし、同じゲームでも、友だち相手にやると活発に動き始めた。46野は、相手の表情を読み取ったり、言葉を交わすことでより活発になることを発見した。コミュニケーションが46野の成長に欠かせない事がわかった。
 子どもの数が減り、意図的にコミュニケーションの場を設定しないと、扁桃体・46野は発達しない
 こうした新しいアプローチの中で、環境が脳にどのような影響を与えるかがよくわかった。直接体験をしないと、脳は発達しない。人間は「人の間」と書く。コミュニケーションが必要な生き物なのだ。
 レジメの「関係性でとらえる人間観」とは、人と人とが関わることはどういうことかということ。
人間関係とは何か、考えてみたい。たとえば、人との関わりがないと「津村」という名前は入らない。男である意味は、女がいて初めてある。先生は生徒がいて初めて先生だ。ということは、自分一人なら、私の存在価値もない。あなたがいなければわたしがない。
 谷川俊太郎の「部屋」という戯曲がある。冒頭部。
 “ あなたはだれ だれでもないわ まだ ” 
 この一語で、人間関係って何かがわかる。関わりが始まり、初めて“私”が生まれる。関わりが続く中で私が育つ。
 私は、社会心理学の仕事をしているが、学生から「私は二重人格か?」という相談を受ける。出会った数だけ私が生まれるから、私にもいろいろあってよい。場面によって、自分が変わるのは当然だ。
 「私が生まれる」と「相手が生まれる」ことになる。「私が育つ」ことは「相手が育つこと」。 子どもと先生との関係はこれである。こんな人間関係観を持ってほしい。これは直接体験があってこそである。
 マズローの5階層説では、生理的欲求、安全の欲求があり、3番目に親和(所属愛)の欲求がある。関係がないと育てられない。いかに、ここにいていいよというメッセージを発するか。である。 4 自我(自尊・賞賛)の欲求、5 自己実現(成長)の欲求があるが、 ベースにあるのは所属だ。ベースになるのは“belonging”、親近感である。
 教科の中でも道徳でも、人と人が出会う場をつくっていくことが大切であり、そこで直接体験することが、気づき、学びのはじまりにある。
 







2 気づく
 氷山だと思ってほしい。
 表に出ているのはコンテント、話題・課題である。 
 表に出ていない部分で、プロセス、行動や思考・感情があるが、これらはかかわりの中で起こっていることだ。
 人間関係のプロセスとは、潜んでいる部分に光を充てて人間関係を学んでいくことである。つい、上の部分をみがちだが、下の部分がどれだけ見えるかが大事だ。すべては気づけないので、子どもたち同士の間で、安心したラボラトリーをつくっていく事が重要だ。この二つの視点から関わりを見てほしい。
 ここで、ミニコミュニケーション体験「流れ星」というのをやってみたい。
 内容は省略します。先生が言葉で言ったことを、絵に描くというものです。
「流れ星が画面の右上から、左下の方に向かって落ちていきました。その下、にわらぶき屋根家がありました。…」というような話でした。 
 周囲の人と絵を見せ合ってほしい。一斉に授業をしても、これぐらいの違いがあると思ってほしい。みんなおれが一番正しいと思っている。
 「左下の方に向かって」と言ったのに、左下に星を描いた人がいる。これをIT企業でやると、2割から3割はまず紙に「画面」を描く。この中には一人もいない。
 「三カ月がかかっています。」の一言でも、それぞれのイメージが違う。それを摺り合わせて共有するのがコミュニケーションである。
 人の話をどのように聞いているか?いかに主観的な世界で生きているか!
 直接体験から気づきの世界へ。その難しさを知ることが大切である。
 
3 学ぶ
 学ぶことは、成長すること・変わることであり、グループで学び方を学ぶことが大切。
 なぜグループか?2人はグループではない。3人以上であることに意味がある。
 2人でやりとりするのを見ている人がいる。自分が観察する側にもなれる。グループは社会の縮図なのである。
 グループワークの効果はローゼンバーグが1963年にまとめたものがある。

1 知的要因 認知的
   観察効果 普遍化 知性化
2 情緒的要因 感情
   受容 利他性 転移  
3 行為的要因 行動
   現実吟味 換気 相互作用

 
 この「認知・感情・行動」はグループが育てる。カウンセリングの場でもグループが効果があるという立場がある。(一対一しか行けないという人もいるが。)
 
 体験学習の循環過程を見てほしい。
 これら問題解決のステップで、学び方を学び、生きる力を育て、最終的にはみなさんに内省的実践家になろうと呼びかけている。
 詳しくは私のHPをご覧いただきたい。
    http://www.nanzan-u.ac.jp/~tsumura/ 
 
       ※ 誤字脱字はご容赦を