千葉市立打瀬小学校・打瀬中学校・海浜打瀬小学校視察報告
                                      文 責・土 井

1 視察日   平成13年9月25日
2 視察校及び内容
(1)千葉市立打瀬小学校(10:00〜12:00)
 教育施設、教育内容ともに、全国的に有名な学校である。
 千葉県企業庁により、計画的に建設された幕張新都心に、1995年に開校した、21世紀型の学校をめざしてつくられた。
【 施 設 面 】
 次の特色がある。
1 学年のまとまりを中心に6つのゾーンで構成
 管理棟、低学年棟、中学年棟、高学年棟、特別教室棟、そして運動場が、体育館を中心に取り囲んでいる。したがって、体育館、さらにその上にあるプールには行きやすい。
   
2 ゆとりある学習・生活環境
 学年ごとにオープンスペースを配置し、多様な学習活動を可能にしている。ピロティ、ギャラリー、各種の庭等が変化に富んでいる。

3 地域に開かれた学校
 学校の外と内との柵がなく、地域住民が自由に校内にはいることができる。一応、校舎内には入らないように案内がしてあるが、入ろうと思えばどこでも入ることができる。したがって、防犯ブザーが配備されている。高学年棟の1階が、生涯学習施設として地域開放用に集中配置されている。ただ、仕切がなく、他の建物へも行くことができる。
 
 《 感 想 》
1 オープンスクールでは、遮音が重要な問題である。品野台小は、雁行型にすることでクリアしていたが、打瀬小では、時間割をそろえる、特別教室をうまく割り振ることで解決しようとしている。 将来、英語が教科になることは必須である。しかも、会話や身体表現、英語の歌が中心である。全国的に圧倒的支持を得ているオープンスクールであるが、英語科の遮音の問題は今後最大のネックになろう。コンクリートやフローリングの床は響く。

2 デザイン上の問題か、教室配置にやや無理を感じる。広さも全体にやや狭く、黒板の向きもこれがベストか疑問である。設計段階で、現場教員や地域住民の声がどれだけ反映されているのか聞きたいところである。

3 中庭を近所の親子が遊んでいた。ほのぼのとした光景である。多くの地域の目で、子どもたちを守ろうという発想であり、理解できる。池田小のような犯罪は、門があろうがなかろうが防ぎようはない。
 生涯学習施設としての学校開放は、まだ進んでいないがこれから進展するそうである。また、他の教室へ行けてしまうことなど、改善の余地もある。これからつくる学校には課題となろう。
   
4 オープンスクールだからと言って、オープンばかりではダメだと思う。人目を避けて相談する部屋、職員が横になれる部屋、職員室内の給茶室、保健室、応接室 は見えない状況にした方が良いであろう。会議室(2つはほしい)、学年ごとの職員の相談部屋  は半目隠し部屋にしてほしい。
こうやって現物を見るとそう思う。

【 教育内容 】
1 「うたせ学習」はいろいろな本に登場するので詳しくは述べない。基本的には、学年協同担任制で、同一時間割を担当する。小人数教育や課題選択学習が組みやすい。うたせ学習もスケールの大きなものがやりやすい。一方、器具の使用、特別教室の割り当てなど、工夫も必要だ。それぞれの教師の個性は没しやすい。

2 子どもの自主性を重んじているのがわかる。フレンド活動は、異学年グループの子どもがリーダーを中心に企画・運営する。クラブ活動も、児童が発起人となり、企画から運営まですべてを行う。

 《 感 想 》
 子どもがそれぞれの場所で学習する光景が見られた。中には遊んでいる者もいるが、おおむねがんばってやっている。「うたせ学習」は、成熟してきたのではないか。参考にしたい。
 校長先生の優しそうなのが強く印象に残っている。

(2)千葉市立打瀬中学校(13:00〜14:45)

 打瀬小学校とともに1995年に開校した、やはり21世紀型の学校である。
【 施 設 面 】
 次の特色がある。
1 教科センター方式を採用 
 最大の特徴であり、多くの学校のモデルとなっている。欧米では、むしろこれが常識なのだが、日本では、効率を考えた横並び教室が普及した。
 実際には、国語・社会・理科・英語が2教室+オープンスペース、数学は3部屋+オープンスペース、他にEnglish Language Roomが1(2教室分、仕切ることができる)、この他に共通講義室が3ある。さらに、将来の学級増に備えて、12教室増やすことができるようになっている。現在9学級
なので、教室配置は十分可能である。
 特別教室は音楽、視聴覚室、理科室、美術室、被服調理室、金工木工室、コンピュータルームで、被服と調理、金工と木工が兼用になっている。さらに多目的ホールと図書館が併設している。
 生徒は、仮のホームクラスに加えて、自分のロッカーなどがあるホームベースをもっている。
 生徒会室が、2階の中央部にあるのもユニークである。意図を感じる。
 上履きのまま出られる2階屋上や中庭などがあり、生徒の居り場が考えられている。
 
2 街並みに調和した建物  まさにその通りだった。

3 生涯学習の機関として配慮されている
 これはまだ未成熟。他の校舎にも入ることができてしまう。  

 《 感 想 》
1 教科センター方式は、やはりメリットが大きい。
 ・ 生徒が出かけていくので、学ぶ気持ちが高まる。
 ・ 教師側の準備がしやすく、教材研究が深まる。
 ・ オープンスペースには資料がふんだんに常置でき、学ぶ環境をつくりやすい。
 ・ 生徒の居場所が固定化しないので、生徒の逃げ場がある。
 ・ 教師の研究室には、生徒が入りやすい。
デメリットもあろうが、これまでの一斉授業の脱却のためには効果的であることは間違いない。
むしろ、調べ学習が増えすぎて生徒の負担が増えすぎないように、教科間で調整しているぐらいだ。 

2 打瀬小と同様、周囲には柵も門もない。しかし、校舎内に入るには入口が限られ、セキュリティは小学校よりは高い。

3 上履きと下履きが別にある靴箱は工夫を感じる。しかし、24学級に対応できるだけの数はない。
最大設定人数に対応できるようにすべての面で配慮してほしいということだった。

【 教育内容 】
1 学校生活の3原則は、@ 制服なし、A 校則なし、B チャイムなし 
2 授業改善の中心に、調べ学習とプレゼンテーションの能力に置いている。情報リテラシーを育成
し、屋台村方式による発表会で表現力を高めている。
3 教育課程の編成では、特に「読む力、書く力、話す力」を重視している。週5日間の朝読書、定期テストでの30分間の小論文テストなど、こうした基礎トレーニングが表現力全体の向上に役立っているのかも知れない。 

 《 感 想 》
1 制服なしはとても良いそうである。華美な服を着ようが、それは生徒のセンス。教師が注意することもない。チャイムがなくても、生徒は自分の腕時計で動く。まさに自己責任である。
 この日も、テスト中の午後で生徒は下校していたが、ホームベースで勉強している生徒、先生に質問しにきた生徒を見かけた。制服がないと、教師と生徒の距離が近い気がした。

2 校則もない。「これでも、不登校生徒はいますよ。」との教頭先生の話を聞くと、校則が厳しいとか厳しくないは、不登校には関係がない気がする。
 日常の生徒の姿を見てみたかった。

(3)千葉市立海浜打瀬小学校(15:00〜17:00)

 この4月に打瀬小から分離・開校した学校で、「打瀬小の反省を生かしてつくられた」ことをしきりに強調してみえた。
【 施 設 面 】
1 打瀬小の次の反省を生かしてつくられた。
 @ 管理棟をくっつける。当然1階になる。
 A ラーニングセンター(図書館、コンピュータ室、活動スペース)をつくった。
 B 収納スペースを増やした。
 C 内装に木材をふんだんに使用した。
 D 床に吸音の素材(カーペット)を使用した。
 その他、中水(トイレ、スプリンクラー)の利用、門の設置、体育倉庫の換気扇、車いすが通れる幅の扉、救急車が横付けできる保健室、集中管理できる暖房スイッチ、タイマー操作の外灯、職員室横の休養室とシャワー、など参考となる点は多い。芝生と円型ステージがある中庭はすばらしい。低学年、中学年、高学年と分かれた昇降口も意図を感じる。

 また、教頭先生からアドバイスもいただいた。
 ドアがある会議室が2つ以上ほしい。校舎は24学級に対応しているが、職員室のスペースはそれに対応していない。設計段階でチェックすべき。
 オープンスペースにある木のジャングルジムみたいなものは不要。下に窪んだデンスペースも不要。
危険だ。水道やガスの元栓はチェックすべき。マニュアルを準備しておくとよい。
 すべてオープンがいいとは限らない。

 《 感 想 》
 品野台小学校との決定的な違いを感じた。
 品野台小は、現存する学校が敷地の移転により新築された学校だ。当然、設計段階から現役の教師の意見を聞くことができる。さらに、工事の途中でも、しょっちゅう現場を見学にいくことができた。若干の不都合は建設の過程でも修復可能である。「自分の学校」だから、見る眼も真剣だ。
 今回の3校は、全くの新設だった。特に打瀬小と打瀬中は、母体になる学校もなく、勤務することになる教師の声を聞くことができない。海浜打瀬小は、打瀬小や地元の人の声を聞いて設計されたが、その後の練り上げが少なかった。
 ネックは、設計士の思い入れである。ジャングルジムや窪み、コンクリートの柱、水道の元栓の位置など、実用性を考えているとは言い難い。設計士の趣味的要素が大きいのではないか。
 校舎建築は、あくまで子ども、そして授業を中心に据えるべきだ。

 プールにも驚いた。大プールしかない。「低学年はどうするのですか?」の質問に対して、「水を抜く」と言う回答。その後、高学年が使う時はどうするの?「水を入れる。2時間ぐらいで入るよ」
 愛知県では使わない腰洗い水槽をまだ使っているし、温水プールはない。このあたりは県の違いからくるものだろう。プールサイドの床材は滑らず良いものであったが、溝のふたはやけどをするぐらい熱くなる。

 しかし,学校を改革しようと言う意図は強く感じた。それをやってしまったことは見事である。