我が国の医療費は、毎年経済成長率を上回る年率3%〜4%で伸び続けている。2001年度の医療費の予算ベ−スの総額は30兆4千億円、2004年度は同様に31兆1千億円、将来推計では2010年度に約41兆円、2025年度には約69兆円に達するとされている。
2004年度における老人医療費だけを抜き出すと総額で11兆5千億円、国民医療費全体の約37%を占めている。
政府の「社会保障の給付と負担の見通し」によれば2010年度には、それが約15兆円、2025年度約34兆円に達すると推計されている。今後も、高齢社会の伸張に伴う老人医療費の伸びが、国民医療費の総額を押し上げ続けることは明白である。
本来入院は、病気と判断されて、継続的な看護や医学的な管理を受けるために医療施設に入ることをいうが、特に高齢者の場合は、ベッドに臥床した状態で長期の入院を続けると筋力の衰えなどによる身体機能をより低下させ、寝たきり老人をつくっていくと言われている。
しかしそうは分かっていながらも、核家族化し、少子化・高齢社会が到来している今日の社会では、高齢世帯の内のどちらか一方や、単身清潔高齢者などの入院患者を、家庭に復帰させて家族や親族の介護を受けさせることは不可能に近い。そうした状態を今日では、「社会的入院」と読んでいる。
2001年3月、厚生労働省は、急性期患者のため当時既に設置されていた一般病床100万床を50万床程度に絞り込み、急性期の治療が終了した患者を慢性期患者を対象とする「療養病床」
に移すことで医療費の節約を図ろうとする医療法の改正を行った。
それに基づいて各病院は2003年末までに、「急性期患者向けの一般病床」にするか、「慢性期患者を対象とする療養病床」 にするかの選択を迫られた経緯があった。
この法改正の時点で国は「社会的入院」が「一般病床」の増加につながったという見解に立っていたように思われる。「療養病床」を増やすことが医療費の抑制につながるという立場だ。
ところが昨年の12月に厚生労働省は、「社会的入院」は全入院患者の約2割にあたる27万人に達していると推計し直すとともに、社会的入院の状態で、6ヶ月以上入院を続けている患者に対し、医療保険からの給付を廃止、自己負担とすることを決めた。あわせて2010年までに「療養病床
の25万床」を「10万床」に、「介護病床の13万床」を「ゼロ」にすることを決定し、「社会的入院」にメスを入れた形となった。5年前の「一般病床を半減し、療養型に転換して医療費を削減する」とする施策を、国は再び転換したことになる。猫の目改正である。
この改正によって、介護病床や療養病床から退院を迫られる高齢者などの患者は行き場を失う恐れが出てきた。特別養護老人ホ−ムや老人保健施設に入所の道はあるものの、ホ−ムの月額負担は平均的に約18万円にもなるともいわれている。経済的にも家庭環境的にも、どこにも入れない高齢者などに残される道は自宅か経費有料老人ホ−ムということになる。が、それであっても、患者本人や家族の負担は更に重くなる。
今後は、自宅での「老老介護」や施設に入れない「介護難民」が続出すると予想されているが、その受け皿の整備が、今日の政治や行政に課せられた最大の課題になりつつあるのである。 |
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10月