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廃棄物処理事業
シ−マス・パ−トナ−シップ(SEMASS PARTNERSHIP)
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私たちが今回ボストンで訪ねたシ−マスは、正確にはシ−マス・パ−トナ−シップという。1981年、PRF(プロセス・リヒュ−ズ・ヒュエル / PROCESSED REFUSE FUEL)と燃焼一段階で作り出す技術を開発したEAC社(エナジ−・アンサ−ズ・コ−ポレ−ション / ENERGY ANSWERS CORPORATION)によって設立され、その後1996年に廃棄物発電では大手のヒュエル社(REF FUEL)が全株の90パ−セントを取得して施設の運営に当たってきた。
その翌年1997年には、廃棄物処理全米第3位のアライド・ウェイスト・インダストリ−社が45パ−セント、大手電力会社のデュ−ク・パワ−社が34パ−セント、ユナイテッド・アメリカン・エナジ−社が11パ−セントの株式を取得している。シ−マスの株保有状況が、激しく入れ替わっているのが気になるところではあるが、アメリカでは日常茶飯事だという。
このパ−トナ−シップという耳慣れない制度は、アメリカ流の法人格で、ゼネラル・パ−トナ−シップ(GENERAL PARTNERSHIP)、リィミッテッド・パ−トナ−シップ(LIMITED PARTNERSHIP)という二つの組織が認められている。日本の組織で一番近いのは、事業組合ではないだろうか。
パ−トナ−シップの構成企業には、当該事業から得た所得に対する納税の義務は免除されているという。但し、報告義務は課せられており、各株式保有企業本体の決算では所得として合算され、そこで納税義務が生じる仕組みだ。
さて、廃棄物対策は、どこの国においても、21世紀の大きな課題の一つであることに違いはない。日本では近年、通産省が主導して広域処理と溶融処理方式を推進中であるが、アメリカではこうした日本流のゴミの溶融処理方式は、とうに否定されているという。
ところで、アメリカのゴミ処理方式を学ぶ前に、まず理解しておかなければならないことは、日本とのゴミの定義の微妙な違いである。
日本におけるゴミは、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」によって規制を受けている。同法では、廃棄物を「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分けて、一般廃棄物は市町村に、産業廃棄物は排出事業者に、それぞれその処理責任を負わせている。
アメリカでは、家庭系、商業系、事務系と工場系といったゴミ分類よりむしろ影響別分類方法をとっており、ここシ−マスにおいては、一般家庭系のゴミ、商業系のゴミ、州の処理許可を得ている産業系のゴミの処理を取り扱っていた。
シ−マスでは、それぞれの自治体とのゴミ処理契約にもとずいて、ヤ−マス、オ−ティスの鉄道の中継基地、ブラントリ−のトラックの中継基地に加えて、ニュ−ヨ−クやロ−ドアイランドのスポット中継基地から搬入されるゴミの処理を行っている。
ゴミは貨車や自治体と民間の収集トラックによってシ−マスに搬入されてくる。搬入されたゴミは、まず爆発性や放射性のある物質、バッテリ−やカ−ペットなどの粗大ゴミを排除する。
それから破砕機に運ばれて直径15p以下に砕かれ、次の磁選機では鉄分の50〜60パ−セントを除去する。
焼却炉は、高さ30メ−トル、直径6メ−トルと日本の大量焼却(マス・バ−ン)の焼却炉に比べると半分ほどの大きさである。この炉に反射板と上昇空気を注入して、ゴミを炉心で燃焼させると、炉心の最高温度は摂氏1250度にも達する。
一方で、アルミやガラスは溶融温度以下で燃焼させるため、炉底灰(ボトム・アッシュ/Bottom Ash)においては、鉄分とアルミに分別される。可燃物の残量は、わずか0,5パ−セントでしかない。
これが、日本のマス・バ−ン方式では、燃焼温度が高く設定されるためアルミや鉄分の分別は殆ど不可能に近く、可燃物の残量は8パ−セントという数字になっている。
このシ−マスシステムによる建設コストは、日量トン当たり1,000万円強で、シ−マスの処理能力は日量3,000トン、建設費は約400億円である。
これと同じ処理能力を有する施設を日本で建設するとすると、建設費は日量トン当たり1億円につく勘定だから、おそらく3兆円くらいになるのではないかという。
日本方式は、粗大ゴミ対策として焼却炉を大きくしていることと、炉壁の構造が耐火煉瓦になっていること、またこの壁に燃焼によって溶解した物質が固着し、プラントの短期、長期のメンテナンスに大きな負担を強いられているのが現状だ。
シ−マスの収入の2分の1は自治体との間の焼却委託料、残りの2分の1は売電収入によっている。年間収入は、およそ100億円、人件費、オペレ−ション、メンテナンス、金利負担、内部留保を差し引いて、初期投資の400億円は2017年に回収できると試算されている。
日本で同様のシステムを整備するためには、まず一般廃棄物と産業廃棄物の定義や一般廃棄物を民間事業者が焼却処理することなどへの法改正が必要になる。
しかし、国が今この時点で、これまで進めてきた溶融方式から180度方針転換することは絶望的だ。
いずれにしても、このシ−マのシステムは、現在の日本の行政と法制度のもとでは、難しいのではないかということが、私のいつわらざる結論である。
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ボストン公立中学校のコンピュ−タ−教育
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日本の義務教育システムは小学校6年、中学校3年の9年間である。アメリカの(州によって多少異なっているようにも聞いたが)ここマサチュ−セッツ州では、キンダ−ガ−デン(KINDER GARDEN)に始まり、グレ−ド1(GRADE1)からグレ−ド12(GRADE12)までの13年間が、義務教育の期間となっている。
現在は、130校がボストン教育委員会の組織下におかれている。日本の義務教育は、文部省が定める指導要領に基づいて行われており、事実上、日本政府の意向が強く反映される仕組みになっている。
ところがアメリカは、連邦政府による貧困層に対する補助制度の他は、大まかなガイドラインを定めているだけで、実際の施策は州政府に委任されている。
州政府は、更に教育制度の実権を自治体に委ねている。この点で、アメリカは日本よりも地域事情に合わせた教育が実行できるように思われる。しかしアメリカはアメリカで、人種のるつぼといわれるほどの多民族国家という構造的な課題を抱えているところが日本と大きく違う。
1999年度における生徒数は63,000人、このうち49パ−セントが黒人、26パ−セントがラテン系、インディアンは1パ−セント、白人はわずかに15パ−セントである。そして、62パ−セントの生徒が無料学校給食制度の恩恵を受け、9パ−セントの生徒が給食費減額制度に頼らなければならないという貧困、劣悪な家庭や社会の環境が、教育上の大きな弊害になっている。
私たちは二班に別れて、チミリ−ミドルスク−ル(THE TIMILY MIDDELE SCHOOL)とハ−バ−パイロットスク−ル(THE HARBOR PILOT SCHOOL)における授業風景を見学させてもらうことになった。私たちの班の訪問先は、チミリ−ミドルスク−ルである。
この学校では、黒人の子、ラテン系の子、アジア系の子も含めて400人の生徒が学んでいた。12坪ほどの狭い教室に、先生が2人、生徒が10人である。教室内の壁という壁には、写真やコピ−が貼られ、机の配置も雑然としているが、中央に掲げられた大きな星条旗が目を引く。
この日は丁度、生徒たちの作ったインタ−ネットの画面を開いて、いくつかの項目を変更する授業を行っているところだった。機器は3台、3人づつ交代でパソコンに向い、先生の説明を聞きながらそれぞれ作業を進めていた。
パソコンに向かっている生徒も順番を待っている生徒も、銘々にカメラをぶら下げた異国人の一群に気を取られてしまったのか、肝心な授業の方に身が入らないようだった。
数年前まで、双子の赤字に苦しんでいたアメリカが好況に転じ、経済学者達の懸念を横目に持続し続けているのは、IT革命に成功したからだといわれている。
先生も『コンピュ−タ−を扱えるかどうかで、子供達の将来は大きく分かれます。』と話していた。この授業参観で、少なくとも何を教育の目的にするのかというボストン教育委員会の方針をしっかり確認することができた。
今の日本の子供達は、将来に展望を持てないでいる。昔の子供達は、大きくなったら、博士か大臣になるという夢と気概を皆持っていた。今日の博士や大臣の実力や存在感が薄れ、権威が失墜してしまっていることも一因である。コンピュ−タ−を使いこなせれば、将来展望ができるというボストン教育委員会の目標は分かりやすい。
日本の義務教育の中で、コンピュ−タ−教育は始まったばかり。肝心の教師の質と量が完全に不足している。
21世紀はIT産業が引っ張っていくという大方の予測に基づけば、コンピュ−タ−教育の充実こそが、子供達の夢と気概を呼び戻す最短の道ではないかと話し合いながら、私たち一行はチミリ−中学校を後にしたのだった。
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ボストン教育委員会の「TECH BOSTON」事業
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ボストンの公立学校は、1998年にマサチュ−セッツ州教育省からコンピュ−タ−挑戦教育の承認を受けた。 社会人や卒業生を対象にハイテク技術教育の場の提供、教師や公立学校の生徒のレベルをあげ、技能資格取得を目指すための学科の提供、そしてボストン公立学校や地域の自治体の技術革新を支援する学生の集団をつくることが目的である。
その「テックボストン計画」は、職業高校と技術教育委員会が共同して行っている。この計画を推進するため、シティ・イア−社、シチズン・スク−ル社、NFTE社や企業組合などの非営利組織が結成された。
1999年度から2000年度までの計画は次のようになっている。
- ネットワ−ク科は、シスコネットワ−キング社とスリ−コム社が、7つの高校と2つの自治体から300人の生徒を引き受ける。
- ウェブ・マスタ−のパイロット学科は、ボストンの市域を超えた放課後授業として3つの高校をオンラインで結んで行われる。同じ試みは、2000年度から2001年度に、他のいくつかの高校で実行される予定である。
- マイクロソフトシステムエンジニア資格コ−スは、広域的で放課後に実施されることになっている。
- ロボット学科は中学校が対象で、学期を通して実施される長い教育。 新しい科学と技術資格の2つのコ−スになっている。4つの中学校から100人の学生を選抜して実施する。
- マイクロソフトオフィス特別資格学科は、3校から4校で試験的に実施される。ここでは、マイクロソフト社のワ−ド、パワ−ポイント、エクセル、アクセスを学ばせ、コ−ス修了者には同社から特別資格が与えられる。
テックボストンの目標は、これらのコ−スに650人以上の学生を登録させ、実習や訓練の機会を提供し、この計画の担い手となる教師用に高レベルの訓練を行い、テックボストンに関係する全ての教師と学生のバ−チャルキャンパスを作ることにおいている。
次に2000年度から2001年度には、全ての高等学校が連携して、テックボストンと同じ選択科目を揃える。また、2校から3校で、テックボストンアカデミ−を設立し、これを拡大していって、全ての公立学校に技術を習得した学生の応援団を作り、更にテックボストン訓練センタ−を設立するとしている。
テックボストン計画では、幼稚園児から高校生までの各段階ごとの学習のステップが実に細かくマニュアル化されている。教える側は一目で学生達の進歩の度合いが分かるようになっていると同時に、学ぶ側からも自らの学習の成果についての自己評価ができるサンプルもできあがっていたのには感心させられた。
現在は、ロボット学科に215人、マイクロソフトオフィスユ−ザ−特別学科に55人、ウェブマスタ−学科に110人、ネットワ−ク学科は300人など全ての学科で740人が学んでいる。
このようにしてボストン市教育委員会は、中学生からのコンピュ−タ−教育を目指して、まず民間活力による支援組織を立ち上げ、公立学校との強固な連携を図ろうとしている。
テックボストンの1コ−スは17週間となっている。コ−スの全課程を終了し、認定資格取得を希望するものに対して資金援助を行っている。
今年度は、このコ−スに70人の教師が挑んでいる。9月にこのコ−スが終了すると、この教師たちは、それぞれ自分の学校に戻って生徒たちに教える。
私は、「日本のインタ−ネット関連の通信費は、アメリカの2倍強といわれている。そして今日本は、アメリカから通信インフラ費の引き下げを要求されているが、最終的にこれだけの学校と生徒を対象にテックボストン計画を遂行するための通信費は、どのようになっているか。」と尋ねてみた。
「それはとても頭の痛い問題。コンピュ−タ−産業の大手であるシスコシステムズなど民間企業からの寄附に依存する部分がかなりある。」と正直な答えが返ってきた。
連邦政府と州政府と民間企業、電話会社で通信審議会(FCC)が設置されていて、この審議会で通信事業に対する各種の調整を行っているようだ。
ボストンの電話会社は、個人や法人から徴収した電話料金の中から、一定の金額を拠出して、公立学校のアクセフ・フィ−の一部を補助している。補助金の額は、市町村の財政力に応じて幅があるようだ。アクセス・フィ−の負担については、まだ検討の余地があるともいっていたが、そうした財政的な問題も、好調なアメリカ経済は全て飲み込んで活発に動いている。
IT革命に成功したといわれるアメリカ経済だが、IT革命は未だにとどまるところを知らないほど進んでいる。
日本の義務教育におけるコンピュ−タ−への取り組みを見る限り、日本経済はアメリカ経済に追いつくことすら難しいのではないかと思えるのである。
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