梅田 肇
鈴鹿国際大学
I. はじめに
このリサーチの目的は、米国の大学に正規留学している日本人学生への意識調査を通して、今日の留学の在り方、留学生の学習意識、さらには留学をする意義について検証することにある。
留学先として、日本人に最も人気がある国のひとつは米国であろう。語学(英語)学習という点にのみならず、我々日本人はこの大国からさまざまな文化的要素を吸収している関係上、最も親しみを感じる外国に位置付けしていることは疑う余地のないところであろう。このような背景を踏まえ、米国の大学に在籍し、学士号取得を目指している日本人留学生を対象に、アンケート調査を実施した。質問は、(1) 入学の動機、(2) 講義内容の理解度、(3) 講義内容に対する満足度、(4) 講義の内容が理解できない場合の対処法、(5) 一日の学習時間、(6) 日本の高等学校卒業時までに受けた英語教育の有益性、についての6項目である。これらの質問に対する回答結果を考察し、日本人留学生の学習意識、さらには留学をする意義について検証を試みる。併せて日本における英語教育に示唆するものは何かを論じる。
II. 被験者
今回のリサーチは、米国にある5つの4年制州立大学(中西部の I 大 と M 大、西部の C 大、太平洋岸の O 大、および 南部の T 大)に在籍して学士号取得を目指している日本人留学生を対象に実施した。したがって語学留学している者や、日本の大学に籍を置きながら交換留学生として該当の米国大学に在籍している者は調査対象から除外した。これは、留学の目的が異なれば、学習に対する取り組み方が変わる可能性を考慮したものである。
III. インターネット・ディレクトリーの活用
II の被験者の選出にあたっては、上記5大学のホームページ内に設けられているディレクトリーを活用した。これらの大学では、外部からホームページにアクセスした者に対してもディレクトリーの使用を認めている。検索機能 (query) のスロットに、無作為に抽出した日本人の姓または名を入力した上で検索・照会し、その姓または名を持つ該当者が在籍している場合は、学部生であることを確認した上で、その電子メール・アドレスを確認・記録した。
IV. 調査の方法
上記 III の方法で抽出した被験者に、1997 年3月下旬から4月上旬にかけてインターネット機能のひとつである電子メールを使ってアンケートを送信し、該当する項目に○をつける形式で回答してもらった。被験者からの回答も電子メールで受信した。なお、米国のコンピュータの端末には日本語フォントが備え付けられていないことを見越して、アンケートの文面は英語で作成した。アンケート送付総数は 267、回収総数は 108、有効回収数は 93 であった。したがってこのリサーチは、この 93 名からの回答を分析・考察して進めるものとする(アンケートの項目と回答結果は付録参照)。
V. 結果と考察
1. 入学の動機 (Q1)
どのような理由から、現在在籍している大学を進学先として決定したのかを問う質問である。ある程度予想していたとおり、a(現在在籍しているアカデミック・プログラムに関心があった)を選んだ者が 42 名 (44.7%) と最も多く、留学するに当たって大学や学部を選ぶ際、そのカリキュラムの内容を見きわめ、自分に興味のある分野で勉学に励みたいという、確固たる志望動機を持つ者が少なくないことを表わしているようである。また、e(日本の大学に進学して勉強するのが嫌だった)を選んだ者が9名 (9.6%) あったわけであるが、これは、日本の大学受験につきまとう「偏差値至上主義」に対して"No."という回答を出した結果ではないだろうか。換言すれば、入試の難度によってのみランクづけされた日本の大学に魅力を感じていない、と解釈できるのかもしれない。i(その他)を選んだ者は 26 名 (27.7%) で、a に次いで数字的には2番目に多かったわけであるが、その具体的な理由として、「留学先に知人がいる」や「留学先が自分にとって全く見知らぬ場所ではなかった」を挙げた者が、この 26 名中 11 名 (42.3%) 存在した。これは全体比にしても 11.8 パーセントとなる。即ち、留学先を決定する過程で、アカデミックな観点から自分に適した大学や学部を選ぶ者が主流を占める一方で、知人や土地に関する知識の有無を判断材料にする者もいることが伺い知れる。いかに物心両面で米国が身近な存在になったとはいえ、全く見ず知らずの土地で勉強することには不安を抱く者もいるということであろう。
2. 講義内容の理解度 (Q2)
担当教員の講義を聴き、その内容をどれくらい理解しているのかを問う質問である。ここで言う「理解度」の中には、英語のみならず、学習するべき知識も含まれると解釈するのが自然であろう。
a(90% 以上)を選んだ者が43 名 (46.2%) で最も多く、次いで b(80-90%)と c(70-80%)を選んだ者が、それぞれ 21 名 (22.6%) と 19 名 (20.4%) という結果となり、約9割の学生が、講義の7割以上を理解していると自覚していることがわかる。自ら志望して、英語での講義が行なわれる米国の大学に入学を果たした者が相当数いることが、これらの数字の裏付けになっていると言うことができるのではないだろうか。中山 (1994) は、米国の大学の講義は、学生が該当するテキストの内容を把握していることを前提に進められ、教員はその中で最近の研究や自身の見解をつけ加えることによって、講義の内容を高度なものに保っている、と報告している。講義を受ける側の学生が、自分達の実力を過大評価しているケースもあり得ようが、この講義の質の高さを考慮すれば、これらの数字は一定の評価に値しよう。同時に、言語のハンディキャップを克服して、講義内容を理解しようと努力する日本人留学生の姿が垣間見えるようである。
3. 講義内容に対する満足度 (Q3)
75 名 (79.8%) が a(満足している)と回答しており、8割の学生が、現在在籍しているアカデミック・プログラムの講義内容に満足していることがわかる。その理由としては、a(講義がおもしろい)を選んだ者が 40 名 (51.9%) と最も多く、次いで c(自分にやる気がある)の 29 名 (37.7%) と続く。自分がある程度納得して学校や学部を選んだことで、本来あるべき筈の動機づけがなされていることが、これらの数字に反映されているようである。
また、b(満足していない)を選んだ 19 名 (20.2%) の理由としては、d (その他)が圧倒的に多く、16 名 (84.2%) となったわけであるが、この具体的な内容は、該当する各被験者間でばらつきがあり、全体的な傾向を推察できるには至らなかった。しかしながら、筆者の目を引いたのは、3名が「講義の受講者数が多すぎる」と回答していることである。これは、後方に行くにしたがって座席の位置が少しずつ高くなる大教室が、受講生で埋まるような講義を指して出た意見ではなかろうか。日本の大学でもマス授業の弊害が指摘されているが、米国の大学でも、これが留学生にとっては講義を集中して聴くことの妨げになっていることを示唆するものである。
ちなみに筆者の経験では、最も受講し易いと感じた講義は、定員30名、もしくはそれ以下の受講生数を見越して、その人数に見合った広さを持つ教室で行なわれるものであった。
4. 講義の内容が理解できない場合の対処法 (Q4)
b(講義終了後、担当教員に質問する)と回答した者が最も多く、63 名 (64.9%) にのぼった。これに a(講義中に担当教員に質問する)を選んだ8名 (8.2%) を加えると、7割以上の学生が、疑問点や難解な事がらを直接担当教員にたずねていることになる。これに対して c(友達に教えてもらう)を選んだ者は 17 名 (17.5%) にとどまった。これは好ましい傾向として評価してよいであろう。担当教員に質問をすることが、迅速かつ適確に答えを得られる最良の方法だからである。梅田 (1996) が、在日米国大学であるミネソタ州立大学機構秋田校の一般教養課程に在籍する日本人学生に同じ質問をしたところ、半数を超える学生が、「友達に教えてもらう」と回答した。日本人クラスメートの数が多いことが、この回答を導き出したひとつの要因であろうが、この2つのリサーチの結果に限って言えば、米国の大学ということは共通しているものの、日本にある場合と米国にある場合とでは、学生の疑問点解決の方策については異なる傾向にある、ということであろう。松香 (1989) は、米国人の学生は、日本人であれば知っていて当然であると思われるような事についても平気で教員に質問することが多々ある、と報告している。日本人留学生が少々的外れな質問をしても、気にする必要はあるまい。重要なことは、講義を聴いて理解できない点があれば、まず教員に質問をする、ということであろう。
5. 一日の学習時間 (Q5)
一日の講義を受けた後の学習時間についてたずねたものである。e(3時間)を選んだ者が 28 名 (30.8%) で最も多く、次いで f(4時間)と回答した 23 名 (25.3%) と続く。また、g(5時間以上)を選んだ者も 20 名 (22.0%) となっている。したがって、8割近くの学生が一日に少なくとも3時間は学習に時間をかけている事がわかる。これは、アメリカの大学は文字どおり勉学に勤しむ場所であるということを裏付けるものである。高山 (1998) は、自らの体験談として、米国留学最初の一学期間は、食事と睡眠時間を除いてすべて勉強にあて、学期が終わるまで休みの日を持つことはなかった、と述べている。
ところで、この勉強の厳しさは、何も留学生だけに限られたことではない。米国人の学生でも、毎日大学の図書館に夜遅くまで残るなどしてかなりの時間を学習に費やしている者は数多い。入学から一年経過した時点で、Grade Point Average (GPA= 平均評定値) が基準点を下回れば強制退学 (dropout) となることを考えてみても、米国の大学のアカデミック・プログラムを修了するためには、明確な目標を持ち、かつそれ相当の時間を学習に充てて取り組むことが必要不可欠なのである。
6. 日本の高等学校卒業時までに受けた英語教育の有益性 (Q6)
a(大いに役立っている)と b(少しは役立っている)を選んだ者が合わせて 41 名 (44.1%) であった。これに反して c(あまり役立っていない)と d(全く役立っていない)を選んだ者は合わせて 51 名 (54.8%) となり、前者を上回る結果となった。高等学校までに学習した英語の留学時における有益性については、学生間で意見が別れるようである。
Q6a は、前述の 41 名を対象に、具体的にどの英語能力について有益性を感じているのかをたずねたものであるが、e(文法に関する能力)と b(読解力・語彙力に関する能力)を選んだ者が、それぞれ 27 名 (44.3%) と 14 名 (23.0%) という結果となった。この要因として、e については米国の大学ではアサインメントとして、リサーチペーパーの執筆が頻繁に求められることが挙げられよう。その内容が優れたものであっても、英文に文法の誤用がある場合には良い成績は期待できないし、この点で日本の英語教育で身につけた文法に関する知識が役立っていると思われる。また、b については前述の文法に関する能力と併せて、講義で使われるテキストを読む際に必要な能力としてやはり高等学校卒業時までに習得した単語力・熟語力が貢献しているのではなかろうか。実際に留学中の被験者間では、日本で受けた英語教育全般についてはネガティヴな意見を持っている者の方が多かったわけであるが、筆者の留学経験では、やはり文法については日本の英語教育の恩恵を受けたと感じられる点が少なくない。「受験のための英語」というレッテルを貼られがちな日本の英語教育を、その意味でも今一度、異なった様々な視点から見直してもよいのではないだろうか。
VI. おわりに
米国の5つの4年制州立大学に在籍して学士号取得を目指している日本人留学生を対象に、彼らの学習意識について電子メールによるアンケート調査を行なった。各被験者の留学前の経歴や年齢は異なるし、さらには現在在籍している大学での専攻分野が多岐にわたる、などの要素を考慮する必要はあるものの、全体的には、自ら志望して在籍するアカデミック・プログラムを完遂するべく、真剣に勉学に取り組む姿勢が確認できたように思われる。加えて、留学を成功裡に導くためには英語力の習得はもちろんのこと、毎日の講義内容を確実に理解しようとする姿勢が如何に大切であるかをあらためて認識させられた。
萬戸 (1992) は、米国大学の正規課程で学習していくだけの力をつけるということになると、英語を使う力、すなわちその運用能力 (communicative competence) を身につけることが不可欠である、と報告している。具体的に述べるとすれば、講義を聴き、その内容を理解し、テキストを読み、リサーチペーパーを執筆し、必要に応じてクラスメートとのディスカッションにも参加できる、など、極めて高度なスキルということになろう。将来米国の大学に留学を希望している人達は、正規の留学とは、生半可な気持ちでは完遂できるものではないということを、肝に命じておく必要があるだろう。
同時に、近年ようやくオーラル・コミュニケーションに重点を置き始めた日本における英語教育の内容も、今一度吟味する必要があるのではないだろうか。
「日常で使える英語」に触れる機会を多くすることは大いに結構なことであるが、反面、総合的に英語力を向上させることも肝要である。読解力や文法力を養成する授業をおろそかにすることは避けるべきであろう。なぜならば、これらの能力を身につけることによって、V-6で述べたように、英語を媒体として、大学レベルのアカデミックな知識の習得が可能となるからである。そして、このことが、現在の日本を取り巻く国際社会を生きてゆくための糧になることは想像に難くない。
留学とは、勉学に関して自己を厳しい条件の中に置くことに他ならない。これは、日米間の往来が迅速に、手軽に、しかも安全にできるようになった今日でも、変わることがない定義であろう。その厳しさの中で自らの視野を広げ、教養を身につけた者が国際社会の中で大いに飛躍する可能性を秘めていると言うことができよう。殊に 21 世紀を担う若い世代の人達には、興味と関心があれば機会を見い出して積極的に海外で勉学に励んでもらいたい。同時に、日本・米国のいずれの大学に進学するにせよ、「自分はどのような目的を持って大学生活を送るべきか」を今一度自問自答してもらいたいと思う。
参考文献
Krashen, S. D. (1987). Principles and Practice in Second Language Acquisition. London: Prentice-Hall International.
萬戸克憲 (1992).『国際化と英語教育』大修館書店.
松香洋子 (1989).『娘と私の英語留学記』玉川大学出版部.
中山茂 (1994).『大学とアメリカ社会-----日本人の視点から』朝日新聞社.
高山博 (1998) 『ハード・アカデミズムの時代』講談社.
梅田肇 (1996).「在日外国大学における学生の学習意識-----ミネソタ州立大学機構秋田校における調査報告」『英語教育』第45巻、第4号、大修館書店. pp. 32-36.
梅田肇 (1997).「より充実した留学生活のために-----日本人留学生への提言」『紀要』第25号、九州英語教育学会. pp. 23-28.
※ 本リサーチは、平成9年度鈴鹿国際大学特定研究費交付対象研究である。
Q. 1: Why did you decide to study at this university? (Choose one.)
a. I am interested in the academic program in which I am enrolled at this university. 42 (44.7%)
b. I want to learn from famous professors/instructors at this university. 1 (1.1%)
c. I am attracted to this university's reasonable tuition. 3 (3.2%)
d. I am interested in English and American culture. 2 (2.1%)
e. I did not like studying at a Japanese college/university. 9 (9.6%)
f. I was only admitted to this university. (Although I sent applications to some other American universities, I was not admitted to any of them but this university.) 4 (4.3%)
g. My parents/relatives recommended this university to me. 6 (6.4%)
h. My company/sponsor recommended this university to me. 1 (1.1%)
i. Other (Specify.) 26 (27.7%)
Q. 2: How much of the lectures in class do you think you usually understand? (Choose one.)
a. More than 90% 43 (46.2%)
b. 80-90% 21 (22.6%)
c. 70-80% 19 (20.4%)
d. 60-70% 9 (9.7%)
e. Less than 60% 1 (1.1%)
Q. 3: Are you satisfied with the content of the academic program in which you are enrolled at this university?
a. Yes. -----> (Go to Q. 3a.) 75 (79.8%)
b. No. -----> (Go to Q. 3b.) 19 (20.2%)
Q. 3a: Why do you think you are satisfied with it? (Choose one.)
a. The lectures are interesting. 40 (51.9%)
b. I can understand the lectures very well. 4 (5.2%)
c. I have a motivation to study. 29 (37.7%)
d. Other (Specify.) 4 (5.2%)
Q. 3b: Why do you think you are NOT satisfied with it? (Choose one.)
a. The lectures are boring. 1 (5.3%)
b. I can not understand the lectures very well. 2 (10.5%)
c. I have no motivation to study. 0 (0.0%)
d. Other (Specify.) 16 (84.2%)
Q. 4: What do you do when you do not understand what the professors are saying in the lectures? (Choose one.)
a. I ask questions to the professors in class. 8 (8.2%)
b. I ask questions to the professors after class. 63 (64.9%)
c. I ask questions to my classmates. 17 (17.5%)
d. I do nothing. 0 (0.0%)
e. Other (Specify.) 9 (9.3%)
Q. 5: After school, how long do you usually study each day? (Choose one.)
a. Not at all. 0 (0.0%)
b. About 30 minutes. 1 (1.1%)
c. About 1 hour. 6 (6.6%)
d. About 2 hours. 13 (14.3%)
e. About 3 hours. 28 (30.8%)
f. About 4 hours. 23 (25.3%)
g. 5 hours or more. 20 (22.0%)
Q. 6: Do you think the English that you learned at Japanese junior and senior high school helps you study at this university? (Choose one.)
a. Yes, very much. -----> (Go to Q. 6a.) 10 (10.8%)
b. Yes, a little. -----> (Go to Q. 6a.) 31 (33.3%)
c. No, not very much. 40 (43.0%)
d. No, not at all. 11 (11.8%)
e. I have never attended Japanese junior or senior high school. 1 (1.1%)
Q. 6a: Which of the following abilities you currently need is helped by the English you learned at Japanese junior and senior high school? (Choose as many as you want.)
a. Listening ability 5 (8.2%)
b. Reading ability (including vocabulary) 14 (23.0%)
c. Speaking ability 7 (11.5%)
d. Writing ability 8 (13.1%)
e. Grammatical ability 27 (44.3%)
f. Other (Specify.) 0 (0.0%)