from: (1994). CAMPANA: 鈴鹿国際大学紀要 1, pp.71-76.

Wh-疑問文の評価-----日・米英語教師間の比較

梅田 肇(鈴鹿国際大学)

1. はじめに
 この小論はwh-疑問文の評価に関して、日本人英語教師と米国人英語教師の間にどの程度の差異が見られるかを考察するものである。
 ここ数年来コミュニケーションに役立つ英語教育、あるいはコミュニカティブコンピテンス(Communicative Competence)を育成するための英語教育がさかんに叫ばれるようになった。中学校用の教科書も新指導要領にそって一新され、一見しただけで、コミュニケーションに重点の置かれていることが判る。学生のコミュニケーション能力を伸ばすためには、文法能力、社会言語的能力、談話能力、方略的能力の調和した養成が必要である、ということに異論を唱える者はいないであろう。
 しかし、評価に関して言えば、沖原(1993)も指摘しているように、中学校段階で最優先されるべきは文法能力ではなかろうか。文構造のしっかりとした基礎ができて初めて円滑なコミュニケーションへと発展していくものと思われる。
 この観点に立って、今回1つの文法的文に対して学生の犯しやすいと思われる非文法的文をそれぞれ4種類用意して、日本人教師と米国人教師に評価してもらった。Yes-No疑問文、受動文、否定文、不定詞構文、関係代名詞節を含む文など約15の文型を調査したが、今回はwh-疑問文に限定して考察する。

2. 仮説
 日本人英語教師(JTs--Japanese Teachers of English)と米国人英語教師(ATs--American Teachers of English)との2グループ間のwh-疑問文の評価には差がある。

3. 被験者
 1. JTs 52名
 2. ATs 32名

4. 調査に使用した英文の出典(中学校検定教科書)
 (1) One World 1
 (2) New Horizon 1
 (3) New Crown 2
 (4) Columbus 2

5. 調査の手順
 次に示すような指示に従って、アンケートに答えてもらった。
 For each of the following sentences given at the top, there are four alternatives that are intended to mean the same, although some are obviously better than others. In other words, some are closer to the original sentence in meaning, and thus considered more acceptable. Please write "1" before the sentence you would feel is the best; "2" for the second best; "3" for the third best; and "4" for the worst.

6. 結果と考察
 統計的にはカイ2乗(Chi-square=χ2)検定を用いた。有意水準は5%で、自由度(df)が3であるから、値が7.8147より大きければ仮説の正しいことが証明されることになる。
(数字はJTsとATsのそれぞれの非文に対する評価のパーセンテージ(%)である。右端の数字は5%水準における値である。数値の前の * は両グループ間に有意な関係のあることを示す)

 
1. When do you do your homework?
    1  2  3  4 χ2-T value 
a. When you do your homework? (JTs)622115215.4644
  (ATs)2522476 
b. You do your homework when? 212649424.4440
  633430 
c. Your homework you do when? 04138352.9956
  1241416 
d. When do you your homework? 1749231148.7872
  03988 

 
2. What time do you eat breakfast?
    1  2  3  4 χ2-T value 
a. What time breakfast do you eat? (JTs)44642810.3572
  (ATs)0195625 
b. You eat breakfast what time? 84246411.9196
  2559160 
c. Breakfast do you eat what time? 001288*3.7212
  002872 
d. What time you eat breakfast? 881200*3.4104
  752203 

 
3. What are you going to do after school?
    1  2  3  4 χ2-T value 
a. What you are going to do after school? (JTs)8864226.6616
  (ATs)3838250 
b. You are going to do after school what? 638371938.9592
  633403 
c. You are going to do after school what? 215156822.5456
  0225919 
d. Are you going to do what after school? 440441238.3040
  061678 

 
4. When did you come to Japan?
    1  2  3  4 χ2-T value 
a. When were you come to Japan? (JTs)2253142*7.2072
  (ATs)3126025 
b. When you came to Japan? 85150047.2164
  969166 
c. Did you come when to Japan? 004852*6.8964
  062569 
d. You came to Japan when? 136021645.2256
  881200 


 調査結果の統計的分析から判断して、全体として仮説は正しいと言えるであろう。文(1)と文(3)は、それぞれ4種類の非文全ての評価において、数値の示す通り両グループ間に相関性は全く認められない。文(2)と文(4)に若干の相関性が観察される。つまり、非文4個のうち、2個ずつに評価上の類似性が見られる。
 もう少し詳しく考察を進めてみよう。

考察1
 JTsグループとATsグループ間の評価に差の生じる最大の原因は、前者はwh-疑問詞が文頭にあるものを高く評価しているのに対して、後者は文尾(または文中)にあるものを高く評価していることにある。
 JTsグループでは最も多くの被験者が (1a) (2d) (3a) (4b) をそれぞれbestとして選んでいるのに対して、ATsグループは(1b) (2d) (3b) (4d)を選んでいる。前者は全てwh-疑問詞で始まる文であり、後者は(2d)を除いた3文は全て、wh-疑問詞が文尾(または文中)に位置している((2d)については考察2を参照)。
 また、JTsグループの最も多くの被験者がworstとして評価した文(1c) (2c) (3c) (4c)は、wh-疑問詞が文尾にきている。
 ATsグループがベストとして選んでいる(1b) (3b) (4d) のような文はecho question(問い返し疑問文)と呼ばれるものである。荒木(1987)はこのような文を説明し、You bought what?などの例を挙げている。
 金谷・高梨(1978)にも、米国人大学生にとって最も理解しやすいwh-疑問文の誤文は、They study English when?のような文であり、日本人英語教師はWhen they study English?が最も理解しやすいと判断している、という報告がある。

考察2
 (2b)はecho questionであるにもかかわらず、ATs被験者32名の内8名(25%)のみが容認可能性(acceptability)の最も高い文として選び、残り24名(75%)がwhat timeで始まる文(2d)を選択したのは何故であろうか。
 理由の1つとして考えられるのは(2b')のようにすれば選択率が高くなったかもしれない、ということである。平叙文ではYou eat breakfast at seven.のように前置詞を必要とするからである。
 (2b) You eat breakfast what time?
 (2b') You eat breakfast at what time?
 更に、what time, (at) what place, (in) which directionなど複数の語から成るwh-疑問文の場合は、1語の場合に比して、echo questionの生起率が低いのであろうか。今後の実験課題として考えてみたい。

考察3
 ATsグループによる(3d)の評価が低いのは、whatがecho questionの位置にあるものの主語と述語が倒置の形を取っているからである。
 同様に(4c)の評価が低いのは、上と同じ理由に加えて動詞句(come to Japan)がwhenによって分離されているためであろう。一方、JTsグループが(4c)を低く評価しているのは、疑問詞whenが文頭にきていないためである。
 両グループによる評価が有意な関係にあるものの、評価の低い理由が、それぞれ異なることに注目しなければならないであろう。

7. おわりに
 Wh-疑問文の評価に関して日米英語教師間の比較を試みた。疑問詞の種類が限られているが、両グループ間の差異はかなりはっきりしているように思われる。
 中学生のwh-疑問文の理解度については、高島・牧野・道丸(1994)の独創的な研究がある。これらを参考にしてwh-疑問文をあらゆる角度から捉えて、機会をあらためて日米英語教師間の評価の比較を試みるつもりである。
 今後、中学・高校・大学を問わず英語母語話者としての英語教師と、日本人英語教師とのティームティーチングは言うに及ばず、協同作業がますます必要になってくるであろう。そこには当然評価に関する問題も生じてくることが十分予想される。その意味でも、この小論が何らかの示唆となれば幸いである。

 *この小論の執筆にあたり、統計的手法に関して竹内理先生(同志社女子大学)にお世話になった。ここに記して感謝の意を表したい。


参考文献

荒木一雄(1987) 『英語の文法』英潮社新社.

沖原勝昭(1993)「中学生のコミュニケーション能力をどう評価するか」『英語教育』10月号 大修館.

金谷憲・高梨芳郎(1978)「Error Analysis--英語教育における誤りの評価--」『東京大学教育学部紀要』

清川英男(1990)『英語教育研究入門』大修館.

高島英幸・牧野由利子・道丸敏(1994)「検定教科書の文法事項配列順序と第2言語習得理論研究」『現代英語教育』2月号 研究社.


back to Papers index

back to Top