20030107(1)jh-kenkyu
テーマ:英語教育実践研究
群馬県中之条町立西中学校講演(1)

平成15年1月7日
刈谷東中学校 犬塚章夫

「英語教育に関する実践研究の在り方、考え方」

1、オリジナル単元とアクションリサーチ

オリジナル単元  (中嶋1997:32)

「英語を通して( A )できる子を育成するために( B )を立て( C )を使って教える」
ABCに何を入れたらよいか?

 ○1
  A 教科書の内容や文法を理解することが
  B 年間指導計画
  C 教科書
 ○2
  A 相手の立場に立って自分の意見を述べることが
  B 表現活動の年間計画
  C 歌やゲームや自己表現やディベートなど       

アクションリサーチとは、      (佐野2000:9)

「生徒や同僚の意見も聞きながら、系統的に持続して行う反省的授業研究」となる。だから、良心的な教師なら、実は誰もが無意識のうちに実施しているのである。例えば、「今日の授業は失敗だった。導入の方法がまずかったからだろうか?明日はあの部分を変えてみよう」と考えたとしたら、それがリサーチの出発点であり、その疑問を体系的、論理的に追及し、考察と実践のリサイクルを持続してゆけば、それが「リサーチ」となるのである。だから、専門的知識や統計的な処理能力はさしあたり必要ではない。「生徒の実態に即し」「生徒の力も借り」ながら、「自分自身をよく見つめ」、「プランし、実行し、反省し、方向転換もしながら」「授業改善を客観的、科学的に」進める意欲があれば、すぐにでもできる研究なのである。

アクションリサーチ6つのステップ    (佐野2000:54-60)

(1) 問題の確定
 自分が抱えている問題点を絞り込む。
 例「生徒の英語の声が小さい。」

(2) 予備的調査
 教室の実態を調査し、意欲や疎外する問題点などを分析し、この問題に対する有益な情報をできるだけ蓄積する。
 例「生徒の声の実態のどこが問題なのか、活動で生徒の声に変化があるか、なぜそうなのかなどを観察やアンケートなどで実態調査をする。加えて、経験者の意見を聞いたり、文献を調べたりして、なぜ声がでないのかという理由を探る。」

(3) 仮説の設定
 調査結果をふまえて、実現可能な到達目標を定め、対策を立てる。
 例「当初の目標として『開始の挨拶は英語で元気よくできる』と設定する。対策としては、教師はクラスのムードを明るくするために、授業外でもできるだけ豊かな人間関係を築く努力をすると同時に、授業では明るく元気よく挨拶を交わし、また、数人の生徒とも個人的に挨拶を交わすことにする。すると、この場合の仮説は、『教師が明るい声で挨拶をし、クラスのムード作りに励めば、生徒の挨拶の声も十分大きくなる』となる。また、『十分な声』の判断基準は、『クラスの5分の4以上の生徒が、少なくとも隣の人に聞こえる声量で、英語で挨拶する』と定めておき、2週間をメドに毎時間の観察をfield-noteに記載しておき、その結果で判断する。」

(4) 計画の実践
 クラスの反応や個々の生徒の様子なども簡単にメモしておく。

(5) 結果の検証
 予定の時期が来たら、観察結果やアンケートなどで実践の効果を調べる。成果が初期の目標に達成していれば、次のステップに進み、初期の目標が達成できなかった場合は、インタビューやアンケート、またfield-noteなどを調べて、失敗の原因が仮説にあったのか、指導にあったのか確定し、それを修正した形でもう一度同じサイクルを繰り返すか、あるいは、次のサイクルに進みながら第一サイクルの不十分な点をカバーできるかを判断し、新たな実践を始める。

(6) 報告
 結果をまとめて発表する。一人よがりの結論で満足する危険性を防げる。

2、実践的コミュニケーション能力

最近の理論では   (山岡1997)

コミュニケーション能力とは
     
(1) 文法能力       いわゆる文法の知識と運用能力
(2) 談話能力       文脈の中で意味を判断する力など
(3) 社会言語学的能力 時と場面に応じて適切な表現をする力
(4) 方略的能力      会話を継続するために使う技術など

第二言語習得理論

(1) 学習と習得は違う  
 知っているだけでは、使えない
 言語学的能力と心理言語学的能力(運用をささえているもの 心的情報処理過程)

     意味⇔言語形式
        ↑
       変換

(2) 自然言語習得順序
     第1言語           第2言語
      進行形ing           be動詞
      複数形            進行形ing
      不規則一般動詞過去   複数形
      be動詞            助動詞
      規則一般動詞過去     規則一般動詞過去
      3単現のs           不規則一般動詞過去
      助動詞            3単現のs
    
 形式教授は、習得の速さやレベルは高めるが習得順序を変えることはできない。
 学習することで文法テストはできるようになるかもしれないが、習得(即興で会話をする)できる順番は変わらない。

(3) 中間言語
 母語と習得目標言語の間に存在する言語システム
   例)日本人が英語を習得していく過程で使う変な英語
      I goed to school.
 エラーへの考え
  間違っている→習得過程の一段階
   例)疑問文の習得順序
    @単語の最後を上げて発音する  pen?        like tennis?
    A文の最後を上げて発音する  This is a pen?   You like tennis?
    B助動詞が文頭に移動する   Is this a pen?   Do you like tennis?
   例)否定文の習得順序
    @文の前か後ろにnoをつける  no I like English.
    Anoが文中に入る         I no like English.
    B助動詞が出てくる        I do not like English.

(4) 言語知識には2つのモードがある
 ルールに基づいたシステム 規則を使って文を作る 
 事例に基づいたシステム  丸覚えの世界・・・これが非常に多い

 @模倣学習・・・・・・・・決まり文句や単語を丸覚えする
                 例) Nice to meet you. Long time no see.
 Aアイテム学習・・・・・個々の事例として学ぶ
                 例) I am playing tennis now.
 Bカテゴリー学習・・・・一般化して他の例でも言えるようにする
                 例) 進行形が使える
 Cシステム学習・・・・・他の規則との関連づけてシステム的に学習
                 例) 進行形と現在形・未来形との関連

(5) インプットとアウトプット
 インプット仮説・・・・・第1言語習得において、理解可能なインプットを加えることで言語が習得できる。
 アウトプット仮説・・・アウトプットすることでしか身につかない面がある。
  アウトプットの3つの役割
   @学んだことに意味を持たせて使ってみる
   A使ってみて相手の反応を見て正しいか判断できる
   Bアウトプットするには文法形式に注意を払わざるをえない
 アウトプットとインプットの併用が効果的
 ノーティシング仮説・・・教わったことを聞き、その言語形式に気付いたとき(notice)それが使えるようになる。
  教室ではインプットを大量に与えて自然に習得させるのは難しい。
  学習者は説明を求める傾向がある。
 理想的な学習順序
  @言語形式の紹介 新出文法事項の説明
  Aインプット練習  英文を聞かせて新出文法事項を含む英文の意味を理解させる
               文法事項への気づきを高める
  Bアウトプット練習 新出文法事項を含む英文を言わせる(書かせる)
                 

3、心通いあうコミュニケーション

実践的コミュニケーションの先にあるもの  (三浦、引山、中嶋2002)

(1) 竹ペン授業の逸話
 美術科の指導主事と、ある中学校を訪問した時のことである。大学を定年退官され、嘱託の指導主事であった老先生は、あるクラスの最前列の女の子の前に立ったまま動こうともしない。竹へらの先にナイフで切り込みを細かく入れた、いわゆる竹ペンに墨をつけ、女生徒は描画の最中である。老先生は、腕組みをしながら、しばらくその作業を見つめていたが、やがて、その女生徒に声をかけた。「あんた、立ってごらん。」女生徒は整った顔に困惑の色を浮べて、老先生を見上げた。先生は委細かまわず立たせたあと、「さあ、こんどは竹ペンのもっと上を持ちなさい。」と指示をした。いかにも賢そうな女生徒は、エンピツを持つような手つきで竹ペンの下の方を握っていたが、言われて恐る恐るほんのわずかその手を上にあげた。「もっと、もっと、上の方を」女生徒は呪文にかかったように、竹ペンの中程を持った。「そう、そう、こんどは、墨をたっぷりつけてごらん。もっと、思い切って、たっぷりと、そう。さあ、立ったまま、これで描いてごらん。」
 あとで分かったことだが、先生は、この女生徒の絵が余りにおとなすぎる、せっかくの竹ペンにほんのわずか墨をつけ、竹ペンの下の方を持ち、その握った手や肘を机にくっつけたまま、ゆっくりと同じ速さで、同じ勢いで、同じ太さの線を画用紙にかいているのに注目して、これを改めさせるために、いろいろと指示を与えたのだった。しかし、先生の忠告にもかかわらず、女生徒は以前と同じスピードで、エンピツで字でも書くように、同じ太さの線をゆっくりと画用紙の上に描いていった。先生はやがて女生徒に座るようにいい、「今わたしが言ったことを時々思い出しながらやってごらん。」と、言い残して、教室を出た。
 私は、廊下を歩いてゆく先生を引き止めて、伺ってみた。
 「先生、なぜ、あのような指導をしたのですか。」
 先生は笑いながら、「あの子はいい子だ。真面目で几帳面な性質のいい子だよ。きっと、成績もいいだろう。しかし、おとなしすぎるな。あれでは絵は描けない。製図だよ、あれは。だから立たせて、たっぷり墨をつけさせ、エンピツを持つような手つきを変えさせて、勢いよく描くことを教えたかったんだ。でも、まだまだ出来んだろうな。あの子がもう少し思い切りがよくなるには、まだ、まだだよ。それだけ、あの子はおとなしい子なんだね。」
 私は、さらに続けた。「あの子が、墨をたっぷりふくませて、強弱をはっきりつけて描けるようになることは、あの子が変わるということなんでしょうか。」先生の答えは明瞭だった。「そうだよ。だから、美術は教育なんだ。」

 ・教科を通して人を育てる。
 ・今の生徒に向かって語りかけながらも短期的結果論に終始するのではなく、後々の生徒に向かって語りかける教師の姿がある。

(2) 英語教育の目標
 @コミュニケーション能力の育成
 A他国・自国の言語や文化に対する理解
 B積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度
 CSELF(セルフ)の形成 ・・・これが不足しているのではないか

(3) 意味のあるコミュニケーションとは何か
レベル1=記号的意味 
 消しゴムを見てeraserと言える。(昔はこれができればよいと思われていた)
 パターンプラクティスなどの練習
レベル2=場面や文脈に適合した意味 
 クラスでWho is your homeroom teacher?と聞きあっても意味はない。
 事実は言っているが、それ以上何もない。
レベル3=伝達ニーズのある意味
 片方が知っているが、もう片方は知らない情報の交換。
 インフォメーション・ギャップのあるコミュニケーション活動
レベル4=人間的な価値を持つ意味
 お互いがその人である本当の心通い合うコミュニケーション活動        

(4) 活動例
@When is X's birthday?生徒にとって意味のある実際の人を登場させる。
 生徒Aのカード Hamasaki Ayumi   Beat Takeshi ・・・
                          Jan. 8
 生徒Bのカード Hamasaki Ayumi   Beat Takeshi ・・・
              Feb. 9

A適度なコントロールの英作文
 I would like to be a ................. in the future.
 I like people who ...................................................

B英語をネタにして出会いを実現する会話活動
 英語の名刺を一人10枚作って交換し、それを見て会話。
 名刺例) カードの四隅に自分を表現する単語と誕生日を記入
              English      swimming
                AKIO INUZUKA
              traveling      Dec. 20

C意見の違いを許容する活動
 4人で紙上簡単ディベート
 We should have a McDonald's on our campus
 .という命題について次の順でそれぞれ自分の紙に書き、その紙をまわしていく。

  1) Yes/Noどちらか好きな立場を選びその理由を英語で書く。(5分)
  2) I don't agree with you.の出だしで反対意見を英語で書く。(7分)
  3) 両者の意見をジャッジして意見を英語で書く。(7分)
  4) 納得いく意見に赤線、反論したい意見に波線を引き、日本語で感想を書く。(5分) 

Dファンタジーを取り入れて発想を開放する
 何でもできる状況ならどうなるか
 例) 夏休みのプランを書きなさい。   

4、少人数授業

(1) 刈谷市内6校の現状(平成14年度)

学校 中1 中2 中3 クラス分け方法
A中 なし なし 週3実施 奇数偶数で単元で先生交代
B中 週2実施 週2実施 週3実施 詳細は(2)で
C中 週3実施 週3実施 なし 奇数偶数で単元で先生交代
D中 週3実施 週3実施 週3実施 年間通して2つに完全分離
E中 週2実施 週2実施 なし 年間通して2つに完全分離
F中 週3実施 週3実施 なし 学期でクラス分け変更

(2) 本校の現状
@自由にクラス編成
 ある単元は、A先生に奇数生徒、B先生に偶数生徒でクラス編成。
 ある単元は、A先生に偶数生徒、B先生に奇数生徒でクラス編成。
 テスト前には、A先生が基礎コース担当、B先生が発展コース担当で、生徒がコース選択。
 そして
 ある単元では、A先生がディベートに挑戦コース担当、B先生がコミュニケーション活動コース担当で、生徒がコース選択。
 必要があれば。ティームティーチングで一斉授業を行ったり、ALTを含め3人が1つの教室で授業をすることもある。

A週3時間中2時間の少人数授業の難しさ
 2人の先生が3時間ともそのクラスを持てるように時間割を作り、そのうちの2時間を少人数にしたい。

5、他の教科との連携

(1) コミュニケーション能力
 SpeechやShow and Tellの授業 ・・・ 国語や総合の時間との技能の共有
  小森 茂氏(青山学院大学、元文科省調査官)の提唱する5つの言語意識
    @相手意識
    A目的意識
    B場面状況意識
    C方法意識
    D評価意識
 Debateの授業 ・・・ 社会や道徳の授業などとの技能の共有
 異文化理解 ・・・ 社会や総合の時間との行事の共有、技術の授業との連携
   国際交流会で各クラスに外国人ゲストをまねいて交流
   コンピュータ室でホームページや電子メールを利用しての交流

(2) 実践例
 @ 国際交流会
 http://www.tcp-ip.or.jp/~ainuzuka/exchange2.htm
   

 A ホームページ『若者のメッセージ』
 http://www3.hamajima.co.jp/syucho3/
   

 B ホームページ『日米ライフスタイル比較』
 http://www.tcp-ip.or.jp/~ainuzuka/nichibei/groupc/groupcframe.htm
   

参考文献
佐野正之 2000. 『アクション・リサーチのすすめー新しい英語授業研究』東京:大修館書店
中嶋洋一 1997. 『英語のディベート授業30の技』東京:明治図書
三浦孝、引山貞夫、中嶋洋一 2002. 『だから英語は教育なんだ 心を育てる英語授業のアプローチ』東京:研究社
山岡俊比古 1997. 『第2言語習得研究』東京:桐原ユニ
クラッシェン/テレル著 藤森和子訳 1996. 『ナチュラル・アプローチのすすめ』東京:大修館書店