いくつかのヒント

今では殆どの「和風伝統工法」の家も、資材供給からすれば「輸入住宅」なのに、バブルのころから「輸入住宅」という言葉が流し始めました。

言葉だけが一人歩きして内容が実に様々なことにも気付きます。設計者である私にとって興味あるのは、円高差益を建材輸入で稼ぐ、といったことそのものだけでなく、「いえ造りとは何だろう」と考える良い材料だからです。建材を輸入してみても我が国と北米のいえ造りの違いに目を開くことが良くあります。

北米には全国規模の住宅メーカーはありません。地域毎の住宅デザインが生きています。製造業から流通業へという大きな流れは日本よりも遥かに先に進んでいる北米で、住宅流通のかなめにいるのは日本のような全国「メーカー」ではなくて、地域に根を下ろしたデベロッパーと設計事務所です。これはなぜでしょう。

建材産業と設計者の関係も我が国とは大きく違うようです。 我が国では今だに建材メーカーの設備投資を支えるために「新製品」という名の高額商品を選ばされることが多いのに対して、北米の建材には定番が多く見られます。 機能・性能で他メーカーを確実に差別出来ない「新製品」は照明機具などの買い替え品以外には少ないようです。 木製ドア、キッチンキャビネットなどでは製造者団体の規格がしっかりしていて、コスト比較が楽なようです。

流通の形はもっと違います。製造者と小売店の間には殆ど中間業者がありません。そして系列がある代りに現金販売が原則です。 製造コストからすれば国産の建築資材も北米に較べて決して高くはないはずです。もし大手住宅メーカーへの納入価格と同じ値段で一軒分だけ手に入れることが出来れば。 「住宅設計技術」は住宅の姿を決めるだけでなく、建材が流通する姿へのアプローチも含んでいる気がします。そうした「住宅生産システムデザインの輸入」が設計事務所にとっては魅力的なものではないでしょうか。

そんな生産技術の参考にもなりそうなTipsを図面として拾って見ました。図面のイメージをクリックしてダウンロードして下さい。

ここに収録したファイルと同じものは1996年12月発行の単行本にも収録されています。

図面は全てマッキントッシュ上のMiniCad5ファイルをMacLHA2.1.4で圧縮したものです。ついオブジェクトを多用してしまうので、 (この方が確実に便利。)このままDXFにしてもあまり使いやすくないかもしれません。悪しからず。もっともMiniCadのWindows版も出ましたので。

フリーウェアとしてお使いください。但し生産全体の流れをちゃんと把握した上での使用をお薦めします。 小社はこのファイルの使用によって生ずるいかなる責任にも応じません。それよりも

設計事務所、工務店で北米型住宅供給を進めたい方のお手伝いを致します。ぜひご連絡ください。


1.フィート・インチ

「12フィートも12尺も大して変わらないし、在来工法だってメートル法でやっている訳だから、」 と考えるところから間違いが始まります。

北米型の住宅生産は資材・設計・施工の全てにわたって高度に技術的なシステムとなっていて、 在来工法で尊ばれた技能主導型の住宅生産とは違います。 たとえば伝統工法では関東間真壁柱芯々6尺引き違いの有効開口は2尺7寸5分前後で、 ヒューマン・スケールですが、現在の「和風」住宅ではその柱内に胴縁打、 ボード仕上げとして有効開口が2尺2寸近くになることはありませんか。(FIG. 1)

北米型の間取りでは4フィートx8フィートが基準グリッドになり、外壁構造外面押さえとします。 廊下の幅は4フィートが基準となり、2フィーと8インチのドアを入れます。 有効開口は2尺7寸5分に近いものになります。 (FIG.2)5尺8寸を1,760mmと読み替える「方便」も相当に非文化的なことだと思いますが、 フィート・インチに立脚した生産システムを安易にミリメートルに読み替えると、 コスト・アップとデザインの混乱を招きます。

フィート・インチでデザインしましょう。




2.基礎

良くある話ですが、「布基礎」という発想が実はわが国の古来のものではなく、壁構造から派生したものではないかとも思われます。 柱梁構造なら柱石のほうが素直な技術です。

布基礎にも地域的にさまざまなバリエーションがあります。 特にカナダなど凍結震度が深い地域では「どうせそこまで根入れをするのなら、」というわけで自然に地下室ができ上がります。 ガレージ(と言っても、ちゃんとシャッターで室内環境化してやらなくてはこの場合意味がありません。)にしたり、プレイルームとして使われたりします。 地下のボイラールームの熱貫流をコントロールしてやれば、そのまま一階の床がボイラーの排熱で暖房されます。

地下室を作らないまでも、断熱した床下にヒートポンプから温風を吹き込んでやるだけで簡単な床暖房ができると思うのですが。 また、スラブ床でも断熱をちゃんとやれば蓄熱に利用できるのではないでしょうか。 もっとも浜松は冷房が主な課題、という地域なのでなかなかコストが確保できないでいます。




3.外壁

気密性の高い壁、床などの面で建物を構成する枠組み壁工法では構面内外の湿度設計がどうしても課題となります。 床下の湿度もそうなのですが、外壁についてもここで窓詳細図に集録したような、構造用合板に防湿層を重ねて、 その上にサイディングの直張り、さらにはワイヤラス・モルタル塗、というのがシンプルな仕様なのでしょうが、やはり気になります。

北米ではこうした仕上げも良く目にします。もっとすごいのはラスモルタルの上からタイルではなく、 フルサイズの煉瓦を「積む」ことがごく一般的に行われていることです。 高さ2ー3フィート毎に銅線で下げ緒を取って2階+妻壁の計10m位は積んでしまうようです。

しかしわが国と北米の気象条件の違いは無視することができません。 わが国が世界でも有数の多雨地帯にあるのに対して、北米大陸では年間降水量が1000mmを超えるのは限られた特殊な地域だけです。 そしてその代表的なものである北西部の寒帯多雨地帯では降水量は冬期に集中します。 つまり壁が濡れている相対湿度の割に空気中の水分重量が低い寒冷期であり、しかもその間は常に室内では火が焚かれて建物を乾燥させるのです。 こうした地域で標準的な構造をそのまま年間降水量が1000mmを超えることも珍しくなく、 しかもそれが絶対湿度の高い夏期に集中するわが国で応用するのは必ずしもも安全とは言えないでしょう。

そうしたことから防水層の外側に1x3の胴縁を打ち、外壁通気とすることもあります。もっともコストはかかります。 注意すべき点は開口部周りの見込みが標準部材では収まらなくなること、直打ちに較べて外壁の挙動に弱いので、 サイディングによっては許容寸法以上の収縮差が構造体との間に生ずることなどです。




4.内壁

北米のコンソリデーターに「8フィートのスタッドくれ。」というと、長さ92ー5/8”のものが来ることがあります。 いわゆるプレカット材です。プレカットスタッドを使うと、矩計は04. INTERIOR WALLファイルのFIG.1の様になります。 壁高は8フィートではなく、FIG.2のとおり8フィート1インチ1/8となります。このうち1/8インチは材の収縮と考えられているようです。

そしてFIG.2のとおりボードリフターを使って壁のボード張りが行われます。 カーペット敷であれば幅木を打って終わりますが、木質系のフローリングであれば、FIG.21の様に子持ち幅木にしたほうがなじみが取りやすいかもしれません。

プレカットスタッドもこのように仕上げ材までの一貫した設計技術を前提にしていますが、 さらに考えれば4フィートx8フィートの規格のパネル材もプレカット材だと考えられます。 01. FEET/INCHファイルのレイヤー2にあるような我が国の在来工法では、寸法調整を長年のあいだ技能に頼ってきました。 近年、これをコンピュータ制御で自動化するプレカット工程が急速に拡がっていますが、 材寸等、現場で技能者の処理に頼っていた部分を工場で処理するためには入力が大きな問題になっています。 これに対して北米の枠組壁工法では規格寸法のパネルサイズを外壁外面押さえにすることで解決しています。 これならばかって我が国の在来工法で使われていた寸法調整のための材寸の「ノビ」も必要ない訳です。

さて、FIG.3 は8フィート壁に80インチドア開口をとった場合の矩計です。 住宅金融公庫共通仕様書にしたがって施工した場合、図の通りまぐさ上部に長さ3インチ程度の短かいスタッドが必要となります。 釘打すると割れることが多く構造上危険です。 また共通仕様書で「9mm又は12mmの構造様合板をかい、」とあるように壁厚とまぐさの収縮状態が違うので、 台ならしのために技能的寸法調整が必要となります。

この場合、北米ではFIG.4 の様な処理をすることが考えられています。 鉛直荷重を受けるまぐさはトップに入れられ、まぐさ受けの内側に入れた開口部下地枠が水平対力を負担します。 上枠と下地枠の距離がスタッド間隔以下で、下地枠の長さがスタッド長さ限度以内であればこれでよいでしょう。 こうすればまぐさ上部に構造上の弱点となる短いまぐさも必要ありませんし、壁仕上げのための台ならしも必要ありません。

「プレカット」は設備工事にも当てはまります。 「現場位置指定→技能的対応による配管・配線」はコンクリート構造の建物同様多大なコスト浪費を招きます。 枠組壁工法では配管・配線についても技能に頼らない設計が欠かせません。