私は監視されている。 『やつら』に消される前に、おそろしい『事実』を伝えるための隠れ蓑としてこの「彼岸花」ページを作っている。 そして、気づかれないようこのメッセージをそっとこの場所に隠しておくことにした。 消去される前に貴方がこのメッセージに気がついてくれることを期待して。 某月某日。 ゆるゆると毎日を過ごしていた私の所に、一通のメールが届いた。差出人は、長坂秀佳とあった。 某というが、実は秋である。幽霊の旬、夏は終わり、彼岸にはまだ少し早い。いずれにせよ、尊敬する長坂先生から私あてに私信が来るわけはない。当然、私は、たちのわるいいたずらと決めて、削除ボタンを押そうとした。 だが・・・。 気になる。どうしても気になる。しばらく迷って、とりあえずそのままにしておこうと決め、私はいつものホームページの巡回を始めるべく、ブラウザのアイコンをクリックした・・・クリックした・・・クリック。 私のPCは、確かに時々突然フリーズしたりすることがある。またか、と私はフリーズのときの奥の手で、三本の指で同時にキーを押す。ため息をつきながら。 動かない。なぜだ。 深夜、それは静かなはずだが、そのせいなのか、低いハードディスクの唸りが不気味だった。急に、私のいるこの部屋だけが闇の底へ沈んでいっているのではないかという気がしてきた。 いや、そのとき、まさにそれは起きていた。 カチッ。 私は音のするほうに目をやった。午前二時。時計がニヤリと笑ったような気が、いや、時計は笑った。確かに。 画面は勝手に長坂氏からのメールに切り替わっていた。 私は、悲鳴をあげそうになった。メールが言った。 「読め。読むんだ。」 私は長坂氏の大ファンである。だから、当然、『弟切草』に始まって、『彼岸花』、『寄生木』の三部作も読んでいる。その最後、『寄生木』の最後で、長坂氏がどのような運命をたどったかも知っている。 私は意識とは裏腹にメールに目を通していた。 「君も多分、私が本当に死んだとは思っていないだろうと思うが、事実は小説より奇なりだ。そう、あの小説とあとがきで起きたことは本当のことだ。 そして、今、私は少し先、未来を知って、最後の気力を振り絞ってこのメールを書いている。それがなぜ君あてなのかは、君も驚くだろうが、今の私は何でもお見通しなのだ。だが、その見通しによれば、私は自分ではこの先に起きるかもしれない悪夢を阻止できないことになっている。何とか自分で阻止したいのだが、残念ながら、もう私にはその力が残っていない。君には、突然、ファンだというだけで重大な任務を背負わせ、ことによると運命を狂わせてしまうかもしれない。申し訳ない。しかし、今、私が頼れるのは君しか残っていないのだ。 本題に入ろう。このメールが届くころ、君のもとには、あの恐ろしい、忌まわしい事件がゲームになるという知らせが届いているはずだ。ファンなら、そして、それがフィクションなら、君も、私にとっても、これは非常に嬉しい知らせだが、あの小説が事実である以上、これは悪夢以外の何者でもないことは理解してもらえると思う。これだけで、君はもう私が何を言わんとするか、分かるだろう。寄生木での悲劇を思い出してほし■存讐光修妨・韻ば篤阿い討・譴ら襪箸了・如△海も海僚靆召忍踉ん横斬△■△」 私が読むことが出来たのは、ここまでだ。 何故か、メールソフトが勝手に閉じた。何の警告も発せずにだ。 が、次の瞬間、ウィンドウが開いた。 『警告 このメールはウィルスに感染していたため自動的に削除されました。』 そして、もう一つ警告のウィンドウが開いた。 『ウィルスの感染が確認されるとあなたも削除されます。』 喰ふ喰ふ喰ふ・・・己は ここにいるよ ・・・・・・ばらもん 脱出 |