Memories of '02
 2002年、僕はこんなCDを聴いていた
--- 小川 真一 ---


[New Release Round](新作部門)

初恋の嵐初恋の嵐 / 初恋に捧ぐ (ユニヴァーサル)
初恋は嵐のように残酷。ひりひりと痛みをもって心に染み入ってくる。これはヴォーカリスト西山達郎の急死という事件によるセンチメンタリズムからくるものではない。2002年に山のように登場してきた"はっぴいえんどの子供達"とは一線を画する。端々から歌う事への覚悟と確信が溢れ出しているのだ。今年一番聴き入ったアルバム。山本太郎、緒川たまきが出演したヴィデオ・クリップ(「真夏の夜の事」)も素晴らしかった。
 → [初恋の嵐 オフィシャル・サイト]
The Moonlighters / Hello Heartstring (Onliest)
アーネット・ハンショウとソル・ホオピイが月夜の浜辺で出逢ったような…。男女混成4人組のハワイアン・スティール・ギター・スウィング・バンド。こんなアルバムと出くわしてしまうのがハンティングの醍醐味だ。なんの予備知識もなくCDショップの店頭で入手。過剰なモダンさもなければ、マニアックなコスプレ感もなく、実に絶妙な湯加減。浮ついたお洒落さを目的に作られたアルバムではない。スウィングの美学に満ちあふれた快作だ。
 → [The Moonlighters Official Site]
The Moonlighters
僕のスウィング『僕のスウィング』 O.S.T(ワーナー)
今年(2003年)一番観たいと思っているのが、このトニー・ガトリフ監督のこの映画だ。『ラッチョ・ドローム』でタラフ・ドゥ・ハイドゥークス(R.I.P.ニコラエ・ネアクシュ翁)を登場させたガトリフの新作、そのうえマヌーシュ・ギタリストのジャンゴ・ラインハルトがモチーフに使われてるとなれば、興奮せずにはいられない。映画の中にもたっぷりと演奏シーンがあるそうだ。ギタリスト役で登場するチャヴォロ・シュミット、この彼のギターが素晴らしい。日本盤で発売になった『アロール?…ヴォワラ!』ともども、このサントラ盤は2002年年末の大愛聴盤だった。
 → [『僕のスウィング』]
KENJI / Lost Kenji Tapes Volume.1(小学館)
これは事件だ。ボブ・ディランのザ・ローリング・サンダー・レビューに匹敵する奇跡の再発! 20世紀最後のフォーク・シンガーと呼ばれたケンヂが、2000年12月あの"血の大晦日"直前に吹きこんだといわれている名曲「Bob Lennon」。ついにCDとなって甦ったのだ…
浦沢直樹の『20世紀少年(The 20th Century Boys)』が信頼できるのは、このざらついた皮膚感をもった時代考証があるからだ。物語の方は前作『MONSTER』同様に、まるで「プリズナーNo.6」のように止め処もなく混沌と進んでいる。ともだちとは誰だ? ケンヂの行方は?
BOB LENNON
つじあやのつじあやの / 恋する眼鏡(ビクター)
2002年はウクレレの年であった。ジャケット・クラインお姉さんに魅了され、ジョージ・ハリソンに涙した。4本の弦からポロロンと流れ出す調べの、なんと切ないことか。そして、世界一キュートな鼻歌の持ち主、つじあやの、、、、、
ジャケットがスバラし過ぎる。レコ屋の店頭で見かけた瞬間に、袖口で覆い隠したくなってしまったほど。いやもう、たまらんです。内容的にはプチ・ベスト盤であり、本来は前作の『BLANCO』(回数からすれば昨年一番聴いたアルバム)を選ぶべきなのだが、ジャケが(クドいか)。不覚にも初CCCDとなってしまった一枚、無念ぢゃ。
 → [豆子CLUB]
UKULELE CLUB de PARIS / Manuia! (Universal)
ウクレレ続きでもう一枚。プリミティフ・デュ・フュチュールのドミニク・クラヴ ィックを中心に、女性版ダン・ヒックのフェイ・ラヴスキー、ZNRのジョゼフ・ラカイユ、ハワイアン・スライドの名手シリル・ルフェーブルなどが参加したウクレレ・オーケストラ。面子からいっても、<裏プリミティフ・デュ・フュチュール>の感が強い(なんで、ロバート・クラムは参加しなかったのか?)。知的にミニマルな感覚が加わっているところが、おフレンチ。「テディ・ベアのピクニック」が秀逸だ。
 → [UKULELE CLUB de PARIS Official Site]
UKULELE CLUB de PARIS
ワールド・スタンダードワールド・スタンダード / ジャンプ・フォー・ジョイ (Cutting Edge)
ディスカヴァー・アメリカ・シリーズ第3弾であり、同シリーズの完結編。デジタルな杖を頼りに未開のアメリカン・ルーツへ分け入っていくという手法は、最終回で再び肉体にたどり着いた。いわば『猿の惑星』的な結末なのだが、この本作での着地の仕方は見事。ブレがなく、9.97点といったところだ。この演技の総合評価は、ジャケットの意匠によるところが大きい。誰もがにこやかに音楽の愉しみを満喫しているような大円団。
 → [QUIETONE.NET]
コーナー・ショップ / ハンドクリーム・フォー・ア・ジェネレーション (東芝EMI)
ミュージック・マガジン誌のクロス・レビューで「リトマス試験紙盤」と書かせてもらったが、このアルバムが2002年のベスト・アルバムを飾るかどうかで、そのメディアの評価が問われる。………か?
なんて意味よりも、大いなる"バカ盤"として楽しめるアルバムだ。冒頭のMCだけのオーティス・クレイはやはり最高。こんな奴らを英国ロックの文脈で語っちゃオシマイ。そこまでブリテンも落ちぶれちゃいないだろう。モンティーズの隣に並べるべき一枚だ。
コーナー・ショップ
羅針盤中村よお / 20年後の神戸で逢いたい (OZ Disc)
正直に告白してしまえば、まるで期待せずに聞いた。確かに、古くからの知り合いである中村よお君の14年ぶりのアルバムを耳に出来るのは嬉しくはある。そんな軽いノスタルジーで耳にした。1曲目が始まった瞬間から、衣を改めてしまった。なんという軽やかさだ。年齢的にも、フォークという音楽に接してきたキャリアからも、出てくるとは思われなかった軽さ。勿論これは軽佻という意味ではなく、軽やかにはずんだ歌=ロックがもつ最上の心地よさだったのだ。
 → [中村よおトオリヌケ・キ ホームページ]
SKETCH SHOW / Audio Sponge (Cutting Edge)
どこかハニかんだようなアルバムだ。この衒いがあればこそ細野晴臣であり高橋幸宏なのだ。すでにそんなものは一億光年も超越していそうな二人が、「今でも仲良くやってまぁす〜」照れ笑いしている。期待を裏切らないようにとYMOの仮面をかぶりながら、その実後に回ればお尻の部分は丸出し(ex.モンティ・パイソン)。例えば、「wilson」と「ゴキゲンいかが123」、そして最後に収められた「夏の日の恋」のカヴァーだけのアルバムだったのなら、手触りはまるで違う。はい、僕はこの3曲だけ繰り返し聞いてます。ワン・ツゥー・スリー・・・
SKETCH SHOW
ANN TIERSENYANN TIERSEN / L'absente (Virgin France)
谷間の湧き水に手を入れた瞬間のような、ひやりとした清涼感、2002年に聴いたアルバムの中で、ヴィンゼント・ギャロと並んで最もシンガー・ソングライターらしさを感じた作品だ。くぐもったようなストリングス・アンサンブルの使い方や、アンジェロ・バダラメンティを思わせる鄙びたトレモロ・ギターなど、緻密に歌の背景を築き上げている。やはり一番心を惹かれるのは、泥水のように濃いエスプレッソを思わせる枯れきった廃退感だろうか。
高田漣 / LULLABY(nowgomix)
眠気をもよおすほどの、ゆったりとしたペダル・スティール・ギターのインスト集。アイデアの源はB.J.コールあたりだろう。いやこんな詮索はまるで意味がない。何も考えずに身を委ねることの出来る音楽、それがこのアルバムだ。ドニー・フリッツ、ランディ・ニューマンと選曲が良すぎるのが玉にキズ。ベスト・トラックはやはり、親父の旋律をカヴァーした「冬の夜の子供の為の子守歌(Chanson Pour Les Enfants L'hiv)」だろう。ここでもワールド・スタンダードと同じように、菅野一成画伯が素晴らしい仕事を残している。
 → [イラストカード&缶バッヂ]
高田漣
羅針盤スパンク・ハッピー / Computer House of Mode (キング)
ムーンライダーズ以上にムーンライダーズなアルバム。なんて書くと菊地成孔に失礼かもしれないが、でもこれは確信犯のはず。亜麻色の黄昏感をもった歌詞の世界は、クラウン期のライダーズを彷彿とさせる。無駄使いの快楽主義、無意味なペダントリー、破滅的なオーガズム。打算と虚飾のポップさが絢爛に描かれているが、この空疎さも計算のうちなのだ。もっともっと騙し続けて欲しい。やはり菊地成孔、恐るべし。
ボブ・ディラン / ザ・ローリング・サンダー・レビュー (ソニー)
偶然の産物なのだと思う。即興や思い付きだけでは映画は作れない、それは『レナルド&クララ』が見事なる証となった。その反面で、思惑いじょうに充実したライヴとなったのだ、このローリング・サンダー・レビューだ。誰でもボブ・ディランと一緒にステージに立てるならば、それなりの野心を持つ。がしかし仕える身、出しゃばり過ぎては主人に嫌われてしまう。そのギリギリの葛藤が傑作を生みだした。これが永続的なものではないのは、翌年の『ハード・レイン』を聞けば判るはずだ。
ボブ・ディラン
吾妻光良&スウィンギン・バッパーズ吾妻光良&スウィンギン・バッパーズ / Squeezin' & Blowin' (ビクター)
"日本のブルース/R&Bの"という括りは一切はぶさせてもらう。もちろんベースになるのは、ジャイヴでありジャンプ・ブルースなのだが、そんな狭い範疇を飛び越えて、日本語の歌として素晴らしい。吾妻光良の言葉は、はっぴいえんどにも匹敵する革命なのだ。ヤニ臭いヲヤヂ・ギャグを、大衆文化の殿堂にぶちまけた怪作。「刈り上げママ」「道徳HOP」「おもて寒いよね」と、どの曲も大好きなのだが、本気で泣ける「小学校のあの娘」をベスト・トラックに。ねぇ、アズマちゃん。
スタンリー・スミス / イン・ザ・ライト・オブ・ドリームス (バッファロー)
彼が登場してこようがしまいが、ロックの歴史なぞ変わりはしない。大草原に落ちた針の音程度の存在、それでいいじゃないか。風貌ほど鄙びた音楽ではない、その内側にある年齢を越えた若々しさ、それがあるからこそ新鮮に響いてくるのだ。日本公演が素晴らしかった。それ以上に、インタビューの際のフォト・セッションで何気なく歌い出した、その歌声にたまらなく感動してしまった。
スタンリー・スミス
SCOTT TUMASCOTT TUMA / Hard Again (Truckstop)
ソウルド・アメリカンのギタリスト。となれば音の方も想像がつくだろうか。想像を絶するほどにスローダウンした演奏は、まるでギターが思慮をもって勝手に徘徊しているようだ。永遠に続く一拍。楽器という存在を越え、荒野を吹きすさぶ風になったり、無人の工場のざわめきであったり。時速2キロで進む自動車に乗って、時空を逆行していくような感覚に襲われる。悪夢のような心地よさが最高。
東京ボブ / 夜のうた (Any Old Time)
フェイクでありながら、なぜにこうも耳を奪われてしまうのだろうか。禁断の音楽偽史。源義経は中国大陸に渡りボブ・ディランになった。ともすれば楽屋落ちの一瞬芸なネタのはずなのだが、身を挺してまで仮装する邪なミュージシャン根性が、真摯な感動を生み出す。どうせここまで仮想するのなら、ディランは日本で生まれた、海の向こうで英語で歌ってる奴の方がニセモノだ。と、オリジナル曲も歌って欲しい。
 → [Tokyo Bob Dylan]
東京ボブ
ROBERT RANDOLPHROBERT RANDOLPH / Live at The Wetlands (Dare)
2002年の大ハマリが、これだ。P-VINEの『セイクレッド・スティール』に仰天したのは、すでに数年前の話。その種子がこんなに大きく育っていたとは。ロバート・ランドルフという怪物を得て、いつのまにかぽっかりと浮上してきた。まるで花びらが1メートルもある向日葵に出くわしたような気分。セイクレッド・スティールというカタパルトを利用して、次なる戦地を探し求める彼が、今年はどんな活躍をみせてくれるのだろうか。
 → [Robert Randolph & the Family Band official site]
ザ・フォーク・クルセダーズ / 戦争と平和 (Dreamusic)
フォークルのアルバムの中では駄作になるだろう。それはあくまでも、フォークルという大陸の内部での話だ。凡百な作品の中でいえば、もちろん最高水準に属する。持ち前のサービス精神が災いして焦点がぼけてしまったのが残念だ。これほどまでのセルフ・パスティーシュは必要なかったのでは。その浮かれぶりを見られたのは嬉しいのだが、核心だけをアルバムに定着して欲しかった。なぞとつい辛口に書いてしまうのは、ファンの戯れ言。名曲多し。
ザ・フォーク・クルセダーズ
レナード・コーエンレナード・コーエン / テン・ニュー・ソングス (ソニー)
1曲目の"We're still making love"("In My Secret Life")の歌詞で、まいってしまった。66歳にして、この香り立つような色気。中村雁次郎も真っ青だ。穏やかな欲情が太股あたりをかすめていく。ジャケットは画像加工してあるので判りにくいが、かなり丹波哲朗なみの老い方をしている。その風貌とは裏腹に、手を触れただけで妊娠させてしまうそうなドンファンぶりは健在。ムーンライダーズのかしぶち哲郎も早くこの境地に達して欲しいものだ。
 → [Leonard Cohen.Com]
ムッシュかまやつ / 我が名はムッシュー (readymade)
日本で"HIPの帝王"を選ぶなら、やはりムッシュになるだろう。時代を敏感に読みとる臭覚、かといって流行に追従しないアウトな感覚。基本的には、クルーナーの小粋さをもったシンガーだ。セルフ・カヴァーという使い古された手法ながら、見事なまでにヒップさが強調されているのは、やはり小西康陽の手腕だろう。市川実和子をデュエットの相手に選んだクールな「二十才のころ」(名曲)や、60〜70年代風俗辞典ともいえる「ソーロング20世紀」などは、ムッシュにしか出せないくすんだ色合いだ。大傑作。
ムッシュかまやつ
羅針盤羅針盤 / はじまり (リトルモア)
2002年も"時の人"であった山本精一。異才・多才で語られる事が多いが、羅針盤に関しては本当に無防備だ。聞いているこちらが恥ずかしくなるほどのイノセンスを、無造作に放り出している。それはまるで、大好きなアーティストのことを熱く語る少年のようだ。こちらもつい、小動物を見守るような優しげな眼差しを向けてしまう。この羅針盤の存在によって、山本精一は"裸の王様"になってしまうのを回避しているのだ。
DAVE VAN RONK / Sweet & Lowdown (Jusin Time)
60年代、70年代に活躍したミュージシャンが、ばたばたと死んでいく。誰にでも寿命はある、それがどうした。と嘯いているのだが、やはりヴァン・ロンクがこの世から去ってしまったのはショックだった。ラスト・アルバムになったこのアルバムの冒頭の曲が「夢で逢えたら(See You In My Dream)」だというのは、あまりにも暗示的。それにしても、いい顔してるなぁ。こんなアルバムとともに天国に行けたのなら、これはこれで幸せなことなのだろう。あばよ、熊親父、またどこかでジャムろうよ。
 → [Dave Van Ronk Memorial]
DAVE VAN RONK
DJANGO WALKERDJANGO WALKER / Down The Road (Lazy Kid)
2002年はオルタナティヴ・カントリー系では、どうもピンとくるアルバムと出逢えなかった。正直な話、食傷気味になってしまっているところもある。唯一選んだのがこのアルバム。名前からも判るかも知れないが、ジェリー・ジェフ・ウォーカーの息子。すでに親父との共作などもあるのでソングライターとしての手腕は判っていたが、このデビュー作で発散される瑞々しい作家性は、七光りとはまるで無縁だ。
早川義夫 / 言う者は知らず、知る者は言わず (Consipio)/
聞いたというよりも、読んだという感覚が残る。赤裸々に心情を吐露しながらも、どこか清廉だ。それは肉声の中に無頼が生息しているからなのだろうか。ヰタ・セクスアリスやHONZIを従えて、暗黒の荒野に分け入っていくようなライヴ・アルバム。瓦礫の中から妖しい光を放つ歌が、たっぷりと詰まっている。最新刊の『たましいの場所』ともども、この不思議な存在感こそが早川義夫だ。
 → [早川義夫/U-SEN MUSIC-WEB]
早川義夫
be compiled under the supervision of 小川真一("BEATERS" Chief_ Editor)

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