今年のミュージック・ライフ。古いの新しいの洋だの邦だの、今年ほど新鮮な出会いが少なかった年は近年ない。というか、私の関心が音楽に向けられることが少……なにをカッコつけてるんだ。感性が鈍ってきていると正直になぜ言えない(笑)。ようするに感覚の扉を閉めていたんだろう。そうなんだ。今年の私は石だった。転がることさえしない石だった。転がらなければコケがむす。君が代ってか。
ちゅうことで、今年出会ったブツから【ベスト〜】をつくれってもなぁ。でもまぁ、いくつかはある。以下の通り。(順位付けはしていない)
● Eddi Reader 『Candyfloss And Medicine』 WEA/WARNER BROS. 1996

いいなぁ、エディ。きみのつくった綿飴は最高だ。口に入れたとたん粉雪のようにさらりと溶けてしまうはかなさは切なく、かすかな甘さの後に残すほろ苦さが愛おしい。ヒトが抱え込んでしまう感情の、あれやこれやの機微をコーティングした きみの作品『Candyfloss And Medicine』に魔法をかけられたぼくはこの前作『天使の嘆息』や次作『Angels & Electricity』も味わってみた。でもね、最初に受けた衝撃には敵わないんだ。
90年代に出会った他の魅力あふれるレディ達には、例えば Lisa Loebがいる。Bjorkがいる。Mari Wilsonがいる。Cathy DennisやSuzanne Vegaの大変身も忘れられない。突き抜けたLiz Phairの健気さもよし。Lois Laneの歌姫だっている。オマケにSheryl Crowをつけよう。
でも…。やっぱりきみが一番なんだ。 『Candyfloss And Medicine』。これ一枚だけでぼくには十分さ。もし、90年代という区切りをつけて今ここに好きな女性シンガーのアルバムをぱらぱら並べてみろ、と言われたら、間違いなくきみのこの作品をトップにもってくる。
多情なぼくのことだ。明日になったら Bette Midlerの『Bathhouse Betty』が…なんてホザく自分がちょっと見えるけど。…今この瞬間は間違いなくきみのこれを選ぶ。選ぶぞ。さあ選べ。ほら選べ。
ここから遡って、彼女のいたバンド、Fairground Attraction も聴くことにした。したらば、これがまたウマかったりする。時代に媚びないシンプルなバック陣のシンプルなリフの刻みに乗り、永久に朽ちない旋律を自由奔放に歌うエディがいるじゃないか。それが下のベスト盤。がぶりっ。むしゃむしゃ。
● Fairground Attraction 『Best Selection』 BMG JAPAN VICTOR 1994

こうしてEddi嬢の声ばかり聴いてた私はまるで開高健のようだ。氏が生前言ってたセリフにこんなのがある。「ウマイものに出会ったら、毎日毎日そればかり食う。朝、昼、晩、ひたすら食う。これがぼくの流儀だ。」 あれはカスピ海の宿だったか。キャビア、キャビア、キャビア。に漬かる日々を過ごす彼の姿が、とあるエッセーから蘇る。開高氏はチョウザメになった。
彼女の声を朝、昼、晩、ひたすら聴いてる私は移動遊園地にしつらえた芝居小屋の芸人、いや、夜店の裸電球に照らされ泳ぐ金魚になった。
● Rufus Wainwright 『Poses』 UNI/DREAM WORKS RECORDS 2001
今年の私は転がらない石だと白状した。コケがむす石。最近出会った RufusWainwrightの『Poses』は、しかし、そのコケを落としつつある。彼の1stもいつぞやの【ベスト〜】として挙げたことはあるが、この2ndに怪しくたゆたう美しさはなんなんだ。詩を含めて一切のタブーをとっぱらったこの自由はなんなんだ。20世紀に生まれたありとあらゆる音楽のジャンルだの、方法論だの、楽器だの、演奏スタイルだの…を飲み込み、消化し、自分の世界を惜しげもなく私の目の前に広げている。まだ30才に届いてないとな。いいぞ。いつまでもRandy Newmanとか、Van Dyke Parksとか、かつてのPrinceとか、にすがってちゃいけないんだ。
ルーファス・ウェインライト。たった2枚のアルバムで、君の名はこれからずっと刻まれそうだ。君ならクルト・ワイルも越えちまえる。未来の「ジム・モリスン」は君の歌をきっとカバーするに違いない。
● Mark Owen 『Green Man』 BMG JAPAN 1996
タイトル曲にしつこく繰り返されるテーマに、ふとよぎるのが1973年にリリースされたT.Rexの「Truck On (Tyke)」だったりする。そうか。きみの名MarkはMarcから来てるんだね、という訳はないな。にしても、とぐろを巻くようにかき鳴らされるギターの響きはマーク・ボランのそれのようだ。これ1曲だけでお気に入りとなってしまうところだったが、全曲捨て曲無し。先達への敬愛と音楽創作への貪欲さに溢れ、かつ聴き手を楽しませる術を持つ。きみの音楽に対する愛情は本物だ。参ったよ。
● The Jayhawks 『Sound Of Lies』 AMERICAN 1997

2000年に出た最新作『Smile』もこいつには敵わなかった。敵うもんか。 楽曲の良さもさることながら、醸し出す「切なさ」が胸をかきむしるのだ。GaryLouris。きみが紡ぐ力強いメロディとその喉から発せられる切ないナニモノカはどこから来る。私は打ちのめされる。
その他、印象に残るブツは次の通り。
● Leon Russel & Marc Benno 『Asylum Choir II』 1971
● The Black Crowes 『Lions』 2001
● Azteca 『Azteca』 1972
● Ronnie Barron 『Reverend Ether』 1971
● Adrian Belew 『The Acoustic』 1995
● Donovan 『HMS』 1971
● Paul Westerberg 『Suicaine Gratifaction』 1999
● サントラ 『Tieta Do Agreste』 1997
musica e letra de Caetano Veloso
あと、FastballとPhish。それぞれの新譜は気になりながらも未聴である。なぜ早く買わない。へらへら。それと、斉藤和義。『ジレンマ』の頃のような音の潔さと言葉の投げつけ、が復活することを望んでいるがまだ果たせない。彼はどこに向かうんだろう。 最後に矢井田瞳。「Look Back Again」たった1曲できみのとりこになっちまったことを付け加えておこう。アルバム『Candlize』(2001年)は期待外れだったけど。今後の彼女には大阪の匂いがぷんぷん鼻につく作品を1枚こさえてほしい。
|