▲至福の足、どんな足
『Happy Feet』8 1/2 Souvenirs

 いつのまにか火のついたネオ・スィング・ブーム。ジャイブやジャンプはともかく、いわゆる戦前のスィング・ジャズをリバイバルしているバンドは星の数ほどいる。その中でもお気に入りなのが、この8 1/2 Souvenirs(エイトハーフ・スーベニァーズ)だ。

 このグループの存在を知ったのは、テキサス/オースティン周辺の変わり者達が集まったアサイラム・ストリート・スパンカーズのアルバムからだ。このアサイラム・ストリート・スパンカーズも実に面白いバンドで、ブルースをベースにテキサス風味のピリリと辛いソースをまぶしたようなガイ・フォーサイス(バンド)を中心に、オルタネーティブ・カントリーにラップを交えたワモー等々、オースティン周辺のローカル・バンドのメンバーが集まって出来たバンド。

 オールド・ジャズからジャグバンド・チューン、オールド・タイミーと、ノスタルジック溢れる音楽を奏でている。ただのお遊びバンドと思ったら大間違い、実に大まじめに、そして茶目っ気たっぷりに演奏している。今年になって新作が出たが、本業(?)よりもこのバンドに入れ込んでしまっているメンバーもいるようだ。

 このアサイラム・ストリート・スパンカーズのセカンド・アルバム『Spanks for The Memories』の中で、ジャンゴ・ラインハルトばりのギターを披露していたのが、8 1/2 SouvenirsのリーダーでギタリストのOliver Giraudだ。

 8 1/2 Souvenirsは、Continentalレーベルから『Happy Feet』('95)と『Souvonica』('97)の2枚のアルバムを発表している。インディペンデントなレーベルなのでなかなか国内に入ってこない。と思っていたら、メジャー・レーベルBMGから『Happy Feet』('98)がリリースとなった。

 98年版『Happy Feet』は、デビュー・アルバムに1曲(この曲に付いては後述)をプラスした構成になっている。メンバーは、Oliver Giraudのギター、Kevin Smithのウッド・ベース、Glover Gillのピアノとカズー、Adam Berlinのドラムス、そして紅一点Chrysta Bellのボーカルの5人組。
 一口で言えば、ジャンゴ・ラインハルトの五重奏団が時空を越えて南部に移り住んで来たようなサウンドだ。これぞ、パリ=テキサス!グループの名前は、フェデリコ・フェリーニの「8 1/2(Otto Mezzo)」とジャンゴ・ラインハルトの名曲「Souvenir」にちなんで付けられたものだ。

 Chrysta Bellの小粋なボーカルに絡みつくようなOliver Giraudのギター。「Minor Swing」や「Place de Brouckere」といったジャンゴ・チューンだけでなく、セルジュ・ゲーンズブールの「Black Trimbone」「Le Poinsonneur des Lilas」までこなしてしまうセンスは抜群。

 さてBMG盤に追加された1曲というのが「Brazil」。そう、あのテリー・ギリアム監督の『未来世紀ブラジル』に挿入されたあの曲。映画の中で一瞬出てくる「Brazil」は、ジェフ・マルダーのバージョンだったのをご存じだろうか。
 オリジナルよりも幾分テンポを速めたこの演奏、Oliver Giraudのボーカルはジェフの歌い回しに影響を受けているように聞こえる。Glover Gillのピアノが駆けめぐり、ジャンゴとレス・ポールが共演したようなギター・ソロへとなだれ込んでいく。これを極楽と言わずしてなんと言おうか。まさに天にも昇るような心地よさだ。
text by 小川真一


[B E A T E R 's E Y E]