『NoControl』

枯れるほど光る喉 『Devil's Music』Paul Germia

彼の名前を初めて知ったのは、いつ頃だっただろうか?

1968年にVerve/Folkwaysから『Just Enough』でデビュー。その少し後、SIREレーベルから出された『Paul Germia』(SIRE SI-4902)は、実に素敵なアルバムだった。

Jack McGann等の最小限のバックを配した演奏は、まさにブルースだった。勿論白人である彼の歌声は、黒人のそれとは違っている。そんな事は承知の上だ。ブルースやオールド・ジャズの形態に、彼の物語を重ねる。そこから滲み出てくる歌をブルースと呼ぶのは差し支えないはずだ。例えばそんな歌手には、ヴィレッジの首領(ドン)デイヴ・ヴァン・ロンクやエリック・フォン・シュミット、ロザリー・ソレルスなどが挙げられるだろう。

走行メーターが一周したような古ぼけたダッジに乗って、Germiaは今でも国中を回っている。たいして金にならないようなコンサート会場をいくつもまわる。それが現代のホーボーPaul Germiaの宿命のように。

すっかり身体に馴染んだ愛車のシートは、彼にとって安楽椅子なのだ。この厳しい生活のロッキン・チェア、そういえば彼のアルバムに『Hard Life Rockin' Chair』(ADELPHI 1020)というのがあったのを思い出した。

ブルースという魔物に取り憑かれた彼の新作。何も新しい事は起こらない。ひたすら美しく枯れている。吐き出すように語りかける言葉は、自然に睦まじくブルースとなっている。ただそれだけのアルバムだ。だからこそこうして、何度となく耳を傾けてしまう。始まりも無い、終わりもない。くぐもったエンジンの響きのような歌が流れていく。
text by 小川真一


[B E A T E R 's E Y E]