『マックスウェル・ストリートの伝説』

▲愛しく空気感を伝える、ブルース・ストリート・ライブ
『マックスウェル・ストリートの伝説 〜ライヴ1964』

 湯水のようにCDリリースが続く時代。慌ただしい時間は、“音を録音する”とい う事のありがたさや意味、といったものを考える暇さえ与えない。
 しかし、その影には一夜のうちに忘れ去られていくライヴがある。あんなバンドが あった、こんなプレイヤーがいた。そんな思い出話をするのは簡単だが、空気感は永 遠に伝えることはできないのだ。
 そう、空気感が伝わらなきゃCDなんてつまらない。
 このマックスウェル・ストリートのライヴは、そんな当たり前の事に唸ってしまう 久々のアルバムだ。1964年、アメリカはシカゴの有象有象が集まるマーケットに存在 した音が、演奏のみならず、通行人のざわめき、物売りの雰囲気まで巻き込んで、ス ピーカの向こうからやってくる。チューニングが狂ってる奴がいるとか、無名だとか 、客が割り込んできたから慌ててるとか、そんな事関係ない。でも、単にむちゃくち ゃやてるんじゃないのよね。歌いたいから歌ってるだけ、と言うなら今も昔も同じか もしれないけど、とげとげしくない。そこに立っている事、これがまず重要なんだと 思う。きっと。
 ブルースは下手だからいい、というのは極論。でも、これを聞いていると、ブルー スに惹かれてやまないエナジーは、やっぱりここにあるんだ、と納得せずにはおれな い。
 酔っぱらってるんだか、暇を持て余してるんだか、そんな通りすがりのお客さん達 が、ここでは主役にもなる。それもすごくいい。「B.B. キングみたいにやって!」 に続いて「ナット・キング・コール?」とチャカいれて始まるリトル・アーサー・キ ングの曲のところでは、私もいつも声をあげて笑ってしまう。ライヴは相互作用。演 る側、見てる側で一個の空間を作る。特にブルースではそれが一番生きるんじゃない のかな。
 あ〜見たかったな、廃棄されちゃったドキュメント・フィルム!
 もちろん、ビッグ・ジョン・レンチャーやキャリー・ベル、そして群を抜いて、ロ バート・ナイトホークはしみじみと素晴らしい。
 64ページに及ぶブックレットの思い入れたっぷりの文章にも、真っ直ぐな愛情が溢れ ていて、久々に初心に戻ったような熱いものを感じた。
text by ★妹尾みえ(Mie Senoh)★(『ブルース・マーケット』誌編集長)


[B E A T E R 's E Y E]