湯水のようにCDリリースが続く時代。慌ただしい時間は、“音を録音する”とい
う事のありがたさや意味、といったものを考える暇さえ与えない。
しかし、その影には一夜のうちに忘れ去られていくライヴがある。あんなバンドが
あった、こんなプレイヤーがいた。そんな思い出話をするのは簡単だが、空気感は永
遠に伝えることはできないのだ。
そう、空気感が伝わらなきゃCDなんてつまらない。
このマックスウェル・ストリートのライヴは、そんな当たり前の事に唸ってしまう
久々のアルバムだ。1964年、アメリカはシカゴの有象有象が集まるマーケットに存在
した音が、演奏のみならず、通行人のざわめき、物売りの雰囲気まで巻き込んで、ス
ピーカの向こうからやってくる。チューニングが狂ってる奴がいるとか、無名だとか
、客が割り込んできたから慌ててるとか、そんな事関係ない。でも、単にむちゃくち
ゃやてるんじゃないのよね。歌いたいから歌ってるだけ、と言うなら今も昔も同じか
もしれないけど、とげとげしくない。そこに立っている事、これがまず重要なんだと
思う。きっと。
ブルースは下手だからいい、というのは極論。でも、これを聞いていると、ブルー
スに惹かれてやまないエナジーは、やっぱりここにあるんだ、と納得せずにはおれな
い。
酔っぱらってるんだか、暇を持て余してるんだか、そんな通りすがりのお客さん達
が、ここでは主役にもなる。それもすごくいい。「B.B. キングみたいにやって!」
に続いて「ナット・キング・コール?」とチャカいれて始まるリトル・アーサー・キ
ングの曲のところでは、私もいつも声をあげて笑ってしまう。ライヴは相互作用。演
る側、見てる側で一個の空間を作る。特にブルースではそれが一番生きるんじゃない
のかな。
あ〜見たかったな、廃棄されちゃったドキュメント・フィルム!
もちろん、ビッグ・ジョン・レンチャーやキャリー・ベル、そして群を抜いて、ロ
バート・ナイトホークはしみじみと素晴らしい。
64ページに及ぶブックレットの思い入れたっぷりの文章にも、真っ直ぐな愛情が溢れ
ていて、久々に初心に戻ったような熱いものを感じた。
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