▲コーヒーのCMで思い出した小室作品の過去  『GORILLA 』TMネットワーク

コーヒーのCMで思い出した小室作品の過去。

 TRF、アムロ、鈴木あみなどのプロデュースで知られる小室哲哉。今やビッグネームの彼だが、1980年代中盤はまだその名を知らぬ人の方が多かったように思う。今や東アジアきっての流行音楽プロデューサーといっても過言ではないだろう。台灣あたりでは、テレビのオーディション番組『小室魔術』なんていうのもあったし、いわゆる小室一家の中国圏での公演の成功もいわずと知れた事実である。

 1986年に発表したGORILLA(EpicSONY 32・8H−70)はビッグネームへの幕開けを予感させる。このアルバムは『FANKS』という造語を概念として制作されている。『FANKS』とはFUNK、PUNK、FANSを複合したものだそうで、これ以来TMはダンス音楽へ傾倒していく。それは同時に小室哲哉のダンス音楽への傾倒への始まりといえるだろう。

 1曲目のGIVE YOU A BEAT、2曲目NERVOUS、3曲目PASSENGERへと一挙に進むスピード感に圧倒される。GIVE YOU A BEATは、このアルバムの制作概念であるFANKSを朗々と歌い上げ、NERVOUSのアップテンポへの場面転換を引き立てる。このあたりはライブでの演奏をかなり意識した節が感じられる。それ以前の小室作品といえば打ち込みというイメージが強かったのだが、ここでは生ドラムを使っている。このアルバムを出した頃のTMのライブに足を運んだことがあるのだが、ヤマハのMIDIシステムに加え生ドラムをステージ中央に配していたのを覚えている。生ドラムのわすかな揺れが、こんなにも躍動感を生み出すものなのかと感心してしまうほど、打ち込み機械ビートに耳慣れしてしまったのだろう。

 PASSENGERは、恐らくネイティブ・イングリッシュ・スピーカーを起用したファンキーなナンバー。生ラップとサンプラーとを掛け合いさせたりしてこの曲はカッコイイ。ただし宇都宮隆のボーカルが始まると、歌謡曲になってしまう。でも、このあたりの海外風と国産とのバランスの取り方が後に小室魔術といわせる曲作りの妙であろう。この楽曲のラップの印象は、後のマーク・パンサーそのものといっても過言ではない。余談だがこの曲は某コーヒーメーカーのCMソングと酷似している。まあ同じ小室作品だから最もだが。

 このアルバムは以上3曲を聴くだけで十分に満足してしまえる。ちなみに全10曲中、3曲がバラードでそれ以外はアップテンポなダンス系。これでもか、これでもかと押しまくる強さを十分に感じられる。
 バラードは4曲目Confession、8曲目GIRL、10曲目SAD EMOTION。
 上記以外のアップテンポナンバーは5曲目You can Dance、6曲目I WANT TV、渡辺美里をコーラスに配したCome on Let's Danceは8曲目、9曲目は雨に誓って。

 近年の小室作品の原点を感じずにいられないアルバム。YUKIやKEIKOよりも宇都宮隆の声質の方が、しっくりと感じられるのはTMをリアルタイムで聞いていた年齢のなせる技であろうか。
text by のりつじお


[B E A T E R 's E Y E]