勾配がきつくなり高度が増すに従って道幅は狭くなる。 車一台が通るのがやっとのほどの山道、しかも一車線!!、たまに対向車に出くわすというホラー小説のような道のり。 「なんでこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ〜」 と、心の中で三十七回叫んだ。 地図帳で見ると数十センチの距離しかないのに、寸又峡は果てしなく遠い。もうそろそろ着くか、と思って道路標識を見ると「寸又峡温泉まで、あと30キロ」の文字。 10年分ハンドルを回して、やっと駐車場にたどり着いた。 70年代風の丸っこい文字で書かれた「 デビッド・リンドレー&ウォーリー・イングラム・ライブ」の立て看板が、力の抜けるような安堵感を生む。周りは鬱蒼とした森ばかり。 駐車場の向かい側には<キャンプ・サイト>があった。 |
そこからまた、テクテクテクテクテクと歩くと、今度は水車小屋、民芸風のトイレと共に、こぢんまりした温泉郷が見えた。
実に長閑なのだが、温泉の浴衣を着て散歩する観光客と、絞り染めのT-シャツを着て三色の帽子をかぶった若いのが、ほぼ同数うろうろしている、という不思議な光景が目の前に広がっている。
これは幻覚かもしれぬ。長時間のドライブで緊張を強いられ頭がご旅行に出られているのかもしれないと、冷たい湧き水をゴクリ。
坂をあがって行くと、混乱はますます深まり、廃校になった小学校の運動場のような場所にステージが組まれ、すでに演奏が始まっている。
物の怪にバカされたのでは無い、という証拠にチケットを買う。
なんと"入浴券"付き。
「美人づくりの湯・寸又峡 のぼせてもよし」
のコピーが、温泉マークとともに夢幻の境地に誘う。
[N E X T_P A G E]
[B E A T E R 's E Y E]