ジャズ・ピックアップ
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Erroll Garner
エロル・ガーナー 『コンサート・バイ・ザ・シー』
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Erroll Garner 『CONCERT BY THE SEA』
                       CBS-SONY SONP 50178 :LP
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Recording Data:September 19,1955 CARMEL
Personnel :Erroll Garner(piano)
Eddie Calhoun(bass)
Denzil Best(drums)
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Tunes Side A:I'll Remember April(4:19)
Teach Me To Night(3:38)
Mambo Carmel(3:43)
Autumn Leaves(6:28)
It's All Right With Me(3:30)

Side B:Red Top(2:16)
April In Paris(3:18)
They Can't Take That Away From Me(4:48)
How Could You Do A Thing Like That To Me(4:11)
Where Or When(4:02)
Erroll's Theme(1:16)
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【解説】

----- はじめに -----

「Misty」の作曲者は誰か? という問いに答えられる人は大勢いると思う。そう、あのエロール・ガーナー(p)です。では、エロール・ガーナーのピアノは好きですか? と聞かれれば、「あの」とつけるのがどこか変なように、「好きです」という人はそんなに多くないんじゃないか。いや、大勢いるのかも知れない、しかし、ジャズ・フォーラムでは話題になった記憶がありません。

残念です。非常に残念である。それが今回「CONCERT BY THE SEA」を取り上げた理由のひとつですが、もうひとつは、かの寺島靖国がこのレコードについて、「パンツまで見せた」とか「パンツまで脱いだ」とか(どっちだか忘れた)書いていたのを見て、これが非常に気に入らなかったということがあって、これは要するに「品がないじゃないか」ってことなんでしょうが、品がないということをそういう品がない言葉で表現する寺島さんというのは、よっぽど洒落がわかっている素敵な人なんでしょう(笑)。

エロール・ガーナーのピアノというのはぼくはもう非常に大好きなわけで、聴いていて、それがジャズであるとかジャズでないとかというようなことをほとんど考えないんですが、そうかと思うと、それがあるとき、突然、「これこそ、ジャズ」なんて気分に反転したりする。ま、ガーナーに限らずそういったことは多々あるわけですが、この辺りの気分というのは「ジャズを聴いていてよかった」というに足りて、というように、ガーナーの音楽にはそういう文句なしの楽しさがあるのです。

文句なしの楽しさ、なんてなにもいっていないのと同じようなものですが、これが例えばオスカー・ピーターソンならば、文句なしの楽しさ、などとぼくはいえないわけで、ピーターソンファンには申し訳ないのですが、その楽しさがジャズとイコールという見方をすればこれはまるで比較にならない。いや、まったくジャズファンというのはしょうがない人だと思う(笑)。しかし早い話がそういう自分の中のジャズを育てる以外にジャズと同化する方法はないんじゃないかと思います。

話を戻して、ガーナーのピアノのあの独特な感じ(こちらは「あの」をつけてもいいと思う)は「Behind The Beat」などと呼ばれているわけですが、これが聴いていて実に楽しい。別に「Behind The Beat」だから楽しいという理屈はなさそうですが、ガーナーのそれがそういうところを通り越してひとつの個性として認めらているというのは、それだけガーナーの音楽に普遍性があるということでもありましょう。

-----このレコードについて-----

データに書いてあるレコードは再発されたものです。最初に出た盤も持っていたんだけれどどこかにいってしまった。内容は同じだからどうでもいいようなものの、実はこちらはライナーノーツを亡くなった野川香文さんが書かれていてそれが非常に素晴らしかった。

「Concert By The Sea」はカリフォルニアのカーメルというところで行われたコンサートのライブ盤で、なんでもその会場が古い教会だったということで、で、音響がすごくよかった、それでこのような素晴らしい演奏が生まれたという話もあって、いや、本当のところはよくわかりませんが、そういうこともあるかも知れない、ともかく、この「Concert By The Sea」は大ヒットし、ガーナーの代表作となったのです。

メンバーは、ガーナーのピアノの他、Eddie Calhoun(bass)、Denzil Best(drums)。エディ・カルホーンについてはよくわかりませんが、デンジル・ベストはバップ華やかしき頃、ジョージ・シャーリング楽団などで活躍したベテランで、確か作曲もしていたような記憶があるんだけれど、さて、どうだったんだろう。

-----アームストロングだったら-----

ところで確かにエロール・ガーナーは芸人といった感じがします。「陽気な酒場のピアノ弾き」という感じがぴったりですね。ビデオを見たことがあるんですが、もう満面笑みをたたえてピアノを弾く様子は、ジャズファンでなくても思わず引きこまれてしまうくらいのもので、ガーナーというのはお客さんを楽しませることに徹底していたんだろうと思います。

「エロールのテーマ」の後に入っている会話は、野川香文さんの解説によれば、「ルイ・アームストロングだったらなぁ」というものだそうです。こちらは英語がさっぱりなんでよくわからないんですが、これはガーナーのアームストロングに対する敬意といささかの自信(ジャズに対する)から生まれた言葉だと解釈しています。が、最初は意味がよくわからなかった。もっともいまでも見当違いの解釈をしているかも知れません(笑)。

このレコードに「Misty」が入っていないのは、これが録音された当時、まだ「Misty」は作曲されていなかったから。「Misty」が作曲されたのは59年ですからこれはいたし方ないところです。そういえばガーナーの演奏している「Misty」って聴いたことがあったのかなかったのか、確か聴いた記憶があるんだけれど印象に残っていないな。

1. I'll Remember April
もうなんといってもすごいのがこの「I'll Remember April」。イントロがすごい。もちろん最後まで一気に聴かせる演奏もすごいんだけれど、それはさておき、こういうイントロを考え出すガーナーの頭の中は一体どうなっているんだろう。聴いているお客さんは最初なにがはじまったのかわからず、メロディーがはじまってようやくそれと気がつく。そりゃそうだ、これが「I'll Remember April」のイントロだなんて誰も思わない。

最初に聴いたときは「まるで現代音楽みたい」なんて思ったのだから我ながら可愛いものだけれど、ガーナーのイントロにはいつもそういう意表を突く面白さがあって、新しい演奏を聴くときなど「この曲のイントロはどうやっているんだろう」とそちらの方に興味が行く。

ガーナーの演奏のやり方(一曲の構成の仕方)というのは、テーマがあってアドリブがあってまたテーマがあって、という普通のやり方とはちょっと違って、最後のテーマは最初のテーマの発展したもの、いわばセカンドテーマであって、やり方としては特に新しいことではなさそうだけれど、そのメロディーの素晴らしさから、まるでテーマと一体、これ以上のものはないという気分になってくる。また、アドリブ自体も非常にメロディックだから、何回も聴けば憶えてしまうくらいで、こういうところがともするとジャズファンに疎んじられるところなのかも知れない。

しかしこのテイク、メロディーがはじまってちょっと行ったところで、ピシッ! という鞭のような音が入っているんだけれど、あれはなんなんだろう。

----- Behind The Beat -----

いつもだったらレコードに入っている順番に曲を紹介するのだけれど、今回はそれをやめて、話の中で触れるようにしたいと思います。

ガーナーといえば、あの独特なピアノの弾き方、「Behind The Beat」のことを話さないわけにはいきません。お尻の下に電話帳を敷く、というのも独特だけれど(笑)、そういうことじゃなくてもう少し音楽的な話。研究しているわけじゃないから勘違いもあるかも知れない。そのときは御容赦を。

一定のビートに対してフレーズが遅れ気味になっている状態、それを「Behind The Beat」という(らしい)。これがあまり遅れていれば音楽にならないからこれはフィーリングの範囲でということになって、遅れないのが「Just」、先にあるのが「Ahead」ということもある。そう、「Behind」「Just」「Ahead」という順番です。

ガーナーのピアノにはこの遅れ気味に弾く箇所が必ずといっていいほどあって、それが素晴らしい効果を上げるんだけれど、もちろんガーナーの弾くピアノの全部がそうであるわけではなく、あるときはJustであったり、あるときはAheadであったりする、つまり一曲の中でガーナーはそういうことを意識してやっているわけで、では、それが単なるテクニックであるかというとそれがそう簡単にいえないところが難しい。テクニックであると同時に、ガーナーの持っている資質(フィーリング)がBehindということがある。

そういう資質としてBehindなピアニストといえばソニー・クラークなどがすぐに思い浮かぶんだけれど、では、反対にAheadな人は誰かといえば、オスカー・ピーターソンなどはその最右翼といっていい。おそらくガーナーは最初、ここは「Behind The Beat」で弾こう、などとは思わなかった。おっ、こうやれば面白いじゃないか、というくらいのことだったんだと思う。しかしそれはガーナーにしかできない斬新な方法であった。聴いた人たちはその襟首を引きずられるような感じに熱狂しスイングしたに違いない。で、その感じを誰かが「Behind The Beat」といった。エロール・ガーナー、イコール「Behind The Beat」という図式がめでたくできあがったわけです。

こればっかりは聴いてもらわなくちゃわからないかも知れない。持っていて決して損はしないレコードだと思う。どうです、そこのあなた、一枚いかがですか。

----- ところで -----

ガーナーの真似といえば、若かりし頃の世良譲が非常に上手で、ぼくはそれを聴いてガーナーが好きなった。そういう意味では世良譲は恩人である。真似といえばもうひとり、ジョージ・シャーリングがそのライブ盤の中でやっているのを聴いたことがあって、これがもう実に「いかにも」って感じがして思わず笑ってしまった。

そういう「ガーナーの真似」が成立するというのがガーナーのガーナーたるところなんだけれど、冗談でやるにしても、その冗談の向こうにはジャズの秘密があるに違いない、なんて思ってしまう。

菅野邦彦のガーナーへの傾倒ぶりは真似などというようなものではなかった。特にラテンリズムを取り入れたガーナーの諸作への理解、ということに関しては、菅野邦彦はそれを個性にまで昇華していた。

----- 40年代のガーナー -----

「Concert By The Sea」を聴いた後だったかそれともその前だったか忘れてしまったんですが、黒いジャケットで、「Lullaby Of Birdland」が入っている盤があって、その頃その曲が好きだったからかも知れない、もう狂喜して聴いたのを憶えています。その盤がもしかしたら40年代のガーナーだったかも知れません。

「Concert By The Sea」から感じる「確信」といったものはないものの、こちらもビハインド・ザ・ビートの魅力あふれた作品で、いまでも手に入れられるものなら手に入れたいと思っています。

ガーナーとチャーリー・パーカーのセッションはラジオで聴きました。これも40年代でしょうか。いまから考えればなんとも珍妙な組合せで、その頃、まだあまりジャズのことを知らなかったぼくでも、「なんか変な感じ」と思ったものです。

もう一枚、ウーディー・ハーマン(cl,vo)とふたりでやっているのを古レコード屋で発見し(シングル盤2枚組)、これはすぐに買って、いまでもどこかにあるはずですが、これはもしかしたら「Concert By The Sea」より後のレコードかも知れない。

シングル盤といえば、昔はずいぶん見かけたものです。「How High The Moon」も最初シングル盤で聴いた。そのB面が「Oh Lady Be Good」だったのも憶えていて、これはその後LPで買い直したような気がします。

名盤などといういい方は好きじゃないんですが、「Concert By The Sea」はいつ聴いても、「ジャズである」というそのことだけで決して光を失うことはないでしょう。

-----ガーナーのバラード演奏-----

これをバラード演奏というのが正しいのかどうかわかりません。要するにテンポの遅いスローな演奏ということで、このレコードの中では「Autumn Leaves」「April In Paris」がそれですが、この弾き方というのがまたガーナー独特といってもいいくらいで、なにが独特かというと、もう絢爛豪華である。こういう絢爛豪華というのは、好きな人は好き、嫌いな人は嫌い、となるのかも知れなくて、「ああ、ガーナーだなぁ」と思っても、こればっかり聴いているわけにはいかなくなってくる。

だから2曲くらいがぼくにはちょうどいい。もっとも一曲の中にはちゃんと「Behind The Beat」の部分もあって、聴いていてそこにくれば思わずにっこりしてしまうんだから他愛がない。ともかく、これより豪華な「枯葉」は聴いたことがありません。

------ガーナーのブルース-----

B面の1曲目に入っている「Red Top」という曲はミディアムのブルースなんだけれど、聴いていてブルースっていう感じがあまりしない。このテーマがそうできているのか、それともガーナーの弾き方がそうなのか。ガーナーの奏でるメロディー、フレーズというのは非常に個性的であるわけだけれども、その個性的なフレーズの持っている力というのがとても強力で、ぼくたちのブルースという概念を問題にしない。か、どうかわからないけれども(笑)、ともかくそんな気がする。

そういうことは、例えば「枯葉」なんかも同じようなことなのかも知れなくて、枯葉ははらはらと散る、なんて思っていると、このガーナーの絢爛豪華な「枯葉」はどう解釈したらいいか難しくなってきて、それが別に「枯葉」でなくてもよかったことに気がつく。

そうだ、「Red Top」のアドリブの中で「ナウ・ザ・タイム」のメロディーを引用するところがあるんですが、野川香文解説ではこれを「ハックル・バック」のメロディーと書いている。この「ハックル・バック」というのがよくわからないんだけれど、どなたか御存知ありませんか。

「Concert By The Sea」以降のガーナーの話題といえば、ミッチ・ミラー楽団などとの共演、ラテンリズムを取り入れた演奏、ライブ盤の数々、といろいろあるんだけれど、なんといってもこのこの「Concert By The Sea」が事件だった。ぼくはこの一枚があればいい。
text by MAMA/YabotME!
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