JAZZ PICKUP!
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HERBIE HANCOCK
ハービー・ハンコック『スピーク・ライク・ア・チャイルド』
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RECORDING DATA :
MARCH 6&9,1968 AT VAN GELDER STUDIO,NEW JERSEY
PRODUCERS : DUKE PEARSON
RECORDING ENGINEER : RUDY VAN GELDER
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PERSONNEL:
HERBIE HANCOCK (PIANO)
RON CARTER(BASS)
MICKEY ROKER (DRUMS)
THAD JONES(FLUGELHORN)
PETER PHILLIPS (BASS-TROMBONE)
JERRY DODGION(ALTO-FLUTE)
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TUNE SIDE-A :
1,RIOT (4'38)(HERBIE HANCOCK)
2,SPEAK LIKE A CHILD (7'49) (HERBIE HANCOCK)
3,FIRST TRIP (5'59) (RON CARTER)

SIDE-B :
1,TOYS (5'50) (HERBIE HANCOCK)
2,GOODBYE TO CHILDHOOD (7'05) (HERBIE HANCOCK)
3,THE SORCERER (5'36)(HERBIE HANCOCK)
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【解説】

『SPEAK LIKE A CHILD』はハービーにとって6枚目のソロアルバムに当たります。タイトルから察するに「子供のように話そうよ!」というふうにイメージすると、メルヘンチックな作品?と思ってしまいますが、音の完成度は大人ですね。(当然か(^^;)ハービーが語るところによると「不純な考えは捨てて自分達の希望と可能性を追求しよう」とのこと。そういった意味合いで「子供のように話そう」ということらしいです。

この作品が制作されたのは1968年3月。この68年という年が持つ意味合いを考えてみると、かなり興味深いことに気が付きます。マイルスが68年7〜8月にレコーディングセッションを行います。そこで生まれたのが『SORCERER』『NEFERTITI』という2作(正確にはもう1枚『WATER BABYS』にリテイク3曲も収録された)60年代の黄金のマイルスクインテットとして最後と言うべき重要なセッションだった訳で、これ以降はあのエレクトリック路線が始まるわけです。

ここで演奏されたハービーの曲は『SPEAK LIKE A CHILD』と重複するナンバーもあります。ちなみに当時のマイルスのクインテットはMILES DAVIS(Trumpet) WAYNE SHORTER(Tenor SAX)HERBIE HANCOCK(Piano) RON CARTER(Bass) TONY WILLIAMS(Drums) 今回の話題はハービーの作品ですが、関連性もあるということを認識しながら進めていきます。マイルスとの比較もしてみましょう。

---------- ハービー・ハンコックの経歴 ----------

1940年4月12日、イリノイ州シカゴに生まれる。(本名:Herbie Jeffrey Hancock)父は公務員、母はピアノを嗜むという両親の元、育てられる。幼少時代からピアノをおもちゃ代わりにして遊んでいたが、シカゴはブルーズやR&Bといった音楽が日常的にあふれていた街であり、ハービーもそれに親しんでいた・・・と思いきや、教育熱心な母親は逆に大衆的な音楽からハービーを避けさせようと、7歳からクラシックの英才教育を受けさせる。11歳にしてシカゴ交響楽団と共演するまで上達した。

少年時代、彼のハイスクールの仲間が演奏するジャズを聴き感銘を受け、彼自身もバンドを見よう見まねで始める。やがてアイオワ州のグリネルカレッジへ進むが、専攻がなんと電子工学(!)。しかしジャズへの熱意は高まるばかり。やがて専攻科目を芸術学部に変えることになる。

シカゴに帰り、プロとしての下積み生活を送るうちにチャンスが巡ってくる。トランペットのドナルド・バードのバンドにトラとして参加、そのままレギュラーになる。やがて彼にとって大きな転機が訪れる。ブルーノート・レコード社長、アルフレッド・ライオンの目に止まり初ソロアルバム『TAKIN' OFF』をリリースする。このアルバムの中から名曲「Watermelon Man」が生まれ、たくさんのミュージシャンに愛されるスタンダードになった。

『TAKIN' OFF』のヒットにより、彼はジャズ界から一躍注目を浴びることになるが、最も象徴的な出来事は、あのマイルス・ディヴィスのグループに加わったことである。『SEVEN STEPS TO HEAVEN』以降、60年代のマイルスを支えた黄金のクインテットの中心的な役割を果たすことになる。

だが、その一方でソロ活動も活発であった。65年に名作『MAIDEN VOYAGE(処女航海)』をリリース。その後、マイルス・グループでの活動を挟み、そして今回のアルバム『SPEAK LIKE A CHILD』が68年にリリースされた。

SIDE-A : 1,RIOT(HERBIE HANCOCK)

マイルスの『NEFERTYTY』にも収録されたナンバー。ハービーとマイルスを比較すると、管の編成違いが大きいですね。テンポはほとんど同じです。

マイルスではウェイン・ショーターとの2管、こちらでは3管なんですが、その編成はユニークです。サド・ジョーンズもトランペットではなくフリューゲルを吹いてますし、ジェリー・ドジオンのアルトフルート、ピーター・フィリップスのバス・トロンバーンといった、ちょっとだけ特殊な管のアンサンブルを聴かせてくれます。

これも当然、主役のハービーを引き立たせる為に必要なボイスなんだろうなって思います。ピアノソロもこちらが当然ながら長いです。マイルスではバッキングが多い分、こちらではハービーが思う存分弾いてるという印象を受けます。あとマイルスとの比較では、ドラムサウンドも違いますね。ミッキー・ロッカーとトニー・ウィリアムスではそのタッチも変わります。ハイハットでの刻みが多いのミッキーと、ライドシンバルのレガートの切れがいい、いつでも応戦体勢に入りそうなトニー。(^^;

ハービー本人版は協調性重視、マイルスは攻撃性重視、と勝手に思ってしまいます。サウンドの指向性の違いを楽しむのもいいんじゃないかと思ったこのナンバーでした。

SIDE-A : 2,SPEAK LIKE A CHILD (HERBIE HANCOCK)

このアルバムのタイトルチューンです。ゆったりとした曲ですね。ボサノヴァ調のリズムに乗ったハービーのピアノとホーン3管との対比が美しいです。「MAIDEN VOYAGE」や「DOLPHIN DANCE」といった曲とも共通するハービーの歌心を感じさせます。

この曲のカバー版ではジャコ・パストリアス『JACO PASTORIUS』というアルバムが印象的です。ハービーも参加していた曲で、こちらではジャコの「KURU」というナンバーとのメドレーです。テンポも早目で「Speak〜」の旋律をストリングスにやらせていたり、リズムがめまぐるしく変わる所がおもしろいです。オリジナル版とはまた違ったスリリングなハービーを楽しめる演奏です。

SIDE-A : 3,FIRST TRIP (RON CARTER)

ここでロン・カーターのナンバーが登場。軽快なテンポで始まり、一聴した感じではオーソドックスな進行に聞こえてきますが、実はかなり変拍子を使ったりしてます。ホーン抜きのピアノ・トリオでの演奏でハービーのピアノが楽しいナンバーです。

SIDE-B : 1,TOYS (HERBIE HANCOCK)

アナログ盤では、これよりB面に。ホーンがちょっと重めのテーマを奏でた後にハービーのピアノが入ります。ブルースのようでブルースでない、といった点をハービーが強調してるみたいですね。

SIDE-B : 2,GOODBYE TO CHILDHOOD (HERBIE HANCOCK)

イントロから少し重い雰囲気を感じさせます。ハービーのピアノもダークなイメージです。なんとなく「Round Midnight」でのハービーを思い出してしまいますね。

SIDE-B : 3,THE SORCERER (HERBIE HANCOCK)

このアルバムのラストナンバー。ご存知の通り、マイルスのアルバムに『THE SORCERER』というのがあります。最初からマイルス用に作曲したものだそうですが、レコーディングされたのはこっちが先です。ハービーのオリジナルはホーン抜きのピアノトリオでの演奏です。リズミカルな彼のピアノをたっぷり聴くには、やはりこちらがいいです。

一方のマイルス版の方は、ショーターとマイルスの掛合いが絶妙です。ハービーはこちらでは遠慮気味で、ちょっと物足りなさを感じます。マイルスの元では無理もなかったのかもしれませんが。ま、その分、ハービー自身のアルバムでは思う存分プレイしてます。この曲も2枚のアルバムでの比較をお勧めしたいです。

---------- 改めてハービーは凄い! ----------

今更ながらハービーの才能の豊かさに感銘を受けた僕なんですが、この『SPEAK LIKE A CHILD』が作られたのが、28歳の頃だということを知ると、最近の若手でこの年齢でこれと同格の才能を発揮しているミュージシャンっていないかなと思う次第です。(^^;

ピアニストとしての腕はその後も発展していることは、その後の作品を追いかければ判ること。ま、8割方はこの60年代に完成されたものでしょうね。曲作りに関しては既に絶頂期であったと思います。このアルバムや『MAIDEN VOYAGE』などジャズの歴史に残る名作も好きですが、もっと彼らしいファンキーさを感じる『TAKIN' OFF』『EMPYREAN ISLES』も大好きな僕です。

コンポーザーとして、ピアニストとして、類まれな活動を続けている彼ですが、ここ数年は『The New Standard』や盟友ウェイン・ショーターとのデュオ活動を精力的に行ってました。アコースティックジャズの新たな方向性をまだまだ追求しているように見受けられましたが、ここでまた凄い話が出てきました。

70年代のハービーといえば『HEAD HUNTERS』に代表されるエレクトリック・ファンク路線のことは忘れてはならないでしょう。そのHEAD HUNTERSが今年復活するそうです。アルバム『Return of the Headhunters』がリリース、そしてツアーも予定されてるそうです。今回のPick UP!投稿時にはどちらも間に合いませんが、ホントに楽しみにしたいと思ってます。

間もなく西暦2000年を迎えるわけで、ハービーもこの頃は60歳となりますが、まだまだこれからも僕らに感銘を与えてくれるでしょう。
text by キクリンabotME!
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