ジャズ・ピックアップ
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『80/81』
パット・メセニー『80/81』
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Pat Metheny  『80/81』         ECM 1180/81
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Recording Data:May 26-29,1980
Talent Studios, Oslo
Personnel :Pat Metheny(guitar)
      Charlie Haden(bass)
      Jack DeJohnette(drums)
      Dewey Redman(tenor sax)
      Mike Brecker(tenor sax)
Engineer :Jan Erik Kongshaug
Photos :Dag Alveng(back)
       Rainer Drechsler(inside)
Design :Barbara Wojirsch
Produced by :Manfred Eicher
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Tunes Side A:
Two Folk Songs: 1st(Pat Metheny)
2nd(20:46)(Charlie Haden)

Side B:
80/81(7:27) (Pat Metheny)
The Bat(5:58) (Pat Metheny)
Turnaround(7:05)(Ornette Coleman)

Side C:
Open(14:26)(Metheny, DeJohnette, Redman, Haden, Brecker)
Pretty Scattered(6:56)(Pat Metheny)

Side D:
Every Day (I Thank You)(13:16)(Pat Metheny)
Goin' Ahead(3:51)(Pat Metheny)
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【解説】

このアルバムを僕が初めて聴いたのは、高田馬場にあるジャズ喫茶「マイルストーン」だったのを、今でもよく覚えています。高校3年のときだったかなぁ、クレジットを見ると1980年のリリースだと書かれているので、ひょっとしたらもっと早く、高校2年のときだったかも知れません。とにかくジャズ喫茶というものに通いだして、わりとすぐの頃です。

僕はその当時、まだパット・メセニーという人のことをよく知らなくて、これがメセニーだと意識して聴いた最初のアルバムだったりします。だから、いわゆるフュージョン・ギタリストとしての彼を聴く前にこれを聴いてしまったので、出た当時の「メセニー乾坤一擲のジャズ^^;、やはり彼はその辺のフュージョン系のギタリストとはひと味違う」みたいな評価を読んでも、ふ〜ん、そんなもんかなと思うばかりでした。

一聴して気に入ったのではありましたが、僕はこれを買わずに貸しレコード屋の黎紅堂で借りて、テープにダビングして愛聴していたのでした。TDKのARとかいうやつの90分テープだったかな。そんなどうでもいいことまで覚えているというのは、それだけ何度も繰り返し聴いたという事です。もちろん、その当時ですからLPです。そして月日は流れて、社会人になって多少は自由になるお金が増えたときに、テープじゃなくてちゃんと買おうと思ったのですが、せっかくだからCDの方がいい。でも、最初に出たCD版って、ちゃんとした2枚組じゃなくてCD1枚のダイジェスト版になってしまっていたのです(;_;)。

これはLP→CD移行期のECMレーベルの作品に、よくある問題でした。社長兼プロデューサーであるマンフレート・アイヒャー氏の独特の美意識によるものか、こういう不思議なことをするんですよね。何曲か端折ってCD1枚の収録時間ぎりぎりに納めるということばかりが目的でもないことは、キースのオルガン(!)ソロ作品LP2枚組だったのがCD1枚にしたのはともかく、その再発売されたものの収録時間が50分に満たないことからも伺い知れます。あと有名なところでは、「ケルン・コンサート」の最初出たCDでは、アンコールだけが収録されていないとかありましたよね。

同時期に出た名盤である、コリア=バートンのデュオのライブ2枚組が同じくダイジェスト版がCD化された後で、完全版が全然CDで再発されない状況を考えれば、今回のお題の"80/81"が後になって改心したか^^;、完全版がCD化されたことは喜ばしい限りです(^^)。

発売当時、"80/81"というアルバムタイトルから、1980年代のジャズの方向性を指し示すとかああだこうだ言われたこの作品。実際のところは、どうしてこういうタイトルを付けたんでしょうね。取りあえず、A面の2曲目がアルバムタイトル曲^^;になっているのですが。そしてECMのカタログ番号(1001番からの通し番号)はECM1180/81になっているのが、気が利いていると言うべきかな? それとも、この番号が先にあって、そこから曲名/アルバム名をつけたんだったりして。どなたか、事情をご存知の方がいらっしゃったら、教えてくらはい(^^ゞ。

ではこれから1曲ずつ、順番に聴いていくことにしたいと思います。

1."Two Folk Songs"

アルバム冒頭を飾るこの曲。A面1曲目というか、これ1曲でA面は終わってしまうような大作です。"1st"と"2nd"の2つの部分からなりますが、切れ目無く演奏されます。この曲はどういうビートって言うのかな、ジャズの人たちが4ビートじゃない曲を演奏して、もっともカッコよく仕上がっているものではないかと、個人的には思います。正統派ジャズ系のリズム隊^^;が8ビートとか16ビートで演奏すると、タイトじゃないっていうか、わりとバタバタした感じになるじゃないですか? それが、"1st"の演奏はアフロをずっとスタイリッシュにしたような感じで、初めて聴いたときから圧倒されっぱなしです。

ここではメセニーは生ギターを弾きます。ジャンジャカジャンジャカジャカジャカジャカジャカ....という感じでコードを弾きならしている上で、曲のサビのところでリフを弾いたりもしていますから、これはオーバーダビングしているんでしょうね、きっと。

この曲でサックスを吹いているのは、マイケル・ブレッカー。この伸びやかな旋律を上手く吹きこなしています。そして、スタイリッシュということで言えば、僕はこの人についてはこの当時の音色の方がずっと好きです。ボビー・デュコフのマウスピースをまだ使っているのでしょうか。ソロに入っても吹きまくり状態^^;。今聴くとわりと普通というか、タレ流し的でもある。でも大好きですが(苦笑)。

しかし、ブレッカーの普通程度のソロ^^;を普通よりもカッコよく聞こえさせているのは、ディジョネットのドラムだと言い切ってしまっても、間違いないでしょう。録音のバランスでも、ドラムの音がかなり前面に出ていて、テナーのソロに敏感に反応する様子を余すことなく伝えてくれます。さすが、よく分かってますね(^^)。これがもしもブレッカーのリーダー作だったとしたら、このバランスではミックスダウンはしないだろうなぁ^^;。

ブレッカーの2度に渡るソロの後で、ドラムのソロとなります。いかにもディジョネットらしいソロだと言っていいでしょう。そこにメセニーのカッティングの音が重なり、ドラムが静かになったところで、チャーリー・ヘイデンがベースで"2nd"のテーマを弾き始めます。これはヘイデンの作曲によるものです。

しばらくベースが一人でテーマを奏でた後で、ドラムがビートを刻みだします。これは、普通のジャズの8ビートです^^;。これはこれで味わいがあっていいですね(^^)。

ここでようやくメセニーのギター・ソロがフィーチュアされます。僕はここでの重音奏法の美しさに、参っているのでした。普通の生ギターをつかっているのだと思いますが、後年の"Long Train Home"のシタール・ギター(だっけ?)に似たようなサウンドも出しています。

メセニーのソロのすぐ後で、フェイドアウトしてしまうところのセンスも特筆すべきですね(^^)。この"2nd"ではサックスの人はお休みです。

2."80/81"

B面の最初はこのアルバムのタイトル曲です。ここでメセニーは愛用のES-175(たぶん)に持ち換えます。ブレッカーが抜けて替わりにテナーを吹くのは、デューイ・レッドマン。

この演奏が80年代のジャズの方向性を指し示していたかどうか分かりませんが、一つのジャズ演奏としてもっとも純化された、見事な演奏だと思います。僕が今回、この曲を何度も繰り返しかけているのを脇で聴いて、うちのカミさんは「南国の音楽みたいで、すごく気持ちいい(^^)」と言ってましたが、そう言われれば楽園サウンドっぽくもありますね^^;。

メセニーのソロを聴いていると、いつも「淀みない」っていう形容詞が頭に思い浮かぶのですが、ここでの演奏はその最たるものの一つのようです。音色もメセニーのいちばんメセニーらしいものですし。

続いてソロを取るのが、お待ちかねのデューイ・レッドマン(^^)。僕はこの人のことを、最も過大評価されていて、なおかつ過小評価されている人だと考えております。何だか支離滅裂ですが^^;、だって有名なわりにものすごく下手なんだもん(苦笑)。でも、音色だけ取ったら無敵だっていう感じかな。その抜けきった音は晩年のコルトレーンに対抗できる、唯一の存在だと思っております。僕がデューイ・レッドマンの演奏でいちばん好きなのは、キースのアメリカン・カルテットによるライブ盤「心の瞳」(ECM1150)なのですが、(レコードに収録された)演奏が始まってから何十分もず〜っと出てこないで、その替わりにキースがソプラノを延々と吹いていて(笑)、盛り上がってきたところでようやく登場。そしてちょっと吹いただけで、その圧倒的な「音色」で一気に場を自分に引き寄せるところに、しびれてしまいます。これで、息子の半分ぐらいもテクがあったら、どんなに凄かっただろう事か(笑)。

この曲でのデューイ・レッドマンのソロから感じられる「開放感」と言ったら、何とも言えないものですね。珍しく^^;快調にフレーズが出てきているのもナイスです(^^)。そして、しばらくトリオで演奏した後に、徐々にからんでくるギターのバッキングがまた、刺激的でいいです。パット・メセニー・グループでは、彼はライル・メイズのソロの間はバッキングを弾きませんから、こういう「ピアノレスの編成、但しフロント入り」の企画でメセニーのバッキングも堪能できるのはいいですね(^^)。

テナーのソロが最後、どうやって後リフに戻るんだったか忘れてしまった^^;という感じで、しょぼく終わったところで、ギターが弾き初めて後リフに突入します。ここでの聴きものはディジョネットのドラム。ソロの間は比較的おとなしくしていたのですが、ここでの叩き振りは圧巻です。これだけいい加減に叩いていて、なおかつタイム感を失わないところが素晴らしい。キースの"Standards Vol.2"(ECM1289)の中の"If I Should Lose You"に匹敵する彼のベストだと思います。

3."The Bat"

曲名はやっぱり「こうもり」っていう意味なんでしょうね。ヨハン・シュトラウス作曲の、あの名作オペレッタにメセニーがインスパイアされて作曲した、なんてことは絶対に無いんだろうなぁ^^;。

ここまでの2曲では2人いるテナーが両方参加したりはせずに、曲毎に分担されていたのだけれども、この曲で初めて2人ともテナーを吹いています。とは言っても、熱いバトルを繰り広げるわけでも何でもなくて、ちょっとテーマの部分でハモっているだけ。正直なところ、今回この企画をやるに当たって初めてクレジット等をちゃんと眺めてみたのだけれども、そこに"The Bat"では2人ともプレイしているって書かれているのを読んで、初めて気が付いたぐらいだったりします。

この美しいバラードの最初のテーマはブレッカーが担当。その裏でデューイ・レッドマンは静かにハモりを入れている。ううむ、思いっきりデカい音でぐぉ〜っと吹くだけじゃないぞ(笑)>レッドマン

その後、サックスはソロを取らずにギターのソロ、そしてベースのソロと続く。そして後テーマを吹いているのが、今度はレッドマンというわけですな。そこではブレッカーはハモりパートに回るわけで、美しい分業体制が敷かれております^^;。

実は、この曲は僕にとって、このアルバムの中でわりと印象が薄い方に属するでしょうか。そういえば、この1年半後にパット・メセニー・グループとして録音した、「愛のカフェオーレ」もしくは「Offramp」(ECM1216)の中に、"The Bat part II"というのが収録されていますが、こっちはどんな演奏だったかなぁ。いつものことだけれどもLPは日本に置いてきてしまっているので、聴くことが出来ない(;_;)。誰かお持ちの人がいたら、比較解説していただけないでしょうか。m(__)m

それから何年も経った後の、1992年のパット・メセニー・グループの全米ツアーの際のライブ音源というので何種類も同じもの^^;が別のジャケットで海賊盤化されていて、僕も3種類も買ってしまったのですが(;_;)、そのうちの一つはボーナストラックとして、この"The Bat"が追加収録されているという、良心的?なものでした。

そこでは当然サックスはいませんから、ギターがテーマを弾くことになります。しかし、ドラムのポール・ワーティコがあまりにノー・アイディアで、ディジョネットとの落差がでかくて愕然とするものがありますですねぇ(;_;)。ワーティコもすごくいいドラマーだと思うんですけど、こういうバラードではやはりディジョネットに軍配が上がってしまうのは無理からぬところでしょうか。一方、ベースのスティーブ・ロドビーは結構いいです。こういう曲ではヘイデンがあまりに色気が無いようにも思えるので、かえってロドビーの方が僕には好ましく聞こえるくらいです。ライル・メイズのピアノソロは言うまでもなく素晴らしく、【80/81】セッションに彼が参加していたら、どうなっただろうかなどと、あらぬ想像をつい働かせてしまいます。

4."Turnaround"

次の曲は、ご存知「ターンアラウンド」。オーネット・コールマン作曲のブルースですね。これは流行ったというか、随分といろいろな若手ジャズマン^^;が演奏しているのを生で聴いたことがあるような気がします。そのわりに学生ジャズマンが取り上げることは、あまり無いような気もする。上級者向けっていう印象が、何故かあったりします。変なキーのブルースだからかな。

ところで、この曲のオーネット・コールマンのオリジナルって、何というアルバムに収録されているんでしょう? サンボーンがやっていた"Ramblin'"のオリジナルは、聴いたことあるんですけど。誰かご存知の方は教えて下さい(^^ゞ。

このアルバム中では、テナーの2人は参加しておらず、ギターのトリオで演奏されています。ちょっともったいないような気もしますけれども、ここにブレッカーとかが入っていたら収拾つかなくなっていたようにも思えますし、これで良かったのかも^^;。その後、ライブ演奏でメセニーがこの曲を取り上げた時に比べると、ここでの演奏はテンポもかなり押さえ目で、音数が多いながらもクールな演奏を狙っているのかも知れませんね。

演奏の終わった後に、声が入っているのですが、あれって誰の声なんでしょうね? 脇で見ていた(?)サックスの人たちかなぁ? メセニーもヘイデンもクールに声なんか出さないだろうし、ディジョネットの声とも違うようだし。

----------あの頃君は若かった(ちょっとひと休み)----------

ちょうど1枚目のA面B面と聴いてきたところなので、2枚目に行く前にちょっとじっくりとアートワークを見てみたいと思います。

ご存知の方はご存知の通り、何とも言えない紫色のジャケットで、上の方の色が少し薄くなっていて少し青みがかった文字で80/81と書かれています。そしてその下に白い字でPAT METHENYとあり、さらに黒い字で他のミュージシャンの名前も列記してあります。ううむ、音楽を聴いた感想を言葉にするより、こういうのを文章でイメージを伝える方がよっぽど難しいぞ。

ECMというと、美しい風景写真などのジャケットというイメージが一般的には強いのだと思いますが、実際には文字だけというものが結構多くて、これもその一つですね。この手書きの文字は、デザインを担当したバーバラ・ヴォユルシュの自筆なのかな? ECMファンにはお馴染みの筆跡で、メセニー関係だとあと"Rejoicing"(ECM1271)と"First Circle"(ECM1278)で見ることが出来ます。

中の方にある曲名の一覧も手書きの文字で、でもその脇にカッコ入りで書かれている作曲者名がタイプライターで打たれているのが、不思議。

写真は2点、使われています。いや、みんな若いですね。特にディジョネットが妙に可愛いのが、何とも言えません。ブレッカーもこの頃は毛が沢山あったんだなぁ。ヒゲも生やしてたし。

それに引き替え、デューイ・レッドマンって僕はこのぐらいの歳のイメージしかないので、全然違和感がない(笑)。逆に、この人が若い頃の写真って見たことがないので、想像が付かないのだけど、新進気鋭のテナーマン(笑)時代の写真を見ると、すごく違和感があるんだろうなぁ^^;。

メセニーも結構年齢不詳の人で、今の顔を見てもそれほど歳取ったって感じがしませんよね。確かに髪の毛に少し白いのが目立つようになったのは、確かだけど。でも、改めて若い頃の写真を見ると、ガブリエル・バティステュータにちょっと似ているなとか思ったりして。って、バティステュータなんて、ここで言っても分からないか^^;。日本とフランスW杯で対戦するアルゼンチンのエースストライカーの人です、はい。

----------日本で聴けたPMG以外の生演奏----------

パット・メセニー・グループ(以下PMG)の来日公演は楽しみでしたが、僕がそれ以上に楽しみにしていたのが、カルテットによる「ジャズの夕べ」(別にそんなタイトルは付いてなかったけど)でした。1983年?の来日時には、六本木のどこだかでソロの演奏をしたそうで、後でそれを知って非常に悔しい思いをしたのですが、1985年に来たときの今は亡き中野の「いもはうす」、(確か)1987年に来たときの大宮の「フリークス」でやった演奏は、非常に感激しましたですね。1990年の原宿「クロコダイル」のときには、何故か裏方で働かされていてちゃんと聴いていないのですが。最近ってよく分からないけど、そういうクラブギグはやっているのでしょうか? 今年(98年)日本に来るという話を聞きましたけど。

PMG以外で来日した例では、1983年のライブアンダーの時のロリンズとのカルテット(コリアとのセッションもあった)、1988年にはアーニー・ワッツをフロントに据えたカルテットで来ています。88年の時はベースがヘイデンでした。1990年にはディジョネットのパラレル・リアリティーズ・バンド(他にハンコックとホランド)で来てますね。あれはカッコ良かったなぁ(^^)。バレエ団と協演するという無茶な企画^^;もありましたが、それは、まぁいいでしょう^^;。

しかし、"Question And Answer"トリオ(デイブ・ホランド、ロイ・ヘインズ)が1991年に来日を果たしたのに比べると、"Rejoicing"トリオ(チャーリー・ヘイデン、ビリー・ヒギンズ)が、日本には来てくれなかったのは非常に残念でありました。

去年(97年)、"80/81"もどき^^;バンドが日本で公演を行ったそうですけれども、聴きたかったなぁ(;_;)。僕が聴くことが出来たクラブギグでも、あの香りの演奏ではなかったですから。

5."Open"

C面の1曲目。クレジットを見ると、参加ミュージシャン全員の名前が書いてある。プログレのレコードなら話は別だけど、ジャズのレコードでそうなっているのは、大抵はフリー・インプロビゼーションだと決まっているのだ^^;。あ、コレクティブ・インプロビゼーションって言うんだったかな。ま、いいや。その辺の違いは門外漢なのでよく分からない^^;。

「基本的にフリーは嫌いだよ〜ん」という立場を取る僕は、フリーと言っても2種類あると勝手に大別していたりします。どしゃめしゃ^^;になるやつと、そうでもないのの2種類。決め事がものすごく少ない状態で音を出していても、それぞれの楽器が、本来のその楽器のための奏法で扱われている場合には、不協和音が多少あったとしても、抵抗はまるでないんですね。僕にとってはNGになるのは、フリーキー・トーンだとか、拳骨でピアノの鍵盤を叩くやつ。僕の場合、音楽形式上では大抵のものを許容できるんですけど、楽器の取り扱いに関しては非常に保守的だと言っていいでしょうね。

のっけから話が脱線しましたが、その観点からすると、この演奏はフリーだけど、僕にとっても大丈夫なものに属するかな、と。

で、その演奏ですが、まずはギターとドラムのデュオでスタート。熱いバトルが繰り広げられた後で、それはそのままドラムのソロに引き継がれます。ディジョネットが叩いているバックでちょっとだけ弾くメセニーも、すごくカッコいいなぁ(^^)。って、別に大したことをやっているわけじゃなくて、白玉をボリュームペダルを使いながら弾いているだけなんでしょうけど。

ドラムがひとしきり叩いた後で、入ってくるのはレッドマン。最初のうちはパラパラとカッコいいフレーズを吹こうとしてハマっているのだけど、途中からベースがラインを弾きはじめて、ドラムとベースが刻みだす忙しいビートの上で、ものすごくゆったりしたフレーズを吹き出すと、俄然カッコよくなるのがこの人らしいです。そして一旦ペースをつかむと、デタラメに吹いているようなフレーズも、ばっちりと決まってきます。

前に六本木ピットインで、オールド・アンド・ニュードリームスもどき(チェリ丼、レッドマン、ヘイデンと来て、ドラムだけモチアンだった)を聴いたときにも、そうだったのを思い出します。延々と続く長いソロの中で、最初のうちは本当に下らない内容なんだけど、調子が出てくると止められないみたいな。でも、ビバップの曲でソロでピックアップなんかがあったら、この人は下手だろうなぁ(笑)。

レッドマンのサックスが消えた後も、ヘイデンはひたすらラインを弾き続ける。こういう、ラインだけ弾いているベースソロっていうのも、カッコいいよね。

そこで満を持して入ってくるのが、ブレッカー。この人は、こういう一発ものの速い曲でソロを吹かせたら、本当に上手い(^^)。最初から飛ばしてくれます。しかし、この曲ではブレッカーもいつもまでも心安らかにはソロが取れません^^;。何しろ約束事が少ないのだからして、逆に言うと休んでいるはずの人も何をやってもいい訳です^^;。それでも、レッドマンとメセニーのドップラー効果バッキング(笑)が流れるのをバックに、委細構わず吹きまくります。一旦バッキングが止んだ後、またしばらくソロを続けるのだけれども、2度目にバッキングが山場を迎えると(この辺だけ取っても、演奏の主導権を握っているのはソロイストではなくて、メセニーだって感じですよね。ソロイストは山場もへったくれもなくて、単調と言っていいほどただただ吹き続けているので)、メセニーがテーマを弾き出して全員がそれに同調するのですが、この辺、「ギルのオーケストラでいちばん偉いのは、いちばん音が大きなルー・ソロフだ」的填涓^^;な感じで、面白いです。

あらためてクレジットを読むと、ファイナルテーマはメセニーが作曲したと、わざわざ但し書きが付いていました。ギターとサックスの3人がユニゾンでそれを演奏するのですが、はっきり言えばアインザッツなんて全然揃っていない。でも、一人一人が自分のイントネーションで演奏している方が、ばしっと合っているよりも、かえって聴いているこちらに迫ってくるものが大きいと感じられるのは何故なのでしょうか。揃っていない方がカッコいい。それって、ジャズの不思議なところの一つだと思うのですが。

6."Pretty Scattered"

曲名を翻訳すると、「結構とっちらかった^^;」ということでいいのでしょうか。その名の通り、かなり複雑な曲であります。

基本的にはテーマ部分はAABA、というかABABCABですかね。(どう数えるかにも寄りますけど)AとBが6小節ずつ、Cが8小節なんですが、AとBが共に最後の小節が変拍子になっているし、Cの最後の小節はジャズにありがちな^^;気合いで合わせたフェルマータ(笑)も付いているという。一筋縄では行かない曲であります。何回か聞き返してみて改めて拍子が妙なことに僕は気が付いただけなのですが、どなたか、この曲をちゃんと採譜された方がいらっしゃいましたら、間違いなど指摘して下さると有り難いです。m(__)m

さて、これはジャズ的というよりはフュージョン的と言っていいのか^^;、ソロになると急に構成が単純になって、ただのブルースと化しています^^;。

ソロの先発はギター。いつも通りのメセニー的なソロ^^;を聞かせた後で、レッドマンが登場します。簡単なことを吹くとカッコ良くて、難しいフレーズを吹くと途端にカッコ悪くなる彼のスタイルは、ここでも変わりません^^;。

途中まで、ちゃんとブルース形式をなぞっていたのですが、段々バックが好き勝手やるようになって、何だかよく分からなくなってきます。そこで、レッドマンがテーマをゆっくりと吹き始めると、ブレッカーがそれに合わせます。最初のAB(6+6)をそういうだらけた状態^^;でやったところで、せぇのでABの繰り返しをインテンポで全員が合わせるというもの。その後はサビと、もう一度頭に帰ってABを演奏して、おしまいです。この辺のいい加減さが、非常にジャズ的ですね^^;。

7."Every Day (I Thank You)"

僕が大学3年、即ちジャズ界で言うところのE年だった頃、ジャズ研の2年後輩だったOくん(ブレッカーのファンでした)に「TAKEさんは(とは言わなかったが^^;)『80/81』でどの面がいちばん好きですか?」と、いかにもジャズ喫茶的^^;な質問をされたことがあるのを、どういう訳だか記憶しています。

そのとき、僕が好きなのはD面だと答えたのですが、彼の反応は「でも、D面って最後に変なギターのソロの曲とか入っていて、イマイチじゃないですか?」というものでした。それに対して僕は「仮にもブレッカーのファンが、何を言うのだ^^;。たとえD面の2曲目ではギター以外はお休みだとは言っても、このD面は1曲目だけ聴くだけでも、充分に素晴らしい。え〜い、そこに直れ^^;」と言って、そのときそういう会話をしたジャズ喫茶で、そのD面をリクエストしたのでした。

というわけで、僕がこの「80/81」というアルバムの中でいちばん好きなのは、このD面1曲目である"Every Day"です。ジャズ史上でどうだか知りませんが^^;、少なくともECM史上では屈指の名曲だと断言してしまいましょう^^;。ちなみに、このアルバム中で唯一、僕がバンドで取り上げてみたことがあるのが、この曲です。

この曲ではデューイ・レッドマンはお休みです。と言うか、この曲でソロを取るレッドマンって想像が出来ない(苦笑)。まず主としてルバートで演奏されるテーマ部があって、ブレッカーが情感たっぷりに吹いてくれるのですが、ここの美しさを倍加してくれるのはディジョネットのシンバルワークだと言って間違いないでしょうね。そして、それを見事にマイクに録ってくれているところを、エンジニアに感謝したくなります。あまたの名録音が生み出されたオスロのタレントスタジオって、本当に素晴らしいスタジオだったんですね。

テーマが終わると、アコースティックギターがアルペジオでテーマ部とは全く異なるコード進行を提示します。これが、コード進行だけで美しいんですね。でも、ソロを取るのは実に難しいものです。1コーラス分、それが続いた後でブレッカーが再び登場。第2のテーマを吹きます。

最初のテーマでもそうでしたが、バックでアコギを弾きながら、オーバーダビングでエレキギターでもメロディを弾いています。これは曲全体でもソロのバック等で薄〜く聞こえる程度にかぶせています。そして、これが何とも言えない雰囲気を醸し出すのに、一役買っていると言えます。こういう非ジャズ的なスタジオワークが、このアルバムのようなジャズのフォーマットの音楽で効果的に用いられていること。このアルバムをただのセッションアルバムに終わっていないのは、そういうことも理由の一つかも知れません。ジャズマンがアドリブに命をかけすぎて、その一方でアレンジとかサウンド処理というものに無頓着になりすぎたことが、ジャズ衰退の大きな理由の一つだと僕は考えていますので。

ちょっと話が逸れました。さて、第2のテーマの後でそのままテナーのソロに突入します。ブレッカーがこれまでに残した最良のソロの一つが、ここでのものではないかと個人的には思っています。

テナーソロの後で、静かになって最後はアコースティックギターが一人だけ残ります。ここがまた、しんみりとしていいですね(^^)。そして最初に帰って、静かに曲は終わります。

8."Goin' Ahead"

アルバム最後の曲は、メセニーの弾くアコースティックギターのソロです。はい、これはもうジャズではないですね。ここでの演奏に対して、ああだこうだ言う気は全くありません^^;。ただただ聴きほれるのみ。

ところで、何年か後にPMGでのライブ盤"Travels"(ECM 1252/53)にも同名の曲が収録されているようなのを、ディスコグラフィを見ていて発見したのですが、これって同じ曲でしたっけ?>両方お持ちの方 例によって、"Travels"のLPが手元にないので、確認できませんでした。

----------【80/81】これでおしまい----------

他にも書こうかと思ったことがあったのを思い出したりしたのですが、ハードディスクがトラブっていることもあって、時間切れとなってしまいました(^^ゞ。皆さんどうも有り難うございました(^^)。このアルバムを持っていない人の中で、今回の特集を読んで、買おうと思ってくれた人がいたら、さぞやポリドールの人もお喜びでしょう。

このアルバムと僕との関わりについては、最初に書いたとおりなんですけれども、ネタ本にしようかと思って、実は全然役に立たなかった(苦笑)ジャズ批評の「パット・メセニー大全集」のアルバムレビューで、この「80/81」というアルバムの評を、僕がこれを初めて聴いたジャズ喫茶のマスターが書いていて、妙に感動しました。
この会議室を、高田馬場マイルストーンの織戸マスターに捧げます。

Text by TAKEabotME!
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