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SONNY STITT
ソニー・スティット『plays arrangements from the pan of QUINCY JONES』
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『SONNY STITT plays arrangements from the pan of QUINCY JONES』
                ROOST LP2204 YW-7804-RO
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Recording Date:Sep 30, 1955 A-3,A-4,B-1,B-4
Personnel :
Sonny Stitt (Alto Sax)
Jimmy Nottingham (Trumpet)
Ernie Royal (Trumpet)
J.J.Johonson (Trombone)
Anthony Ortega (Alto Sax, Flute)
Seldon Powell(Tenor Sax)
Cecil Payne(Baritone Sax)
Hank Jones(Piano)
Fredie Green(Guitar)
Oscar Pettiford (Bass)
Jo Jones (Drums)

Recording Date:Oct 17, 1955 A-1,A-2,B-2,B-3
Personnel :
Thad Jones (Trumpet)
Joe Newman(Trumpet)
Jimmy Cleveland(Trombone)
replace
Jimmy Nottingham
Ernie Royal
J.J.Johonson
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Tunes Side A :
My Funny Valentine(Richard Rodgers) 3:26
Sonny's Bunny (Sonny Stitt) 3:55
Come Rain Or Come Shine (Harold Arlen) 4:18
Love Walked In (Geoge Gershwin) 3:58
Side B :
If You Could see Me Now (Tadd Dameron) 4:20
Quince (Quincy Jones) 6:55
Stardust (Horgy Carmichael) 3:03
Lover (Richard Rodgers) 3:20

Arr. by Q.Jones
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【解説】

さて、すでに『教えて』のお便りが届いておりますので、ご紹介してみましょう。

「前略。今回取り上げられる Pen of Quincy、このアルバムの正式なタイトル名を教えて下さい。と申しますのも、ジャケット表には
SONNY STITT (← 黄文字)
plays arrangements from the pen of(← 筆記体)
QUINCY JONES (← 黄文字)

このように書かれておりますが、日本語解説のタイトルでは Sonny Stitt plays from the pen of Quincy Jones となっております。ちなみにレーベルにはすべて大文字で解説同様に書かれております」

なるほど、このアルバムをジャケットに書かれてある通りに呼んでいる例は聞いた記憶がありません。長すぎるので『ペン・オブ・クインシー』と言う(書く)ことが多いでしょうね。ご質問の答えにはなっておりませんが、ひとまずこの場では Pen of Quincy とさせていただきますね。

--------略歴など--------

■ Sonny Stitt
'24.2.2 ボストン生まれ。音楽的な家庭環境に恵まれ、7歳でピアノを始め、やがてクラリネット、アルトを習得する。注目を集めたのはニューヨーク入り後のガレスピー楽団在籍時 ('45)だが、それ以前よりプロ活動を開始している。'82.7 皮膚ガンにより没。

■ Quincy Jones
'33.3.14 シカゴ生まれ。14歳でトランペットを始め、バークリー音楽院の前身校で学んだ後、'52 ライオネル・ハンプトン楽団に入団。'53からフリーのアレンジャーとして数多くの作品を提供する。'56 ガレスピー楽団に入り音楽監督、アレンジャーとして名を広める。近年では『ブラコンの帝王』と呼ばれた。(はず)

■ Onother Musicians
サポートしているメンバーの楽歴を調べてみると、なにかしらのつながりが見つけられます。このアルバムの録音前に同じバンドに在籍していたとか、後になって一緒に吹き込みをしたとか。
ざっと見て、ベイシーつながり、エリントンつながり、ガレスピーつながり、サド〜メルつながりとかゥゥゥ。兄弟つながりもある。(^^;

1."My Funny Valentine"
オーケストラによる厳かなハーモニーが鳴ってから、スティットのメロディが入ります。曲全体は1コーラス半+エンディングとそれほど長くはありません。完全な即興パートはなく、スティットは原メロディを生かしたフェイク、フィルインを歌い上げます。

根底に流れるのは、センチメンタルな気分。しかしスティットは、決して湿っぽくならずに、力強さと勇気を与えてくれるかのような演奏をします。淡々としたリズムセクションの上であっても、ぐいぐいとスイングするところが魅力だと思います。

アレンジに耳を傾けてみます。始まりの頃、単独で動いているメロディを吹いているのはフルートでしょうか。なめらかなテナーサックスの音色のような気もします。音域的にはどちらの楽器でも演奏可能ですよね。この曲以外ではアンソニー・オルテガのフルートって出番がないような気がします。最後までアルバムを聞き終えるときまでの自分への宿題としましょうか。「フルートを探せ」。

-----最初は好きじゃなかった-----

私がスティットを知ったのは、音よりも活字のほうが先でした。いわく、バードの後継者、イミテーター、テナーを吹けばレスター・ヤングからの影響が顕著ゥゥゥなど。同じ『パーカー派』でも、フィル・ウッズ、ジャッキー・マクリーン、アート・ペッパー、キャノンボール他(数え上げると切りがない)のアルト奏者は、それぞれが持つ個性を高く評価されて書かれていたと思います。

「なんだ、パーカーやレスターのそっくりさんか。それならオリジナルを聴いたほうが良いや」と考えた私は、実際その通りに行動し、レコード店でもスティットの棚はチェックしませんでした。やがて何人かのサックス奏者と交流する機会があり、好きなプレーヤーや勉強のために誰の演奏をコピーしたかを尋ねますと、まず間違いなくソニー・スティットの名前が上がります。俄然スティットに対し興味が湧きまして、最初に買ったアルバムが『Pen of Quincy』か『Tune Up!』のどちらかです。

「こじんまりとして中途半端」というのがこのときの印象です。ウッズのような輝かしい音色ではないし、スケール感の大きさではキャノンボールのほうが上。ごく当たり前の音色で奏でるフレーズは、落ち着きのない感じがしました。どこが良いのか、さっぱり理解できない。

今は違いますよ。大好きです。パーカーよりもほんの少し遅れて登場し、目指していた表現方法がたまたまパーカーと似ていたのだろうと思います。もしこの世にパーカーが生まれてこなかったなら、『スティット派』と呼ばれるアルト奏者が次々と出てきたのだろうと思います。

スティットの音色がひとつの理想なので、多くのアルト奏者からスティットらしさを感じ取ったがために『ごく当たり前の音色』と思っていたのでしょう。飾り気のない、それでいて十分にエモーショナルな表現ができる『すっぴんの音色』と、私は密かに呼んでます。

これぞバップ! と繰り出されるフレーズは、落ち着きがないのではなく、ぐいぐいとスイングするんですね。大体においてビートの前でノってますし、表の8分音符が短めです。レガート感に乏しいと思われるかもしれません。しかし、まるで江戸っ子職人のような気っぷの良さ、歯切れ良さを味わってしまったらもう病みつきです。もう、「うーん、うまいなぁ」と唸るしかない。あ、「たーまやぁー」と叫びたくなるときもあります。(ちなみに江戸っ子職人の知り合いはおりません、あくまでイメージ)

楽器1本携えてどこへも出かけ、共演者が誰であってもおのが道を貫き通したスティットの生き様には、『バップの鉄人』という言葉が似合うと思います。末期ガンであるにも関わらず、集まってくれた人たちのためにステージに立つと言い張ったスティット。その最後の日本公演では、ステージ中央にぽつんとサックスが置かれたそうです。

2."Sonny's Bunny"
ミディアムファストテンポ(160)のAABA形式、シンプルなメロディのスティット自作リフナンバーです。とはいっても、ただではすまされないのがクインシーのアレンジ。Aメロバックのベースとピアノのリズムパターンが、かなりひねってます。

ソロ先発は、トランペットのジミー・ノッティンガム(注)。飛ばしてますねぇ。いきなりD〜ハイDのグリッサンドで耳を引きつけます。もう好き勝手に吹いているように思えても、山あり谷ありの構成は見事です。続くスティットが、これまた熱い。飛び道具的ラッパのハイトーン(失礼、でもダブルハイDまで余裕で出すんですよ)の後ではインパクトに欠けるサックスのフレーズ。それではとばかりに8小節続けて16分音符の細かいフレーズをさらりとやってのけます。まぁ、スポーツ競技ではないのですから勝った負けたもないものでしょう。しかし、スティットは強力なライバル(共演者)がいれば、普段より熱く燃え上がる傾向があると思います。キーワードは『てやんでぃ』。

ハンク・ジョーンズのピアノソロを経て、サビからの後テーマとなります。小粋ですね。スカスカのリフを埋めているのがハンク・ジョーンズ。熱いソロが続いた後なら、なおさら熱くなりそうな気がしますけど、暴れることなく、軽妙にスイングしてます。

(注)日本語解説によると、この曲でのトランペットはサド・ジョーンズとジョー・ニューマンのはず。それなのにジミー・ノッティンガムのソロというのはおかしい。

-----オルテガの略歴-----

■ Anthony Robert Ortega
'28.6.7 カリフォルニア生まれ。17歳でプロ入り。'51〜'53 ライオネル・ハンプトン楽団、'56〜'58 ナット・ピアース、ガレスピー、ファーガソンらの楽団、'73 クインシー・ジョーンズと共に来日

こんなキャリアの持ち主だそうです。イタリア系ってことは白人なのですが、このアルバムのリードプレイを聞く限りでは実にしなやかでバネがあります。写真を見るまで、白人だとは思いもしませんでした。他のアルバムでオルテガの演奏を聴いたことはありません。(^^;

3."Come Rain Or Come Shine"
『せぇーの、ドン!』てな感じで、思い入れを込めたスティットの一音がのっけから鳴り響きます。スローテンポなテーマメロを気持ちを抑制して吹くなんて、情熱の人スティットには敵わぬことでしょうか。沸き上がる熱き思いを押さえることができません。

押し寄せる『歌心の波』にもまれ続けて、ふと気が付くと後テーマの後半でした。そこまで一気に吹きまくり、こちらの耳を捉えて離しません。メロの間を埋める文字通りのフィルインもはもちろん、メロを導くためのフィルインが抜群に素晴らしい。ただ溜め息を吐くばかりです。

一聴そっけないクインシーのアレンジですが、しっかりツボを押さえてまして雰囲気を盛り上げてます。

4."Love Walked In"
テンポ 138 、軽快なバンドプレイと対話するスティットの演奏を楽しみましょう。ここでのスティットは、ビートを自在に操ってます。タメのフレーズが連続したって、しっかりと言い切ります。バンドプレイに被さることなく落とし前をつける。うまいなぁ。

実は、このスティットのアドリブにハーモニーを付けた方がいらっしゃいます。まるでスティット版のスーパーサックスですね。労多くして功少なしとなりがちなサックスソリにおいて、このソリは別格です。サイドを吹いていても楽しいし、リードパートならなおさら気持ちがいい。自分がうまくなったような気がします。まぁ、自己満足ですけど。(^^;

そうそう、ここのソロで十八番のフレーズが出てきますね。私がこのフレーズを最初に聴いたのはパーカーの Billie's Bounce でなのですが、どちらがオリジナルかとは気にしません。『スティットフレーズ』でしょう。基本パターン「みそそらみどれどみそらどー」ってやつです。

5."If You Could See Me Now"
美しい。ピアノに導かれて朗々とテーマを吹くスティット。一発のロングトーンに聞き惚れてしまうし、ブルージーなフィルインが泣かせます。バックのアンサンブルがいい仕事してますねぇ。低音をささえるバリトンサックス、一人で動くトロンボーンが本当においしい。

アドリブに入りますと、いきなり Love Walked In で聴かれたあのフレーズが出てきます。よほど好きなのか、もうクセになっているかのようでもあります。この後の曲にも出てきますから。おや、あっというまに4分20秒が過ぎてしまいました。

6."Quince"
クインシー・ジョーンズ作のブルースです。ミディアムテンポで演奏されてます。( MM=102 で落ち着くみたい)重厚なベースソロの後に、なんとも可愛らしいピアノソロが続いてテーマメロディが演奏されます。何回も聴いているうちに、このベースソロは結構凄いことやっているのではないかと思うようになりましたが、いかがなものでしょうか>ベーシストの皆様

シンプルなメロディのテーマなんですけど、アーティキュレーションが教科書的で、ジャズらしい吹き方を学ぶのには多いに参考になります。まあ、それはおいといて。(^^;

お待ちかね、サド・ジョーンズのソロです。一音一音を大切に吹く、レイドバックした雰囲気がいい味出してます。「立て板に水」のスティットとは対照的ですね。

期待通りにスティットが飛ばします。サド・ジョーンズのバックには付いていなかったホーンのスプレッドに注目です。刺激的というか、妖しいというかゥゥゥ。聞き慣れたブルース曲だと思っていると意表をつかれますね。それにのっかるスティットは、いつも通りにひたすら熱く語ります。かといって浮いているわけじゃない。クインシーの仕掛けに対して、どう考えて演奏していたのか聞いてみたいところです。「どんなハーモニーでもブルースはブルースさ」こんな答えが返ってきそう気がします。

7."Stardust"
バースを含めてワンコーラス吹くだけ。「なぁんだ」と思います? いえいえ、きっと「参りました」となるはずです。数多くの演奏が残っているスターダストの中でも屈指の名演でしょう。少なくとも、私が聴いた限りでは。

演奏時間が短い分だけ、その内容はぎゅっと濃縮されてます。のびやかでありながら、スピード感たっぷり。元のメロディに負けないくらいに美しいメロディ(注)を紡ぎ出しています。nifty:FJAZZ/MES/10/705 で予告したあのフレーズも出てくるし。(どんな曲にも使えるんだ)おそらく、クラブなどではレコードに残されたもの以上の名演が繰り広げられていたはずでしょうから、それらが聴けなくなってしまったのは本当に残念です。
(注)サックスソリに引用されてます@東京ユニオン

------イミティター?-----

今回ソニー・スティットを取り上げるにあたり、手持ちのアルバム解説や書籍・雑誌を調べてみますと、スティットのことをパーカーの「イミテイター」的な紹介が多かった。パーカーが世に知られる前に、スティットはバップ・スタイルで吹いていたという記述も幾つかありました。そんな中で、季刊『ジャズ批評』誌の40号「アルトサックス」に書かれてある、原田充氏の「明・暗分けた四年反ソニー・スティット論」に共感を覚えています。ちょっとでもソニー・スティットに興味を持たれた方には、一度目を通していただきたい内容だと思ってます。

さて、パーカーとスティットの当人同士はお互いをどう思っていたのかと申しますと、晶文社刊『チャーリー・パーカーの伝説』にヒントが書かれてます。

パーカーが亡くなる1週間前にスティットに語った言葉「王国への鍵は、きみにゆずるよ」スティットがパーカーへの思いを語る言葉「チャーリー・パーカーに泥をかけるようなことは言いたくない。私がこれまでに知りあった人間のなかでも、彼は最高の存在だ」
「尊敬しあった友人」と感じました。

8."Lover"
Fast Tempo (264) に乗って軽快に吹きまくります。他のトラックの演奏の出来が良すぎるだけに、ここでのスティットは可もなく不可もない演奏と感じてしまいます。心なしか乗り遅れているようなのですが、Sonny's Bunny を倍テンでドライブさせる腕前なので、指が追いつかないとか、そんな理由ではないはず。このアルバムの中においては異色の演奏だと思います。

Stardust から続けて聴きますと、音色の違いがはっきり分かりますね。ここからの考察してみたのが次です。

-----演奏曲目とメンバー-----

日本語解説の録音データに誤りがあると感じましたので、自分なりに整理してみました。このアルバムをよく聴きますと、スティットの音色の違いが3つあると感じられます。マイクオンとオフ、それに Lover の音色(かなりオフ)。それを元にして tp ソロプレイヤーの辻褄が合うようにするとこうなります。

My Funny Valentine
Sonny's Bunny
Come Rain Or Come Shine
Stardust
こちらが Jimmy Nottingham が参加しているセット。

Love Walked In
If You Could See Me Now
Quince
Lover
これらは Thad Jones が参加しているセット。

最初に書いたデータと大違いですね。同じ日に録音しても、スティットがソロマイクの前で吹いたのか、アンサンブルに加わりつつ吹いたのかで音色が違って聞こえるでしょう。その可能性は大いにあります。もう一つ考えなければいけないのが If You Could See Me Now で聴かれる tb の音色です。これが J.J. による演奏だとすると、私の考えはいとも簡単に崩れ去ります。(^^;

Sonny's Bunny のソロが Joe Newman だとしても、アップしたデータ通りになる。これが正解でしょうか?

----- おしまい -----

つたないDJにお付き合いくださいました皆様、どうもありがとうございました。m(_ _)m アルバムを聴きながら思い付いたネタをふくらますことができず、書き漏れてしまった事柄がいくつかあります。私の力不足でして、これは大いに反省せざるをえません。

PickUp! を読んで、「スティットを聴いてみようかな」とお思いになった方がいらっしゃれば、私にとって望外の喜びです。『Pen of Quincy』じゃなくてもイインです。まずスティットに駄作はないでしょう。手に入りやすいものから聴いてみていただきたい。そしてメロディアスなフレーズと小憎らしいばかりのフィルインにしびれていただきたい。そうそう、バトルのアルバムもお勧めです。より一層「熱い」スティットが聴けると思います。それでは皆様、また会う日まで (^^)/~~~
text by 弥次郎abotME!
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