特集:2000年問題を読む
とまぁ、2000年まであと僅か。来る者は来る。必ず来る。

2000年問題をエンターティメントとして捉えて大いに楽しんでしまうのが得策かもしれない。だってどのような事態が起こるのか、結局のとこワカんねぇ。判んないものをいぢいぢ考えていても始まらない。

そんな次第で、2000年問題、もう少し広くコンピュータにおける超近未来をテーマに取り入れた本が沢山出ている。そんな本をまとめてズバりと斬らせてもらう事にしよう。
・『イントルーダー』高嶋哲夫 文藝春秋社刊
「2000年問題」というよりも、コンピュータを使った犯罪を扱ったミステリーだ。

企業犯罪を扱った場合、時代設定を現在にするなら何らかの形でコンピュータを登場させねばなるまい。となれば、そこそこのリアリティは欲しくなってくる。例えば拳銃やコケインやコギャルの描写に綿密さが要求されるように。とは言ってもあまり専門的になり過ぎては判り辛くなる。この辺の塩梅が難しい。でもこれは現在小説の宿命だ。

『イントルーダー』の場合、コンピュータ犯罪よりも父と子の絆という、大きな流れがこの小説を貫いている。このテーマが上手く描かれているだけに、コンピュータ周辺の表現に稚拙さが目立つ。凛としたストーリー展開が、コンピュータの登場によって柔な印象になってしまう。非常に惜しい。

とはいえ、タイトルを含めてコンピュータ犯罪がメインになっているのだから、逃れようが無い。刀の描写の拙い剣豪小説など、誰が読むものか。そこまで酷くはないが、歯がゆさを感じてしまうのだ。
2000年度:★
総合評価:★★☆
(もしテーマがコンピュータでなければ★★★★)
・『ミレニアム』永井するみ 双葉社刊
ずばり「2000年」問題に真っ向から取り組んだミステリー。

2000年問題を回避する驚異的なリカバリー・ユーティリティが狂言回しに登場してくる。作者のコンピュータの知識はそこそこ(「2000年問題」に関しての認識はかなり甘いが)。それほど読み辛い表現も無い。が、問題は筆力。

物語性(ストーリー・ティリング)が弱すぎる。どこか絵空事に走ってしまうのだ。まるで「漫画でわかる税の仕組み」といった本を読んでいるような、胡散臭い説明っぽさが後味を悪くさせる。コンピュータを使いこなせずに窓際族になっている中年サラリーマンが、昨今の話題に付いていく為に読むのなら止めはしないが。それ以上の価値は無い。
2000年度:★★★
総合評価:★☆
・『2000年クラッシュ〜突如、世界が停止する!』草野達雄 日本実業出版社刊
この本はフィクションではない。山のように並んでいる「2000年」関係の本の中から、適当に選んでみただけだ。

約300ページの本だが、中身は読みまでも無い。本のタイトルと帯(こしまき)に目を通せば、用が足りてしまう。よくもダラダラと話を延ばしたな、と感心するばかり。

そらそうだよな、数ページのパンフレットじゃゼニにならんか。
2000年度:★★☆
総合評価:☆
・『トロイの木馬』冷泉彰彦 角川春樹事務所刊
「コンピュータ社会の陰謀を描く運命的な大作だ/荒俣宏」、と書いてある。

アメリカ在住の作者は、かなりのコンピュータ・マニアだろう。「2000年問題」を含めてコンピュータの知識はずば抜けている。が、その知識が足を引っ張っている。マイクロソフトのビル・ゲイツらしき人物を登場させて揶揄したり、マッキントッシュもどきが出てきたり、いわば楽屋落ち的なメタファーが非常にうっとーしー。やたらにカタカナ(英語)が登場するのも、スノップさがなく野暮ったいアメリカかぶれのように見えてしまう。

さて物語だが、妙な濃さをもって展開する。詰め込み過ぎて後半がどたばたのまま終わってしまう。ううむ、この感覚クソゲーに似てるぞ。「トロイの木馬」という超古典的なウィスルの種別をタイトルに使ったのは、完全に失敗だ。
ダセぇよ、これ。
2000年度:★★★
総合評価:★☆
・『パニックY2K』ジェイソン・ケリー(田辺智道訳) 集英社文庫刊
「2000年問題」モノとしては、大本命だろう。作者はIBMでマニュアル・ライティングの仕事をしていたそうで、コンピュータ知識、2000年に対する認識度はほぼ問題無い。むしろ、「2000年問題」を理解する副読本としては、かなり有効だ(多少、危機感をあおり過ぎの感もあるが)。

ところがこの本が、フィクション、それも壮大なパニックものになっているのが困ったものだ。想像豊かなのはいいんだけど、折角の「2000年問題」が荒唐無稽の戦記モノになってしまうのはなぁ。パラメータの設定の悪い、ウォー・シミュレーション・ゲームじゃないんだから。
残念ながら全体としては、「トんでも本」に分類されてしまう。
2000年度:★★★★★
総合評価:★★
text by *久田 頼

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