本は乱丁にあらず
一筋縄ではいかない女神達
一筋縄ではいかない女神達
 『RIKO』シリーズを読み終えた。柴田よしきの、だ。
 強烈な個性である。男性優位の警察社会の中で果敢に立ち回り、奔放な性で、本邦初登場である。
 『少女達がいた街』で知ったのだ。柴田よしきを、だ。何の予備知識もないままに本屋で出逢って即刻購入したのだ。七〇年代渋谷を舞台に、ロックな少女達の物語であることが、目を惹いたのだ。七〇年代大阪のことならいざ知らず、東京のことなどツユ知らぬ。それで、すこ〜し違和感を持ちつつも、それでも物語に引き込まれたのだ。トリックには無理がある。それでも離さぬ道理もある。で、さっそく『RIKO』シリーズを手に入れに本屋へと走ったのだ。平積みであったのが、思いの外。売れてるんだ。
 そもそも、4Fミステリが好きなのだ。4階にあるミステリではない。主人公、作者、読者、訳者がみなフィメールであるミステリのことを指すのだという。まぁ、この際読者が男であって、何処が悪い。
 初見が、V.I.ウォーショースキーであることはいうまでもない。とにかく、フェミニズムなヒロインなのである。それに、公民権運動の申し子でもあり、ラディカル。己の足ひとつで歩こうとしてるのだ。ファーストネームをからわざわざ「V.I」にすることで、女性を軽んじる世の男性どもに先制パンチを喰らわすのだ。ハードな出来事をもろともせず、果敢に立ち向かい「雄々」しくも「女々」しく、だからといって、際だったスーパーヒロインでもなく、悩み、苦しみ、怯え、怒る。頑なにボスは自分だけだと気負い込み、人に媚びることもなくクール、自らの美学に忠実であるためにはホット、セックスはまたドライ、バイオレンスにも負けやしない。一作毎に年を数え、四〇才の大台を迎えた『バースディブルー』以来、お目にかかれぬのが残念至極。
 だからというのではない。『キンジー・ミルホーン』シリーズにもまた手を出していたのだ。フェミニズム色はより柔らかい。が、一匹狼の探偵であることに違いなく、殴られようが、撃たれようが、爆破されかかってもなお、片意地にもしぶとく生き残っていく。文庫化最新版『無法のL』は、ちょっとファンタジーがかった宝探しのお話で、最後のオチがなかなかのお気に入り。
 が、翻訳物が大の苦手とくる。なにしろ、名前が覚えられんのだ。ファーストネームに、セカンドネーム、はたまた、愛称・通称までが出てくると人物の特定にすら一苦労。その上、土地勘もなく、気候も知らず、生活様式や水準は言うまでもなく、ありとあらゆることで、知らぬ事が多すぎる。となれば、細部に宿る真実が判らずじまいに終わっちまう。
 それで、和物を探し回っていたのだ。その挙げ句に出逢ったのが『村野ミロ』シリーズだ。『天使に見捨てられた夜』『顔に降りかかる雨』、そのタイトルだけでもそそるじゃないか。結末のどんでん返しにはちょっと鼻じらむけれど、ミロの突っ張りぶりも、なかなかのものだ。『OUT』『柔らかな頬』であれだけの絶望を形にした桐野夏生が生み出したヒロインが一筋縄でいく訳がない。かたせ梨乃主演で映画化されるのが随分とお楽しみ。
『RIKO』 『RIKO』
 で、『RIKO』シリーズとなるのだ。
 これもまたトリックはいただけない。すぐにネタばれしちまうし、登場人物の誰もがそこに疑義を挟まぬのでは、あまりにお粗末じゃないか。
 それに、だ。女性の性の奔放さには、何故「愛」なんて湿っぽいものが付きまとわなきゃならんのだ。日本人離れした主人公も、その湿っぽさで興醒めにもなっちまわないか。ヴィクもキンジーも、もっとドライで、しかも、節度のある性を自然に身につけているというのに。そのあたり、なんとかならんかね。
 それでも、だ。第2作『聖母の深き淵』をさっそく読み出したのだ。「性同一性障害」に悩む人物の登場といい、母性神話の言及といい、更にジェンダーの深い森に分け入っていく。エンタテインメントの登場人物や背景が、薄っぺらな時代はもうすでに終わってしまい、作り物だからこそのリアルな造形が要求されている。
 第3作『月神(ダイアナ)の浅き夢』の早期の文庫化を待ち侘びる。
 小説読みに、退屈はない。

 サラ・パレンツキー
『V.I.ウォーショースキー』シリーズ
  ハヤカワ・ミステリ文庫他 10冊
 スー・グラフトン
『キンジー・ミルホーン』シリーズ
  ハヤカワ・ミステリ文庫  12冊
 桐野夏生
『顔に降りかかる雨』   619円
『天使に見捨てられた夜』 619円
以上、講談社文庫
 柴田よしき
『少女達がいた街』 724円
『RIKO−女神(ヴィーナス)の永遠』
600円
『聖母(マドンナ)の深き淵』 762円
  以上、角川文庫
text by あがったaboutME!


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