午後の部

平成22年度愛知県小中学校理科教育研究協議会発表会報告

 名理会会長 
  小林泰雄 校長先生(大手小)
来 賓
 日置 光久 氏
 (文科省初等中等教育局視学官)
 神谷 龍彦 氏
 (教育委員会 委員長)
 野田 敦敬 氏
 (愛知教育大学 教授)
名古屋・尾張・三河の役員の先生方

発 表 者 概   要





 
大口町立大口中学校

佐橋 孝英





PDF文書
 
仲間と共に問題解決学習に取り組む理科学習
単元 電流とその利用 (中2)
研究のねらい
 目で見ることができないものを別のものに置き換えて,具体的なイメージをもたせたい。また, 想像力に長ける生徒,実験力に優れる生徒,記録する能力に長ける生徒など,それぞれの能力をもっている生徒たちをそれぞれが活躍する場でつなぎ,生徒同士の相互作用を準備する。
 これらから,観察・実験の視点ができ,考察へとつながり,自然との触れ合いが楽しくなる生徒が育つと考える。
研究の仮説
@ 意図的に編成したグループでの実験・観察を行い,自分の言葉でまとめたり,説明したりする場を設定することによって,実験・観察の質が向上するとともに内容の理解が深まる。
@ 目で見ることができないものをイメージさせてから実験を行うことで,目で見ることができない部分を頭の中のイメージで補い,内容の理解が深まる。
手だて

@ 単元を通して,意図的に編成したグループで学習を行う
A イメージをもたせてから実験を行う
B 個々がもつイメージを共有し,修正ができる環境をつくる
成 果
○ 実験前にイメージをもたせ,意図的に編成したグループでの実験・観察などの学習活動を行うことで,イメージを共有し合う姿が見られ,学習内容の理解につながった。
○ より多くのイメージに触れることが大切であり,個々が満足できるイメージを少しずつ形成できるよう生徒同士の話し合いの場を確保したり,イメージを言葉や文字,イラストに表す工夫をしたりすることが,自然事象を理解する上で効果的であった。





 
知立市立知立南小学校

村山 由久






PDF文書
学ぶ価値を実感する子どもの育成
−6年「がんばってるぞ,ぼく・わたしのからだ」の実践を通して−
単元  (小 )
研究のねらい
 「もっと調べてみたいな」(主体的に取り組もうとする気持ち)「わかってよかった」(わかる喜び)「いろいろな考え方があるんだな」(学び合う喜び),このように感じる体験を積み重ね,授業が楽しいと実感する子どもが増えてほしいと願い,本主題を設定し,実践を行った。
研究の仮説
@身近な自然事象から子どもに疑問を持たせ,子どもの考えに沿った学習過程を構築していけば,追究の意欲が持続し,主体的に取り組もうとする気持ちを育てることができる。
A実感を伴った体験をさせることで,分かる喜びを味わわせることができる。
Bコミュニケーション活動を工夫して設定することによって,学び合う喜びを味わわせることができる。
手だて

@子どもが問題意識を持てる身近な自然事象に出会わせる
A子どもの考えに応じた弾力的な単元を構成する
成 果

○学級の多くの子どもが学習を通して,グループや学級の仲間と人間関係を築き「疑問が解決した」「仲間と話し合えて楽しい」という学習過程での喜びを感じることができた。
○ランキング形式の話し合いでは,子どもの意見が活発で,追究の意欲を高めた。シェアリングは,人間関係を築く手段としての役割が大きく,学びや仲間のがんばりを確認することができた。これらから,友達と学び合う喜びを実感させることができた。





 
名古屋市立山吹小学校

服部真由子





PDF文書
見えないもののしくみを実感を伴って「理解する理科学習
〜5年「もののとけ方」,6年「てことつり合い」の実践を通して
単元 もののとけ方(小5) てことつり合い(小6)
研究のねらい
 実感を伴った理解は,子どもたちが問題解決の過程を経て,自然の事物・現象についての見方や考え方を科学的なものに変容させていく上で必要である。
 新学習指導要領解説による3つの側面を踏まえ,見えないもののしくみを子どもたちが実感を伴って理解できるような活動を考え実践を行った。

指導の重点
@ 体験を重視した活動
A 結果を整理し,思考を促す活動
B 学んだことと生活をつなげる活動

手だて
(てことつりあいにおける手だて)
@ 「つりあう」に対する既有の概念を表出し自覚する。その上で,「つりあう」現象を体感できる大きさにして,一人一人が支点になって比較する。
A実験結果を,絵とデータをつないで数値化・図表化してまとめる。順次,各班の結果を黒板に記入し,他班の結果を見て,自分たちの班の結果の妥当性について話し合い,確証・反証の再実験等を行う。
B身の回りでてこを探し,てこを用途の違いや支点等の位置の違いで分類する。身の回りには,てこのしくみを用いたものがたくさんあることについて知る。
成 果

 実感を伴った理解をするために,重点1「体感を重視した活動」において,見えないしくみや見えないきまりを体で感じることでとらえること,重点2「結果を整理し,思考を促す活動」において,体感での理解を数値化・図表化したり,検証実験を行ったりして,実証性・再現性・客観性のある見方や考え方をはぐくんだこと,重点3「学んだことと生活をつなげる活動」において,学んだことを生活に照らし合わせ,学校知を生活知に展開したことという3つの重点で,順序性をもって,実感を伴った理解を深めていったことが有効であった。
講  演
   「実感を伴った理解を図る新しい理科教育」
 講  師
   文部科学省 初等中等教育局 視学官 
日置 光久 氏
 
1 「実感を伴った理解」の理解を図る
○ 実感は,現実である。リアルからスタートしたい。
  疑似体験やデジタルのものではなく,アナログの世界である。
(1) 「実感を伴った理解」の3つの側面
 @ 具体的な体験を通して形づくられる理解
    諸感覚を働かせた「体得」の理解は,興味・関心の促進や
    適切な考察の基盤となる。
 A 主体的な問題解決を通して得られる理解
    長期記憶に残る「習得」の理解は,知識・技能の確実な理解,定着につながる。
 B 実際の自然や生活との関係への認識を含む理解
    意味が分かる「納得」の理解は,学ぶことの意義や有用性,意欲や関心の促進につながる。
(2)  「実感を伴った理解」の3つのレベル
 @ 観察・実験の結果を「事実」として尊重する
 A 結果に対する評価を行い「真実」を追究する
 B 得られた結論(知)を「現実」(生活,自然)の中で見直す
 ここで注意したいのは,最近は実験を行っても,児童生徒がそれをじっくり見ていない場合が目立つ。観察・実験を「凝視」する訓練も必要である。
(3) 実感を支える基盤
 @「自然に親しむ場」の重視→「自然」観の新しい解釈の必要性
 A「自然を愛する心情」の重視→ESD,環境保全の文脈の中での新しい解釈の必要性
  ・自然調和型社会(自然・生命)  ・資源循環型社会(ごみ・資源)
  ・共生社会(共生・共有)       ・低炭素社会(省エネ・地球温暖化)
2 新時代の理科教育としての「日本型理科教育」
 (1) 「自然」から入り,「科学的」に考える理科
  @ 理科の目標に見る「自然」と「科学」
   「自然に親しみ,見通しをもって観察・実験などを行い,問題解決の能力とともに自然を愛する
  心情を育て,自然の事物・現象の実感を伴った理解を図り,科学的な見方や考え方を養う」
   →学習の入り口としての「自然」(対物的),出口としての「科学」(人工的)
  ※ 理科の目標が,日本型理科教育の全てである。
 (2) 理科のOSとしての「自然観」,ソフトとしての「科学」
  ○我が国における理科学習の基盤としての,伝統的自然観
  ○西洋とは異なる我が国の理科のOS
 (3) 学びのOSとしての「日本型理科教育」
  ○リアルとの接点が濃密なアナログの所持が大切である
3 個の「実感」と類としての「実感」
 (1) 主観的,個人的,経験的(感覚的)実感が,個の「実感」(第1次実感)
 (2) 所与的,集合(類)的,歴史・状況的実感が,集合的「実感」(第2次実感)
4 具体と抽象の往復
 活動の場は,具体の層,半具体の層,抽象の層と3つに分けられる。この3つを関わらせ行き来することが大切
 (1) 具体の層:知をつくる現場
  ○直接体験を重視する→諸感覚をフルに使う,心の解像度を上げる,探索型の学び,フローとしての知識
 (2) 半具体の層:論理をつくり,整理する場
  ○メディアを活用し,組み合わせる。プルメディア(探索型の学び)とプッシュメディアを組み合わせる。
 (3) 抽象の場:知をつくり,一般化・体系化する場
  ○日常言語から科学言語へ
 (4) 具体と抽象の往復
  @移す:物(具体物)→リアル
  A映す:デジタル変換→バーチャル
  B写す:情報→アブストラクト
5 言語活動の充実
 (1) 新しい「言語活動」
  知的活動だけではなく,コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもある。
  ・理科の第2観点:「科学的な思考」→「科学的な思考・表現」
 (2) いろいろな意見をしっかり聞くこと
   ○ 結果・考察・結論をしっかり区別できる。
 (3) 学んで,考え,表現する
  分かっていてもそれを自分の言葉で表現できない子どもが多い。
  そこで,以下の3点に注目して表現する方法を身につけさせたい。
   ・inputとしての「学び」とoutcomeとしての「表現」,processとしての「思考」
   ・抽象と具体
   ・原因と結果
 

<文責 林本 勝徳(名古屋市立藤森中学校)>