妙高薬師岳、天狗原山

1999年5月6日

天狗原山は二度目だったが、滑降コースの吟味により、新たな魅力にふれることができた。なりゆきで前山の薬師岳藪こぎツアーつきという、体力勝負の山行になった。


 連休前半は、双六小屋に入ったがしばらく悪天が続きそうな予報もあり、一泊だけで下山しておなじみの妙高方面に転戦することにした。暇な時間に上越市や日本海の観光などもできた。上越市の日本スキー発祥記念館(上越市のHPからたどれる)は、なかなか見応えのある展示があり、特にレルヒ少佐の使ったリリエンフェルトビンディングの構造は、テレマーク用の「ピットブル」と似たところがあって興味深かった。

左がリリエンフェルト式、右がピットブル。どちらも爪先の前にバネがあり、
かかとがあがるとバネが縮んで、かかとを戻そうとする。

 どこへ行こうかと考えていたら、ペンションの本棚の一冊の本にはさまれた地図のコピーに、天狗原山からのお薦め滑降ルートが書かれているのを発見。なんだか宝島の地図のようだ。地元(当時)の友人をおさそいして、出かけることにした。

雪があちこちで切れたアヤシイ斜面を登る

 前回と違って、笹ヶ峰までしっかり除雪されているので日帰りで行ける。朝早くに国民休暇村の駐車場の少し先まで行って歩き始める。天狗原への登路は出だしが難しい。前回は杉野沢橋の奥にある雪の詰まった滝沢を、少し直登してから左岸の尾根に取り付いたが、今回は雪解けが早くて滝沢自体が割れているし、その後の登りも藪っぽそうなので敬遠して、迂回気味に支沢をたどって滝沢の右岸の方にあがって行き、テーブル上の段丘に登り着いた。しかし、今度は滝沢への下降点が見いだせず、そのため左岸に渡り返すことができなくなり、結局そのまま登り続けて、薬師岳から東に伸びている尾根に出ざるを得なくなってしまった。途中若干ずり落ちなどあったが何とか尾根に上がったものの、当然のように藪尾根。苦労してかきわけながら薬師岳山頂までたどり着いた。


薬師岳頂上。遠景左端が地蔵山、その右が乙妻山。
振り返ってみた藪尾根と薬師岳。苦行の地。

 山頂はなかなか見晴らしもよく、思えばこの連休は双六小屋から太郎平小屋、あわよくば薬師岳に足をのばせれば、と思っていたのだが、はからずも同じ名前の薬師岳にたどり着いたのも何かのご縁かと、しみじみするのもほどほどに行く手を見れば、天狗原山はまだまだ遙かに遠い。おまけに辿るべき稜線には雪があまりなく、一層濃い藪に覆われている。時々東側の斜面を迂回したり、藪に突撃したり、だましだまし本来のルート上の1780m地点に戻ったときには、既に昼過ぎとなっていた。(今回は、あくまでも出だしの判断の誤りでこんなルートを取ってしまったのでありまして、決してお勧めしようとか、記録にしようとかいうわけではありません。あくまでも教訓というふうにご理解下さい。でも、ちょっとおもしろかったですが。結果的には、最初からあきらめて地図にある滝沢左岸の夏道あたりをかきわけて登っていれば、「総藪こぎ量」はずっと少なかったでしょう。)

 せっかくここまで来たのだから行けるところまで行ってみようと、滑降予定の斜面を谷のむこうに見ながらたんたんと登っていく。今回はトレースもなく、最後の斜面はまた緊張したが、友人の刻んでくれたキックステップにも助けられて、何とか再び天狗原山の頂に立つことができた。あいかわらず茫々と広い山頂だ。目標の斜面は金山とのコルを少し過ぎたところから始まるので、そこまで行ってわれわれはしばし休憩。友人は初めてだったので、金山山頂まで元気に足をのばした。


尾根上をショートターンで(合成写真)
谷に向かってロングターンで(合成写真、ホントは一人)

 本番の滑降は、高度感のある尾根の上をしばらく進んでから、金山谷に向かって急降下する。前回は金山・天狗原のコルから金山谷源頭に滑り込んだが、今回のルートの方が眺めも良く、すばらしい滑降が堪能できる。宝島の地図は正しかった。もう西日の射す中を気持ちよくターンを繰り返して谷底におりた。谷を横切って往きの尾根に登り返し、1780m地点からは滝沢を下降した。もう夕方も近いので、様子の分かっている来たときのルートに戻りたかったので、最後は右岸の段丘上に登り返す。顕著なテーブル状の段丘で、一番上のところ(標高1400mあたり)で雪が切れていているので、段丘の上に出るのが結構リスキーだった。


 ほうほうの体で杉野沢橋まで戻ったところで、友人曰くちょっと休みましょう。そういえば、今日は一日ろくに休みもなかった。ザックから、ストーブとぜんざいのレトルトパックを出して、手際よく暖めてくれる。こんな時の暖かい甘いものがどんなに美味かは、まさに筆舌に尽くしがたし。本当においしゅうございました。二人だったら途中で帰っていたかな。おかげで、長い春の一日を十分に味わうことができました。合掌。


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