生徒を伸ばす評価法 -中学校社会科における試み- 第14回へ
T はじめに
評価は生徒の学習意欲を向上させるものでなければならない。また,生徒一人一人の学習を促進するためのものでなければならない。
この新しい評価観を,次の観点で具現化しようと試みた。
・比較的簡単な方法で,長続きすること
・観点別評価が可能なこと
・なにより生徒が伸びること
こうして実践したのが次のものである。
U 実 践
1 観点別に個を把握するために 4色ボールペン活用法
観点別評価の問題点は記録の煩雑さである。
社会科においても,観点別評価を意識して授業をしてはいるが,その個の評価と評価の記録にかなり時間をとられる。研究指定校でもなければ,日常の実践は難しい。
しかし,簡単な方法がある。座席表を利用した,4色ボールペン活用法である。
【準備】クラスごとの座席表 … あらかじめ多めに印刷しておく
4色ボールペン … 赤・青・黒・緑のものなど
【使い方】
観点別に色を決める。例 関心・意欲・意欲…赤
資料活用・表現
…青
社会的思考・判断…緑
知識・理解
…黒 など
記入法を決めておく。
観点別に簡単なテストをした場合 … 数字
など
授業中の観察によるもの … ーで正の字を書いていく
顕著な事例 … 程度により△,○,◎など
特に顕著なもの事例 … 文章表現
授業中に,記入する。原則として1時間で1枚使用。短時間で行いたい。
分 析
数値化できるもの(一斉のテストなど)…コンピュータに入力
個別の傾向は,パラパラマンガのように重ねてめくるだけでもかなりつかめる。
2 授業に積極的に参加させる評価法 発言ランキング
授業に積極的に参加させるためには,まず,挙手発言ができるようになることで
ある。挙手することにより,授業への参加意識や集中力は飛躍的に高まる。
また,挙手の数は,個の性格的なことも考慮した上で,ある程度学習意欲の評価につながる。
一般的に中学生は挙手が少ないといわれるが,この方法では挙手の習慣のないクラスでも,学年を問わず,3か月後には挙手にあふれた授業になる。
【準備】座席表,筆記具
できればコンピューター(表計算)
【方法】
授業中の挙手発言数はすべて座席表に記録する。
挙手以外でも,次のような場合も記録するとよい。
例 ・憲法9条を暗唱した人先着5名は先生の所まで来なさい。
・地図帳より○○を見つけた人先着3名は先生に報告しなさい。
・2つの資料から違いを3つ見つけた人はノートに書いて見せにきなさい。
思考力を要するものなどは,発言の内容により,2点〜5点などと評価し記録する。
個々に芸名を登録させる。(重ならなければ何でも
よいが,文字数は制限したい。) クラスごとに,発言ランキングを1,2週に1回程度芸名で発表する。
芸名は,月に1度程度,希望者のみ一斉に変更するとよい。
適度に競争意識をあおることも必要であるが,エスカレートし過ぎないように注意したい。
3 生徒の力を伸ばす他己評価 巡回作品展
簡単な生徒の作品などは,短時間(5〜6分)で全員の目で評価してやりたい。個が高まると同時に,全体のレベルの向上につながる。そのような時に,巡回作品展は有効である。
教師にとって,時間がなく,全員の作品をじっくりと見てやれない時にも有効な手段である。
【方法】1 作品(ノートなど)を下略図のように巡回させる。(1人の作品を10秒見ると,36人で6分かかる。)
送る速さは,教師の「つぎ!」の声。
教師は,図のBから作品を受け取り歩きながら評価を記入しAに渡す。
(普通に歩くと,往復7,8秒はかかる。)
B A
□ □← □ □↓
↑ ↓ ↑ ↓
□ □ □ □
↑ ↓ ↑ ↓
□ □ □ □
↑ ↓ ↑ ↓
□← □ □← □
2 いいと思う作品2割程度(あくまでも目安でこだわらない)の右上に自分の名前をメモするように指示する。
3 教師は,赤で教師の評価を記入していく。簡単な記号がよい。
4 ノートが一巡したところで,@教師の評価,A友達の名前がいくつあるかを座席表に記入する。
5 訓練によっては,全員が円くなって行うこともできる。この方が,さらに時間が短縮できる。
2〜4は状況によっては、省いてもよい。慣れると時間が短縮できる。
4 社会的思考力を評価する 短文作成法
定期考査のようないわゆるペーパーテストで,社会的思考力や判断力を評価することは非常に難しい。やはり,大学入試で使われているように,論述式が最も適当であろう。ただ,評価に時間がかかること,客観性にとぼしいことが欠点ではある。
ここでは,短文による評価法を紹介する。
評価専用の用紙( 200字横書き)を多めに印刷しておく。
50字ごとに太い罫線を引き,50 字,100
字,150 字までといった時数制限に対応できるようにしておく。
黒板に質問と制限字数,制限時間(時刻)を明示する。生徒が慣れないうちは時間がかかるが,慣れれば200字程度なら10分程度でできる。
難しいのは質問で,多くの場合「理解」の質問になる。たとえば次のようなものである。
吉宗は,誰の政治を理想とし,どんな政治をしたか。
これでは、理解度を測るためには有効であるが,思考力は図れない。
社会的思考を評価するためには,できるだけ多くの方法を考えさせる拡散的な発問をしたい。
エジプトでは,なぜあのように大きなピラミッドを作ることができたか。
国王の中央集権の確立などの政治的な要因,天文学や測量学といった物理的な問題,農作業との時期的関わりなどの気候などいろいろな要因 を考えさせることが,社会的思考力を測る一つのめやすになると思われる。
優秀な解答は,ぜひ全体の場で紹介したい。
何より,社会科は知識を記憶する教科でないことを認識させたい。
5 知識・理解を測る イメージの樹形図(ウェビング)
知識はペーパーテストで測れるが,比較的容易に知識・理解を測ることができるのが獲得した知識で作る樹形図である。
B5半分程度の紙の中央に,たとえば「藤原氏」と書いた紙を配り,そこから関連する事柄を書かせるのである。その事柄にさらに関連する事柄を
書かせることにより,第3世代,第4世代…と広げることも可能だが,ある程度制限した方がよい。
制限時間内でいくつ書けたかを数え,欄外に記入させる。この,紙に書かれた数により,知識・理解についてのおおよその評価が可能である。
大阪大学の水越敏行教授の著書に詳しく紹介されている。
6 簡単!線引き自己評価
次のものを印刷した紙を大量に準備しておく。
あらかじめ、生徒にまとまった量を配布しておいても良い。
評価法はいたって簡単、自分の感想を線で結ぶだけである。最後の文書表現を含めても5分で十分である。
今日の学習は 月 日
( )組( )番
氏名( )発言数( )
T群 U群
V群
1 学習課題が ・
・a 好きなので ・
・授業に満足
・b きらいなので ・ できた
・c 多かったので ・ ・不満だった
2 友だちと意見を出し・
・d 少なかったので ・ ・楽しかった
合ったことが
・e やさしかったので ・ ・楽しくなかった
・f 難しかったので ・
・やる気を持って
3 調べたりすることが ・ ・g よくわかったので
・ 学習できた
・h よくわからなかったので・ ・やる気が
・I
・ しなかった
4 がんばった人は ・ ・ア
よく考えたので ・ ・(
)
・イ よく調べたので ・
5 すごいと思った人は ・ ・ウ
教えてくれたので ・ ・(
)
6 ・
・エ いい意見を出したので ・
と思う人は・
・オ ・
・( )
7 今日の学習で考えたこと、わかったこと、疑問点を書こう!
空白は、自分で自由に書いてよい。
簡単に傾向がつかめるが、ある程度続けるとマンネリ化し、内容が似てくる。
その時は、潔く他の方法に変更したい。
7 生徒を授業に位置づける
個を生かすために,特に支援を要する生徒を1時間あるいは1単元の指導課程に位置づけて指導している。
特に支援を要する生徒とは,授業中および日常の生活を観察し,授業をとおして次の3点で改善を図ることが可能と判断できる生徒をさす。
@ 授業を通して本人に自信を持たせることができる
A 本人に活躍させることで,周囲に認めさせることができる
B 授業の内容を通して,本人に生活態度(生き方)について考えさせることができる
これらは,生徒と教材との関わりが大きく関係する。
1年 ヨーロッパ共同体(EC)の単元では,次のA子がECを課題として選んだ。
A子…日頃ほとんど発表せず,おとなしい性格である。
社会科はきらいではないが,授業態度は受け身である。
何事にも自信がなさそうな態度が気になる
そこで,このA子に,全員の前でECの発表をさせることで自信をつけさせたいと考えた。恥ずかしがり屋ではあるが,字がていねいで作文も上手なA子には,大使館や教科書会社などに手紙で問い合わせをする方法を教えた。
はじめはためらいがちであったA子だが,返事がくるたびに意欲的になり,本番の授業では,堂々と発表することができた。
V おわりに
以上の方法はあくまでも一つの例にすぎない。これらを組み合わせながら,個を詳しく観察し,正しく評価したい。そして,適切な支援につなげることが,プロとしてのわれわれ教師の仕事である。