第17回 愛教組教育改革拡大学習会報告     第131回へ
 2000.5.23 名古屋市公会堂

演題 「いじめ問題をとらえ直す」
講師 名古屋大学教授 今津孝次郎

【講演要旨】                           文責 土井
いじめは、いじめた側が100%悪い。「いじめっ子」「いじめられっ子」とよんではいけない。「被害者」「加害者」とよぶべきである。また、被害者に問題があると考えてはいけない。誰にでも問題はあり、いじめと切り離して考えるべきである。
1 2種類のいじめ
 いじめには2種ある。「排除」と「拘束」である。

「排除」のいじめ 「拘束」のいじめ
問題行動の観察 比較的容易 比較的困難
時代背景 伝統的・共同体的 19990年以降・消費社会的
関係の特徴 仲間はずし 仲間に隷属
加害者の目的 勢力の行使 金銭強要・恐喝への移行
被害者の感情 無力感 無力感
行動の性格 いじめ いじめ→犯罪

このように、拘束から恐喝へ発展したのが、今回の5000万円の事件である。

2 「過剰消費社会」と「欲望」肥大
(1)必要不可欠の「欲求」と抑制なき「欲望」
欲求と欲望を分けて考えたい。
 欲求(needs)は、必要なものが満たされれば満足し、信頼感が生まれるもので ある。
 欲望(desire)は、物や金が先にあり、欲求を後から開発するもので、満足は瞬間的であり、慢性的にの欲求不満が残る。不満や不安が攻撃性となる。きりがない。
(2)バブル経済下に登場した「過剰消費社会」の特徴
 消費社会は、日本では、1975年、第3次産業労働者が過半数を超したときから始まったとされる。アメリカでは1950年代から始まっている。
 バブルは、1985年のプラザ合意で、円高が容認されてから始まり、1990年にピークを迎え、はじけた。
このバブルの時代が、「過剰消費社会」で、欲望がエスカレートし、満足を与えな  い社会である。この過剰諸費社会が、拝金主義を生み、命より金の時代となり、拘  束のいじめと結びついた。


3 いじめをエスカレートさせる「観衆」と「傍観者」
 (1)いじめに加わった大人たち
 いじめには、加害者・被害者以外に、観衆と傍観者がいる。今回の事件では、観衆が加害者に加わった。また、大人が傍観者になった。金の力が、子どもと大人の関係を崩し、子どもの歯止めが失ってしまった。また、過剰諸費社会が、大人の規範意識をもゆがめてしまった。
(2)「欲望」世代の親(高度成長期)と子ども(バブル経済期)
今の親は高度経済成長期に育ち、子どもはバブル経済期に育った。共に、経済   優先の時期に育ち、どこかで犠牲にされた部分がある。

4 いじめ問題への介入
 非行問題行動克服のためには、「介入(intervention)=問題解決のため、状況に直接かかわり、変えていくこと」しかない。そのためには、問題の気づき→介入の判断→介入の実行 というステップを踏む。
問題の気づきには教師の日常の観察によるカン、介入の判断のための情報収集   と介入の実行には学校・家庭・地域のネットワークが必要である。

5 第四のピークの非行にどう立ち向かうか
(1)「許す」ことと「許さないこと」−「欲求」の見極めと「欲望」の抑止
 何が許されて何が許されないかの規範を,大人が子どもにしっかりと教える。
 子どもは,全て非許容(支配)でも,すべて許容(放任)でも不安になり,大人不信になり,攻撃性を増す。
 また,欲求が満たされているかを把握し,満たされていないときは,その欲求を満たしてやることで,欲望へと移行することを抑止することが大切。 

(2)新興住宅地域と在来地域の混住地域での非行問題
非行は,新興住宅地と在来地域が混在しているところから起こる。
新興住宅地域は,非共同体的・「私」中心・新中間層・上昇志向・競争意識が激しい 在来地域は,共同体的・「公」中心,旧中間層・断層固定的である。
この二つがぶつかると,道徳が混乱し,行動基準が不明確となる。これが非行につながる。

【質疑応答】                           
Q いじめの被害者をどうやって見つけるか。
A まず,いじめは100%悪いと全員が一致すること。その考えで子どもを観察した上 で,発見は教師のカンが大切。
Q 規範意識の低下とバブルの関係
A 拝金主義が影響。
Q 豊川の事件の解釈
A 父親の姿がよく見えない。祖母が「あの子は不憫な子ですから…」と言ったことに 問題がある。
「子どもために」という考えではダメ。「子どもたちの自立のため」という考えに改 めるべきだ。
Q 地域に働きかける方法
まず,手を結ぶこと。そのときに,次の点で共通理解しておく。
@ 「子どもの自立のために」という発想に立つ。
A 許すことと許さないこととをはっきりさせる。