岐阜市立長良東小学校 河井信幸先生のお話 社楽186回へ
2003.3.13
記録 大島(犬東中) 一部土井が補筆
河井先生の社会科の授業をビデオで見ながら、質問に答える形でお話をうかがいました。
○授業の流れ基本形(3時間1サイクル)
「課題づくり(第1次)」
↓
「個人追求(30分)・小集団交流(15分)(以上第2次)」
↓
「全体交流・まとめ(第3次)」
* 第1次の終末で課題づくり。第2次は、スタートから個人追求。自分の得意とする見方でじっくり資料を見る。そのあと15分間グループで交流する。家庭でも調べてくる。
第3次は授業が始まる前から自然にグループ交流が始まる。
○ 小集団交流が「生活班」であることの意味
様々な考えや、得意分野を持つ子どもがいる。班員それぞれの課題への取り組み方の長所を生かしあうことで、多面的な思考・見方ができる。
○ 資料の出し方(教室には授業についての資料が全面両脇、壁面に大量に掲示している。)
@ B紙大模造紙にすべて手書きで作成。初めは拡大コピーを使ったが、子どもが大事にしてくれなかった。手書きにしたら、丁寧に扱うようになった。
A 教科書にもあることを、わざわざ模造紙に書くことの意味は?プリントだと、話す方も、聞く方も、お互いの顔を見ず、紙だけを見ることになる。掲示すれば、みんなでひとつの資料を見ることができる。
B 資料は出し惜しみせず、全部はじめに出す。それで満足できない(レベルの高い)生徒は、自分でさらに資料を探す。
C 単元が終わったら、次の単元に生きる資料以外は総入れ替え。
○ 資料の読み方をどう鍛えるか
@ 「この資料からどんなことが読みとれるか」というトレーニングをし、資料を読む視点を発見した子どもをほめ、それを価値づけて広める。
A それを導入のところで行い、その単元で必要と思われる視点を価値づけておく。→あとの追究で生きてくる。
○ 課題づくりのポイント
@「切実感があるか」
A「本当に必要感があるか」(考える必要があることか)
B「期待感(自分にもできそうか)」
C「有能感(こうすればできそうだ)」
D「満足感(分かった)」
以上の条件のうち、いくつかを満たすことが必要。
課題づくりのパターン
@子どもに資料を与える。→ 驚き(時には感動)を与えるような資料を。数字の所を隠しておき、予想させてそれを覆し、あっと言わすなどの仕掛けを用意。
(例:沖縄戦の、軍人の死傷者数を見せたあと、民間人の死傷者数を予想させる。実は、民間人の方が犠牲者が多い)
A資料に接し、驚きを感じた生徒のつぶやきを生かし、それを拾って課題を作っていく。
→そのようなつぶやきを引き出すような資料を十分吟味して示す。
B課題の基本形は、「どうして○○は、××なのに、△△なのだろう。」(マイナスのイメージ)
慣れてくると、このパターンでスムーズに作れる。
○ 話す指導
算数の時間を中心に指導←自信を持って発表しにくい場面が多いから。
@「いい話し方・発表の仕方」をいかに価値づけていくか。
* 「間違っても手を挙げることがすてきだね。」「発表してくれたから授業が進んでいくんだね」
* 「単語でもいいよ」「みんなに、一生懸命言っていると伝わるように言ってごらん。」
このような言葉かけで意識づけていく。
* いいのべ方、(理由付けや接続語など)があったら、全体に投げかける。
「今、どう思った?どこがいいと思った?(言わせる)そうだね、○○というところがいいね。」あるいは、「今言ったこと、もう一度言ってみて。(他の生徒に)どこがいいと思った?」というように、価値づけて広めていく。
↑
(話し方を学ぶとともに、きちんと聞く訓練ともなる。注意して聞いていないと、教師の投げかけに反応できない。)
* 算数を中心に、学んだあと国語の話し方単元でさらにレベルアップ。
○ 聴き方指導
@基本的な指導姿勢…話す人の方を向く。反応しながら聞く 「聞き名人、反応名人」
「友達は大切にしよう」話しているときに他ごとをしているものがいたら、発表をやめさせる。他ごとをしている子どもが気がついて顔を上げたら、指さして「あなただよ。」といってやり、「話をしているときに、他ごとをしているのは話をする人にはいい気分ではないね。友達は大切にしよう。」
(怒るより、気づかせる指導が主となる)
A「つぶやき」を生かす
子どもは、つぶやくことで、思考を整理している。
いいつぶやきがあったら、「それが授業の流れを作るんだよ。」というように価値づける。
話を聞きながらつぶやくことを奨励。つぶやきを拾って指名。時に、最初の発表を遮ってしまうが、発表を聞いている証ということで納得させている。
B 「つぶやき」と「おしゃべり」のちがい
発表者の顔を見、発表者だけに発するのがつぶやき。そうでないものはおしゃべり。
C 発表の時、資料の近くへ聞く人が集まってくるのはなぜか?
話す声が小さくてもよく聞こえるように。「それが友達思い。」←聞きやすい、話しやすい雰囲気を作ってやる。
○ 授業の流し方
@ 発表の終わったあとの、付け足しの指名をどういう観点で行っているか?
→第2次のあと、ノートを集め、生徒の思考の傾向をつかんでグループ分けしておく。それをもとに、授業の組み立て方に沿って意図的指名する。
A 話し合い、意見の交流をどう構築するか。
→「子どもからどういう言葉が出てくればOKなのか」という「出口」をはっきりと設定した上で話し合わせる。そうすればずれていかない。事前に児童の考えをもとに、板書計画を構造化して考えておく。
→調べたことの発表で終わらないよう、途中で「切り返し」「ゆさぶり」の発問や資料を入れる。
「ちょっと待って、でも・・・・」といい、別の資料を見せる。時には、生徒のつぶやきがその役割を果たすこともある。
この授業の場合、「国民のために」という目的がかわったことを、こどものつぶやきから引き出すことができた。
B ねらいにたどり着いたかチェックし、そうでなければきり返す。
○ 学級の人間関係づくり
@「黄金の1週間」…学校全体での取り組み
子どもと顔を合わせた最初の1週間が勝負。そこで「この先生と一緒にがんばっていけそう
だ。」という気持ちを作る。
最初の出会いの時の言葉がけ
「先生は皆さんのことを知らない。全く新しい気持ちでスタートできる。」
「皆さんは、今までに積み重ねてきた財産がある。しかし、マイナスの財産はリセットしよう。」
「分かっているけど」新鮮な気持ちで。「あの子、4年生の時、○○だったんだよ、等と言うことは言わないでおこう。誰でも「変わろう。」と思っている。
「何か言いたくなっても、陰で言うな。先生に言え。」
どの子にも、同じ土俵で教師に関わってきてほしい。
女の子同士のトラブルが一番火種になりやすい。→朝から帰りまでの間に、1回は声をかける。
A 教師の考え方・方針を、分かりやすく下ろしてあげる。
「明るいクラス」とは、具体的にどんな要素があるのだろう?→生徒に出させる。
それをもとに、「先生は、これをやったら怒る。それ以外は怒らない。」ということをはっきりさせる。
例えば、「友達に害を与えたとき」「差別したとき」
当然果たすべき役割を果たさない時
(↑自分の考え)
一生懸命やったのが今だから、それを認め合わなければならない。
○ 「書くこと」の指導
* 全体交流では、集中させるため鉛筆を持たせない。聴いたり、つぶやいたりすることで考えを整理する。
* 終わったあとで、自分の言葉でノートにまとめる。
↓
「今日分かったことは、(課題の言葉)についてです。(数)つ分かりました。」というように、数で示させる。子供が感じた数でよい。それに続けて、「今日の勉強でこういうことを考えました。」ということを書く。レベ
ルの高い子は、「全体交流で○つ増えました。」というように、「新たな発見」を書かせる(伸びが分かる)。
↑
数は、どんなレベルの子にも分かりやすい。
数を数えることで、分析的に聴く。
* 子どもは板書を見ながら書いている。板書は大事
* 書く速さ
初めは、15分で書いていたものを、10分にしてどこまで書くのか競争させる。「もっと早く書くにはどうしたらいいだろうか?」と問いかけ、「授業中聴いていないと書けない」というように、生徒に気づかせていくいことも必要。
○ 長良東小学校の授業研究
* 年間で各教科が1回全員が集まる授業研究を行う。
そこでのルール
☆ ほめない。
☆ 全員が1度は手を挙げる。…手を挙げないのは授業者に対して失礼
逆に手が上がらないのは、土俵に乗せられないぐらいの授業だったこと
【感想】
技術や目の付け所もすばらしいが、感性や人柄がポイントである。聞き上手であり、謙虚であり、率直である。好感を集め信頼を集めそうな雰囲気がある。
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以上、大島先生にまとめてもらいました。
これ以後は土井の感想です。
自分のやってきた授業と似ている所、自分にないすばらしい所に気づきました。
★☆★似ている所★☆★
○ 怒らないで気づかせる。そして気づいたことをほめてやりながら結果として直していく。
怒った時点でその時間の授業は失敗。土井も社会科の授業では10年間に1度も怒らなかったと思う。
○ 一人のよい所をみんなにほめながら紹介することにより、全員の力を高めていく。
これもよくやる方法。
○ 資料は数多く与える。または自ら収集させる。子どもがその中から必要なものを選択する力を育てる。
河井先生の言うとおり一度では無理。段階を踏んだトレーニングが必要。
★☆★自分にない良さ★☆★
○ 「話す人の声が小さかったら、聞く人がそばへ行ってあげよう」という視点。
自分は、話す側に大きな声を出すよう努力させていた。これは、声の小さな子には酷なことだった。
○ 「つぶやき」で授業を進めていくこと。
土井もつぶやきを歓迎していたが、河井先生はつぶやきが主役だった。つぶやきとおしゃべりを区別しているところもプロの技だ。
○ 板書の構造を事前に組み立てつつ、子どもの発言により柔軟に対応しながら、最後にまとめ上げている。
土井は、すべてワークシートを作っていたので、時間は短縮できるが柔軟に対応できない。
○ 聞く指導が徹底している。
土井は、聞く指導はあまりしてこなかった。「聞く」よりは「メモするトレーニング」をしてきた。クラス全体で授業を創っていくという観点からは、メモを捨てて話を見て「つぶやき」を入れた方が、より高いレベルになるだろう。
○ 課題づくりへのこだわり
土井は、課題づくりより、調査と表現に力点を置いていた。
○ 事前にノートで子どもの考えをつかみ、構造的に分類し、意図的に指名している。
やるとよいとわかってはいたが、たまにしかできなかった。
○ 子ども同士の人間関係づくりを強く意識している
土井は、教師と子どもの関係をつくるだけで、子ども同士の人間関係という視点は弱かったように思う。
○ 労力を惜しまない
多くの資料をすべて模造紙に手で書き写す、写真を引き伸ばすなど、労力を惜しまない。土井ならプリント配布か拡大コピーで終える。ここが決定的な違いだ。
○ 共に学ぶ集団を育てている
土井も話し合い活動などに積極的に取り組んできたが、河井先生の授業に比べると、個々に学ぶ力をつけてきただけのような気がする。