入試改革は進んでいるか？−今春，高校入試問題に見る改革状況− 社楽第１４８回へ
文責 土井
よく，「教育改革と言ったって，入試が変わらなければ同じだよ。」という言葉を耳にする。これは，かなり言えている。
「大学入試が変わらなければ高校入試も変わらない」とも言うが，パソコン持ち込み可の大学（大学院）入試もあるぐらいだ。大学入試は確実に変わっている。
それでは，高校入試はどうか？
実際に問題（社会科歴史的分野）にあたり，考えてみたい。
今春の全都道府県の歴史の問題を見て，特徴的なことは次の点である。
@ 長文の説明，自由度の高い論述問題がいっそう増加している。
A 地理・公民との融合（混合）問題が多い。
B 生徒の学びに即した問題が多い。たとえば，「○○さんは歴史上の人物のカードを作りました。」「これは山田家の年表の一部です。」というパターン。
C 教科書にない情報，時事的な話題，郷土史を取り入れている。
D 資料を高度に活用した問題が多い その他
それぞれ，次の都道府県で出題された。
@ 論述問題
青森，岩手・茨城・栃木・群馬（資料を見て），宮城（標語作成），秋田・岡山・大分（選択論述），福島，千葉・山梨・三重，兵庫，山口，高知（カード，会話），富山・長野・岐阜・香川，佐賀（論述が多い），石川（記号が少ない），大阪（テーマ論述），広島
A 地理・公民との融合（混合）
岩手，宮城，茨城，栃木，埼玉，千葉，東京，神奈川，新潟，山梨，京都，岡山，長崎，大分，宮崎
B 生徒の学びに即した問題
北海道（カード・個人史），青森（歴史新聞），宮城・秋田（会話形式），栃木（作文），埼玉（展示発表会），福井・三重・兵庫（カード等），岐阜（歴史新聞・手紙），
奈良・長崎・宮崎（調べ学習），和歌山・島根・宮崎（課題レポート），香川（調査メモ），佐賀（川柳），
大分（自由研究），
C 時事的な話題等
青森（郷土史），岩手・神奈川・宮城（2000円札），埼玉・福井（サミット），島根（郷土史）
D その他
山形，奈良（女性史），岡山，佐賀，宮崎，沖縄（杉原千畝）
残念ながら，愛知県は例年通りのパターンの問題で，新しい学力観に対応しているとは言えない。しかし，他のほとんどの都道府県は，明らかに従来の型を破ろうとしているのがわかる。
たとえば，静岡は，問題そのものは一般的であるが，記号で答えるものは１つだけ，固有名詞を書かせるのも「大化改新」「織田信長」「ドイツ」，他はすべて説明問題である。単なる知識だけでは解けない。採点がたいへんであろうが，そこまで踏み込んだ姿勢を高く評価したい。
逆に，岐阜は，歴史新聞，電話と手紙の内容，テーマを設けた発表と，出題の形を工夫している。
大阪では，「地球環境問題のうちあなたが関心を持っていることを５０字程度にまとめなさい」という論述問題があった。ここまでいかなくても，人物を選択して説明させるなど，生徒の答えに幅をもったものが多くの県で増えている。
宮城では，「２０世紀が抱えた世界的な課題をあげ，それをふまえて20世紀から21世紀への標語を作りなさい」と出題している。このほかにも，宮城県の問題には多くの工夫が見られる。
また，全体的に，「資料を見て○文字以内で述べなさい」という問題が目立った。
宮崎では，「「歴史上のできごと」を教科書や授業で使う資料集，聞き取り以外の方法で調べることにした。どのような方法で調べたらよいか，２つ書きなさい。」と，調べ方を問うている。答えの１つは「インターネット」と書かせたいのだろう。そういった授業をしてもらえなかった生徒は不幸である。
出題の形が，「○○君は」「○○さんは」というのが，半数近くの都府県で行われていた。それぞれ，調べ学習や，自由研究の過程で生じた疑問を問題につなげている。したがって，地歴公民の混合や，時事的話題の増加の原因にもなっている。
これは，出題者の側が，体験的・問題解決的な授業の実施を中学校の社会科教師に求めているとも受け取れる。
２０００円札が，３県で登場している。（地理・公民では，もっとあったかもしれない）札の発行が７月１９日であったことを考えると，問題作成の時期を考えると，まさに時の話題であった。
その他，青森・島根のきわめてローカルな話題（郷土史），九州・沖縄サミットにちなんだ問題が印象に残っている。
最も知識に頼りがちな歴史がこれだけ変わっているのだから，地理や公民も姿を変えているに違いない。
以上，土井の感想の羅列に終わったが，社会科教師は，定期テストの発想も変えなければいけないことを痛感した。ましてや，今時，教え込みをする教師がいないことを願いたい。
高校入試は，確かに変わっているのだから・・・