研修8日目 3月5日(月)                             社楽の会へ

9:15〜11:45
生徒指導上の課題
      昭和女子大学教授 有村久春先生
 
結論から述べたい
 今気にしている3つの言葉
1 カウンセリング(的発想)
2 レジリエンス 心の回復力・エネルギーを溜めておくという意味
3 コンプライアンス 法令遵守・ルールを守る
 
1 カウンセリングは教師にも保護者にも求めたい。昭和30年代初期には使われている ロジャース法など  http://ww9.tiki.ne.jp/~s-nakamura/nakamurayan/sinrigaku/crrogers.htm 
 学校教育のカウンセリング源流は
  ○ カールロジャースの相手に立場に立つ方法
  ○ フロイトの精神分析の流れ 
  ○ 学習理論や行動療法に求められるもの
   以上の3つの流れ
 
2 レジリエンス   http://www.geocities.jp/kagawaschool/kikikannri28.htm 
   これは特に子どもに求めたい。20年ほど前の岩波新書で「10代の子供を育てる」 という本の中に”タフネス”という言葉が出てきた。最近ではゼロトレランス
  http://www.bekkoame.ne.jp/i/gb3820/zero.html 
 がでてきた。心の回復力を求めたい
 
3 コンプライアンス  http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/compliance.html 
 教師に求めたい
 以上を結論に生徒指導について考えたい
 
 最初に5ページのワークショップやってみたい。若い先生にどういう応答を基本にするかを考えてみたい。
 子どもたちは、ありたい自分とそうでない自分とに違いがある。先生の応答によって気持ちが少しずつ両者が一致する状況に近づいていく。それがカウンセリング的な対応である。
 資料5から一つ選び応答例を考えてみてほしい。
 同じものを選んだ人どうし、子どもと先生の役になってやってみてほしい。
 
 資料5 
シナリオ@低学年の班を変えてほしい子ども
シナリオA高学年の差別意識のある子供に
シナリオB中学生の気が弱く落ち込んでいる子に
  
サンプルとして、代表の人にやってもらおう。
シナリオ@で
子「A君がいじめる。早く班を変えて」
教「よく話してくれたね。今までつらかったよね。これからどんな気持ちか聞くからね。 A君はどんなときにいじわるするのかな。」
子「いつもだよ。」
教「いやなのはどんな時?」
子「(略)」 
教「そんなことするの。痛いよね。いやな気になったのね。悪口も言うのよね。」
子「ばかだというんだ。」
 
感想は?…安心感があった。否定的でないので話しやすい。
 
サンプル2 略(だいたい同じようだった)
 
 今のやりとりを、ロジャースの理論で押さえたい。3つの基本がある。
@ 受容があった。「よくいってくれたね。」「たいへんだったね。」
  受容には2つある。
  「うん」「そう」相槌と言われるもので、単純受容。 
  もう一つが、「繰り返し技法」また言うことで、いやなことがはっきりする。
  これらが受容の基本。
 
A 「つらかったね」「それはたいへんだったね」これらが感情の明確化。相手が不一致 の状態を言葉にしてあげる。
 
B 方向性。開かれた質問。「どこをけられたの?」など、相手の感情を深める質問をす る。このBが指導・援助につながる。
 
 この3つの基本をふまえた対応を基本にして接すると、入り口で解決する。
 
 悪い例
子「せんせい、早く班を変えてください。」
教「A君がそんなことするかな。」「先生は今忙しいんだよ。」
 
感想「聞いてもらえない。不愉快だった。」
 
 現実にはこういう対応が多い。不一致な状況がますます離れる。
 
シナリオBの例
 「せっかく思いきって言ったのに無視されたんだ。」「悪かったなと思って言ったのに、無視された気がしたんだね。」「つらかったね。」
 
 簡単だけど、順番がある。@→A→B の順で行う。そうでないと理解と感情移入ができない。臨床場面では@とAに時間をたっぷりとる。
 かつてカウンセリングは、うなずくだけで指導しないといわれた。カウンセラーはそれでよい。
 先生はプラスBがほしい。それが生徒指導のベース。ロジャースは純粋性で、自然に@Aが出てくる。
 以上がカウンセリング 
 
 平成19年2月5日通知を出した。
「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)」
  http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/07020609.htm 
 初めに次のように言っている。
 
1  生徒指導の充実について
 (1)  学校においては、日常的な指導の中で、児童生徒一人一人を把握し、性向等についての理解を深め、教師と児童生徒との信頼関係を築き、すべての教育活動を通じてきめ細かな指導を行う。また、全教職員が一体となって、児童生徒の様々な悩みを受け止め、積極的に教育相談やカウンセリングを行う。
 対応の前に生徒指導の充実カウンセリングについて言っている。
 
 そこで
1 改めて「生徒指導」を問う
 生徒指導の定義
文部省(1988)
 「生徒指導とは、本来、一人一人の生徒の個性の伸長を図りながら、同時に社会的な資質や能力・態度を育成し、さらに将来において社会的に自己実現ができるように資質・態度を形成していくための指導・援助であり、個々の生徒の自己指導能力の育成を目指すものである」
 (『生徒指導資料20集:生活体験や人間関係を豊かなものとする生徒指導−中学校・高等学校編−』)
 
 ここでは「自己指導能力」と言っている。
 しかし最近では「ゼロトレイランス。「zero」「tolerance(寛容)」」を言われる。例外を許さない生徒指導である。
 窓ガラスの理論に対して予防的対応。そこからゼロトレイランスが出た。
 
 静岡のある学校。1月14日朝日新聞に、「規律遵守の生徒指導」というのがあった。高校で、違反等がたまると、いわゆるイエローカードを出し、枚数によって、停学、退学
となる。
 これで自己指導能力が育つか?
 しかし方法がないのが現実だ。
 千葉大の明石先生は「いかがなものか」というコメントを載せている。
 
 「トレイランス」は、寛容以外に、「耐性」という意味がある。かつて、生徒に任せきりにして失敗したので出た考え方でもある。
 
 2月5日付の資料に戻る。
 生徒指導の充実が第1。これを踏まえたうえでの「2 出席停止制度の活用について」
 
(1)出席停止は、懲戒行為ではなく、学校の秩序を維持し、他の児童生徒の教育を受ける権利を保障するために採られる措置であり、各市町村教育委員会及び学校は、このような制度の趣旨を十分理解し、日頃から規範意識を育む指導やきめ細かな教育相談等を粘り強く行う。
 「学校の秩序を維持」「規範意識を育む」と学校の規律を書いている。安部首相の意図を汲んだ、政治色のある通知文である。
 このままいくと学校は難しい状況がある。
 子どもを取り巻く状況は変化しているが、子どもの自己指導力の育成が基礎にあることを忘れてはいけない。
 土曜日の夜に、NHKがいじめ問題を取り上げた。企画を始めた1月前にディレクターと相談した。 
 「先生を責めるような番組なったら成功しない。」
 「いじめられる側の立場に立つ。」 
 この2つを要望した。
 
 いじめ第3のピークと言われる。
 
第1 昭和61年2月1日の東京富士見中学校 鹿川君の葬式ごっこ自殺。
  http://gonta13.at.infoseek.co.jp/newpage215.htm 
 教委が裁判に負けた。しかし、そこには、「いじめられる子を守れ」という表現はなかった。
 
第2 平成6年11月27日、愛知県の大河内君事件
  http://www.shinrankai.or.jp/jinsei/jin08.htm 
 ここで、「いじめられる側に立て」という通知文が出された。
 
第3 平成18年 滝川や福岡の自殺
 これにより、いじめの概念が深まった。
 
資料7 
 いじめの定義の見直し
  http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20070111k0000m040077000c.html 
 最近はネット上のいじめが多い。
 
 学年別に見ると、中1ではいじめの数が3倍になる。学校種の変化、教科担任制、思春期と、いわゆる「中1ギャップ」が起こる。 
 そこで新しい定義が、「一定の人間関係のあるものから」「心理的 物理的な攻撃」が加わり、注が4つ増えた
 
 注2 仲間や集団が見えにくくしている
 
 また、「発生件数」から「認知件数」へとした。被害者の立場への転換だ。
 
 いじめの遺書には共通した言葉が出てくる。
 「ありがとう」「すみません」「もう耐えられない」
 こうした、自己犠牲的な言葉が多い。「すみません」で、いじめを昇華してしまうのである。エネルギーの言葉で、恕す(ゆるす)ともいう。
 ここに至るまでにこどもの気持ちに気づかなければいけない。
 
 教育と学校、が窮屈になっている。ある意味で管理的になっている。管理する側、される側の人間性が問題になる。
 前半は、カウンセリングの考え方を大切にしてほしいという内容だった
 後半はハインリッヒの法則から入りたい。
 一つの事件の下には29の要素がある。その背景には300の土壌がある。という、危機管理の法則であるが、これは生徒指導上も言える。
 300に気づき、29を予防的対応することが重要。それで一つ防げる。
  http://homepage2.nifty.com/atelier1/hainrihhi/hainrihhi.htm 
 
 基本は予防的対応であり、開発的援助である。
 文科省の通知文は、積極的なカウンセリングや教育相談をうたっている。
 
生徒指導の意義・目的を考えてみたい。
 @ 自己指導能力の育成
    ガイダンスやカウンセリングで育てる。
 
 A 学校教育における位置
   互いの人権を尊重する態度を育てる
   発達課題に配慮した指導を行う
     特に性の問題の対応が必要である。
   日々の授業に生徒指導の理念を生かす
     教科にも生徒指導の理念を生かす。共感性、カウンセリング的対応。わかる授     業をするなど。  
  d 家庭地域社会との連携を模索する
      
 領域性と機能性を考える。
 「学力」の理解はよく問題になる。学力には、測定学力と形成学力の2つあり、そのベースに基礎学力がある。
 学力テストは、測定学力を測るものだが、数字が一人歩きする。学力テストの練習をやる学校があるそうだ。説明責任が求められる。ブルームの評価論を読み返す必要がある。そこでは、関心意欲態度をきちっと言った。数字だけで見てはいけない。
  http://www.geocities.jp/heartland1056/hyouka.html 
 
 生徒指導の基本は、学級経営の充実にある。
   
今日の二つ目の課題   
 @ 子どものレジリエンス(resilience)を育てる
  レジリエンスには、回復力、逃げる勇気、断る勇気というのも入る。
  
 資料2の下 自他の理解バランス
  第一事象 目標に合致した中味
  第三    問題行動
    この両者は親や教師から見えやすい 指導はしやすい
  第一 ほめたり励ましたり
  第三 しかる必要 
  第二 第四 が見えにくいい
  第二 わがまま 過剰な有能観
  第四 他への気遣い 評価過敏
      女子に多い 思い切った行動が取れない 他律的 疲れ 
 
  長崎の事件 状況を報告書にまとめネット上に公開していた。ブロクのやりとりを気にした。6月1日の事件発生。9月に家裁決定通知。
 第四事象の表れで、すべてをリセットしたい心境になる。何か起こったときにヒステリックに反応する。
   
 反社会的な性格な子どもは暴力という表現に出た。
 非社会的な子どもは、不登校や、チックという表現がある。
 しかし、おとなしい子は見えにくい。今は、おとなしい非社会的な子が、突然暴力行動に走ったりする。おとなしい子のヒステリー反応で、いきなり型が特徴である。
平成9年の神戸の事件。性格のゆがみが問題行動に出てきている。難しさを含んでいる。
 
2−A 非行のピークについて
 生活困難型非行(S26)
 消費社会型非行(S39)
   オリンピック。がまんができなくなった使い捨て時代
 遊び型非行(S58)
   校内暴力三態;対教師、生徒間、器物損壊
   豊かさの中から出てきた心が育っていない子と体罰の悪循環があった。
   学校が後手に回った指導で、対処療法型生徒指導。これ以後予防に力を入れようと  いうことになった。
 
 突発粗暴型非行(H10)  
   神戸の事件以後、いきなり型が増えた。おとなしい子がやる。対人暴力が増え、心  の教育が言われた。   
   スクールカウンセラーが配置されだしたのもこの頃から。
   大河内君事件から心のケアが始まる。
  
 今、新しい課題がある。心のバランスを崩した非行、見えない問題行動。これらはある意味で拡差社会の被害者なのである。 
    
 大学生の作文に次のようなものがあった。
 心理学では「引き下げ」という。自分より下の立場をつくって自分が安心する。弱い集団をつくって安定する。江戸時代の身分制度による安定か。今後日本がどの方向を選ぶのか。
 社会構造の中でゆがんだ状況になる。保護者にもそれを踏まえて対応する必要がある。
 
 そこで、それを思うと、P3の発達課題を理解しておく必要がある。
 エリクソンの理論  http://pii-desu.hp.infoseek.co.jp/erikuson.htm 
  アイデンティティを確立した人である。
 人間は常に相対するものを克服しながら成長していく
  乳児期(0〜1)  
   基本的信頼感 
   不信感を覚えると希望を失う
  幼児期(1〜3)
   自律性が育つ
   内臓が安定しないと脳が発達しない
   口とお尻の締まり具合
  遊戯期 遊びを通して
   自主性 
    目的意識を持つ
    情緒の安定
  学童期(9〜12)
    学習習慣の形成が重要
    知性 記憶力がベース
        判断力
        想像力
     この3つの力を育てると中学校以降で学習習慣につながる
     劣等感が出てくる
     自分の意見を気にするようになる
  青年期 アイデンティティ
   (13〜18)自分らしさ
    これまでの段階がクリアされていること
    ここまでが不十分だとここで揺らぐ
    
 中高ではアイデンティティが重要
 
3のA 組織の問題
 コンプライアンス。当たり前に勤務して当たり前に教育する先生を育ててほしい。
 今の時代にあった倫理観が必要である。
 
 それは組織論から
  リーダーシップ
  PM理論   http://www8.plala.or.jp/psychology/topic/pm.htm 
   豊かな組織が育つにはPMが大事
    Pは生産性
     @ 活動目標の理解
     A 役割分担の理解と遂行
     B 目標達成の活動
    Mは凝集性
     C 話し合いの変化
     D 推進活動の承認協力
     E 民主的リーダーの存在
  この両者がしっかりと機能するように
 
  これにより学びの重層性が育つ