教師力アップセミナー記録            平成23年9月10日              社楽の会 第354回へ

 

思考力・表現力が育つ算数授業の作り方

             
              筑波大学附属小学校

                              盛山 隆雄 先生

                                文責 土

この記録は、土井によるメモから作成したものです。従って、誤字脱字や主観的な解釈、誤解もあり得ます。文責はすべて土井にあり、学校や講師には一切責任はありません。そのため、引用や転載はご遠慮ください。また、問題の箇所は修正しますのでお知らせください。 

 

現在、1年生の担任をしている。みなさんと同じ目線で算数の授業について伝えたい。

今日伝えたいことは、「算数における表現力について」である。

 

レジメに分類した次の言葉は算数の用語辞典の言葉で一般的な用語である。

◆ 現実的表現

実物を用いて、現実に即した操作や実験をするもの。問題理解等に効果。

        操作的表現

   おはじきやブロック等の半具体物をモデルとして操作する表現。  

◆ 図的表現

   絵、図、グラフ等による表現。算数の学習の対象とされている。

◆ 記号的表現

数字や文字、演算記号や関係記号などがあり、それらを用いた数学的文章ともいえる式を中心に扱われる。

  ↑

        言語的表現

   日常言語による表現であり、内言語としての思考の様相を表出する働きがある

これら一般的な用語。これを授業に生かすには、どうするかを伝えたい

 

1 割合の授業

最初に、問題。よく出す例である。

Q1 5000円のグローブがある。これを二つの店で売っているが売り方が違う。 A店 ; まず5%の消費税をつける。それを2割引で売る。

B店 ; まず2割引にし、それに5%の消費税をつける。

まだ計算しないで、予想をしてみよう。どちらが安いか?5年生の割合の学習だ。予想だから、必ず手を挙げて。(見回して)Bが少し多い。同じが十数名だ。

 

Aの方からインタビューしてみる。

「多くなった量から割り引いた方が、安くなると思う。」

Bの人は?

「最初に2割引にして落としてしまうから、5%の消費税が安くなる。」

 

よかった、小学生と同じ発想だ。(笑)これが、割合のイメージである。こうした議論をした後に計算をする。

どんな計算の式になるか?

A  5000×(105/100)×(80/100)

B  5000×(80/100)×(105/100)

子どもたちには、まず式を作ってから計算してみようと言う。さあ、どっちが大きい?子どもたちともこのように対話をする。実は、計算しないでもわかる。出てくる数字が同じだから。

小学生は、交換の法則の成り立ちを勉強したばかりなので「同じ」というはず。こういう文脈があるから、交換法則が役に立つとわかる。

これは計算しない。大小が判断できるから。こういうことが、数式による「言語活動」である。式を使って新しいものが見えてくる

思考を深める。相手に伝える。これも言語活動の一つ。

式は算数の文章。式を使って、コミュニケーションをするのは算数の王道。

 

5000は数字、分数も小数も数字。× は演算記号、= は関係記号

これらを記号的表現という。

記号的な表現を使って自分の考えを友達に伝えられればすばらしい言語活動だ。

しかし、こればかり考えていると、算数の授業は進まない。式を使って伝える場面はそう多くないからだ。

 

実際には、日常言語を使って説明する方が多い。日本語を使った方が伝わりやすいから。日常言語を使ったら、算数の言語活動ではないといったら、薄っぺらくなる。

算数の授業を組み立てるためには子どもの日常言語、言語表現を取り上げる。それを、教師が問い返し発問する。

子どもは、それに対して別の言葉に変化する。図、操作的、この過程こそが、算数の言語活動になる。消費税、価格の話は式の良さを伝えるいい話である。

子どもに言語活動の話をするには、次の例。言語活動は表現活動、ノートやレポートに書くというのは、本質をはずした理論だ。

 

2 正多角形の授業

ここに時計の文字盤がある。5年生だったらという発想で答えてほしい。正多角形の授業の単元の末に行った。

12時から1時、2時、3時と全部結ぶとどんな形?

まず予想させる。「正十二角形」そうです

 この時、「正十二角形はどんな形?」と聞き直すとよい。すべての辺の長さ、角の大きさが等しいと言えればよい。

正十二角形の一つの角度(内角)は?

「30度」 どう見ても直角より大きいよ。

多角形の内角の和は勉強している。

180×(n−2)

計算できたら教えてください。

 

先生なら次はどういう展開をする?

「2時間ごとの目盛りをとる」

私と同じ。(笑)全部引かずに、2本引いた後に質問する。「何ができるでしょう?」

「正6角形」子どもたちは、これでも緊張する。答えた後に、実際にやらせる。

このときに、ある子がこう言った。

「先生半分になった。」

すかさず、どういうこと?と問い返す。これが日常言語

子どもの言葉は、たいてい式ではない。図でも言わない。しかし、「半分になった」という言葉の裏側には、算数の考えが詰まっている。

ここで返す。おもしろいこと言ったね、半分ってどういうこと?

「1時間ごとで12角形、2時間ごとで6角形」

日常言語が、数学的言語に変わってきた瞬間だ。この時間を楽しもう。これこそが算数における言語活動だ。

 

12角形の内角の答えは?

「150度」。式は、「180×(12−2)=1800、 1800÷12=150」

これは後で大切になるので、黒板の隅に置いておく。

 

次は、どんな展開? 

「3時間ごとの目盛りを結ぶ」

どうなります?「正四角形」別名は?「正方形」そう。

 

ここまでくれば、次は?「4時間ごと」

子どもはもちろん読んでいる。予想は?「正3角形」

ここまで来たら、子どもはいろんなことを言う。

「減ってきたよ」「本当だ」、もう一人は「きまりが見えた!」

このつぶやきの両方とも取り上げた。

T「減ってきたって、どういうこと?」

C「3 → 4角形、4 → 3角形」

T「確かに、12、6、4、3 と減ってきたね。おもしろい整理ができたね。」

C「表だ!」

日常言語に付き合っているうちに、表が完成してきた。数学的表現が完成しつつある。

「きまりが見えた!」という発言も、すぐに取り上げたらもったいない。

T「きまりが見えたって!みんなも考えてみようよ!」と投げかける。

きまりは、図(文字盤)を見てもだめ。整理されたもの(表)をみてわかる。

12

みんなにきまりが見えたら、どんなきまりか聞いてみる。

C「上と下をかけると12になる」

これは出る。縦に見ると出る。

T「他には?」

C「12÷6=2、12÷4=3、12÷3=4」

T「上の段は?」

C「×2、×3、×4」

T「これはどういう関係?」

C「反比例」

T「すごいことを見つけたね。」

きまりを見つけるとは、共通することを抽出するということ。

筑波の先輩に、高知県の先生がいる。山本良和先生、正木孝昌先生。二人に共通することは酒豪であるということ。だから「高知県の人は酒が強い」というと、二人だけで全体を語っている。

二人を事例にして、高知県民みんな酒が強いというのは、帰納的推論。

 

この表の4つのうちから共通することを見つけることは大事なことだ。「帰納的推論」「演繹的推論」という言葉が、はじめて指導要領に載った。

        解説 算数的活動の概略として、「解説」に載っている。

第5学年 エ 図形の性質を帰納的に説明したり,演繹的に説明したりする活動

 

どちらも証明すること。

二人の血液を採って分析して、「だから二人は酒が強い」と証明したら演繹的思考。

高知県民80万人全部の血液を調べて「高知県民はお酒が強い」ことがわかったら完全帰納。たった4つのデータなら不完全帰納。人間はほとんど不完全帰納をやっている。

 

「半分、減ってきた」こうした日常言語を問い返すことによって、数学的な表現を引き出した。これに心がけることが、子どもの思考に寄り添うということ

 

次の展開は?「5時間ごと」

次、何ができるでしょう?予測してみましょう。

「二等辺三角形」すばらしい!感動しました。我がクラスの子と同じ。(笑)

順番で言うと、今までのきまりをつかって

12÷5

「正2.4角形」こうして書いた。(右写真) 

なるほど、ぜんぶ足したら2.4。「へぇ、これが2.4角形」

すぐに反論する子がでる。

「おかしいよ、5時間ごとに結ぶんだから」

そうだよね。ちゃんとしたものを書いてみよう。

2.4角形を書いてみよう。

これが正2.4角形?(右写真)

180×(n−2)の式を使ってみよう

一つの角の大きさを計算してみよう。公式に当てはめてただ計算するだけ

180×(2.4−2)÷2.4= 30 答 30度

ばっちりできた。じゃ、これが正多角形と認めていい雰囲気ができてきた。

 

6時間ごとだと直線。さすがに認めませんでした。

7時間ごとは?8時間ごと?調べてごらんと言った。

 

日常言語には、「同じ」や「半分」が多い。

「半分って?」と問い返すと、「50%」や「5割」「2分の1」などという。

 

7時間ごと 「正2.4角形」、8時間ごと 「正三角形」

何か気づきません?

9時間ごとは?「正四角形」

一つのことを説明するのは難しいが、並べるとわかる。「この6を境に左右対称」という。

10時間ごとには?「正六角形」、11時間ごとには?「正十二角形」

 

「鏡の位置」の対称です。子どもは持っているものを言葉で表現する。

逆に言うと、心に持っていないことを聞くと、子どもは静かになる。たとえば、「いつでも使える式はどれかな?」こうした新規の問題を聞くと、子どもは静かになる。

「いつでも使える式は?」「4つに共通することは?」

若い頃には、(答えにくいことを)よく聞いていた。

子どもが言ったことに対して問い返すことは、子どもが持っていることに聞き返すので、答えやすい

 

坪田先生の授業をビデオで研究すると、「今どうしてあれっ?と言ったの?」、手を引っ込めた子がいると「どうして手をひっこめたの」と聞く。矢印を引いた子がいたら、「なぜ矢印をひいたの」と聞く。こうしたことで授業を作っていく。

 

この授業では、まだ続きがあった。もう1時間算数をやった。

C「正5角形はできないの?」と聞かれたので、できないと言ってしまった。

作図を大事にする方なので、正五角形はできないと答えた。しかし、ある子が、こうしたらできるといった。

普通はわからない。私は、問題の条件を変えて発展させることが多い。だからこそ出てきた発想だ。

どうします?

「目盛りを10こにすればよい」

近い!(笑)実際の子どもは、少し違うことを言った。

「分のメモリを使えばよい」「60の目盛りを入れてほしい。」と言った。

正5角形を作るとすれば?

「12分ごと」

どうして?

「60÷5=12だから」

やってみます。感動でした。(笑)

もっと描ける。教室は爆発した。(笑)

どんなものが描ける?

「正60角形」子どもも言った。(笑)円みたい。喜んでやる、特に男の子が。

「正10角形」「6分ずつ。」

「正15角形」「4分ごと。」

60の約数がどんどん登場してくる。

「正30角形」「2分ごと」

2時間目は創作の時間になった。

これで言いたいのは、問い返し発問の有効性。

子どもの思考に寄り添うとは、こういうこと。(セミナー開始からここまで1時間)

ノートに書く目的は?

子どもとの対話があって表ができ、ここで「ノートに書いてごらん。」という。

書くことが目的ではなくて、「ノートに書いてきまりを見つけてごらん。」と、決まりを見つけることが目的だ。

 

誰かが発言する。いいことであれば、いかに子どもたちに伝えていくか?テクニックがある。わたしは、40人が一体となって進むことを目指している。「共有」ということだが、これは授業を見てもらわないと難しい。

※ 実際には、ある意見を「今の意見、どういうこと?」他の子にもつないでいく。

 

後でご覧いただくDVDは坪田先生との立ち会い授業の様子だ。同じ内容を決めて、「2けた×2けたの活用」と決め、指導案を当日見せ合う。別々の子どもを使って授業をする。

筑波大学付属は坪田先生の後任で入った。坪田先生はその後3年間副校長をやったので、3年間重なった。その最後の公開授業だ。

田中博先生が「立ち会い授業をやろう」という企画を立てた。半年ぐらい前に出た企画なので、その間緊張した。坪田先生も、最後の花道というか、精一杯練ってやったもの。ちょっとずつ見てもらいたい

 

3 かけ算の導入

島根県松江市で授業をやった。2年生のかけ算の導入である。かけ算だから、2年生では最大の見せ場である。

 

箱を見せる。ふたを一部取り、「箱の中のおだんごはいくつ?」と問う。

私は鳥取出身。鳥取には、有名な打吹公園だんごというのがある。子どもは知っている。4人起立してください。

T「今から箱を開けていくよ。いくつあるか、わかったと思ったら座ってごらん。」

 横にずらし、上にずらしと25人全員が座った。

こうして評価することができる。座るという動作で、子どもに変化がでた。ここで続けたら意味がない。どうして座ったかインタビューする。

「隠れているところが同じように並んでいる」

T「同じように並んでいるってどういうこと?」

「ここの上にも2つ。隠れているところにも同じように並んでいる。」

子どもが言ったとおりに板書してあげる。それが、子どもの意見を大切にするということ。

大事な言葉は、「同じ」。日常言語だから、聞いていい。

T「みんなはどう思う?」

T「ノートに図を描いてみよう。」

 ノートに描くということは、目的があるとき

次の人「3こが5こあるから」

島根でも「3が5こある」と言ったので聞き返した。誰か説明して?

「たて3こ、よこ5こがつまっていると思ったから」

2年生の言葉で、「横5こが3列あった」

5+5+5  こう表すんだね。

3+3+3+3+3 これもノートに書いておこう。

「5が3つ分」「3が5つ分」

かけ算の意味は十分子どもたちが語った。

途中まで見せてから、子どもたちに答えを聞いた。

15と言った子が 25人中22人

17こが1人、18個が2人。

17の子は「数え間違いでした」と認めた。

18この子は変えない。「図を書いてごらん」。

確かにこう書いたから見ることができた。(笑)(右写真)

 

見せましょう。

(大爆笑)

これがオチ。

「14個だった」「1個食べちゃった。」

子どもは「ふたについているかも。」といった。

「ふたについていることにしよう」と言った細水先生が動揺していた。(笑)

これは、受けをねらうためではない。実際はこの2つ(上写真の右端の2つ)を隠す

C「きれいに並んでいる」

T「どういうこと」

C「箱にぴったり入っている」「四角に並んでいる」

ここで、4×3を押さえることが出来る。 

後半どう授業をしたか。12この団子のきれいな並べ方を考えよう。

「きれいな並べ方」が、かけ算で表現できる並べ方だ。

後半は、評価をするためのものだ。

できない子がいると、「タテに2」などとヒントをいってくれる子がいる。

(本当はそうではないが)6×2 が多いみたいだよと言う。

そこで、「磁石がなくなった。これくずす?」と聞くと、「くずさなくてもいいよ。縦にくくっているのを横にくくればいいよ。」そういってくれる子がいる。

 

子どもの言葉に培って授業を作っている。教科書と同じような素材。一つの例だが、かくすと子どもは喜ぶ。

マッチ棒の問題。

全部見せていない段階で子どもたちは「正方形5こ」という。

マッチ棒の数は?

子どもが考えた頃に、紙を広げる。正方形が7個になっている。

「もったいないね、せっかく考えたのに、7こになったから使えないね。」という。

「つかえるよ。3×5+1 でできたけどこの5を7に変えればいいだけだよ。

うれしかった、ねらい通りだった。









3×7+1でできる。22本だ。

 

実は10あるんだ。(笑)

これは無理だろう!できる?

 

 こどもは「無理だろう!」というと余計にムキになってがんばる。

3×□+1  

「この□に10を入れればいい。100になっても1000になってもできる。」

ちょっと工夫するだけでいろんなことができる。

 

このあとDVDで立ち会い授業の様子を見ます。

 

(以下略)

 

こういう研究会を筑波ではやっている。

札幌で6年生の分数で大議論になった。大好きな協議会。この協議会と授業がだぶって伝わればいい。

これで終わります。