鈴木敏恵LIVE IN NAGOYA ポートフォリオ講演会報告  社楽143回へ
2000.12.2(土) 名古屋デザインホール
※ この報告は聴写したメモを元に奥村が作成した。できるだけ正確に再現したつもりだが,本編と微妙に異なる可能性があることを念頭においてご覧頂きたい。

1 趣旨説明
★ 時代は変わってきている
  ・ 講演会等で各地に行ったときに,普通の学校に1日居させてもらう。そこで,思うことは「学校の先生はアイデアマンの人が多い。電通でもバリバリ仕事のできる人がいる。これからの時代は普通の学校の先生がお互いにアイデアを出し合って,それをインターネットなどのメディアを介してシェアする(分かち合う)時代だということ」
★ 21世紀に必要な3つの能力
  @ 創造力
   ・ 「無」から「有」を生み出す力
  A チーム力の最大化
   ・ 一人一人が自分の持てる力を最大限に発揮できるようにすること。「和」とは異なる。思考を紡ぎ合い,自分を出して伝え合う喜びを感じる。
      ――「能ある鷹は爪を出せ。出して人の役に立て。」――
  B 失敗を乗り越える力
   ・ シリコンバレーでは転んだ人が尊敬される。走り出したから転んだのだ。
★ 問題解決能力を培うProject学習
   ・ “Project”とは,前に夢を投影すること。未知への挑戦。
   ・ すべての問題には解決できる道がある。まず,その問題を冷静に観ること。なぜその問題が起きたのか分かれば,問題は解決したも同じ。
   ・ 『俯瞰』することが大切。離れて全体を観ることによって,直観力が働く。いい仕事をする人は,物事を『俯瞰』することができる。
   ・ 始めにゴール(目標)の確認をする。それに携わる人がそこまで到達するための手段・方法を分かっていることが大切。

2 実践発表
(1) 「子どもが創る学校の未来教育」千葉市立本町小学校 反町京子先生
 ・ 文部省指定研究開発学校「総合的な学習」
 ・ 育てたい力「感じ,考え,伝える」力
 ・ 3年生の実践例「あんこ作り,豆腐作りプロジェクト」
 ・ 課題ポートフォリオ→凝縮ポートフォリオ《成長エントリー「かがやき」評価表》
 ・ 自己評価,相互評価『対話』
 ・ 総合的な学習の時間は「ワクワク,ルンルン,キラキラ」を合い言葉に
 @ 子どもの思いや願いをかなえる時間
 A 自分で計画・実践する時間
 B 成長が自分で分かる時間
 C 地域へ飛び出す時間

(2) 「豊かに生きる力を育む教育課程の創造」
福岡教育大学付属附属中学校 吉塚憲博先生
総合的な学習
↑ ↑
 生き方学習 学び方学習 world time
保管ポートフォリオ 提出ポートフォリオ  

 ◆ 3つの基礎基本
  ・ 基本的な生活能力
  ・ 学び方(world time)
  ・ 生きる力
 ◆ ポートフォリオ評価で生徒の何をみるか
  @ 技能の発達状況
  A 社会的技能……コミュニケーション能力
  B 態度
  C 概念の把握
  D 身体的技能の発達
 ◆ 教科のポートフォリオもある(例えば数学)
  ・ テストの答案,ドリル,学習プリントなど。「なぜこの点数だったか理由を書いてやり直す」
 ◆ ポートフォリオを置く場所
  ・ みんなが閲覧できる場所。廊下に棚があり,そこに並べてある。

(3) パーソナルポートフォリオで自信をget,秘訣をshare
熊本市立西原小学校 金井義明先生 http://www5a.biglobe.ne.jp/~kanai/ 
 ・ 総合的な学習を始める前に作るとよい。
 ・ 「教育実習生の先生に自己紹介しよう。」が出発。
 ・ 「自分の持ち味を10個さがそう。」※ 大掃除する年末が適切。
 ・ 100円ショップでいろいろな色のクリアーファイルを買って配り,そこへ入れさせた。
 ・ ファイルしたものの中から「やったね。」と思うものを選ばせ,それについて対話させる。子どもに5W1Hを決めて,子どもにインタビューさせる。一人一人が秘訣を教え合い,秘訣集としてまとめる。
 ・ 「自慢じゃないんだよ。どうして上手になったか教えてあげると,みんなの役に立つんだよ。」→共有できる
 ・ 「ファイルの次に何を入れたい?」次年度の目標を立てる。自分が得意なことをもっと伸ばそうという気持ちになれた。

3 シンポジウム(敬称略)
 田中博之 大阪教育大学助教授
 松川憲行 文部省小学校課教育課程企画室長
 鈴木敏恵 未来教育デザイナー

○ 総合的な学習の時間(以下「総合」)についてどう考えるか。

田中:私は18年前から取り組んできた。(滋賀県琵琶湖の学習)
「総合」は,さまざまな活動をつないでいくもの。(中略)10年後には総合から「環境」「国際」「福祉」などの教科へ移行していくだろう。
松川:まず,学習指導要領を熟読して欲しい。「総合」についても解説をよく読んで欲しい。生きる力の育成,学び方の習得,知の総合化など文部省の主張は一貫している。
 全国の小学校の98%,中学校の90%が「総合」に平成12年度には取り組んでいる。「総合」だけにスポットライトが当たっているが,「各教科」の指導も忘れずに。
鈴木:四国の小学校を参観したときに,「川をきれいにしよう」という実践で,ゲストティチャーの先生が子どもに向かって,「川をきれいにしてくれてありがとう。」と言われた。その時の子どもたちの表情がとてもよかった。次の活動へのモチベーションになったことだろう。「総合」にはモチベーションが大切。
 分化していくと,大切なものがだんだん見えなくなっていく。どこかで総合する必要がある。それが総合的な学習だと思う。

○ 総合的な学習の導入で学力の低下を危惧する声があるが,基礎学力と総合的な学習との関係をどう考えるか。

田中:中学校では「総合」を週2時間(年間70時間)程度実施する学校が大半であろう。
今ある選択の時間(3時間)をどうするか。今のまま両方合わせて5時間もすれば学力の低下は避けられない。選択の時間に補充指導を考えていく必要もあるのでは。
 また,基礎学力の内容がこれまでとは異なる。これからの基礎学力は,例えば異文化を理解できる「外国語の能力」,「プレゼンテーション能力」,ディベートやテレビ会議なども含む「ディスカッション能力」などがあげられる。
 御所南小の実践では,「総合」を実施することで,むしろ能力の低い子どもの教科の力が伸びたという報告がある。
松川:マスコミの言う学力低下論の根拠となるデータは何か?現在の大学生に少数・分数の計算をさせて,「何%しかできない。」と言っているだけ。過去のデータとの比較がされていない。日本の学力はIEAで現在も2〜3位。学力は落ちていない。教育課程実施教育調査?でも学力の低下は認められない。ただ「数学や理科が好きか。」「なぜそれを勉強するか。」「将来それを生かした仕事に就きたいか」などの意識調査では,日本は低い数字であるのが課題。また,小学生の時できた問題が大学生になるとできないというのは,学習が定着していないということであり,そちらの方が問題。
 文部省の「総合」や基礎学力に対する考えは変わっていない。
鈴木:「松川さん,学生時代,勉強はできましたか?好きでしたか?」
自分は知ること(知の世界)に対する欲求が強くあった。世の中が面白いところだと知っていれば,勉強は自分からするもの。「総合」では,校外から講師を呼んでくることも多いが,その前に学校の教師が各分野の専門家になって,どこかにブースを作って,そこに子どもが行くと,いろいろ教えてもらうことができるということをして欲しい。子どもが伸びたらいい。

○ 教師が学校でポートフォリオ評価の実施を同僚に提案するときに,絶対評価との関係をどう説明したらよいか。

田中:ポートフォリオは日本では総合的な時間の評価という位置づけだが,イギリスなどでは,教科指導にも使われている。ドリルやプリント,ペーパーテスト,作品なども入れる。
 また,教科書が変わってきている。すでに問題解決的な学習を教科書の中に見ることができる。大学入試や教員採用試験も変わっていくだろう。
松川:教育課程審議会中間まとめ「評価のあり方」を読んでもらえば分かるが,指導と評価は一体のものである。評価は通知表をつけるためのものではない。ポートフォリオは評価の改善の一方法であると思う。絶対評価は評価する者の主観が大きく,それに客観性をもたせるためには,その評価基準を客観化する必要がある。全国的総合的な学力調査や学校の自己点検・自己評価が必要と考えている。
 「総合」を実施していくためには,地域の方に説明していく必要がある。自然と「開かれた学校」にならざるをえないし,学校が自己点検をしていく機会にもなると思う。
鈴木:「変われ」と言われて変わったらおかしい。人はそう簡単に変えられるものではな
い。でも,いっしょにやろうと誘うことはできる。「でなければ」「べきだ」とは言わない方がいい。色のきれいなファイルを買ってきて職員室の角に置いておく。「これ何?」と聞かれたときがチャンス。
 自分は高校までは勉強ができなかった。でも,大学に入ったとき,自己教育をした。自分が生んだものを見て「いいなあ。」と思う。それが次への意欲になり,相乗効果を生む。役に立てば,アイデアはどこから出たっていい。未来の役に立つ評価でありたい。

○ これからの評価について考えをお聞かせ下さい。

田中:プロフィール評価。京都市立御所南小学校で実践。
松川:各学校の目標・内容に照らして評価の観点を作ること。「総合」の評価方法も教科のそれも近いものになるのでは?評価は指導そのものである。
鈴木:評価というのは,「こうしたらもっとよくなる。」「今は目標のこのあたり。」ということが学習者に分かること。(励ましのエナジー)
 通知表をもらったときに,子どもはまず,記号をを見る。○がいくつあったかということが気になる。評価のねらいも観点も子どもと共有したい。始めに,「今日はこれからこんなことやるよ。」「今日終わったら,こんな力が付いているよ。」と言ってもらえるといい。評価も学習も与えられるものではない。
 学校が何かしようとすると,教育委員会の意向が問題になる。規制緩和が必要。

【実践者へのQ&Aコーナー】
Q1 ポートフォリオを作成するときの個々へどんな支援をしたらよいか?
A(吉塚)元ポートフォリオの場合,まず「時間順に入れていこう」ということを確認
した。テーマを決める前に十分時間をかけた。WORLD TIMEでは導入で,まず教師が熱気球を上げたり,花火を上げたりするパフォーマンスを行い,子どもたちの知的好奇心を呼び起こそうとした。テーマ決定時には教師が各分野の専門家ブースを作り,情報提供をした。
Q2 ワークシートに子どもが書くのは時間がかかる。能率のよい方法はないか?
A(反町)生活科の実践では,書く代わりに,気に入っているところや頑張ったところに
シールを貼る(キラキラシール,がんばりシールなど)。また,一言感想を書く欄を作ったり,顔文字が書けるように○を書いておいたりする。
Q3 パーソナルポートフォリオはどう生かされたか。
A(金井) ポートフォリオを作ると,自分のことを話すことに慣れる。また,その後の学習で役割分担をするとき,個々の持ち味が分かっているのでスムーズにできた。
Q4 外部に依頼するときに心がけることは何か?
A(鈴木)調査活動で電話をかけたり,手紙を書いたりすることがある。その方法を教えておくことはもちろん,取材に行く人の顔写真や連絡先,都合のよい時間などを掲示しておくとよい。
Q5 自己評価の基準についてもう少し詳しく教えて欲しい。
A(吉塚)評価基準は以下の通り。
A:人を納得させられる(満足。内容を十分理解。価値あるもの)
B:十分自分が納得
C:もっとやらなければいけない
 また,観点を作成するときは,アメリカやイギリスのものは合わなかったので,生徒の「こんなことしたい。」と教師の「こんな力を身につけて欲しい。」をすり合わせて,子どもの行動目標として作成した。

4 講演会「未来教育/プロジェクト学習とは」―ポートフォリオの作り方と活用―
 まず,ポートフォリオを作る時間を確保しておく必要がある。 (資料5)
(1)プロジェクト学習について
  ◆ プロジェクトとは
・ 夢や願いを投影すること。プロジェクト学習は,目的を実現する力であり,夢の叶え方とも言える。

スタート→→→→→→→→→→→→→→→→夢・成果
                             各フェーズごとに
                               目 標
  テ   計   情   作   プ              ↓
  |   画   報   成   レ             成 果
  マ → 立 → 収  → ・ → ゼ              ↓
  設   案   集   創   ン             評 価 
  定           造

  ◆ 未知への挑戦
   ・ 去年と同じことをするのはプロジェクトとは言わない。
   ・ 工場のベルトコンベアーで働く人の能率が一番上がったのは,休憩を取ったり,給料を増やしたりしたときよりも,今,やっている仕事の意味を教えたとき。
  ◆ 社会との関係を知ることをテーマに
   ・ 社会(世の中のこと)が面白い。私は社会と自分との関係を知りたかった。
   ・ テーマはすぐには思いつかないものである。キーワードの一つは「違い」。北海道の川と,東京の川と,沖縄の川を比べてみると…。
  ◆ モチベーション(やる気)が大切
   ・ そのためには,まずゴール(目標)を明確にすること。
    〈例〉「花いっぱいの学校にしよう」より「春夏秋冬いつも2種類の花が花壇に咲いているようにしよう」
   ・ 目標→成果→評価のサイクルを最後だけでなく,各フェーズごとにする。
   ・ ゴールの明確なイメージをメンバーみんながもつ。
   ・ チーム内のルールと,仕事をする基地(できたものを置いておく所)が必要。
   ・ チェックポイント(中間発表)を作る。知の共有場所にもなる。
  ◆ やる気を持続するために
   ・ それをする意味を知っていること。
   ・ ゴール(目標)を知っていること
   ・ 全体を知っていること(俯瞰)
  ◆ 仕事のクオリティを上げるために
   ・ 各フェーズごとに目標→成果→評価すること。

(2)ポートフォリオについて
◆ ポートフォリオの基本
 ・ バラバラの情報を一元化することによって新たな価値が生じる。
 ・ 棚に置いておけて,持ち運べる大きさがよい。
・ 入らない大きさのものは,デジカメで撮って印刷して入れる。
・ 大事かどうかはその時には分からないので,全て入れておく。
◆ 元ポートフォリオから凝縮ポートフォリオへ
   ・ まず,全て入れたポートフォリオを作る。(元ポートフォリオ)
   ・ 学習の最後か,各フェーズごとに凝縮ポートフォリオを作る。
   ・ 凝縮ポートフォリオの大事だと思ったところにポストイットを貼る。
   ・ 子どもどうしで「どこをがんばったか」「どんな成長をしたか」を対話させて,
ポストイットを貼る。
※ 問題解決能力は「問題発見能力」。どこが問題かが分かれば,半分は解決したも同じ。
◆ 評価のしかた
 ・ 総合的な学習で身に付いた力(問題解決能力,情報活用能力,表現力,チームワーク)を評価したものを通知表と同じ材質の紙で作成して通知表の間に挟む。ただし,これは「プロセスを評価したもの」という説明をする。
 ・ 目標は教師と子どもで話し合って決める。