討論についてのはしり打ち        第12回へ
                                        H6.9.6 土井

 なぜ,討論か?と言う質問が前回に出ました。一度,ここで自分なりの考えをまとめてみたいと思います。
 私は,以前から,新学習指導要領(本当は‘新しい教育’とまで言いたい)の授業論のキーワードは,“体験(調査活動)”と“討論”だと考えていました。今でもそう信じています。資料集部会の流れも,少なくともここ6年間は,毎年何らかの“体験”があり“討論”の授業が行われてきました。
 とは言っても,討論は昔から,初期社会科の頃から重視されていたものです。なぜ,また見直されてきたのでしょうか?
 
1 戦後の学力観・指導要領の精神の変遷から
  第1回学習会で,なぜ個性重視になったかを,戦後の学力観・指導要領の精神の変遷からおってみました。その時の指標を,〈人間性〉と〈論理性〉に分けましたが,この〈人間性〉という指標こそ,討論・体験という学習方法に適合していると思うのです。
  〈論理性〉というのは,すなわち※演繹的です。‘討論’は,論理性を要求されますが,だから論理性の側に立つ手法といえるでしょうか?
  違うと思います。少なくとも社会科で討論として成立するテーマは,きわめて人間的です。児童・生徒は,それぞれの経験から,テーマに対して価値判断をします。そこには,人々の生活をテーマとしながらも,児童・生徒の生き方が浮き 彫りになることが多々あるのです。 (しかも,良質の討論であるほどそうなのです。)児童・生徒は,社会科では帰納的に物事を考えて問題を解決していくのです。
  ‘体験’は言うまでもありません。体験を通して行う思考は,まさしく帰納的な思考なのです。
  すなわち,討論や体験,さらにはそれらを用いた問題解決的学習は時代の流れから必然的に考えられることなのです。
 
 ※ 演繹 …一つ以上の命題から,それを前提として,経験にたよらず,もっぱら論理の規則にもとづいて,必然的な結論を導き出す思考の手続き

2 個を生かす観点から
  討論を,ひとりひとりの考え方を明らかにし,他人と自分の考え方の違いを発見する過程で自分の考え方を見直し,あるべき姿を見いだす探究心と人間関係を学ぶ場ととらえたいと思います。とすると,討論は他と関わりながらの個の活動といえます。個の思考,個性が表れ,記録を工夫すれば個をつかむことも可能です。
  したがって,討論は,個を援助するよい機会ともいえます。また,他とも関わりの中で,個の考えを生かすこともできます。
  討論は,一斉指導の長所を生かした,個を生かす方法なのです。
  グループでの話し合いは,個の発言の度合いがより大きくなり,個がグループから受ける影響がより一層強化され,より密度の濃い相互関係が期待できます。

3 授業を構成する観点から
  個を生かす学習形態をとればとるほど,課題は広範囲に広がります。個の興味・関心により,課題を選択・設定できることが必要となってくるからです。
  その場合,いつも問題になるのが一般化・共通化です。教師は,個の学習した成果を集団全員にわかち与えたいと考え,また,テーマに対しては明確な結論を出そうとするのです。
  しかし,これは,個の興味・関心を尊重しようとするほど無理が出ます。対象がより広範囲になり,それぞれが専門的になるからです。
  ここで生まれたのが,まとめとして討論をする流れです。それぞれの学習内容を包括するテーマで討論することにより,それぞれが獲得した成果を生かすことができ,また,相互理解につなげることができるのです。

4 児童・生徒を評価する観点から
 (1) 社会的事象への関心・意欲・態度
   討論では,これらがはっきりと表れます。しかも,討論に慣れてくると,教  師は観察する余裕が生まれます。特に意欲は,目つきや挙手の回数に反映します。そのために,全員が気軽に挙手できる雰囲気作りをすることが必要です。

 (2) 社会的な思考・判断
   討論で意見を考える過程は,社会的思考・判断そのものといえます。最も評価に値する場だといえます。
   したがって,全員の考えを記録に残す方法(プリントノートなど)を工夫したいものです。
 
(3) 資料活用の技能・表現
   自己の言語表現の具体的活動が討論であり作文です。討論は表現の一方法なのです。
   また,相手を説得するために適切な資料を用いたり,相手の提示した資料を正しく読み取る必要があり,資料活用の観点からも討論は有効であるといえます。
そのためには,討論のテーマが決まってから資料を探す時間的余裕があることや,日常的に資料が身近にあることが条件です。

 (4) 社会事象についての知識・理解
   討論の内容から,知識・理解の評価は可能です。むしろ,ペーパーテストよりも,生きた知識が必要となり,より本物といえるかも知れません。
   課題は,やはり,全員の考えをどう引き出すかにかかっています。
  
《『国語大辞典』小学館より》

討論  互いに議論を戦わせること,意見を出して論じ合うこと,可否得失を詳しく論じ合うこと
議論  互いに,自己の意見を述べ,論じ合うこと。意見を戦わせること。