第44次全国教研−長崎大会− 社楽へ
社会科教育分科会参加報告
平成7年2月 土 井
社会科教育分科会は,長崎市アークビルで次のように行われました。
1月28日 開会行事・基調報告
全体での提案と質疑・討論
A 楽しくわかる授業 12レポート(小2・中5・高5)
B どう生活科をのりこえるか
1レポート(小)
C 自主編成にむけたとりくみ 3レポート(高3)
29日 次の小分科会に分かれての提案・質疑・討論
〈歴史認識小分科会〉
D 地域学習
4レポート(小3・中1)
E 歴史認識学習
3レポート(小3)
F 戦争・平和学習
5レポート(小1・中1・高3)
〈現状認識小分科会〉
G 地域学習 5レポート(小4・中1)
H 産業・経済学習
8レポート(小6・中1・高1)
I 環境学習 1レポート(小)
J 国際認識学習 3レポート(中2・高1)
30日 全体での提案と質疑・討論
K 人権学習のとりくみ 4レポート(小1・中3
各小分科会の報告
総括討論・次年度への課題・閉会行事
時間の都合により,Fの戦争・平和学習しか参加できなかったため,各正会員から出された各1枚の概要報告と,Fでの質疑・討論の様子を簡単に報告します。
【概要報告】
A 楽しくわかる授業
○大阪・中 「みんなでわかる,楽しい授業」をめざして−選択履修社会科にとりくんで−
3年生を対象に,土曜4限(あるいは午後も)に行った選択学習についての発表。郷土学習を1時間で1講座おこない,校外でも学習した。
○山形・高 漫画を描くことで,歴史認識を深めさせる
漫画を4コマ以上書き,それについての問題を10問程度自分で考えて作る。
夏休みの課題とし,授業で2時間発表会を持った。
○鳥取・高 生徒による新聞発表を通して社会認識の目を育てる
毎時間,2人が新聞記事を読み,それについてコメントする。それを教師が補足するというもの。
○茨城・小 児童が生き生きと楽しく追究し続ける社会科指導の研究−体験的活動や話し合い活動を通して−
人材バンク,調べルームの作成と利用
○富山・中 中学校世界地理の入門学習における指導過程の工夫
国旗,食事・衣装,観光名所・旧跡について夏休みに調べる
○東京・高 ビデオを使った世界史の授業
世界史のイメージをつかませるために,テレビ番組を教師が編集したビデオを中心に授業をすすめる実践
○佐賀・中 討論する中学校社会科の授業つくり−全員参加の楽しい授業−
1時間を,問題プリントの解答→一斉授業→討論の形で進める授業
○兵庫・小 体験的な活動を取り入れた社会科授業
洗濯板から当時の人の生活を知る,レンコンを育てる,宅配便のルートを追う
○石川・高 歴史小説を活用した日本史の授業つくり
『王城の護衛者』(司馬遼太郎)をもとに,松平容保の生き方,時代背景を探る実践
○熊本・高 楽しい授業をめざして 教具飛び杼の紹介
飛び杼をもとに,農業と牧畜の時代→大量生産の時代への移り変わりを調べる実践
B どう生活科をのりこえるか
○山形・小 川の中の虫を見つけよう−はてなをおいながら−
学習課程を“ますほにし(学校名)”@まず問題をつかむ,Aすすんで予想し計画を立てる,Bほんきで調べる,Cたがいに深め確かめる,Dしっかりと次に生かしつなげる,とし川の中の虫を追った実践
C 自主編成にむけたとりくみ
○広島・高 日本史教科書の空白を埋める−人権講座の取り組み−
朝鮮高校で使用している歴史教科書の記述に基づいて在日朝鮮人教師に話を聞く実践
○福岡・高 倫理の授業で取り組んだ性と愛
ついにここまできたか…という内容
D 地域学習
○岩手・中 地域の歴史をどう教えたか
通史に地域の歴史を組み入れた実践。文献資料,発掘写真はコンピュータに入力しておき,生徒が検索できるようにした
○静岡・小 掛川城の実践−小6近世掛川城を歴史学習でどう学ばせたか−
地域史中心にカリキュラムを組み立てた実践
E 歴史認識学習
○新潟・小 日清・日露戦争後の取り扱いを「わが国の国力が充実し,国際的地位が向上した」と,しめくくってよいのだろうか
伊藤博文を暗殺した朝鮮人・安重根の「伊藤博文罪状15箇条」から,朝鮮併合について考える
○千葉・小 歴史を身近なものとして考えられる子どもをめざして−鎌倉幕府と土地制度の学習を通して−
@鎌倉幕府延命作戦,A武家屋敷を現代に持ってきたら,という場を設定して調べ学習を行うもの
F 戦争・平和学習
○岩手・高 第9条の学習のために何を教材としたか−第3学年政治・経済の学習を通して−
戦争体験の聞き取り,従軍慰安婦についての感想,9条についての政府解釈の変遷をおった実践
○新潟・高 十五年戦争の授業実践
南京大虐殺の事実を証言をもとに教えた実践
○長崎・小 社会科学習を通した平和教育 朝鮮人強制連行・強制労働の事実を見つめて
三菱炭坑での朝鮮人強制連行の紙芝居を作り小1で読み聞かせた実践。他に小5,中2,中3でも実践
○鹿児島・高 平和教育としての主題学習「南京大虐殺」
進学校で南京大虐殺について生徒ともに考えた実践
○新潟・中 地域に根ざした歴史教育「二つの世界大戦と日本」
原爆被爆者・長岡空襲体験者への聞き取り,兵大隊の官舎見学,お寺の過去帳調べ,防空壕探検,身近な人からの聞き取りをもとに学級で年表を作った実践
G 地域学習
○山梨・中 身近な地域の学習の一実践 −学園祭の地域調査研究の取り組みを通して−
学園祭の調査研究発表で,商工業,農業,自然・開発,文化・風習について調べて全校の前で発表
○長野・小 「山形村の上水道ができるまで」の単元で,子どもが自ら調査活動を行い山形村の上水道建設に関わった人の営みを粘り強く追究するようにするにはどうしたらよいか −調べてみたくなるようなはてなづくりと子どもが自ら行う調査活動を通して−
@事実認知につながるはてな,Aねらいに通ずるはてな(スーパーはてな)という2つの学習問題つくりから追究を始めるもの
○熊本・小 校区の梨づくりの起源を求めて
調べ学習をもとに地域の歴史を掘り起こした実践 13時間完了
○三重・小 地域に根ざした社会科の授業−神谷池の開発
同上 16時間完了
○東京・小 3年生での地図指導と川の授業
川を通して空間認識を広げようとした実践。理科へも発展
○三重・小 人々が支える地域のくらし−美杉清掃社の人や,水を守る地区の人々から学んだわたしたちのくらし−
物ではなく,人を通してくらしを見つめる実践
H 産業・経済学習
○愛知・小 人々の生活をみつめ,主権者として生きる力を高める社会科学習−態度決定を重視した産業学習の展開の工夫−
1単元の学習を次の3段階とし態度決定できる子を育成する
@自分たちの生活を見つめ,産業の問題に気づく段階
A問題の社会的背景を見つめ,解決すべき課題であることをつかむ段階
B課題解決に向けた人々の努力を調べ,解決の方向をさぐる段階
→産業の抱えている課題を自分に関わっているものとしてとらえ,その課題に対する確かな考えを持つ。
態度決定にいたるまでに,十分な事実を獲得させるために調査・体験活動を重視する
○岡山・小 笠岡湾干拓で日本の農業を考える
タイ米試食→国産米を増やせ→笠岡湾干拓地でも作ったら→見学し話を聞こうという流れで,最後に作るべきかの討論を行った実践
○大分・小 現代日本をどう認識させるか−Tさんのはまち養殖の実践を通して−
主権者としてしっかり考え,判断し,行動できる力の素地=自治意識を養うことをねらった実践。態度決定の積み重ねから判断力を育てている
○沖縄・高 宮古島におけるタバコ栽培の経営展開
同一テーマで一斉レポートを書かせる。そのため学校内外で生徒が活動する
○福岡・中 生産者の声に学ぶ農業学習−パソコン通信を通して−
北海道の酪農家と継続的にパソコン通信でやりとりを行った実践。実際に体験に行く生徒まであらわれた。
○石川・小 専業農家長田さんとの出会いから学んだこと
米作りに夢を持つ農家の人との交流から今後の農業のあり方を考えた実践
○岡山・小 自分の考えを持ち,協力しながら粘り強く追究する子どもをめざして
宅配便の流れを実際に校外で追っていった実践
○山口・小 農業学習−農業の現状とその原因をつかもう−
農民から聞き取り調査をして,農民の怒りと願い,要求を考える実践
I 環境学習
○千葉・小 児童が環境の問題に関心を持ち,自ら身近な環境の問題を解決しようとする態度を育てるにはどうしたらよいか−第4学年「ごみと住み良いくらし」の学習を通して−
ゴミの実態を観察し,学習活動が生きるような活動の場を工夫した実践。ゴミマップやリサイクル通信で学校や地域にアピールしクリーン活動を展開
J 国際認識学習
○埼玉・中 中学生と朝鮮認識
朝鮮初中級学校との交流を通して,朝鮮に対する歴史的認識を深めた実践
○沖縄・中 日本最西端 与那国島で考える国際化社会−辺境からの逆転−
これから島おこしのための授業を考えたいという構想のみの発表
○神奈川・中 横浜教科書訴訟について
横浜教科書訴訟を支援してほしいというお願い
K 人権学習のとりくみ
○北海道・中 「アイヌ文化」の取り組み−何をどう扱うか?−
アイヌを授業で扱うのはきわめて難しい障害があるという報告
○愛知・中 人権意識を育てる社会科学習−社会事象を人権の視点から見つめる学習を通して−
死刑制度の是非についてパネルディスカッションを行った
○鹿児島・中 高齢者福祉と子どもたちの認識
高齢者福祉の問題を,在宅介護か施設介護かでディベートを行った
○広島・小 渋染一揆劇化まで
部落差別を劇化によって表現し,考えた実践
【戦争・平和教育】
私が参加した歴史教育小分科会は,教室より一回り小さい部屋で,正会員23名,司会・共同研究者・記録が5名,一般が20名ほど参加し開催されました。
時間の都合で,「戦争・平和教育」のみ参加しました。
発表では,加害の事実を大切にするものが相次ぎました。
質疑・討論では,戦時中の軍需産業の資料が公開されていないこと,加害責任を聞き出すことが難しいこと,地域によっては,平和教育自体がやりにくいことなどが話題になりました。また,高校の進学校で,受験科目でなくてもいかにその気にさせるかが問題になりました。
また,女性の正会員から,学校での差別の実態について考えてほしいという意見が出ました。その意見によると,男女別名簿,男女の色分け,男子○名・女子○名という考え方そのものがすでに差別につながっている,分ける必然性のないものは,分けないでほしいということでした。
最後に,共同研究者の緒方先生(日体大)は次のように言われました。
・戦争教育はなされているが,平和教育になっていない。
戦争教育とは,戦争の実態や悲惨さを正しく伝えること。
平和教育とは,戦争を起こさないために何をすべきかを考えさせること。
・平和教育は,大人としての責任であり,次代を担っていく子どもたちにしっかり伝える必要がある。
・誰のため,何のための平和なのかをおさえる必要がある。国民一人一人のため,人類すべてのための平和である。
・戦争は差別の心の表れ。今のわたしたちは払拭されているか考えてほしい。
次に,女性史研究家の加納先生は次のように言われました。
・戦争は,被害者であり加害者であることが民衆の問題。
・新潟は,ともすると3番目の被爆地であったことを問題にしてほしい。
・加害体験を聞けないというのは逃げである。加害体験を綴った戦争体験記は大量に書かれている。
・イメージで語らずに,科学的認識を大切にしてほしい。
・「母性」という言葉は,1916年以前にはない。この言葉を使うことで,差別化を図り,女は子どもを生み育てるというイメージを植え付けた。
以上,全体として,保健に比べておとなしい質疑・討論が行われました。あくる日の長崎新聞には,長崎の小学校の紙芝居を使った実践の様子が写真付きで紹介されていました。