水産業界では、2002年あたりから、農産物や畜産物と同様にトレ−サビリティシステム(「生産履歴)の導入が検討されてきた。
 本年7月、静岡県でも、日本一の水揚げ量を誇る遠洋カツオ一本釣り漁業による「刺身用冷凍カツオ」をモデルに、漁獲、流通を経て消費者に届くまでの流れ、いわゆる流通履歴を一本化するための「漁獲流通情報開示検討会」を立ち上げた。
 本年度、本県ではお茶、牛肉など県産の農産物を対象に、生産から流通、消費までの安全性の確保という観点から「しずおかの食 安全・安心プログラム」を推進する。当然その事業の中に水産物も組み入れたということと同時に、日本一の名にふさわしい安全も消費者に届けるということだ。
 JAS法では、水産物は名前と原産地のほか、「解凍」、「養殖」などの表示が義務化されたことに伴い、消費者への安全性の確保が目的でもあある。 各県の取り組み状況を見ていると、特に養殖部門に多くの事例がみられるものの、生産履歴情報の記録や開示に止まっているきらいがある。
 魚は、出荷時のまま、ス−パ−や専門小売店で売られることは少なく、鱗や内臓を取ったり、三枚におろしたりと、加工されて店頭に陳列されることが多く、また多種類の商品、多数の取引先を対象とする市場を経由して取引されているという実態が、そうさせているもいえる。
 ともかくも、トレ−サビリティ・システムについては、天然物の魚はともかくとして、養殖魚については、消費者に提供すべき情報、消費者が求める情報は何かなどとという基本的な部分や全国統一的な履歴情報管理システムの確立が、今後は求められていくだろう。
さて、長崎県で養殖されている「トラフグ」に、薬物として使用が禁止されている「ホルマリン」が使われていたことがわかり、全国的な話題を呼んだ。魚類の養殖では、平成12年に「持続的養殖生産確保法」が施行され、養殖業者が漁場の適正な管理をすることが義務づけられ、環境への負荷が
大きい残餌や魚糞の抑制が課題とされている。近年の著しい魚価の低迷や飼料費の高騰など、経営的にも大変なことはわからないでもない。
 しかしだからといって、「後は野となれ山となれ」で、消費者の健康は二の次ということでは困るし、また他の善良な養殖業者や養殖魚に対する信頼を失墜させた罪は大きい。
 しかし、現在の県条例では、この出荷を差し止める権限が県にないことから、「長崎県農林水産業推進条例」を制定することを決めた。
 条例案では、生産者が法令に違反する薬品を使った場合、県が出荷停止や回収の措置を勧告できること、また勧告に従わない業者は名前、住所などを公表することなどが盛り込まれるという。
 どこにもある同様の県条例の中で、違反業者名の公表を盛り込むのは全国で初めてとのこと。今月定例議会に提案し来年4月からされる。
「長崎県産ホルマリン漬け養殖トラフグ」の出荷を巡る混乱は条例施行後収束する。「憤りを発して食を忘れる」ほどではないが、要は養殖トラフグを食べなければいいだけのことである。


魚のトレ−サビリティ