黄色ブドウ球菌に汚染された脱脂粉乳を再利用して、1万人余の消費者に食中毒を発症させた雪印乳業、狂牛病騒動の中で国産牛肉買い取り制度を悪用した雪印食品の牛肉偽装事件、雪印グル−プの清涼なブランドは失墜し、そして破綻した。その後も食料生鮮品などの原産地偽装表示が相次ぎ、食の安全という人の生存に関わる問題がクロ−ズアップされている。
 100年も前に制定された伝染病予防法が、平成10年2月に改訂され、昨年10月に改正・公布された。同法では、エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血、ペスト、マ−ルブルグ病及びラッサ熱が「一類感染症」。急性灰白髄炎、コレラ、細菌性赤痢、ジフテリア、腸チフス及びパラチフスが「二類感染症」。以下三類から五類にわたって症例が列記されているが、近年は更に、エイズ、大腸菌O−157、重症急性呼吸器症候群SARSなどの新興感染症が輩出だ。「地球規模で感染症による危機」とWHOが警告している所以だ。
京都の浅田農産の鳥インフルエンザ騒動は、家畜伝染予防法違反容疑で社長が逮捕され、30キロ圏内の出荷停止も解けた。高病原性鳥インフルエンザのその「高病原性」とは鳥に対してのもので、鳥の間で広まる感染病だとされていたが、タイやベトナムで死者がでたことで人への感染が懸念されてきた。
船井農場では、鶏の大量死が始まったその3日後の22日、実際には3,712羽の死羽数があったのに対し日報には1,713羽。同24日の日報では4,256羽の死羽数に対して2,500羽とするなど意図的な改ざんが行われていた。すでに20日から大量死が始まっており、浅田社長は鳥インフルエンザの可能性を承知しながら、鶏や卵を出荷し二次感染へとつながっていった。
家畜伝染予防法第13条は、「家畜が患畜又は疑似患畜となったことを発見したときは、当該家畜を診断し、又はその死体を検案した獣医師(獣医師による診断又は懸案を受けていない家畜又はその死体についてはその所有者)は、農林水産省令で定める手続きに従い、遅滞なく当該家畜又はその死体の所在地を管轄する都道府県知事にその旨を届け出なければならない 」としている。
法に基づく届出を怠ったことによって世間を騒がせたうえ、司直の手に落ち、更に刑事罰を受け、浅田農産そのものも整理せざるを得なくなった。
 企業防衛、組織保持という一瞬の心の迷いが、結果として大きな代償を支払うことになってしまった。雪印事件が風化していく中で、分野は違っても全く同じ過ちを犯してしまったことになる。
今から86年前、3千万人もの死者を出したスペイン風邪ウィルスはどこからきたのか未だに分からないという。鳥インフルエンザのウィルスも同様、「風に乗ってやって来た」というしかないというのが通説だ。神のみぞ知るところであるが、人災だけはごめんである。
 

鳥インフルエンザ